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resolvedさんのひよこストライク!の長文感想

ユーザー
resolved
ゲーム
ひよこストライク!
ブランド
Ex-iT
得点
95
参照数
2223

一言コメント

引きこもり最強伝説

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

久々に感動しちゃったので長くなります。

このひよこストライクは、プロット自体それほど変わったゲームでもないのであるけれども、キャラクター性はむしろ懐古趣味に近いそれを持っている。
それにしてもウタカタの口笛を吹いている立ち絵は非常に可愛かったのであるが、塗りもどこか古いしシステムのGUIも素晴らしいものだとは言えない。
未だにワイドでもないし、その上公式のwebsiteは見れたものではないのである。私はそこが良いと思ったのだから仕方ないのだが、そのことで他人に勧められるかといえばそうでもない。

シナリオは横に繋がっていないように見えて、テキストの面で伏流で他のシナリオと繋がっていたりする。
例えばちよ子ルートで真は可愛い女の子といえばと聞かれて雛についてさらっと語ってしまう。この原因は雛ルートで回収されていく。
ウタカタは見えないからこそ裏側で動き続ける。ちよ子は常にそこにいるし、ぷーさんもまたそうなのだ。

・雛
最も良かったヒロイン。ここ数年の妹で(もしかすると今までやってきた中で)最も良かったと断言できる。
なんか今までの萌えゲーヒロインというのは、引きこもりのくせに変にアクティブだったりするのに対して、雛は完全に引きこもり最強であることを教えてくれる。
雛は別に特段のオタクというわけでもないのだから尚更である。この小娘、別にネットをするわけでもゲームをするわけでもないのだ。

雛はtvを見て過ごすくらいしか無い専業主婦の味わうような地獄を体感し続けている。真が家に帰ってきてもすることと言ったら一緒にtvを見るくらいしかないのはその象徴であり、それ以上にすることといったらセックスくらいしかない。
このルート(本ルートは共通からスペクトル的である)で真は一昔まえの仕事を取ったら何も残らないような企業戦士のようで、そのくせ帰社は定時のホワイト企業なのだから、結果として家に帰っても何もすることがない。家ですることといったら起きて寝るだけ。病んでるなあ!

私はこの病は意図的なものであると考える。少なくない人が、こんなものは平凡ではないというが、多くのエロゲーマーからPCを取り上げればこんなものだったりするのではないか?
少なくともこの真は、ただただ無気力なのだ。それでも雛と真は外に出たら負けだということを知ってしまったのだ。1年も引きこもれば町内では無敵である。

たぶん多くの人が苛立っただろう、病的なまでの自己評価の低さについて一つ。
「私なんか……」
「私なんかって言うな」
というのは一種のお約束ではないのだけれども(お約束でないからこそ意味があるのだが)、雛はそれをずっと期待していたのは明らかだろう。
これは主人公がそう考えているように実際に本気でそう思っているのではなく、雛はただの構ってちゃんである。平然と死ぬ死ぬ詐欺までやってのける悪質性まで兼ね備えているのだから、めくるめく精神病、いや境界例といってもいいのではないだろうか?
別に精神科医ではないから知ったことではないのだけれども、少なくともこれまでの「ヤンデレ」が提示してきた病を原初に差し戻して構築しなおしている。

彼女に付き合わされるのが不快かどうかといえば、真はそれに対して後半で完全にのまれて協力者となってしまうのだからますますおかしくなる。誰も病だと思わなければ、それはそうではないのだ。
見捨てられれば実際に死ぬかもしれないけれど、のまれた後の彼はそれとは関係ないところにいる。最初から見捨てるつもりなどなければ、原理的にありえないのだ。疑いがなければ断言もない。

これに似た妹ゲーといえばクロポの夜々で、彼女は突き抜けてイカレた挙句に「レッツ背徳」などと言い出していたのだが、この雛は心底イカレてはいない。
よるよるには母親がいなかったからイカレたのかは知らないが、雛は母に言うことなんてできないことを知っている上に病に組み込んで構ってちゃんをはじめるのだからタチが悪い女である。
外で大手を振ってイカレるほどでもなく、家の外から出ることもできない雛は、やはり引きこもりは最強なのだと理解したのである。

「怖がらずに、殻に閉じこもらずに」
本当にそうなら、そんなことは言わない。雛が正しいのだ。最後に雛が言うとおり(彼女のそれは冗談ではないことは経緯から分かる)一緒に引きこもっちゃえ。

・ちよ子

個人的にはイチャラブといえば保住圭を思い出してしまい、あのキャラクターが絶えずハニカミ赤面を続けなければならない永遠の苦行であるかのような構図をイメージしてしまい、どうも好きになれない。
そのハニカミはどうも原因が多くの場合に不明であり、なんだか私は白けてしまう。

