ロミオも麻枝准もシナリオを書いていなかったから あまり期待していなかったが、 いい意味で裏切られた。 悪い意味では文体だけが麻枝准ではない麻枝准作品だった。 ルート別評価は下記。 鴎>トゥルー>しろは>蒼>紬 鴎ルートは本筋の要素からの独立度が高く ミスリードが上手く 真実の提示の仕方が巧みであるため 他のルートで飽きないためにも 鴎ルートからやるのをオススメ。
■シナリオ
原案・麻枝准。
基本的な物語構造は麻枝准の既存作品と同じ。
『AIR』のバッドエンドを
どのようにハッピーエンドへと仕向けられるか
という観点で綴られたシナリオである。
『AIR』で呪いに苦しみ続けるループは解消されなかった。
(描かれなかった)
美鈴は何度も死んでいった。(ことが匂わされていた)
本作はループを終わらせる努力
(誰も死なずに済む世界をもたらすこと)
を描いた作品である。
『Pocket』編は、あたかも
美鈴と国崎往人がエンディングで見送った
子どもたちについての物語のようである。
(ちょうど「子ども」視点で描かれるという符号もある)
主眼は、ループを終わらせた主体(うみ)が
そもそも生まれない未来が現実化することである。
最大の不幸を回避するために想い出や存在自体を犠牲にする。
ヒロインと過ごした夏も(ほぼ)なかった事となる。
この点ノベルゲーだけでも『Steins;Gate』
『ナギサの』『アンバー・クォーツ』等の作品を想起させる。
本作ではラストで主人公が
リーディングシュタイナー的な想起をする。
この点『バタフライ・エフェクト』
のように完全にヒロインとの関係性が切れてしまうよりも
『Steins;Gate』ぽい終わり方という印象。
■総評
下記により鴎ルートを最も高く評価したい。
・鴎ルートでは主人公男性視点で
亡くなったヒロインのために奮闘するため、
男性読者にとって感情移入度が高い。
・一方、トゥルー(『Pocket』)はうみ(=基本的には小児女子)の視点である。
・鴎ルートは終盤でヒロインが突然消滅し真実が明かされるため
唐突だがその分喪失感を巧みに描写できている。
・トゥルーは麻枝准の物語の要素を強く受け継ぎ過ぎている。
感動よりも既視感が勝ってしまった感がある。下記のような点。
●『AIR』における呪い≒『Summer Pockets』の過去に戻ってしまう能力
●死にゆく(美鈴≒うみ)に対して家族を演じきろうとする流れ
●(美鈴≒うみ)が知能を失っていくこと
●蝶の力を借りて過去へ向かう体を維持する(=奇跡を起こす)点 → 『CLANNAD』光の玉による奇跡。
●迷い橘と白い花畑≒『CLANNAD』の幻想世界
半面、本作で新規の要素となり高く評価できるのは
●ループを終わらせる一編を付け加えたこと(『Pocket』)
●死にゆくうみ自身が知能を失うだけでなく、周りの者もうみの存在を忘れていくこと。