ErogameScape -エロゲー批評空間-

resolvedさんのよめはぴ ~You make happy!~の長文感想

ユーザー
resolved
ゲーム
よめはぴ ~You make happy!~
ブランド
Chien
得点
65
参照数
1307

一言コメント

どうしてそんなに急ぐのか。

長文感想

このゲームのダメなところを、テキストを具体的に切り貼りして挙げていってもキリがない。

かなりストーリーの根幹にかかる部分なのだけれども、主人公である一理は「ボッチ」として創り上げられたキャラクターにしては「ボッチ」の典型とは完全に反しているように思える。

授業中にケータイで会話するような大胆さがあるくせに、初対面の人間と会話しようとするとすぐにアガってしまうというのを、その時点で何かオカシイと思わなかったろうか?
あるいは勢いがつけばまともに喋れているところ見るに深刻なアガり症とはいえないようには思えないだろうか。オタク的話法の典型だとしても。
普通に考えればTVカメラが目の前にあって緊張しないというのは映る方の「プロ」であるとしか思えない。素人が突然カメラを向けられれば噛んだり早口になったりするというのはごくごく自然なことだ。

そして彼の時々見せる異常な思考回路の連絡は、単にウザい性格として処理されるべきではないように思える。少なくともボッチの思考回路の連絡は、こういうものであるとは考えられない。ある意味でスクールカーストの用語を借りてくるなら「不思議ちゃん」として処理されるべきものに感じられる。
普段に使われる意味での人々が想定するようなボッチ=「ギークやナード等」ではない。彼らは「ウザがられる」ことを極端に恐れている故にボッチとなるのであるのに対して、一理はそういったことに対する感覚が希薄に過ぎる。というよりこの思考回路はリア充に近いし、設定から考えればそうなっていない方が不思議である。

ここで既にユーザーとの意識が全く違っている。多分ユーザーはこういう「ウザさ」を求めていたわけじゃない。「かわいそうに。無口で赤面症の故にボッチになってしまったワ・タ・シ」を求めていたはずだたのに。これでは、たまたま偶然ともいえる状況がリア充である彼を結果的にボッチに追い込まれたところがスタートである。はっきり私は言う。リア充は死ねと言いたい。これは英国ユーモア小説によくあるタイプの話ではあるけれど!

そういう意味でボッチの要因が彼自身にあるのではなく「病」にかかったということでストーリーを始めるというのは納得はできる。ただ、それでいいのか?とは思わずにいられないが。


具体的な問題については冒頭でキリがないと言った通りである。全体論としてテキストはつまらないわけではないけれども急ぎ過ぎである。いかんせん場面の展開が早すぎる。日常を適当に流している。中身がスカスカだと思った諸君はアニメの見過ぎだ。これは詰め込み過ぎである。
本作は別に一発のネタで笑わせるような類のそれを持ち込んでいるわけではなく、場面の流れから笑わせてくれるような性質を持っていたのだと思う。一理のウザったらしいキャラクターを考えるなら、いっそ心情なり状況なりを丁寧に書き込むだけ書き込んでしまえば意図せずとも一つのユーモアとして成立し得たと思う。

なぜこんな結果になったのだろうか?
たぶん要因はテキストを書くのが下手だとかそういう話ではない。シナリオライターたちは技術的水準は高いとも言い切れないが、低いとは言えるような集団ではないかと思う。つまりこのゲームがはっきり言ってつまらないのは、もっと根源的な部分が問題であると思う。具体的に言うとADVシステムを採用した事自体から始まっているのではないだろうか。

この内容をADVでやりたいなら、マウスを早々とクリックしていくことを前提に短文調で進めるという常識的なセオリーを守るべきだったし(とはいえ学☆王みたくなったら最悪だが)本作以上に書き込むならビジュアルノベル形式にするべきだったと言わざるを得ない。中途半端なのだ。ノベルとして勝負できるほどでもないけれどもADVとして勝負できる水準でもない、この笑いは。

そしてシナリオの作り自体も全体的に雑である面はどうしても否めない。複数ライターやめてしまえばいいのにとは何度思ったことか。

ここまで良くないことばかりを書いてしまったけれど、金ドブだとか丸損だと思ったというわけではない。
恋愛0キロメートルみたいな売れない芸人のネタ帳を見た気分にはさせられなかったし、あるいはマジ恋のようなパロディの名を借りた楽屋落ちの連続(本当に何が面白いのだろうか?全く理解出来ないのだが)でもない。
これまでやってきたバカゲー(この類型も嫌だ。なぜ「ユーモア」という伝統を借用しないのか?)の中で最も面白くなる可能性のあったゲームだと思う。力量から言えば十分だったろうとも。

そして面白かったかと言われれば、あまり面白くはなかったことは認める。私は誠実だから言っておくけど『ひよこストライク』によって、これまで何年もアンチという程でもないけれど嫌ってきた榊原ゆいにゃんのファンになってしまいまして、それを目当てにしていたという事実はある。確かにある。

だから後悔していないんだろ?
―――その通り。

けれどもChienは初めてだったのだが過去作や次回作(発表されてないけれど)もやってみたいという程度には良かったのだ。次回作は何をやるにせよ是非ともしっかりと練って欲しい。

ところで本作についての他人の感想を読むと「新品なら9000円、中古でも数千円するのに、なにゆえ体験版をやらない」などと言いたくなりそうなので他人の感想を読まずにこれを書くことにした。
そして今、書いてから他人の感想を読んで予感が当たっていたことを、とてもとても嬉しく思っている。