対してちよ子の恥じらいは「嫌われたくない」という恐怖が根源であることが明確にされている。このことが良いかどうかは知らないけれど、どうもあの手のイチャラブを延々と続けられるのも嫌な私は、思わずのめりこんでしまった。
ちよ子がいったん関係を結んだ後に再度アオカン突入といったところで拒絶してしまうのも、実際に不慣れゆえにではなく、恐怖ゆえであるところも、主人公がそれを半ば無理矢理やっちまうのも、今までのイチャラブにはそれほど多く登場するような場面ではなかったろう。
私はラブラブルみたく互いが好き好き大好き超愛してるというのを自明の前提みたいにされるのが、なんかヤなのだ。

イチャラブの反動としての不安がこれまで軽視されてきたことも残念に思っている。なんでこいつらはこんなに不安がないのだと。とはいえラブライド・イヴみたいに突き抜けて幼稚になると逆に肯定してしまうのだが。

別に影がなくたって悩みくらいは人間誰でも持ってるわけで、好き好んで嫌われたいと思ってる奴はいないし、好きな他人には好きでいてほしいという、こんなある種当然のことをこれまでのイチャラブは逆説的に捨ててしまったように思える。
このゲームにおいては時間とともにちよ子が恐怖心を克服していくことが手に取るように分かる。実際これはちよ子が成長したというわけではなく、関係だけが成長して終わっている。だとしても、別に彼女自身が変わらなくたって。


・理々乃
非常に一般的な流れでありながら内実が特殊であった小林氏のパートに対して、どちらかといえば佐藤氏のパートには雑な印象を受けてしまった。
実際小林氏のパートだけなら100点だったかもしれないが、それはカラオケの1番だけ歌えば採点マシーンの点数を稼げるとかその類の話なのであるが。

その中でも最も印象に残らなかったというより、逆にひどかったとさえ思える。なぜこのようなヒロインを企画段階で抹殺しなかったのかについては疑問に思う。(←自己批判を要す)
同じ佐藤氏担当にしても、どちらかといえば「ウザさ」のないウタカタやぷーさんに対すれば、理々乃からはどうしようもない「エロゲーヒロイン的ウザさ」を感じてしまって、途中で幾度も投げ出してしまいそうだった。
基本的にまきいづみ女史はロリボイスなんだけれども『天然の年長者』に彼女の声をあてることも大きな問題なのではないだろうかと思う。
他のヒロインはどちらかといえば古代の遺跡に近いものがあるのだけれど、このヒロインは築30年のバラック小屋である。

・ウタカタ
シナリオについての評価でいえば実際あまりよろしくないものだったのだけれど、このヒロインからは久々にまともな「ツンデレ」を見せられた気がする。
ツンデレといえば『青空の見える丘』のコピーか何かで「ツン:デレ=9:1が黄金比」だとかなんとか言われだして以降、私はまともな「ツンデレ」がほぼ存在しないと思ってきた。
そもそもツンデレというのは目的ではなく結果であるから、ラマルク主義でオージービーフの赤身と脂身みたくバッチリ分けられたキャラクターは困る。
場面ごとに共通では「ツン」をキメてキメてキメて、個別に入ればHシーンやイチャラブで「デレ」を使っていくという雑な仕事が多すぎた。
このへん「ツンデレはリアルではウザいだけ」というのは、逆説的にエロゲー上でもウザさを感じずにはいられないということを示唆している。

これは関係ないのだが、『グリザイアの果実』におけるみちるの存在は、こういう情況をDisっているんだけれども特にそれを差し戻してツンデレを再構築するでもなく、ダラダラと終わってしまった印象がある。

なんでこうもウザくなるのかというと、そもそもツンデレというのはツンの後にデレがくるというだけでなく、そのツンの原因に「照れ」が含まれることも同時に指していることが忘れられているのではないのか?ということだと思うんだが。
このウタカタがよくできているというのは、このキャラクターが「結果的」にツンデレと化しているというところだと思う。
感情の出し入れが非常に細かいのにも関わらず、基本的に素直なイイヤツであることがよく伝わってくるし、ツンの原因も明らかに「照れ」に起因していることがきっちり読める。
プロットは多少の雑さを感じずにはいられなかったし、小林氏の担当されていたルートよりもテキスト自体に細やかさが欠けていると思うのだけれども、ウタカタを可愛く見せる表現はとてもよくできていた。

あと榊原ゆいにゃんの声は相変わらず良い。とてもハマリ役だと思うよ。

・ぷーさん