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puipuimalさんのChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-の長文感想

ユーザー
puipuimal
ゲーム
ChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-
ブランド
インレ
得点
87
参照数
77

一言コメント

歴史もの女体化エロゲと侮ることなかれ、歴史を知らなくとも存分に楽しめた

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

面白いぞという評価を至るところで目にしていたが、プレイ時間が長いのと歴史に興味が無いという理由で先延ばしにしていた。
忠臣蔵といえば年末だし、休みで時間あるしという理由でプレイに踏み切った。

忠臣蔵作品に一度も触れたことがない無学な人間であるが、この作品は楽しむことが出来た。
歴史ものだからという理由で避けている方がいれば是非プレイしていただきたい。




以下、ネタバレ感想
〇素晴らしかったところ
・熱い展開が多い。討入シーンが何度もあるが毎回ハラハラしながら読めた。
・演出が良い。立ち絵の躍動感が良い。それを支える立ち絵の差分数がエグい。
・魅力的なキャラ多し。
・江戸時代の雑学が身につく。
・1枚絵が美しいものが多い。

〇うーん点
・安定しておらず気になる立ち絵多し。
・討入前のごだごだに飽きてくる。
・たまに展開が突飛でびっくり。
・直刃しゃんの口が妙に悪い時があり鼻につく。

〇各章感想
【1章 仮名手本忠臣蔵】
歌舞伎の演目の題を借りた名を冠しており、言い伝えられている忠臣蔵を模した内容である(のかなぁ?)。忠臣蔵の「ち」の字を知らない自分にとっては非常にありがたい章であった。
大まかな登場人物紹介がなされ、大石内蔵助という頭の切れる侍、その子の主税、剣豪の堀部安兵衛など全く耳馴染みがなかったため、無学マンの自分にも優しかった。
本章では主人公の1度目のループということで、主人公が歴史にほとんど影響を与えないルートであったのだろう。主人公の活躍と言えば、昼行灯と揶揄され、同士から仇討ちの圧力をかけられ辟易していた内蔵助の心を支えたくらいであった。
オリジナルの要素は吉良が荻生徂徠の呪いにより浅野内匠頭に侮辱行為に及んだ点くらいだろうか?(そういう解釈の言い伝えもあるんだろうか。あまりにもメルヘンな設定だったためそうかなと思った。)
正直、この章の仇討ちが1番熱く感じた。内蔵助という屈強な人物の内面のみを見ていたこともあり、他の人物が仇討ちに参加する覚悟の重さを理解していなかった。そのため、単純に皆の悲願の仇討ちが叶って良かった!熱い!というシンプルな感想を抱いた。
内蔵助は事実から反則的なキャラであるが、昼行灯モードのデフォルメと本気モードの凛々しさの対比が良かった。昼行灯モードのまま叡智シーンがあるとは思わなんだ。

【2章 江戸急進派編】
1章で内蔵助が手を焼いていた、江戸詰めの話であり、今回は忠臣蔵をそちらの視点から見れるのかと楽しみながらプレイした。
ループ直後の直刃は内蔵助に振り向いてもらおうとしていて痛々しかった。そして、赤穂浪士を死なせまいという感情で単騎で吉良を討とうと試みるが安兵衛に止められた。その後、内蔵助の命で江戸と山科の連絡役として江戸の安兵衛宅に住むという流れとなった。
江戸での生活は新六、小平太、孫太夫などの新顔が登場して、濃いキャラばかりで楽しむことが出来た。
この章では、郡兵衛や小平太などの仇討ちに参加出来なかった者たちの無念が描かれており、第1章では見ることが出来なかった同士達の苦悩を見ることができた。仇討ちをすぐに実行しないことによる生活の困窮など、どうしようもない問題があり、仇討ちを急進する意見があったのだなと納得がいった。小平太が直刃の腕の中で往生するシーンはなかなかにくるものがあった。
なお、この章辺りから命を打ち捨ててまで仇討ちを行う必要があるのだろうかという考えが付きまとい始めた。

