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resolvedさんのナツユメナギサの長文感想

ユーザー
resolved
ゲーム
ナツユメナギサ
ブランド
SAGA PLANETS
得点
40
参照数
1342

一言コメント

このゲームは完全につまんなかったかと言われればそうでもないのですが、最終ルートがひどいのは、結局のところ全体がひどいからだと思えてくる。長文感想は『Nega0』のネタバレを含み他人の感想に乗っかっています。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【まえがき】
このシナリオについての直接的な評価はdovさんの本作へのレビューがほとんど全てだと思っています。
http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=11923&uid=dov
上記のdovさんの感想は、ある意味でナツユメに関する限りは決定版だといっていいでしょう。未読の方は先にそちらを読んでみてください。

【ループものと、低得点の理由】
本作の問題と破綻の原因はループ構造をマルチエンド形式が主流なエロゲーで持ち込んだことが全てだったように思います。

このような野蛮がしばしば発生するのは、端的に言ってしまえばADV方式でゲームを作ろうとするなら、多少なりともマルチエンディング方式に配慮せざるを得ないのに対して、そのすべてを一つの物語に収斂させたいという、なんというかヨコシマな考えの対立を解消する唯一の手段だからでしょう。
マルチエンディング方式におけるそれぞれのエンディングは、通りすぎる以前には「可能性」でありながら通り過ぎてしまえば「結果」になってしまうのに対し、ループ構造はそれを通過したとしても、最後のルートを通過するまでは(最後のルートを通過したとしても)全てのエンディングを「可能性」かつ「必然」にすることができます。
なぜそこまでして人々は一本道のゲームを求めてしまうのかは精神分析家にでも聞いていただくとして、ADVゲームというのはその他の多くの表現形式に対して、ループを意識させやすく誰にでもわかりやすいのです。個別のエンディングによって舞い戻ったスタート画面は、ループを分断することによってループ構造であったことを明確に教えてくれます。
国民の義務も権利もない天皇が日本国民統合の象徴であるように、スイカに塩をかけるようにして、ループ構造はエンディングを要求しているのです。

しかし、この形式のシナリオはその分かりやすさや単純性に比して、通常のマルチエンディングよりもとても難しいものとなります。マルチエンディングではひとつクソシナリオがあっても他のシナリオでカバーすることは可能です。もちろん往々にしてカバーしていないものではありますけど。
このループ形式では一つのシナリオがぶっ壊れていたら全てが壊れていることになります。一つでもつまらねえと思ったら、ある意味では原理的には全てがつまらないのです。本来的にそのつまらなさ最終的に転化してカタルシスを感じていなければなりません。

はるかシナリオの崩壊は実際に単なる崩壊であってカタルシスの予備的な機動でもなかったし、歩シナリオの情景描写の浅さは頽廃芸術を火にくべて暖をとっているかのような爽快感を私に提供しました。ぜんぜん気持ちよくは成らなかったけれど。
実際には本作は、はるかシナリオで半壊し歩シナリオで全壊したと言わざるを得ないのだと思います。マルチエンディングに見せかけたことによって見かけ上はクソシナリオがあっても大丈夫だったはずなのに、結果的に一本道になってるんだから全部がぶち壊しだということは悲劇的であります。
ただし、そのようなブチ壊しであったか否かということは、重要ではありません。

【Nega0と比較して】
これとよく似たシナリオとしてはdakuryuさんの指摘されるようにNega0があります。
http://dakuryu.at.webry.info/201010/article_1.html
私はこのよく似たシナリオの同時期に発売されたゲーム2作に対し、片方はコテンパンな点数にしているのにも関わらず、Nega0にはそれほど悪い点数をつけようという気にはなっていません。これを書いている現在まだ点数つけてないんけれども。
それはNega0はポジティブな偽物のセカイをぶっ叩いて現実にたたき落とすというゲームシステム上からもテキスト上からも、最終的には現実にしか収斂しないことを、ファソは最初から明らかにしているのです。
対して本作は進行すればするほど夢想が拡散していきます。最終的には1つになるとしても過程が全く違うのです。dakuryuさんは似ていると仰られますが、本作とNega0は似ているようで全く逆のことをしていたのです。

Nega0のやり方は非常に卑劣であると思いますが倫理的に誤ってはいません。そしてNega0のシナリオライターの如き確信犯(誤用ではない意味です)であるような原理主義者に「倫理的な誤り」は基本としてありえません。
彼のシナリオがクソだったとしても、それがクソである理由が作中に存在するからです。ある意味で最強のシナリオライターです。最高かは知りませんが。

