ベースは異世界転生ものではあるが、それぞれの理想のセカイを実現させるためにヒロイン達と奮起していくお話だった。理想を掲げる上でのデメリットや、人としてあるべき姿には何が必要なのかという別テーマも重点的に描写していた印象を受けた。ライターによるイチャイチャとシナリオ形成の両立が感じられる良作ではあるが、とある√の読み込みづらさを考えるとノベルゲー初心者に読ませるには酷かと。一応作中で明かされるとは言えど中級者向けか。
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異世界転生もので、世界を救う為に協力し合うのは無双スターズを連想させた。
作中の理想論についてはざっくりしてるので、個別√で細かく書かれるんだろうなぁと。
主人公の能力で赤文字になるシステムが斬新的よね。
ただ、ダウトについてまだ分からない部分があるのでパッとしなかったのは事実。これから個別√でどう詳しく描かれていくのかが見ものかな。
ところで、これヨルがボスって事で良いのかな?
正義感の強いヒナギクが心折れたシーンから復活する所は、GEのNo Way Backを思わせたかにゃあ。
ヘルミリア=ヴァン=ノクスローゼ√:キャラ47/シナリオ44
個別√として。否、ヘルミリアの視点としての描写が上手く著れていたと感じました。ただ主人公の視点から見るとバッドとも捉えられるのかなとも思いました。最後にやった√ということもあって、ハルカ√の最後のCGや、ティア√でヘルの名前を呼んでない謎がようやく解明されますね。
この√の流れは、悲惨な過去を持った彼女が元の世界に絶望して命を絶ち今のセカイへと転生します。その中で主人公達との交流をもって成長していき、理想のセカイを求める、といった所でしょうか。
ヘルちゃんは思い出したくもない過去と向き合い、どんなに理不尽な事があろうとも現世に戻って生きることを選ぶのです。が、そこで神ちゃんに記憶を操作をされて別の世界に飛ばされてしまいます。
しかしながら神ちゃん、決断を下した所で余計なことしてくれたもんだね。でもまぁ、話が全然違うやろがって思ってたことを考えると動きは出るよね。
オチとしては元の世界に戻り、主人公を助けて2人で暮らすというまさかの帰還展開という事なのです。これは寧々√でいうRESTARTのフラグを完全にへし折る事と同義であり、ヘルの理想論はセカイではなく前世に戻って作るものと豪語するとも捉えられますね。
これ傍から見ると、セカイに取り残された主人公は神ちゃんによって存在が消されるバッドエンドを迎えることになるんですよ。あくまでこれはヘルミリア自身の√であるという認識が無いとこのような捉え方にもなるかなと思いますが、それをあまり感じさせないほどの描写力に感服しました。
個人的に印象に残ったシーンは主人公がダウトの能力を明かした所と、ヘルミリア(瑠美)が叔母に殴りかかる所です。普段キレる印象のない月野きいろさんの演技が神がかってましたね。
前者のは主人公の説明が足りてなかった点、ヘル自体の心の整理が出来てなかったこその衝突でしたね。癇癪を起こし続けるヘルちゃんは正直見るのがつらかったです。
後者は主人公が絶望する諸悪の根源に触れてヘルが殴りにかかるのですが、この描写はヘルがブチ切れるシーンしか入ってなかったので、そこはもうちょっと細かく書いて欲しかったかなぁと思っています。
ヘルと主人公の前世の繋がりと、神ちゃんがそれに興味を持ってセカイに招いたという点が線になって形成されていくお話でした。上記のオチと重い過去との結びつけを忘れずに描写する配慮も良かったです。
最上ヒナギク√:キャラ43/シナリオ40
ウォーミングアップにはちょうど良い塩梅だと感じた√でしたね。キャラゲーとしての矜恃を維持しながら、ヒナギクが抱える問題点の解決までを描くのをノベルゲー初心者にも分かりやすくしていたと思いました。
侍は本来主に忠誠を誓う従者としての役割を全うすべき存在として書かれがちですが、ヒナギクはそれを上手く著していましたね。これまで戦うことで生きてるという事を実感している訳ですから。
異世界転生してヒナギクが経験したことの無い事だらけで困惑したりと、転生物あるあるを上手く書いていたなぁとも思いました。
そんな彼女が掲げる理想論は、実は√の序盤から答えは出ているように感じました。というのもヒナギクは「英雄として平和のために戦う」という思念を胸に、共通√で思う存分に腕を奮っていたんですね。
敵の襲撃を逃れ、世界は平和になった。だけど彼女の気は晴れなかった。ここの理由が個別√としての本質になります。
作中で見せてる大きな態度は、その重い過去を背負った自分を見せない為の武者震いだということが分かります。
では何故か?それはヒナギクが守るべき主を守りきれず、自分が平和に生きている事が許せなかったというもの。主に申し訳がたたない、怨まれていて当然だと思い込む負の感情、いわゆる贖罪が彼女を縛り付けていたのですね。晴れないモヤモヤを抱えながら生き続けることの葛藤も顕著に書かれていましたからね。
