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resolvedさんのWHITE ALBUM2 ~closing chapter~の長文感想

ユーザー
resolved
ゲーム
WHITE ALBUM2 ~closing chapter~
ブランド
Leaf
得点
83
参照数
1836

一言コメント

90年代トレンディドラマの焼き直し

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

本ゲームの主人公は雪菜とかずさのコミュニケーションツールに過ぎない。というか、どのヒロインも社会から分断されているから、結果的に社会と繋がる主人公がそういう役目を果たすだけなのだが。
丸戸作品はだいたいそういう風にできているのはイマサラもいいところで、こんなところで言うまでもないし、そのことに文句を言っても仕方ないことくらいは知っっている。
私が好きだったのは本作と同じ形式で作られたパルフェでもコンニャクでもなくて、あのチャチな作りのV.G.NEOであるから、このデキでこの点数は私がおかしいのかも知れない。
それにしても最後まで「好き」にはなれないゲームだった。

雑文

唯一の人間らしさを見たのは千晶だけだった。あの薄気味の悪くて人工的に創り上げられた関係を、作中で一言のもとに「ウザい」と切り捨てることができたのは(そのお片付けは、玩具箱をひっくり返されることによって破綻するが)彼女だけなのだ。
世の中の人々の目というのは関係をいとも簡単に切り捨てていく。恋愛関係はパワーゲームではないことを唯一知る。残念ながらパワーゲームと思っている諸君は今すぐ風俗か精神病院に駆け込んでくることを勧める。
敵というのはそうやって片付けるもので「クソ女」と自称しながら単純な攻撃を積み重ねて、関係を破壊していく。破壊した後には何も残らない。残念なことにBadENDの方が素晴らしいデキだったろう。
Doesn't matter what colour of cat you are there's no dogs allowed.

これ自体はたぶん意図とは逆なのだろう。天才的な異常者の人格的な複雑性のサインだったはずで、自称「クソ女」として描いたはずなのだろう。
全部演技でしたというのは多重人格的な異常性の演出なのだけれども、誰しもその程度のペルソナは被っているものであって、そのことを表面化させる点で、むしろ正直な人物に見える。
どれだけ内面に葛藤があっても結果はアッサリしてるという意味で、人間の単調さを一番うまく描けているのはこのヒロインだろう。
あとはまあ、どうでもいいな。

しかしこのゲームは何がおかしかったのか。悩んでいる「私」について=メタ自傷もメタ自虐も存在しない世界は単純でいいなと思う。
泣きながら泣いている自分を見ることがない。私は心理学者ではないからこれが普遍かどうかは分からないが、雪菜は自称「分裂症」であるけれども特に分裂しているわけではないと思うた。

残念ながらかずさルートの二人は、その後絶対に上手いこといかなくなると確信した。かずさも10年したら母親みたいになるのは間違いない。
この3人はひたすらパワーゲームを繰り広げているに過ぎない。雪菜を嫌うかずさと雪菜を愛する自身を嫌う主人公の関係は、雪菜の消滅をもって終焉する。
雪菜がいなければ二人の関係は維持できない。共通のモノを愛する二人は必ずモノを巡って争う。共通のモノを嫌う二人は必ず愛しあう。
敵の敵は味方というのは万能であるが、万能故に使ってはならない。

少なくない人が言うように、ccの3キャラのルートのアフターとしてかずさが出てきたとしても、「今さらなに?」としかならんのは間違いない。
そこに雪菜はいない。
雪菜ルートも「かずさを超えろ!」みたいでなんかヤだなぁ?という感想しか持てなくなっているのは全くなんなのだ。

総評
つまらないかと言われればそうでもない。普通かと言われれば単にそういうことはできない。ただし突き詰めれば今までやってきたことの強調でしかない。
丸戸シナリオは嫌いではない。繰り返すようで悪いが、個人的にはショコラ・パルフェよりはつまらないし、V.G.NEOよりは圧倒的につまらない。
加点方式でも減点方式でも100点をつけることはとてもできない。というか100点というのは10年に1度も出そうと思わない。満点はコマネチの特権であるというわけでもないが。

というわけで減点なら90で加点なら75。得点はその中間にした。

私など、随所に「これはフィクションなんだよ」とか「これはエロゲなんだよ」というシグナルを拾ってしまう。
半強制的なオートの演出は特にそのことを教えてくれる。エロゲじゃなければできないことをやったというよりも、単にエロゲだったに過ぎない。
別にエロゲーでなくて出来るかといわれれば、多分これはできる。デジタルデータの性質とはそういうもんである。

結局のところ本作は音楽も含めてトレンディドラマの焼き直しに過ぎなかったのではないかと思う。
WAからの時間も歴史も存在しなかったか、あったとしても現実はリングバスの中をグルグルと回って、時々バスストップに引っかかっているに過ぎないのではないだろうか。
萌えゲー・エロゲーも同様だっただけのことかもしれない。これではまるで小悪魔系(笑)の裏返しではないか。

最後に書いておくと、このゲームは鬱ゲーというより鬱病患者のゲームである。こんな状態の人間が外に出るとき、最初の行き先は精神病院であるべきだと思う。