【倫理的な問題について】
dovさんは言います。
>しかし、このゲームについて言えば、あまりに設定の破綻が多く、また「夢」というマジックワードで多くを誤魔化しすぎているので、説明しようという気すら失せるというのが正直な気持ちである。

私も説明されるべきではないと思います。本作は論理的に説明しようとすればするほど、倫理的な誤りを拡大していきます。
両者は相反しています。ナチを「良い面もあった」などと肯定する歴史修正主義者と同じです。私はネオナチの如く「ユダ豚殺して何が悪い」と言うべきだと思います。
そうでなければ論理的な説明は、倫理的誤りであることを前提にしつつ自省の上にあるものでなければなりません。

>このシナリオがなければナツユメナギサはもっといいゲームだった。

まったくその通りだと思います。これはシナリオに各ヒロインの個別シナリオを後から適当に配列することになる、シナリオの構造あるいは形式の問題であり結果だと思います。
WTCに大阪府庁が移転するのと同じことです。同じくらいクソみたいなこの手法は倫理的に誤っているのです。この形式はそのことに自覚的でなければ危険です。スマガもNega0もそのことに自覚的だったのです。
だから「さよならハッピーエンド」だったんです。

無駄な公共事業は無駄であるべきです。ヒロインが作れないならシナリオを作ってはいけません。キャラゲー至上主義じゃないかと批判されそうですが、そういうことではありません。
萌えゲーである以上は攻略手段が対象に優越するのは単なる抑圧に過ぎないというだけの話です。結果は結果でなければならないのです。手段によって汚染されてはいけません。

ここまで書いてなんですが、お朱門ちゃんくらいになったら攻略対象が既にヒロインじゃないから、それはもう大丈夫という議論はありうると思います。そこまではカバーしません。(某は厳密にはループではないですが)

【歩ルート批判はどのようにして行われるべきか】
さて、dovさんは言います。
>真樹シナリオを破壊し羊シナリオを陵辱したこのシナリオが、それなりに完成度があるならまだ許せる。
私がここで言いたいのは、完成度の高い低い以前にループものという手段が他のヒロインを犠牲にするような場合に、その物語には倫理的な問題があると考えるべきだったのだということです。
この歩ちゃんルートが完成度高くて誰も批判しないなんて寒気がします。(実際にいろセカにはそのきらいがあります)それはあくまで完成度であって面白さなのです。その争いは勝手にやっていただくとして、ある種の人々が使っている採点基準としての倫理性とは全く関係のない次元にあることです。
そもそも「完成度」なる概念や「面白さ」なる概念(これらはよく使われますが)は往々にして循環しています。完成度があれば面白ければ正義というわけではありません。そんなものはロクでもありません。

そしてminami06さんは当該感想のコメント欄において述べるに
>主人公が誰と結ばれるのが相応しいのか、それは読者に決めさせてくださいよと思うのは我侭でしょうか。
「結ばれるか」を決めることと、「相応しいか」を決めることは違います。「相応しい」などということについて考える事は単なる弾圧に過ぎないと思います。その弾圧の結果が歩シナリオであるのです。

ユーザーがそれをするような状況は2つあります。一つはプロレタリア独裁であり、もうひとつは消費者から「バイヤー」に転化することです。プロ独なんて「じゃあ俺が作る」と言う話ですからそれは素晴らしいと思います。
しかし消費者の「バイヤー」化は21世紀の消費社会における必然とするのは、正しいのでしょうけれども、だからといってそうするべきだとは思いません。
それに取り込まれてしまうなら私はfreakであることは不可能ではないかと思います。少なくとも、それに取り込まれた人々の書くレビューは格付け機関が債権の安全性を教えてくれるが如く「商品価値」を教えてくれます。
ただし、そこに本当の感想は何一つ書かれていないのです。

【終わりに】
最終的に21世紀の消費社会を斬る!みたいな結論になってしまいましたので、実際これを投稿するのには非常に抵抗がありました。
一旦これを書くのをやめたのですが、お世辞でも楽しみにしていると仰って勇気を頂きました。なおかつ余裕で無許可に引用させていただいたdovさんと、巻き添え的に引用した上意味の分からない批判をぶつけられたminami06さんには笑って許して頂ければ幸いということで、謝辞にもなっていませんが終わりにしたいと思います。