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procionさんの悪の教科書 Textbook Of Evilの長文感想

ユーザー
procion
ゲーム
悪の教科書 Textbook Of Evil
ブランド
さんだーぼると
得点
95
参照数
2945

一言コメント

素晴らしい出来。「報道の裏側を知る」事が趣味の一つである自分にとっては多いに楽しめた。ただ、猟奇的なものが苦手なので-5点。正に「不都合な真実」がたくさん、と言ったところ

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「悪の教科書」と言いながら内容は非常に哲学的というかなんというか
一つの理想書、といった所かな


いつも思っている事ですが、テレビも新聞も商売でやっているので、
鵜呑みにしないで自分で考えてみる、と
報道されている事は一部であって、全部じゃないよ、と

「議員100人中50人がこの法案に反対しました」
「議員100人中50人がこの法案に賛成しました」

同じ意味なのに、言葉で印象が違ってくる、というのはよくある事

以下、章ごとの雑感です



第1章

安心して読めないお話。その1

スタンド・アローン・コンプレックス
・・・・というのだろうか、これも

当事者同士が連絡を取り合ったワケでもなく、ある日突然「模倣」するため、
事前の察知は非常に困難

「今週水曜日に自殺します」という手紙を通っている学校の校長に送る事件が一時期多発しましたが、正にコレと同じ

あまりにも細かく「効率的な人の殺し方」を書いているため、
話題になってきたからこの点を叩かれるんじゃないかなぁと心配になった

そして叩かれる場合、この作品の語る理想については触れられない
「あんなヤツがいるぞ!」と声高に叫ぶだけ。その方が『絵になる』から
同じような事を載せているサイトは叩かれない。目立たないから

まぁ、多くの場合は、ですが
「分かりやすい敵」でないと攻撃しづらいですからね
そして敵は完全な悪でなくてはならない、みたいな

だからテレビはダメなんだ!というつもりは全くなく
というか、下請け・孫受けの過当競争で制作費は削られ、
それでも視聴者が求める質はどんどん上がっているので、
テレビ番組を作っている人は本当に大変だなぁと思います

視聴者は今や1分に1回チャンネルを変える時代なので、
次々と「絵になる映像」を出していかないと視聴率が取れない、
なんてのを以前読んだ業界関係の方のコラムでありました

お笑い芸人のネタなんかも、今や2分(だったと思った)でやれ、という時代だそうで

そのため、どうしても瞬間的なインパクトのある人を選ぶ事になり、
そしてそういうインパクトだけで売れるようになった人はすぐに飽きられる、と
でもテレビ局は、人気がなくなったらはいさようなら、で
次々に「今流行っている人」を連れてくるだけ、な悪循環



第2章

安心して読めるお話。その1
そして一番好きなお話
ラストも含め、スッキリしてたなぁ

そして因縁のアルビノ。中落ちが欲しい時に霜降りが3個連続で出て全米が泣いた


1章があんなだったので、またスプラッターな展開になるかと覚悟してたら、
ふつーの友情モノだったので拍子抜けすると同時に安心。こういうのもあるのね、と
ライターさんの力量を感じます

途中まで読んで

聖がナイフを手に迫る⇒リサが飛び出して代わりに刺される⇒バッドエンド

みたいな展開を想像したら、半分当たってビックリ


知り合いに、アルビノではないけど皮膚が弱い方がいます
その人は、日差しの強い日に日傘無しで出かけると、皮膚が腫れ上がるそうです
外出は夜が基本
ただ当人はあまり気にしておらず、「これが普通だと思ってる」との事
気にしてるのは周りだけ、というのは確かにあるようで


1章もそうだったけど、「排除」を決意するのがいきなりすぎて理解できんかった
雨の中のリサを見て「おし、アイツコロス」と決心してたけど、
他の人間や行政機関に何故頼らなかった、とどうしても思ってしまう

いじめた事もいじめられた事もない、彼らから見たら温室育ちな自分には、
そこまで追い詰められるという事が理解できないって事かなぁ

そこまで友達を思っていた、とラスト近くで解説が入るけど、
少し展開が速すぎたかな?と思った章
むしろ聖の淡々とした日常をもっと見たかった



第3章

安心して読めないお話。その2

小学生の子供を持つ人と話をしていて出た話題

「担任は教え方の上手な○○先生に」
「××君は乱暴だからウチの子とは別のクラスに」

など、イロイロと要望を伝え、全て受け入れてくれなかったので抗議に行ったとかなんとか

コレって自分の価値観からすると「はぁ?」ってカンジなんですがね
自分がおかしいのかな
ちなみにその人は常識のあるごくごく普通の方です
まぁ価値観なんて人それぞれなので、口出ししたりするつもりはないのですが


