光る所はあるがそれ以上に不満点や問題点が目立つゲームという印象。未コンプだが暫定的な評価。
二周目クリア時点での評価です。
一周目はノーマルルート・リリアムED、
二周目はセーブデータを分けてハードルート・シャーリーEDとノーマルルート・マリEDでクリアしました。
(二周目以降は複数ヒロインを同時に攻略できるようになり、
その場合12話開始時にEDを見るヒロインを選択することになります。)
・シナリオ
初めに、このゲームはほぼ完全な一本道です。
全13話+エピローグ的な最終話という構成で、12話の戦闘の際ノーマルルートとハードルートに分岐しますが、
一部の戦闘とサブキャラのその後が変わるだけでシナリオの流れやEDは変わりません。
また恋人関係になるヒロインが変わっても、一部の会話の相手がそのヒロインになる他エピローグが追加されるのみで
やはりシナリオには全く変化がありません。
その上でシナリオの内容についてですが、バインドに憑かれた人間が起こす事件を解決していくというのが
基本的な流れで、全体的にシリアスなものとなっています。
伏線や設定も中々練り込まれており、シナリオにかなり力を入れたのだろうということは感じられます。
ですが読み終えた上で振り返ってみると、微妙な出来だったというのが正直な感想です。
まず問題なのが、キャラクターの動機づけが弱いこと。
エイジがトーレスの事件に執着する理由も、仲間が戦いに加わる理由も
「性分だから」「放っておけないから」という程度のものしか提示されません。
またシャーリーの戦う理由であるところのエミールも、教頭の娘であるということが分かるだけで
あとはゲームの冒頭とラストに顔を出すのみ。
それに対して敵側の動機も結局は個人に対する私的な恨みであり、
それがどうして世界に関わる戦いに発展するのかを描写しきれていないように感じます。
第二の問題点として、各キャラの過去や背景の描写が不十分であることが挙げられます。
上にも書いたシャーリーとエミールとの関係やリッキーとイクサとの過去についての描写が少なく、
なぜシャーリーは転校して来てまでトーレスの事件の真相を追っていたのか、
なぜリッキーはイクサの誘いにあれほどまで悩んだのか、いまいち納得がいきません。
それ以外にもエイジやサントスの過去など、多くの場合本人のセリフの中で少し触れられるのみで
各キャラの人物像や性格がどのような経緯で形成されたのか掴みづらく、感情移入しづらくなっています。
全キャラにヴィオレッタほどの描写を用意しろとまでは言いませんが、
過去を回想する場面を増やすなどもう少し各キャラについて深く掘り下げてほしかったです。
そしてもう一つの問題点が、全体を通してエイジたちの行動が受け身になっているということです。
作中でも言及されていますが、エイジたちの基本的な行動パターンは何か事件が起きると解決に動くというもので
何らかの目的のために自主的に動くということがあまりありません。
黒幕についての情報も他のキャラや当の本人がエイジたちに語ってくれますし、
12話から13話にかけての展開も結局は某キャラのおかげで解決しただけ。
「解き放て、運命の鎖」というキャッチコピーやOPムービー冒頭の演出から
エイジがリリアムをバインドの管理者という役目・宿命から解き放つというような展開を期待していたのですが、
終わってみると結局エイジはシナリオの中で何も具体的なことをやっていないのではないかという気さえします。
結局異界の穴の問題はEDでも先送りになっていますし。
総じて見ると、力は入っているけど空回りしているシナリオという感想を持ちました。
実質一本道でこのシナリオというのは正直不満が残ります。
・学園・恋愛描写
私自身このシリーズの前作は未プレイなのですが、学園行事などの描写とイチャラブが多いという評判は聞いており
このゲームにも主にその辺りに期待をしていました。
ですがはっきり言って、かなり期待外れな内容でした。
まずそもそも学園行事やイチャラブの描写が少ないということがあります。
シリアスな話がメインである以上仕方ないのかもしれませんが、学園行事の話の途中にも頻繁に敵側の動き等のエピソードが入り
イベントにのめり込むことができません。
ヒロインの好感度が上がった時に見れるイベントもシリアスな流れになることが多く、
付き合い始めてからのイベントもHシーンに持っていくための前置きという感じのものが目立ちます。
もう少しクラスメイトやヒロインとの交流を厚く描いてほしかったと思います。
またサブキャラたちの扱いにも不満が残ります。
日常イベントにせよ学園行事にせよ冒険部のメンバーとの話が多く、サブキャラとの絡みが少ないのです。
シュウゴや水無瀬はそれぞれ会長選挙・学園祭でもっと活躍させることができたのではないでしょうか。
またミーナ先生もHシーンが一つあっただけで、それ以外ではほとんど出番無し。
せっかく学園物という設定なのですから、仲間内だけでなくもう少し交流の幅を広げてほしかった。
そしてこれら以上に問題なのが、主人公の性格です。
大人が若返ったという設定を重視したためか妙に落ち着いているというかドライな性格であり、
作中では他のキャラが盛り上がっているところにツッコミを入れたり横から見ているという立ち位置が多く
学生同士で盛り上がったり絆を深めるという学園物の良さが出ていません。
これはヒロインとの関係でも同様で、基本的に「大人な男」としてリードしていく場面が目立ち
ヒロインと同じ目線の高さでイチャイチャするということがありません。