ヒナギクは知りたかったのでしょう、主スイレンが今を生きている事にどう思っているのかを。
ヒナギクを側で見守っていた「鬼哭紅蓮」という刀の正体と、転生前に仲良くしていた姫。この2つが同一人物というのは声を同じにしてる時点でもう察しがつきましたね。ヒナギクに対してやたらと気にかけてくれる所や主人公にテレパシーで伝えてくる所が、回想シーンの時点でもうお察し案件ですから。
戦人や武人、侍の忠誠は千桃でも見れましたが、やはり主あってこその従者。この2人の関係性は主人公が触れるには大きすぎるものなんだろうと感じた√でした。主が従者の元を離れて今を生きろと言い遺す、この感動シーンは見ものですね。アンレスやPiecesでも見れるなら見たいですわ。
良√ではあるんですが...なんというか、新鮮味が感じられなかったのが心残りです。これは自分の問題であって作品自体は悪くないのです...どうしたら良いのやら
綾月ハルカ√:キャラ44/シナリオ45
突然ですが、ハルカの正体って実は人間ではなくてアンドロイドじゃないかなって思うんですよ。
その思った理由は√内で分かりやすく書かれています。
まずハルカは文明が高度に発端した世界から召喚されてますよね。彼女の性格はミステリアスで、感情が貧しく物事への興味もほとんど無い。
マイ・ディアー・ファンタズマという、本に記した事が実際に具現化される能力を「検証」や「物語の世界の実現」という口実の下に色んなことを主人公にしてくる、と能力においての検証にしか興味を示してなかったんですよね。
それに共通の時点からこの世界の今の在り方についていち早く気づいてるのですが、1度滅びたとはいえ元の世界の本質と生まれをアンドロイドとして理解してたからこそなんじゃないかなと思っています。
まぁ最後にハルカが勇気を出して決断を下した時に涙を流していたのを見るに、端からアンドロイドとは言えど人間としての情を描写しないと不自然だよねというのを伝えたかったのかもしれませんね。人型の創作物とはいえ人として生きてる事に変わりはない訳ですから。
さて物語のテーマですが、個別√でここまでタイトルに切実に重視した哲学的な書き方はなかなか見ないんじゃないでしょうか。
ハルカが元々いた世界は人類が抱えた問題が存在しないものでした。これ言葉通りに受け取るなら理想のセカイになりうるのかもしれませんが、逆に言うとそれ以外が存在しない。つまり本当の意味での「無」として生き続けてる事を示唆しているのです。
この状態で世界が滅び、無となったまま転生して今に至るハルカですが、無として生きるのが理想かと言われると違うと思いました。理想の追求に執着しているのも納得が行きます。
恋仲になる上で理想の追求を強いられたハルカですが、未踏の世界に踏み出す勇気を出して行動するまでの描写が個別√の醍醐味でありライターの本領発揮を伺えました。
神ちゃんに抗おうとする主人公がかっこよかったですね。かつての仲間にダウトの能力を明かす際の覚悟も、よほどハルカと運命を共にしたいんだというのが伝わってくる名シーンでした。
これは「未踏の地&新しい世界で暮らそう」と言うティア√同様異例の書き方ではありますが、サノバの寧々√のようにRESTARTとも読み取れるのではないかなと思います。ハッピーエンドの書き方はひとつではないと改めて実感させられましたね。
ティア=フォーレンタイト√:キャラ45/シナリオ39
ヒナギク√がウォーミングアップと以前書きましたが、本√との温度差は何ですかね...。
端的に言うと、扱いがとにかく難しい√だと感じました。というのも、この√の特徴は捉え方次第ではハッピーエンドにもバッドエンドにもなり得るものなのです。
個人的な評価ポイントは、愛を知らず無として生きて嘘を重ねてきた彼女が、第3の生を生きるという締めにした事の是非です。
ティアはシスターをしており、愛でこの世界を救うことを使命としているとありますが、彼女の発言の大半は赤文字。つまり主人公の「ダウト」により嘘であることが判明します。
ではティアは何故愛にそこまで拘るのか、なぜそこまでして嘘をつくのか。√としての本質はここ、キャラ設定の深堀りになる訳ですね。
テーマを付けるとしたら「愛に溺れしシスター」が相応しいでしょうか。
「氷の女王」「首切りの姫」と恐れられ碌に幼少期から愛されず、無として生きることを迫られた彼女が知りたい愛。永遠の献身の能力を持ちながら、これを口実としてダウトに引っ掛けバレないようにする。
愛を知りたくても方法が分からない。だからこそ無であるがために主人公への言葉は届かない。これが終始続くと言ったシナリオ構成ですね。終盤で主人公に焦っていた描写も、思い返せばよく出来てるなと思います。
そしてヨルとの一体化からの闇堕ち。ヨルもヨルで闇を抱えてるし、ティアは愛に溺れて無状態だったしフュージョンするには最適だったのでしょう。
戦闘シーンでもティアの心の乱れがまだ残ってる描写があって、ちょびっとだけでも、愛がなんなのか本当は理解してたんじゃないかなと思っています。からのあの結末...。
