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rabbitiaさんのかみのゆの長文感想

ユーザー
rabbitia
ゲーム
かみのゆ
ブランド
light
得点
80
参照数
938

一言コメント

安定と安心を備えた心「温まる」銭湯物語

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

lightの新作ということで購入。体験版プレイ済み。

【システム面・演出面】
フキダシとエモーションマーク(「///」=照れるなど)を用いた、漫画感覚で読み進められるゲーム。
グラフィックも綺麗で、フルスクリーンにしてもCGがクリアです。
また地味にお気に入りな部分は、食事シーンに食べ物の絵がある事。作中登場する賄い料理である「かみのゆ丼」や、巨大かき氷などなどがまたちょっと美味しそうで…(゜Д、゜)

あとはアイキャッチ? シーンの切り替え時の歌が可愛くてお気に入りです。「嘉人くんのえっち♪」とか「うるさーい」に何度萌えさせられた事か。
惜しむらくは、BGM鑑賞モードでそれらのアイキャッチが聞き返せないところなんですけどね…

また誤字脱字、バグなどが結構目についた部分も難有り。あや乃√で主人公のセリフが表示されない不具合は、パッチで修正されるのが遅かったので気になってしまったり。
他のレビューにもありましたが、複数ライターが存在しているのでシーンの食い違いも多少発生しています。



【グラフィック面】
「さかここ」シリーズのAKINOKOさんが原画。独特の雰囲気を持った絵なので、好き嫌いは分かれるかもしれません。

体験版の時点で私が凄く引っかかったのが、裸立ち絵。
銭湯で主人公は働き女湯でムフフ!?な展開なわけですが、登場人物の裸立ち絵がどうも不満。
なんと表現すれば良いか分かりませんが…とにかく、エロくないと言えばいいのでしょうかw
HシーンのCGなどもそうですが、原画のAKINOKOさんは画風が裸に向いてないのかなあ?などと首を傾げたりしていました。服を着ているシーンは問題なくしっくり感じたので。

まあシナリオにのめり込み出すと気にならなくなるので、ここは個人的な感性でしょうか。



【シナリオ面】
全体的に良くできたシナリオ。
複数ライターが存在する中、どの√でも主人公の嘉人くんは良い主人公っぷりをしているのが素晴らしい。
ヒロインのために奮闘し、他人を気遣い、仕事熱心な真面目な青年です。萌え系エロゲの主人公では平均以上です。

全√で共通した特徴ですが、シナリオはあまり深刻にならない印象です。
ヒロインとのシナリオを読み進めていく中で、プレイヤーの胸が痛くなる・ハラハラする・悲しくなる――という感じが薄いのです。良い意味で。

どこかやり取りがコメディチックだったり、読者視点だと先の展開が分かるので安心できるなど、重苦しい雰囲気はありません。ハートフルです。暑すぎず冷たすぎず、まさに「お風呂」のように丁度いい安定具合でした。
展開も奇抜になり過ぎず、王道なポイントを押さえているのが私には好感でした。それこそ喜劇のような「様式美」があるといいますか。

ですが逆に、keyに代表される深い「泣き」や、Diesシリーズのような激しい「燃え」を期待していると単調と感じられるかもしれません。


それでも気に入っている作品であるのは確かなので、得点がちょっと甘めになっています。今後に期待です。




以下はネタバレアリの個別√感想。私の攻略順に記載。




【一番合戦乙女】
何の気なしに最初に選んだヒロインでしたが、シナリオもキャラもかなり好きな部類に入りました。
ところどころに存在する王道ポイントが良かったです。
・最初は主人公を警戒していたイチマカセさんが、徐々に主人公を信頼する所。
・怪奇事件の犯人(読者から見ればバレバレです)の魔の手により、ピンチになるヒロイン。
・それを颯爽と助け出す主人公(お姫様抱っこ!これは冒頭シーンの対になってますね)
・いい雰囲気な中、唇を寄せ合うふたり――しかし他人が覗こうとしていたのでおあずけ。
・シナリオの最後には、イチマカセさんの父親と戦い(娘さんを僕にください!ネタ)

とまあ、分かりやすい王道をなぞるシナリオ。そこが様式美の魅力と言いましょうか。銭湯が舞台という事で、このような「古きよきベタさ」を踏襲しているのかもしれません。

かみのゆの外では凛然としているイチマカセさんの本質を、主人公が受け止めるという形になるのも良いものです。どちらのイチマカセさんも可愛いですし。
キャラデザも可愛いので、今では一番のお気に入りです。



【水本杏理】
あや乃√を2番目にクリアするつもりだったのですが、前述の不具合により杏理を先に。
かみのゆ内部と外で性別が変わるヒロイン――恋に障害がある事がこの時点で推測できるので、ワクワクしながら読んでいました。

結果:男でもキスしたりHしちゃっても良いじゃない!