【3章 百花魁編】
3度目のループ。前回の小平太の件がトラウマとなった直刃は、極力赤穂浪士との関わりを絶とうとする。しかし、主税を助けたことから惚れられて許嫁になってしまう。
この章の直刃は本当にダサかった。ただ、この人達はみんな死んでしまうと思えば、積極的に関わりたくないという感情は抱いてしまうのは分かる。ただ、いじけている期間が長く、主税への悪態はいただけないものがあった。
直刃との対比といってはなんだが、主税は模範的なヒロインでメッチャええ子やんとなった。萱野さんが新八に殺され、自暴自棄になった直刃に語りかけ続けた姿は健気で心を打たれた。あんなんされたら惚れてまう。
その後の内蔵助へ仇討への参加を懇願する姿、直刃を元いた世界に返そうとする直刃のことを強く想う行動、最期から分かるように、若いながらも武士としての誇りと矜恃が伝わってきた。辞世の句「あふ時は 語りつくすと思へども 別れとなれば 残る言の葉」には感動した。直刃を立ち直させるために寄り添って話すという手段をとったこと、内蔵助と縁を切った後に話をしていないことなど、作中の出来事と重なるものがあり、主税らしい辞世の句だと鳥肌がたった。
しかも、調べたところだと現実の主税の辞世の句がこれなのだという恐ろしさ。全てを逆算して構築したとしても綺麗過ぎる。
この仇討では吉良が影武者になっており、本物の吉良は事実上だと仇討ちに参加していない者が集まり仇を討つというドラマチックな展開で良かった。
そして現代に戻り、歴史は変わらないと悶々とした日々を過ごしていた直刃であったが、赤穂を訪れた際に、300年前と変わらない神社を発見する。そこには主税のお気に入りの場所があり、そこにある岩に主税が書いた相合傘のおまじないを発見する。こんなに可愛らしい伏線回収があったであろうか。これを発見した時の直刃の心情は嬉しさ、寂しさ、照れくささ、満足感など、非常に複雑で強いものであったことは想像に難くない。
他に本章で特筆する点はもちろん新八だろう。突如として現れ、小倉結衣ボイス全開のヤンデレで剣豪、そして常時片乳が放り出されている。心が折れそうな時にあれだけ慕ってくれる人がいるなら、嫌なことはどうでも良くなってついて行ってしまう。意思が弱い自分は迷いなくBADエンドの選択肢を選んだ。
多くの方がそう思っていると思うが、この章が大好きだ。主税はこの作品で1番好きなキャラだ。
気持ち的には3章で終わってもいい。だが当然、深海直刃の物語は終わらない。彼は目的を果たせていないのだから。

【4章 仇華・宿怨編】
主税の可愛らしい伏線回収を見せつけられてしまえば過去に当然帰ってまた会いたいと思うだろう。そんな折に甲佐一魅と出会い、晴れて300年前に戻ることとなる。この章では清水一学(甲佐)を軸に話が進む。甲佐は専門家というレベルで忠臣蔵に対する知識があり、様々な学説を直刃に吹き込む。赤穂浪士の仇討ちは是ではなく忠義でもないという考えやプロパガンダに利用されただけだという考えなど、赤穂浪士の討入に対して否定的な切り口を与えるものであった。このタイミングで甲佐というメタ的な視点を持つ人物を登場させてきたのは名采配であると思った。これまでの3ループではヒロインが仇討ちにより切腹し命を落とすことになる。現代的な発想であればこれはHappy endではない。命を賭して忠義を果たすことがそんなに良い事かと疑問符が浮かんでいた。そこに甲佐から仇討ちを否定する視点が提示されることになるので、直刃同様にそういう考え方もあるかも?という気持ちを持ってしまう。私はそもそも論浅野内匠頭がブチ切れ無ければ良かったじゃんと思っていたので甲佐に流されていた。また、忠臣蔵の知識があるガチ勢の方が本作を読んだ場合は「そうそう、そういう説もあるよね〜」という感じになり、今後の展開を想像させる効果もあると思う。この構成は面白いと思った。
さて、話を物語の感想に戻すと、直刃と読者共に不安に思っていた赤穂浪士の忠義心については、内蔵助と一学の対峙により決着される。内蔵助が打算なく忠義から仇討ちを行う気でいると分かり、一学が狼狽するシーンは作中屈指の名シーンである。このシーンで私は赤穂浪士の忠義は本物なんだよと手のひらクルクルした。
そして、派手な失敗をした一学が監禁されることになり、一学から赤穂浪士を転覆させようとしている黒幕の情報を聞くことになる。
最終章への布石といった役割を果たす章であるが読み応えがあった。
一応触れておくが、平左衛門とお初ちゃん関連の話は赤穂浪士の忠義が本物かの不安を煽るための役割があったのだと思う。ただ、お初ちゃんが浮かばれ無さすぎて只只辛かった。
あと、どうでもいい話だが、甲佐一魅が癖に刺さった。言動からコイツやべぇやつだなと思うが、歴史を変えたいと思う理由は切実なものであり、異様な執着は家族を思う故のものであったのだと分かると愛おしく感じられた。そして、叡智シーンでやっぱコイツおかしいわとなるところまで含めて癖に刺さった。

