不確定性理論を導入することで、複数ルートシナリオに起きがちな矛盾に説明をつけてしまった傑作。
特定の女の子を選択した場合、普通に考えれば他の女の子は嫉妬する。この作品でもメインヒロインの宮代花梨は嫉妬し悩む。花梨は普通の女の子として描かれているので、匂いさえ感じられる、生身で血の通った女の子として魅力的だ。
対して、牧野那波と琴乃宮雪は普通ではない。那波は前世で主人公と夫婦であり、転生により再会したという非現実性を内包する。主人公と違い神にされてしまっため、完全な転生ではなく黄泉から戻りかかったイザナミ状態なので、存在を否定されると死亡するし、ハッピーエンドの世界でも存在が儚く不安定だ。
雪のほうはもっと非現実的で、主人公たちが存在を肯定することだけで存在する。雪が現実にはありえない完璧なヒロインとして書かれていてもそれが不自然ではない。なぜなら、彼女は存在自体が不確定なシュレディンガーの猫なので、観察者である他の登場人物たちが忘れたり、他のヒロインが否定すると存在しなくなる。消えかかった際には、雪が存在する世界と存在しない世界が交互に描かれることで、世界そのものが不確定で、観察者の意思によって世界が確定することが示唆される。そのためか、雪ルートだけはハッピーエンドとは呼べない不安を内包した終焉を迎える。
ヒロインたちは基本的に排他的で、他のヒロインの存在を許さない。このため、最後まで全員が存在できるのは大和鈴蘭ルートだけになる。鈴蘭は生身の肉体を持ちながらも天使のような純粋さを有する異能者であるが故に、ライバルたちの存在をも肯定し、それ故、このルートのみ全員が生き残れる。
日本神話、徐福伝説、民間伝承、ロマ族と魔女などの雑学も豊富な味付けとなっているが、これらの設定は他の作品でも時々見られる。しかし、不確定性理論で世界の矛盾を説明したという点で、本作は画期的といえるだう。