所謂「男の娘」属性を担当するヒロインです。男状態でのHシーンも実装です。
民安ともえさんの声が良いのと、例の通り男でも見た目はそう変わらないのでむさ苦しい状態にはなりません。
ですがそういうのが苦手な人は、注意してプレイして下さい。

エロゲ的には男の状態でもイチャイチャするんだろうなあ、と多くの人が予想できるのですが、このあたりの葛藤を丁寧にやっていた部分が高評価。

男の状態でも手を繋いだり身を寄せたりしたけど、やっぱりキスはダメだよと言う主人公。理由は「キスまでしちゃうと、その先までやりたくなっちゃう」ええ、節度があって大変よろしい。性癖がノーマルなのに、簡単に男とHできるのも不自然ですし。

ですが杏理はそれが不満。杏理は別れ話を切り出し、その末に逃げ出し主人公と追いかけっこになるというシーンがあります。
すれ違いをきっかけに不和が発生し、追いかけっこになる。そんなシーンでもふたりの会話はといえば、
「僕は嘉人くんが同性愛だとしても、好きな気持ちには変わりなかったのに!」
「いやー!やめてよぉぉおおう!ある事ない事バラさないでぇええ!」

なのです。このほのぼのさが、かみのゆの魅力なのではないでしょうか。


【神品あや乃】
異形の天然サイケデリックヒロイン。SAN値が減りそうな姿が本性です。
画商――ではなくアートディーラーとして生活するかみさま。主食は絵画です。デフォルメ絵で「くわっ」と大口を開けてキャンバスごと絵を食べる美少女なのです。

シナリオ展開としてはやや感動より。病気になったあや乃を支えたり、主人公と恋仲になった末に「こんな醜い姿は嫌だ」と自己否定に至ったり。

テーマとしては「キュビズム:いろいろな角度から見た物の形を一つの画面に収めるという、現代美術の動向」
これと絡めた、かみさまと人間の価値観の違いでしょうか。

かみさま姿のあや乃とのキスシーンは、シーンの感動と絵の凄まじさのギャップがまた面白いものでしたw
全ヒロイン√中、唯一子供が生まれるまで至る√でもあります。



【百々百】
ロリとお姉さん属性を同時に備えたキャラ。声優が大好きなまきいづみさんなので本命キャラでした。
シナリオ面は……特にヒロイン間での大きな諍いがあるわけでもなく、イチャイチャ成分多め。物語的に面白みに欠けますが、ヒロインが好きになれるのなら良いものでしょう。


【千年家藤子】
粋でちょっと悪戯好きな狐娘なヒロイン。
あの独特の芝居がかった喋り口調が好みドストライクでした。

そんな藤子姐さんも、デレデレになったら凄まじいものがありました。ええ。
この√を最後にしたので、他√での強気な姉御イメージとのギャップが凄まじいものでした。銭湯と絡めた謂をするなら、「ぬるま湯」な状態というかw

またこれまた地味に私のツボなんですが、主人公は大学3年生設定なので、堂々と飲酒の描写ができます。
ということで藤子とふたり晩酌を交わしあうシーンがあり、それがまた良いシーンでした。

シナリオの見せ場としては、藤子がかみのゆの外に出られない問題がメインに関わります。他ヒロインの√でかみのゆ内部と外との違いをメインになっていたのと少し趣が違います。

藤子は大好きな嘉人を、かみのゆに縛り付けたくないと思い、
その一方で、就職活動を控えた嘉人はかみのゆでずっと働く選択肢を思っている。

そうして別れ話が持ち上がり、嘉人と藤子は互いに「ケリ」をつけるために勝負するといった流れ。この辺りも嘉人くんがナイスファイトしてくれました。

そして最後、嘉人もかみさまの一員となり、今日も藤子とふたりでかみのゆを切り盛りしていく――。ラストの「かみのゆへようこそ!」での〆はベタですが、良いものです。