【5章 刃・忠勇義烈編】
満を持して右衛門七ルート。このルートでは一魅と結託しており、直刃の本心が分からないまま、上方で暮らすことになる。これまでの仇討ちでも、右衛門七はそれなりの活躍をしており、あれ?弱いんじゃなかったっけと思ったが、強くなる舞台裏を見ることができた。右衛門七は仇討ちに参加するために強くなろうと山田浅右衛門に弟子入りする。右衛門七の必死でひたむきな健気さは良かったですね。きなこを殺すとこは辛かったです。どうでもいい話だが、右衛門に対しての直刃の悪態が気になった。
浅右衛門の修行が終了となったところで、父の危篤を知らせる文が届く。父の往生後の小夜と直刃の会話はつられて泣きそうになってしまった。泣きたい気持ちが抑えきれずに、早口で声が上擦る演技が涙腺に直撃した。直刃と右衛門七が仇討ちに参加することを察した小夜は、一度に3人も大切な人を失うことになることを悟る。幼いにもかかわらず家族を託される小夜の気持ちを考えるといたたまれない。本心では仇討ちを止めたかっただろうが、その気持ちを抑え2人を送り出すシーンは感動した。
そして、今回の仇討ちでは直刃が内蔵助に真の敵がいることを伝えて、これまでとは違った展開になる。赤穂浪士は吉良を討った後に黒幕が現れる1年後まで、別の時代に潜伏することになる。(ファンディスクがここのところみたいですね。)そして、江戸時代に戻り、黒幕の赫夜を討つ。赫夜戦は少年漫画の大団円といった感じで登場キャラ総参戦でしたね。
赫夜を倒した赤穂浪士は綱吉の恩赦で釈放され無人島で仲良く暮らし、直刃は本物の吉良が亡くなるまで江戸時代に留まることとなります。
皆を死なせたくないという直刃の願いも叶い大団円でめでたし。

正直、5章のラストは大雑把な印象を受けてしまいました。世界観を壊すなんとも言えない悪役の登場に加え、平成ロボアニメのような特大の敵を最強武器で倒すという展開になんじゃこりゃとなってしまいました。そして、終わり方は無難にハーレムエンドと。
でも、これ以外に綺麗に物語を畳む方法なさそうっすよね。これなら3章で終わりにして、哀愁あるタイムスリップ物でも良かったかもなぁと思ったりもしちゃいましたが。湿っぽいの大好きな辛気臭いおじさんの戯言です。


女体化侍ものということで、登場キャラクターがめちゃくちゃ多いし、声優も豪華だと思いました。必ず刺さるキャラが居ると思うのでそこはいいっす。個人的には数右衛門が強い、忠犬、不憫で良いキャラしてたと思います。数右衛門が居ると揉め事が丸く収まるんで、居るだけで安心してましたね。他にも、新六、小平太、萱野、多門殿とか良キャラ揃いだったと思います。

歴史ものの創作物に興味が無い人間ですが、非常に楽しめました。ネットで分からない単語を調べながらプレイしてたので、批評空間のプレイ時間からこんなにズレたのは初めてかもしれない。
内容も然ることながら赤穂浪士関連の知識の深さもこの作品の魅力だと思います。
存分に楽しめました。

そうだ、赤穂へ行こう。