せっかくカイトスにはブラックエースと呼ばれアウトロー気質な所があるという設定があるのですから、
もっと学生気分で日々を過ごすはっちゃけた性格にしてもよかったのではないでしょうか。
・ゲーム性
まず、この作品は他のアリスのゲーム性重視の作品に比べゲーム部分のボリュームがかなり少なく感じます。
絶対量としてはそこまで少なくないのかもしれませんが、体感的にはテキストをひたすら読んで合間に戦闘という感じであり
SRPGを思い切り楽しみたいという意識でプレイすると肩透かしを食らうと思います。
また体験版をプレイした方は分かると思いますが、このゲームの戦闘システムはかなり単純です。
ターン制で高低差・地形効果・ZoC・体の向きによるダメージ増減などは一切無いため
戦闘は基本的に敵に近づき攻撃するのみで、キャラの動かし方を考える余地はあまりありません。
加えてほぼ全ての敵のAIが「一番近くにいるキャラを攻撃する」というものであるため、
戦闘の流れは敵に近づいた前衛キャラが敵の攻撃を引き受け、そのキャラを回復しつつ敵を攻撃するというものばかりになります。
結果戦闘はどれも似たり寄ったりで単調という印象が非常に強いものになってしまっています。
これに対し、バインドやBPによるキャラの能力のカスタマイズは中々いい感じだと思います。
完全に自由に能力を変化させられるわけではなく、それでいて組み合わせによりかなり幅のある変化を実現でき
敵とレベル差があってもこれらによって逆転できるというゲームバランスは、さすがアリスといった所でしょうか。
ただ上記の通りこのゲームでは戦闘中のキャラの動かし方を考える余地がほとんどないため、
バインドもキャラの運用の仕方を変えるというより、能力を伸ばす武器防具の延長という性格に留まっています。
そしてキャラの能力についてはレベルアップによる上昇幅がかなり大きいため、
レベルをある程度上げればバインドやBPを気にしなくても攻略できてしまうという欠点があります。
しかもこの作品はどうやら難易度をかなり抑えているようで、各話の最初に追加されるサブクエストを一通りクリアするだけで
メインシナリオの戦闘をゴリ押しでクリアできてしまう程度のレベルにまで上がってしまいます。
またターン消費無しで使用できるアイテムが有用すぎるということもあるので、
バインドの付け替えを楽しみつつある程度緊張感を持ってこのゲームを楽しみたいと考えている方は、
サブクエストの攻略を程々にしアイテムの使用を縛ってプレイする必要があるでしょう。
・周回プレイ
マニュアルにもある通り、本作は周回時の引継ぎがかなり充実しています。
2周目以降はバインドやアクセサリを駆使すれば、サブクエストでレベルを上げなくても
メインシナリオクリアは可能ではないかと思います。
また2周目以降に解放されるサブクエストも20個以上あります。
ですが、シナリオが基本一本道で戦闘も単調なせいで
多数の引継ぎ要素にもかかわらず周回プレイはかなり作業感の強いものになっている気がします。
それでいてステータスの高さに最も影響を及ぼす各キャラのレベルは初期化されてしまうため、
適当にキャラを突っ込ませておくだけで簡単に戦闘に勝てるというほどではありません。
また追加されるサブクエストも敵のレベルが高いだけで戦闘の流れはそれまでと何ら変わらず、
最後のサブクエストも思ったほどの難易度ではなく、がっかりしました。
やり込み要素もバインドのレベル上げとBP稼ぎしかなく、それらも上限が大して高くないので
あまり長期間やり込むモチベーションにはなりません。
3周目に入る際に全能力にBPを100%振ることができるようになったことから考えると、
おそらくアリスとしてもある程度周回を重ねることを前提としているのでしょうが、
それなら引継ぎ要素を増やしたりシナリオスキップを充実させるだけでなく
ルートを増やしたりやり込み要素を入れるなど周回のモチベーション作りに力を入れてほしかったです。
おそらく全キャラのイベントをコンプするのに3~4周はかかるかと思いますが、
私自身すでにプレイを続けるのが若干辛くなってきています・・・。
・その他の要素
音楽は主題歌とそのアレンジが名曲。戦闘曲にもいくつか気に入ったものがありました。
絵は時々立ち絵とCGで顔が違うことがありますが、総じて良い出来だと思います。
エロは各ヒロイン5回ずつのようで、サブキャラではミーナ・川田さん・学園長にシーンがあります。
シチュエーションは多様なものが用意されていて飽きないのですが、前作について聞いていたような
イチャラブ系の甘い雰囲気のシーンが特に無かったのは残念でした。
・総評
キャラクターたちは皆個性的で、特にリッキーとマリの会話や善行寺関連のイベントは中々面白く、
シナリオ設定も練られていて、ゲームバランスも悪くない。
また音楽やCG・エロも平均以上の水準を保っており、引継ぎ要素なども親切。
これだけ良い要素があるにもかかわらず全体として見ると微妙な印象を抱いてしまうのは、
作品の最大の魅力と言えるような要素がこれといって存在しないからかもしれません。
個人的にはシナリオ・学園や恋愛絡みのイベント・ゲーム性と全て期待していたものからかなり離れていたため、
このような厳しい評価になってしまいました。
ただ上記の通りこのゲームにも光る部分は複数あるので、
これまで書いてきた欠点が気にならないという人にとっては良作となり得ると思います。
また個人的にはそれほど好きではないのですが、パロディネタがかなり多く含まれているので
そういったものが好きな人はプレイしてみるのもいいかもしれません。