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renreさんの何処へ行くの、あの日の長文感想

ユーザー
renre
ゲーム
何処へ行くの、あの日
ブランド
MOONSTONE
得点
95
参照数
1442

一言コメント

すべての砂粒を探してもたった一粒の砂金さえ見つからない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【兄妹あるいは姉弟の間での恋愛の徹底的な否定】

このゲームは、よくエロゲにある兄妹、姉弟の間での恋愛を徹底的に否定する。

狂おしいまでに兄を愛する妹の絵麻。
妹を妹としてしか愛することができない兄の恭介。

彼らの思いはどこまで行っても、どんな可能世界においても結ばれることがない。

【他者の恭介と絵馬が付き合っていると思った時の反応】

一葉
彼女は歪んだ兄妹関係を象徴するキャラである。
故に兄妹間での恋愛に対しても痛烈に非難する。
>吐き気がするほどロマンチックだね。
>私嫌だから…兄妹でああいうの、汚い。


智加子
彼女は正しい姉弟関係を象徴するキャラである。
故に兄妹間で恋愛をしていると思った恭介たちからそっと離れる。

【マージで眠り続ける島武】
彼が囚われている過去とは何か。

彼はマージで眠り続けるようになる前にこう語っている。
俺は恋愛をしない。だけど、一般的でなければよいと。

では、一般的でない恋愛とはいったいなんなのか。
それは兄妹或いは姉弟による恋愛。

推測の域は出ないがおそらく彼は、今はもう存在しない姉もしくは妹に囚われている。
そして、彼は目覚めない。
なぜなら、この作品は兄妹間の恋愛を許さないゲームだから。

【人生の1回性・今を生きるということ】
このゲームには過去にタイムトラベルするマージという薬、
そして無数の可能性世界が存在している。
しかしながら決して人生の複数回性を認めたりなんかせず、
我々プレイヤーに人生の1回性を強く突きつける。

それはマルチヒロインの体制をとりながら1本道であること。
恭介と絵麻の結ばれる世界が存在しないこと。
マージを否定的に描いていることから見て取れる。

>一度やったことは取り返しがつかない。だから、今が大切。…絵麻
>後悔だけはして欲しくない。だって人生一度きりだからね。…千尋
>マージなんて使って過去を振り返ってばかりいるんじゃなかった。
 どうして、もっと1日1日を大切にしなかったのだろう…恭介

【絵麻以外のヒロインルート・消える世界】

絵麻以外のヒロインルートは絵麻の強い恭介に対する情念によって支えられる、可能性世界である。
絵麻は主人公と結ばれる世界を模索するも、恭介は他のヒロインと結ばれる。
しかし、この世界は絵麻の世界を続けたいという願いで存続されているため、
虫食いによって消滅してしまう。

*桐李ルート
ラストの絵麻の自分が選ばれなかった不機嫌ぷりが印象的。

*一葉ルート
ようやくつかみ取ったかに思えた幸せが、虫食いにのまれていく姿があまりに切ない。
絵麻ルートを除けば一番好き。

*智加子ルート
幸せの涙は止めどなく流れ落ちるよ・・・・。
幸せは止めどなくこぼれ落ちる・・・・。
もう届かない何処かへと・・・・。
あまりの救いのなさに涙が。

*千尋ルート
せっかく、恭介と恋仲になれた世界を千尋自身で消さないといけないのがこれまた、切ない。

【絵麻が手術成功後に自殺する世界】
すべての世界を調べて、恭介と結ばれることがないと分かった終着点後に提示される可能性世界。

この世界では、恭介は自殺した絵麻に囚われて、過去ばかり見ている。
絵麻が恭介の思いを独り占めにすることができた唯一の世界。


>死者はせめて忘れないことだと思う。
>もう現実には存在しないのだから。
>自己満足のような思いで人と結ばれるのなら、
>それは、最強の関係性かもしれない。
>最高ではないけれど。…恭介

しかし絵麻は、主人公を悲しんでるのを見ているだけの世界が辛くなり、この世界を破棄する。

>たぶん見ているだけじゃ嫌っていう気持ちが溜まっていったんじゃないかな。…絵麻

【本当の本当・現実世界】
それは、絵麻が手術に失敗して死んでしまった世界である。
この世界では、恭介は桐李と付き合っており、絵麻のことを思いながらも前に進んでいる。

>俺はこんな春のいい日に、一人喪失感なんか感じてる
>死んだ妹の年を数え続ける自分を見失うことに。…恭介

しかし、この世界は千尋によって消されることになる。

>今…何処か行ってた?
>うん、行ってた。
>何処かへ行っちゃう場所…千尋
>また、会えたね…千尋

【確定された世界】
これはラストの主人公とは結ばれないけれど皆と仲良く生きていく世界である。

これは、いくら探しても存在しない恭介と結ばれる世界に対するあきらめであり、成長でもあり、
唯一のハッピーエンドの道だった。

普通のエロゲーでは好感度を上げてヒロインと結ばれることをゴールとするのに対し、
この作品では、最初からMAXの好感度にどう折り合いをつけて諦めるかが描かれている。
それが、このゲームがアンチエロゲと呼ばれる所以だろう。

導くのは
いつも光だった
暗闇を抜けると
またそこに、残っている
絶望を引きずりながら
たどり着く先は
苦しみも悲しみも
全てが
全てが苦しい道のりになれる
そんな本当

僕は信じる。彼女たちが見たあの日の輝きは本物であると。