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puipuimalさんのすみれの長文感想

ユーザー
puipuimal
ゲーム
すみれ
ブランド
ねこねこソフト
得点
86
参照数
298

一言コメント

学生時代にぼっちで寝たフリしてた(してる)人、愛想笑いばかりしている社会人 やりましょう

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

某YouTuberのオススメと500円セールにより購入。
ねこねこソフト初プレイになります。

15周年作品ということで過去作の知識がないと楽しめないのかなぁと思いましたがそんなことありませんでした。

以下ネタバレ注意
ルート毎の感想
○すみれ
学校で寝たフリばかりでぼっちな女の子。特段理由もなく何となくぼっちになったというのが凄いリアル。
休み時間早く終わらないかなぁとか陽キャの会話盗み聞きとかお風呂場反省会とか経験ないと書けないと思います。
学生時代ぼっちで寝たフリしてた自分が言うんで間違いないです。解像度が高くて読むのが辛かった。
1人でプリクラ撮りに行くところやわざと人がいない遠いバス停を利用するところなんか何故か泣きそうになりました。

小さなことでも気にしてしまい、嫌われたくないため寝たフリで関係を断つ。それじゃダメだとわかっていながら治せない。
そんな等身大の葛藤が心に響きました。

すみれルートは健ちゃんの成長物語でもあります。健ちゃんも学生時代に寝たフリをしており、初めはすみれに対しても凄くキツい接し方をしています。根から明るいと思っていたモエの実際の姿にガッカリしたというのもあるかも知れませんが、過去の自分と重ねて腹が立ったのでしょう。家庭教師としても兄としても上辺だけの関係になろうと宣言したときは、なんだこの主人公はとブチ切れそうになりました。
ただ、一緒に住むようになってから、憧れていたみずいろの健二にはなれないけど、それでもすみれを救えたらという気持ちで動くようになります。
みずいろの健二負けない格好良さでした。

健ちゃんの助力もあり、寝たフリから卒業出来たすみれは、元来持っていたモエのような明るさを色々なひとに出せるようになり、物語が進むにつれて人間関係が改善されていってる様が描かれており、安心しました。
素のすみれは年相応のガキ感があって可愛いっすね。

○雛姫
すみれを更に重症化させたぼっち。ここまでいくと正直共感は出来ませんでした。
人と関わりたくないからわざと人に相手にされない態度を取る。なかなかこんなぶっ飛んだ選択をする人はいないと思います。
こんなにぶっ飛んだ人格が形成される過程には、唯一心を許しかけた父親が喧嘩の直後に自殺してしまい、大切な人を失いたくないから親しいひとを作らない生き方をするという重たい事情がありましたが...。

不器用で人を近付けさせないようにしているのに寂しくてたまらない。ピンクになりきってネットに逃げ込むくらいしか慰める方法がない。
ちょくちょく挟まる雛姫の回想は無駄にリアルで、トラウマトリガーが引かれるたびに何度も回想パートにはいるので、自分でつっけんどんな態度をとっておいて凄く自分が傷ついているという彼女の難しさが表現されていました。
雛姫も健ちゃんのストーカーとも言えるような介入により、現実に引き止めることができました。

雛姫は本作で1番好きなキャラです。凄く不器用で上手く人と距離をとる方法が分からないから、傷つきながらも冷たい態度で他人と距離をとる。
人間臭い発明的な良キャラだと思います。

○あかり
急にSFが始まったのでびっくりしましたとさと思ったら、物語の演出で良かったです。すみれの題材的にファンタジー要素は馴染まんだろうと思ってました。
「コットンソフトの終わる世界とバースデイ」的な急展開がねこねこソフトの特徴なんだなと誤解しかけました。
あかりは寝たフリの最終形態と言っても過言ではないでしょう。全ての現実から目をそらすために寝たフリをする。すみれの休み時間だけの寝たフリとは訳がちがいます。
初めは父親の気を引くための誰もがやったことがあるイタズラ程度の寝たフリでしたが徐々にエスカレートし後にひけなくなり、父親が無理心中を図ろうとした時でさえ寝たフリを辞められませんでした。出来心でウソをついたら、事態が大きくなり実はウソでしたと言えなくなってしまう経験は誰にでもあった思います。そんな誰にでもある経験の代償が、あかりの場合は最愛の父親の自殺という救いのないものでした。
健ちゃんがコミュ障になり予備校に通っていると噂を聞いたあかりは罪悪感にかられ、自分が生きてきて悪影響を与えたものから、その影響を受けていない元の状態に戻すという罪滅ぼしを考えます。
それは、入院中に関わりのあった健ちゃんや父親の自殺により影響を受けた者(当時再婚によりあかりの母親であった雛姫ママと雛姫)に与えた悪影響を取り除くというものでした。
この作戦がすみれ組を作るきっかけでした。
すみれルートと雛姫ルートで2人の更生を確認したあかりはこの世に生きる理由がないので、永遠に寝ることを選ぼうとしますが、健ちゃんにそれを引き止められ現実に戻ってきました。
色々な伏線が回収されていって見事だなと思いました。物語の構成が綺麗すぎます。

