カタルシスは少ないものの、テンポ良いテキストにより飽きずに読める神話コメディ。
■良い点
・和香様、ルルハ様との関係性。
アニメ版『Rewrite』や『RewriteHF』等で
描かれた篝との日常シーンと同様、
アホな子が強大な力を備えており
それにお仕えするというシチュエーションがロミオの得意技になった感がある。
・武者小路、堂棺藤子、根津等サブキャラの俗物感丸出しだがどこか憎めない人物造形。
・著者特有のブラックジョーク・生活感溢れるコメディ。
・脳内音読した際に小気味よいテンポ良いテキスト。
・著者独特の言語センス。
・日本神話の(再演の)物語であるため日本神話に詳しくなれる。新鮮味がある。
・ルルハ様が最後に帰還するシーンにはカタルシスがあった。
■悪い点
・田中ロミオの過去作『Rewrite』『CROSS†CHANNEL』
に匹敵するようなカタルシスが味わえる作品ではない。原因は2つある。
1.登場人物が神という存在であること。
シリアスなシーンでも究極的には力押しで「なんでもあり」になってしまっている。
特に和香様・ルルハ様の妖力値が高い以上中盤まで戦闘シーンは楽勝である。
主人公サイドが終盤まで苦労しないので、緊迫感が減じられてしまう。
2.本筋が「神話の再演」であること。
(鏡の)「世界内部」(ベタな世界)で起きる再演は
無意識の行動として描かれている。
無意識であることを意識した後も
再演を逆手に取るという受動的な展開にとどまってしまっている。
この点、『Rewrite』は
「Terra」ルートにおいて
同様に主人公の意思決定を無意識に任せているかのような
描写・選択肢の制限があったが、
それを「Moon」ルートや
それ以前のルートでの出来事の積上に
リンクさせることによって主人公の行動・意志の尊さを担保していた。
だが今作は、
結局はアメノミナカヌシやアマテラス
(あるいは再演に巻き取られる条件(適格性))
の掌の内であることの発露でしかなく
リンクされるのは日本神話であり、感情移入はし難い。
唯一、その掌の外部=
(鏡の)「世界」の「外部」(メタな世界)で起きる出来事は
ようやく物語の終盤の全体からしたら0.数%程しか描写されない。
そこで描写されることも、
敵の親玉はアメノミナカヌシであるが、
動機が嫉妬という低次元さであり、
読者が望む強大なライバルたり得ていない。
アマテラスも程度の差はあれ同様である。
そのため、敵を撃破したとはいえ、
カタルシスは殆ど無いということになってしまっている。