モンスターペアレント・病院のたらい回し・教科書検定など、
色々と問題提起をした章でした

教科書検定の話は多少知ってはいたけど、改めて聞かされるとやっぱり怖い
解決できるのかコレ、と思うし
日本が従順でないと困る方はたくさんたくさんいらっしゃいますネ


どこぞの学校で某教科書が採択されると、わざわざ新聞がその事を伝え、
それを見た一部の方が電話アタックで採択した学校を業務停止状態に追い込み、
学校が採択中止を決定、「どうだ」と言わんばかりにわざわざそれをまた新聞が報道、
なんて事が繰り返されていましたが(うがった見方すぎかしら)

こういうのは結構、抗議活動してる人とか、
「あんな教科書なくしてしまえ!」と息巻いて反対してる著名人に「読んでみました?」とインタビューで聞くと、
「いや、読んでない。でもけしからんものなんだ!」と言ったりします(無論、読んだ上で反対している人もいますが)

でも、その「読んでない」事はテレビでも新聞でもあまり報道されない

なんでかって、「こんなに沢山の人が抗議活動をしています!」とリポートして、
その中の一人に「どこがいけないと思いますか?」とインタビューしたら、
「いや読んでないけど」なんて言われると視聴者は白けるから
絵にならない

雑誌のインタビューも全文掲載するワケじゃなく、
スペースの問題もあって編集されてますしね
それはつまり、都合のイイとこだけ使うってのも可能だったりするという事でして

こういう、報道の「裏」を知るのは非常に面白いです
ああ、この情報は意図的に放送しなかったかな、みたいな

自分はこういうモノの情報源が、新聞・ニュース・ニュースサイトと、
たま~に買う時事問題の本ですが、一つの事件をそれぞれがどう扱っているかを比較してみると、
イロイロなものが見えてきたりこなかったり

みんな横並びで、「つまんねー」って事も多々あるのは確かですが



第4章

狂っているのは世界か私か

世界が狂っているのであれば、その中で狂った自分こそが正常ではないのか


・・・なんてセリフをどこかで見ましたが


安心して読めるお話。その2

遥可愛いよ遥

そしてすげーーーー分かるよ、と思ったお話

「どんだけー」も「そんなの関係ねぇ」も、流行り始めてから半年以上経って知ったし
ヒットチャートに入った曲も、「前のとどう違うの?」としか思えないモノが多いし

知り合いの読んでいた若者向けファッション紙の見出し、
「カーデ&ワンピ。冬のコーデはこれできまり!」を見て意味不明でぐんにゃりしたりとか
っていうかふつーに「カーデガンとワンピース」って言おうよ頼むよワケ分かんないよ


自分の好きな事、興味のある事にだけアンテナを延ばしていたら、
余裕で世間に置いていかれてる
でもそれって悪い事かしら、とか思っていたり


内容的には、ここまで言って大丈夫かよ、と思った章

宗教団体に全財産をつぎ込んで、明らかに騙されてるんだけど、当人はすごく幸せだと思っている
こういう人は引き離すべきか、放っておくべきか、みたいな事を考えた

無論、自分は騙された、と気づいた人はそういった宗教から離れるべきだとは思いますが


終始自分探しの旅みたいなかんじだった
典型的な「自分で自分の周囲に壁を作っている」タイプ
○○だから出来ない。××だからムリ

まぁ、童謡の2番・3番とかの話は非常に興味深かったし、
話自体は綺麗なんだけど綺麗すぎてあんまし印象に残らない、というか
いや先生ちょっと無人島での付き添い代わってくださいというか

そしてラストの母の本性というか変わり様が理解できんのは自分だけか



第5章

先生の目的が判明した章
種を蒔いていたんですねぇ


でもとりあえず突っ込むぜ

太陽発電かヨ!

いや実現不可能と言うつもりはないんだけど


ジェットコースターというかなんというか
相変わらず、綿密な調査をした上で分かりやすく文章に纏めているのはさすがだが、
急展開過ぎたという印象が非常に強い

知り合い死なせた同級生を殴って退学になって開眼して
「俺は世界を変えてやるぜ!」
「私もいきましょう」

いやいやいやいやw


ただ、この章はストーリー云々というよりは、亮馬の作り上げた(=作者の理想とする)世界を提示するためのものだった、と思うべきか
革命後の世界の仕組みは、よくここまで考えたなぁ、と素直に感嘆した。素晴らしい


そしてユーサクばんざい
オマージュとコスプレはあなたの中でどう違うんだ



総合評価

色々とキツい事言ってたりしますが、フリーソフトである、
という事を抜きにしても非常に考えさせられた力作
こういった質の高いフリーソフトが増えてくると、
「そこそこ面白い」ゲームはどんどん見向きもされなくなるんじゃないだろうか


抗議が山ほど来そうな内容にも関わらず、
リスクを承知で「このままでいいの?」と問題提起したライターさんに拍手

1億総表現者時代の象徴、と言える作品ではないかと


従軍慰安婦とか石油包囲網とか南京虐殺とかあの戦争の意義とかに興味を持ったら、
調べてみるのも面白いかと
検索すればこういった事を丁寧に解説したサイトが沢山でてきます


そして腹が立つのさ
日本人をなめんなよ