その他
○良かったとこ
・日常パートの会話が面白く退屈しませんでした。さくらが凄くいい味だしてました。絶妙にズレた言葉選びをするキャラのテキストが上手すぎます。叡智シーンも飛ばさず読める面白さでした。
・主題歌とbgmが良すぎる。sleeping pretendやつぼみは儚くも優しい感じが物語にあってました。
・おまけ要素が多く嬉しい。別ゲームのひとつのルートがまるまる移植されてるって異色なゲームだと思います。ねこねこソフト知ってる人は楽しいんだとおもいます。
・主題が一貫してます。寝たフリ、愛想笑い、生きずらさ、ダメな自分との葛藤。エロゲーマーなら多分抱えたことのある小さいけど重たい題材に向き合い続けていました。

○うーん点
・キャラの動きが不自然なところがある。健ちゃんの上辺だけ宣言や雛姫への強引な介入、雛姫の宿泊など極端な行動が目立ちました。これも不器用さの表現で意図的なものかも知れませんが。
・アフターが薄い。折角だから主人公との生活や改善された社会との繋がりを描いてほしかったです。
・全bgmがおまけで聞けない。sleepingpretendのトイピアノverってありませんでしたよね?めちゃくちゃ好きなのに残念。

○総論
題材の目の付け所に感服しました。まさか寝たフリを主題にしようと思う人なんているでしょうか。
自分のこれまでを振り返りたくなってしまうほど心情描写がリアルで人の心を揺さぶる作品だったと思います。
自分が抱えていたモヤモヤが言語化されており、本当に出会えて良かったと思える作品でした。

以下のように、「うるちゃーい>_<」「ちねーっ」「ぱかもーんっ」な自分語りをしてしまう痛い人間はジュネーブに訴えられるべきかも知れませんね。

※以下、作品に触発され書き残しておきたい自論になります。

まず、寝たフリに対しての個人的な見解です。寝たフリは集団生活を営む上で最低最悪な行為だと思います。
他人を知ろうともせず関係を構築することすら放棄しているということであり、何も解決しないし何も成長しません。
同じコミュニティ(クラス等)に属している人の話を関係ないと思うようになっていたのならばそれは異常なことです。
後になって思い返してみても、寝たフリしてて良かったなんてことはひとつもありません。
逆に今とは違う自分になれてたかなとか仲良くなれる人もいたかもと後悔ばかりです。
自分を守るために行っていた寝たフリでは何も身に付きませんでした。

次に愛想笑いについて。大人になるにつれていつまでも寝たフリをする訳にはいきません。
今度は繋がりを断絶するのではなく、自分に仮面をつけて本当の自分が傷つかないように守るために愛想笑いを覚えます。
これまた自論ですが、愛想笑いは必ずしも悪くは無いと思います。
社会で出会う人全てにありのままの自分で当たれる人間は良いですが、寝たフリをしていたような人間ではそれは不可能。でも、多くの人と関わらなければいけないから愛想笑いの仮面をつける。自衛の手段としても円滑な人間関係を築く上でも必要な手段です。
あかりの言う「嫌われたくない病」の完治は難しい、でも対抗する術として愛想笑いは有効という見解になります。
ただ、愛想笑いで構築された人間関係は味気ないですよね。健ちゃんが構築していったような愛想笑いなく接せる人間関係が羨ましいと思いました。

最後に何故自分がエロゲーマーであり続けるのか。健ちゃんが「みずいろ」の健二に抱く感情がヒントになり気がつくことができました。
健ちゃんにとって健二は憧れでした。自分もエロゲの主人公や登場人物を生き方の道標にしていたんだと思います。格好いい登場人物が多いですからね。もちろん面白いからというのもありますが、拘る理由としては憧れられるようなキャラクターが沢山いるからだったんだなぁと。
「すみれ」の健ちゃんのようにしっかりとリアルの自分に活かせればいいですが...。
自分はまだエロゲを辞められそうにないです。