神ちゃんも言ってたけど、これは現世からすれば世界の終わりを迎えるバッドエンドな訳ですよ。でも、死に際に放った一言「大いなる優しさに包まれた世界」を聞いた神ちゃんが、慈愛の象徴となる神様を作って第3のセカイが始まります。そこでティアと主人公は再び出会って物語は幕を閉じるんですね。
一応シスターヒロインという事でフロフロの二の舞になるんじゃないかという不安はありましたが、ある意味杞憂だったという事にしています。
にしても、キャラゲーの作品でこのような締め方は異例かつ斬新ですよね。
ノゾミ先生√:キャラ42/シナリオ35
やたらと献身的であり、先生の威厳ってなんだっけ?という雰囲気しかわかないキャラでした。
が、彼女の正体と掲げる理想論はなかなか理にかなっていたかなぁと言う印象でした。
ヨル√:キャラ46/シナリオ36
主人公達への敵として立ちはだかる彼女ですが、生まれが「主人公達の価値の証明のため」というもの。いわゆる必要悪という訳ですね。
では何でこのロリ体型として具現化されたのかという疑問点にたどり着くわけです。敵として出すのなら、如何にも見た目からでも分かるようなインパクトが必要なのは言わずとも理解出来るかもです。
あえてそうしなかったのは、主人公達が勇者として転生する際の敵のイメージを1つに纏めたからなのかな?と思っています。特にヒナギクからみた敵の印象と、主人公からみた敵の印象がごっちゃになっているのだと推測しています。作中でも言ってましたが、ヨルの見た目は主人公の妹を具現化したものとされていますからね。
主人公が何故ヨルの事を考えていたのか、がこの√のテーマであると思います。
共通√の終盤で戦いに敗れたヨルは消滅していまいます。が、消滅する際に戸惑いがあったのを心残りに思った主人公がヨルの事を考えたことで√としてお話が始まるわけです。邪悪の神を自称し、1度は主人公の驚異として立ちはだかった少女が人間として1歩ずつ近づいていく描写は、人外ヒロインだからこそ出来る描き方だと思います。
そんな彼女が人類の愚かさについての大事な考察を語るシーンがあるのですが、なかなか考えさせられるものがありました。凄くざっくり言うと、暴力こそが正義という認識が多方面に染み込んでいると言うものですね。これが彼女の生まれの理由であるのも納得が行く気がします。
裏テーマに関してですが、「ヨルの理想論」と言うよりは「ヨルが感じた理想のセカイとは」と言った方が近い気がしますね。
正義の反対側。必要悪として生まれ、敵として倒されるも主人公に気にかけられた彼女の内面の変化がコンパクトながらに見れる√でした。
クッキーを焼いてヘルちゃん達にあげる描写が決めてだと思いました。
TRUE√
個別√に用意されていた伏線を回収する展開は、正しくシンの√元いTrueの名前に相応しいですね。
ただ主人公がヒロイン達の理想を話し合う中で裏事情や前世の事を知ってる事を考えると、個別√もこのTrue√も所詮神ちゃんが描きたかった理想論に過ぎないのかもしれませんね。シナリオとしては「人間の愚かさと嘘」という裏テーマもしっかり定着させていた印象でした。
嘘に追い詰められ、嘘に殺された主人公は嘘を憎み「ダウト」の能力を取得しますが、仲間がいるこのセカイに満足している事に見かねた神ちゃんにより消されてしまいます。仲間達から理想を託され、神となった主人公は、自身の「嘘を否定するセカイ」という理想を実現させるために創世と破滅を繰り返すのですが上手くは行かない。というのが物語の本筋でしょうか。
人間は愚かで学習しない。それは理由がどうであれ本能的に嘘をついてしまう事が証明しています。確かに嘘は悪い方向で持ってかれがちではあるのですが、傷つけない嘘だってあるはずなのです。嘘によって傷つくことを恐れた主人公があれだけ優しくなっていたのは、前世の背景を考えると納得の結びつけですね。
その優しさが仲間に向いていたことも知らず追い詰められて堕ちてしまった主人公ですが、救われたいという願いを聞いた神ちゃんにより、かつての仲間たちを呼び戻して主人公を助ける。という展開ですね。
オチを一言で表すと、灯台下暗しが近いと思います。主人公に足りなかったのは愛、成長、平和、あたたかさだったのです。が、嘘のないセカイの実現のために堕ちてしまったことによってそれすら気づけなかったという訳です。真の理想のセカイは、追い詰められた時にこそ顕著に見つかるものなのかもしれませんね。
そして主人公は、かつての仲間たちと共に「全ての人が報われる理想のセカイ」の中で生きていき、心優しい主人公だからこそ得れる「ハッピーメーカー」の能力を明かして物語は幕を閉じます。
この「全ての人が報われる理想のセカイ」を、神ちゃんは人がどのようにして作っていくのかを見たかったんだと思います。素晴らしい〆でした。
〆は確かに良かったのですが、主人公の妹元いベースとなっているヨルについてはもう少し説明が欲しかったですね。
実の母親にも捨てられたか?と思いきや、本当は息子の事を愛したかった、寄り添いたかったという落とし所もナイスでした。