×アイテムを手に入れ分岐を切り開くADV ○選択肢を総当たりしてバッドEDを回収するADV
コンプ済み。プレイ時間はボイスを飛ばしながら読んで15時間~20時間程度。
ボイスを全部聞きながらプレイするともう少し時間がかかると思います。
・シナリオ
全7章、7章はαとβの2ルートがあり全部で8章分のマップがあります。
各章の長さは6章までほぼ均一で、7章が短めのほぼ一本道。
正規EDは各ヒロインと隠しルートの計5つ。
クゥとトオルのEDは7章αから、ソースとセキエイのEDは7章βから見ることができ、
隠しルートは全ヒロイン攻略後解放される1章のエンドマスから入ることができます。
(もっとも隠しルートは7つのマスから構成される極めて短いものです。)
その他バッドEDやごく短い非正規EDが多数あります。
メインとなるシナリオは、城を追われた主人公エストが王位を取り戻すためドラゴンの試練に挑むというもの。
サクサク読めるテキストで燃えるシーンも結構あり、また伏線もしっかり練られています。
ボリュームも前評判から心配していたほど少なくはなく、
ファンタジー物のADVとしては比較的高いレベルでまとまっているのではないでしょうか。
ただあえて不満点を挙げるとしたら、ラスト付近の展開とヒロインとの恋愛描写が挙げられます。
まずラストの展開についてですが、7章はαとβ共に上記の通りほぼ一本道で、最後のマスで各ヒロイン毎のシナリオが入るだけ。
この最後のマスは他のマスよりも結構長めのシナリオになってはいるのですが、
どのEDもラストがやや超展開ぎみであることもあって、どうしてもEDへの流れが駆け足に感じてしまいます。
それに対し7章途中の一本道の部分はやけにのんびりした展開で、若干間延びしているという感が否めません。
7章の途中の部分を削り、代わりに各ヒロインのEDまでの展開に十分尺を取るべきではなかったかと思います。
ヒロインとの恋愛描写は、主人公エストの節操がないという設定のせいもあってか全体的にかなり薄め。
ヒロインの好感度が上がるイベントもヒロインと2人で交流するという感じのものは少なく、
好感度を貯めることで見ることができるヒロインイベントも散発的に発生するためあまりのめり込むことができません。
その結果、各ヒロインのEDを見ても「そのヒロインを攻略した」という感慨があまり湧いてきませんでした。
・ギャグシーン
このゲームはギャグシーンがかなり多く、あえて分類するならギャグゲーのジャンルに含まれると思います。
ですが個人的には、あまりツボにはまったシーンというのはありませんでした。
まず主要キャラのキャラクターが、クゥは世間知らず、トオルは脳筋、ソースは妄想キャラと
割と色んなゲームで見るキャラクターだということがあります。
またヒロイン同士やサブキャラ同士の笑える掛け合いというのが少なく、
ギャグシーンの多くは主人公対他のキャラという形になっていることもあり
後半になるとマンネリ感がかなり強くなってきます。
加えてその主人公も、エロ王子というキャラ付けはあるのですが
クゥに対しては主にツッコミ、トオルに対しては主にボケというようにボケとツッコミを兼ねていることもあってか
どうにも突き抜けた所が無く中途半端な位置づけに留まっている気がします。
ギャグがあまり印象に残らなかったのは、この辺りに原因があるのではないかと感じました。
とはいえこれらは当然個人の感想ですから、人によってはかなり楽しめる内容だろうとは思います。
特に今作も前作パスチャ3と同様パロディネタが結構含まれているので、
そういったものが好きな人にはオススメできるかもしれません。
個人的には安易にネタに走るのではなく、ランスシリーズのようにキャラの個性、キャラ同士の掛け合いで笑わせてほしいところなのですが。
・マップ&アイテム
このゲームの1つの大きな特色は、マップを使っていつでも既に見たシーンに飛ぶことができ、
またアイテムを手に入れることで進むことのできる分岐が増えるという点です。
これらは突き詰めて言えばシナリオジャンプ付きのフローチャートとフラグによるルート制限なのですが、
それをこういう形で可視化したということに大きな価値があると思います。
特にマップ画面は色鮮やかでデフォルメキャラが動き回り、見ているだけで楽しくなってきます。
ですがこれらのシステムが見た目の良さを超えてこのゲームにどれだけの面白さを付加しているかと考えると、
あまり手放しで褒めることはできないように思われます。
まず、上にも書いた通りこのゲームはフラグの解放をアイテムの入手という形で表現しているのですが、
アイテムを入手するイベントもそれを使用するイベントも何の脈絡も無く発生するため、
プレイしていてどこでアイテムが手に入るのか、手に入ったアイテムをどこでどのように使用するのか、
