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resolvedさんのおしえて☆エッチなレシピ -アナタとワタシのあま~いせいかつ!-の長文感想

ユーザー
resolved
ゲーム
おしえて☆エッチなレシピ -アナタとワタシのあま~いせいかつ!-
ブランド
ひよこソフト桃組
得点
70
参照数
963

一言コメント

なんという良ゲー……久々にワクワクしてしまった このゲームは間違いなくバグっている

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・総論
シナリオは終盤に入ると急速に粗雑化し、演出はしょっちゅうバグっていて、CGも表面上は取り繕われているけれどもHすると次々に崩壊していくさまをみると、制作時間なり資金なりが不足していたのではないかと邪推してしまう。ちなみに修正パッチを当ててこれであり、修正パッチを当てずにプレイすると攻略不能になっている模様であり、更に確信は強くなっていくのである。

そういうわけで、当然ながらシステムについてもそれほど良くはない。ガンガン読み飛ばしていく人間にとって、バックログ時に読みにくいというのは致命的ですらあるかもしれない。

・シナリオ
抜きゲーを想定させるようなタイトルからは考えられないほどの優れたシナリオである。代表的なとこでいうなら『パルフェ』『ショコラ』最近なら『さくらシュトラッセ』『水の都の洋菓子店』等に感じられる店舗経営に対するヌルさは確実に少ない。はっきり言ってこれまでのエロゲー的店舗経営は資本主義から乖離した「趣味の店」が繁盛しすぎてしまったのである。「現代の高度資本主義体制下でライフスタイル化された労働=和民の如き近代的な意味でいうところの不当労働を受け入れてしまう、あるいは利権としての労働を確保しようとする主人公に対して最高度の冷笑を呼び起こす。これまでのゲームにあった中小ブルジョワ的な経営姿勢は一掃され、内面化された弾圧を見事に描きだした最新のプロレタリア・エロゲーである!」などと、そういうひねくれた考えをしなくとも、「流行るのには時間がかかるが、廃れるのには時間がかからない」という誰でも知っているような現実性(そして散々ゲーム内でそのことに触れられながら、実際にはなんのこともなく流行ってしまうという)がようやくそこに出現したことをもって大きな評価をしていいし、そういう現実が『愛の貧乏脱出大作戦』の如きドキュメンタリー風味のバラエティをユーモアとして逆説的に昇華したのである。

そもそも最初の最初のシーンがとても現実的で、今まで意外とこういうシーンがなかった。単に運転が下手なのはよく見たし性格が変わるなんてのも当たり前だけれども、単に下手だからSA/PAに入れないというのは実際的であり、同時にトイレに行けないというのもまた、よくある光景である。そういう一つ一つのシーンに対する手抜き感の薄さ、そしてステロタイプでありながらステロタイプを放棄するという二重性。実際に運転免許を取っただけの下手な奴の危険性や批判的に笑いに変えているのと同時に、前述したような「ありがちだけれども、見たことのない光景」に対して攻撃的な姿勢を打ち出しているのではないかと思う。

終盤になってシナリオは「今更そんな大繁盛させてもおかしいしなあ」という無抵抗感を感じさせてしまい、「一応は持ち直し始めましたが、やっぱり難しいので大して流行りません以上」で終わってしまうこともあって、Hシーンでテコ入れしながらもテキストは粗雑化する一方だが、上でも書いたように見るべき箇所はとても多いし、決定的な破綻もなく進む。ごく単純にみても全てのヒロインはテキスト・CGの両面から(とても!)可愛く描かれていて、それだけに演出に関連した多大なバグは残念としか言いようがないし、少なからず崩れていたCGも同じく残念ではある。それさえなければ、とんでもないゲームになっていたとしてもおかしくないし、そういう潜在力のあるゲームではないだろうか。ただし、その潜在力を出しきれるのなら、こんな抜きゲータイトルで企画されてはいないかもしれないが。

・CG
なるほど立ち絵は可愛らしいんだけども、何度も言うようにHシーンはしょっちゅう崩れてる。構図は面白いのに勿体ねえなあ……と思いながら観察してしまう。抜きゲーとしてもなるほど相応しいレベルにシーン数もあるし、数的には特に不満はない水準なんだろうと思うが、それにしても評価は簡単ではない。そもそも抜きゲーという時代も終わりつつあるように思うし、それなら普通に萌えゲーとして出してはいけない理由はわからないんだけど、商業上の理由でもあるのかしらん。

・音楽・声
音周りは普通のBGMだとは思う。声優の演技はかなりキャラクターに一致していて不自然さはなく、どうしてこの演出からこの声が出てくるのだろうと不思議ですらある。特に憂とヤリマンと七里の3人はそのキャラクター性との相乗効果もあるのか素晴らしい組み合わせだったと思える。

特にヤマリンの声は短文調で難しかったと思うのだけれども、独特の脱力感が上手く醸し出されていて、この数年でもトップクラスの演技だったのではないか。

・最後に
前二作を考えると真面目にゲーム作るの向いてないんじゃないですかねえ。
この路線ではとても面白いと思うんだけど次回作はまた戻るんですかねえ。