実際にそのイベントを見るまでは全く見当が付きません。
(マップ画面で入れないマスにカーソルを合わせるとそのイベントを見るのに必要なアイテムの枠が点滅しますが、
その枠に入るアイテムが何章のどのマスで手に入るのかについては、何のヒントも与えられません。)
そのためアイテムを集めると言っても何か主体的にできることがあるわけではなく、
ひたすら全ての選択肢をしらみつぶしに選んでいくことしかできません。
そうしてアイテムを手に入れても解放されるのはほとんどが単発のバッドEDや非正規EDで、
アイテムを手に入れることで見ることができるCG・Hシーンというのはほんの数個しかありません。
もっともこのゲームには各ヒロインとの記憶というアイテムがあり、それを集めないとヒロインのEDは見れないので
その限りではアイテムを集める必要性があります。
ですがそれらヒロインの記憶は基本的に各ヒロインの好感度が上がるイベントを見て行けば集まるものであり、
他方各ヒロインの好感度を上げることもヒロインEDを見るためには必要なので、
わざわざ好感度とは別にこのようなアイテムを用意する意味があったのかは疑問です。
このように、メーカーが謳う「アイテムを手に入れ分岐を切り開く」とは
プレイする側から言えば結局の所「選択肢を総当たりしてバッドEDを回収する」ことに他なりません。
そして下記で触れる通り、このバッドEDを回収するという作業は決して楽しいものではありません。
アイテムの所在についてヒントを出したり、アイテムを手に入れることのメリットを増やす等して
マップを駆使したアイテム収集をより楽しくする工夫をすれば、もっとこれらのシステムが活かされたのではないでしょうか。
・経験値&戦闘システム
このゲームのもう1つの特色は、バッドEDを見ることで主人公エストが経験を積み、レベルが上がるという点です。
このバッドEDで経験を積むという発想はありそうであまり無かったもので、これだけでも評価に値すると思います。
ですがこのシステムもゲームの面白さにプラスに働いているかというと、必ずしもそうは言えないのではないかと思います。
その原因は戦闘システムのつまらなさとバッドEDの単調さにあります。
このゲームの戦闘は早い話がジャンケンなのですが、敵の行動は一部パターン・一部ランダムで
ランダム部分については何らヒントが無く、パターン部分も一度戦闘しないと分かりません。
そのためよほど念入りにバッドEDを回収して来ていない限り最低2度、ランダム行動によってはそれ以上の回数同じ戦闘を繰り返す必要があります。
加えてこちらが有利な行動を取った場合でもある程度のダメージを受けるため、
一定以上のレベルが無いと絶対に勝利することができずバッドEDを回収する作業を強いられることになります。
それでもバッドED自体が面白い内容であれば楽しんで回収できるのでしょうが、
バッドEDはどれも尺が短く、内容も主人公がいきなり突拍子もない行動に出て死亡or性的不能になるというものがほとんどで
すぐに飽きてしまい後はひたすら作業が続くことになります。
幸い戦闘の回数が少ないためストレスになるという所までは行っていませんが、
戦闘とバッドEDのどちらかだけでも改善すれば大きな魅力になると思われるだけに、
かなりもったいないシステムだと思います。
・キャラクター・CG等
ヒロインの中ではソース、サブキャラの中ではトロが気に入りました。
原画は最近ブームになったコンシューマーゲームの原画家さんが描いているそうなのですが、
正直塗りが違いすぎて名前を見るまで気が付きませんでした。
原画の魅力を引き出すという意味ではもう少し原画家さんの画風に合わせた塗りをしても良いような気がしますが、
この塗りもこれはこれで作風に合っているようにも思います。
Hシーンは38個で各ヒロインに複数、サブキャラにも一通り揃っていますが
テキストのせいかCGのせいか、色々なシチュエーションがある割にあまり濃くは感じませんでした。
・総評
このゲームを一言で表すと、「発想は良いけど練り込みが足りない残念なゲーム」といったところだと思います。
マップシステムはアイテム収集やイベント回収には便利ですが、肝心のアイテム収集やイベントに魅力があまり無いため
作業感の強い内容になっており、これなら普通の好感度を貯めていくADVで十分ではなかったかとも思われます。
また経験値システムもそれを活かすための戦闘システムがあまりにもお粗末で、
これまた必要性のあまり感じられないものになってしまっています。
メインシナリオの内容や斬新な発想を評価するともう少し高い点数でもいいような気もしますが、
改善できる点が多くあること、特にラスト付近の展開や戦闘の不満点はできれば開発途中に気付いてほしかった内容なので
少し厳しめでこの点数にしたいと思います。