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pkmnkeenさんの車輪の国、向日葵の少女の長文感想

ユーザー
pkmnkeen
ゲーム
車輪の国、向日葵の少女
ブランド
MAGES.(5pb.)
得点
95
参照数
34

一言コメント

流石評判の神ゲーだった

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

評判通りの神ゲーだった。

日常パートのテキストがちょっと面白くて主人公も主体性があるから読んでてストレスが無いし、各ヒロインが抱える問題と謎、"義務"が他作品に類を見ないタイプで気になって、どんどん続きを読みたくなる。開始5分で南雲えりとかいう立ち絵付きのヒロインが、俺らの価値観ではちょっとしたミス程度で、とっつぁんに射殺されて、この世界観の非常さや歪さが伝わってきてとても興味を惹かれた。そしてこの最初の時点から、極刑状態のお姉ちゃんや、とっつぁんの杖、主人公の薬物中毒の仕込みが始まってたんだよな。

明るく元気なさちと年相応に幼く純粋なのに聡明さが伺えるまな、おっちょこちょいでツンデレの灯花、他者と距離を離しまくっていつも俯いてるけど意志の強さを感じさせる夏咲、みんな可愛いし、なんでこんな良い子たちが義務を負ったのか経緯が気になるストーリーでどんどん読み進めた。

共通ルートの最後で、恩赦祭の夜に5人みんなで将来この田舎町を出て夢を叶えに一緒に住もうねって青春かつ良い雰囲気だったのに、急に突き落としが始まってゾクゾクした。突き上げからの突き落としの法則。

さちとまなルート
まなが明るく素直で幼いのに賢い一面もあって可愛い!
絵描きに怠惰なさちにヘイトが向きがちで、一生懸命に想いを伝えようと働き続けるまなのことをどんどん好きになっていった。でもさちが絵を描きたくない理由も凄く共感できるから、さちとまな両方のことが好きになっていった。
まなを人質に取られてようやくさちが絵を描き始めるけど、すぐに覚醒とはいかないのがこの作品の甘くないところ。ほんの少し怠惰さが抜けきれなくて、遂に主人公に12時間停止の義務を2時間ずつ延長されていった。これほんと驚いた。延長マジかよって。
さちがほんとのほんとに追い詰められて、真剣100%で絵を描き始めて、覚醒シナリオカッコええ〜ってイケイケモードだったけど、最後まさかの未完成。えっ。それでも絵を買い取るって主張する主人公だけど、まさとさちは妥協せず再会を誓って離れ離れになっちゃった。感動したけどちょっと悲しい。良いお話だった。とっつぁんの策略も明かされてやっぱこの人強キャラだなと再認識。
バッドエンドだとさちが崖から転落してグチャって死んじゃうし、妥協の絵を買い取って多分セックスしたにも関わらず主人公死んでバッド。セックスしたらグッドエンドの法則なんてない

灯花と京子ルート
おっちょこちょいでツンデレだけど優しい灯花が可愛くし、ほんとの娘みたいに庇護欲が少し湧く。灯花も京子さんもお互いを家族として大切にしているにも関わらず、京子さんが何故義務を負わせたのか、実の親子ではない理由、台所禁止なのは何故か、といった謎が興味を惹かせる。
読み進めていくと、京子さんへの不信感と謎が高まるのに比例して灯花への好感度が上がっていく。最初から好きだったけどだいぶ好きになってきた。家出して銃殺されそうな灯花を助けに行ったのアツかったし、その後のデレ灯花も良かった。ちょいちょい顔出すセピアもいい味出してるし完成度高くて読んでて楽しい。
灯火の「どうしよう……」って優柔不断ぶりも優しさも甘いとこも全部可愛い。京子さんが謎を全て隠し続けていて、謎もストレスも積み上がってきたから、このお話、最後はスカッとする結末が絶対あるなって読み進めてた。
まず灯花の本当の両親から電話があり、最初の手紙での人格がクソヤバだったのに電話では穏やかで優しい印象だったから、灯花の心が揺らいでいく。俺も読んでて揺らいだけど、絶対悪い奴だと思ってたら本当に改心してたのが最後に判明してビックリした。
両親の謎、義務を負った謎は判明して、2人はより親子として仲良くなって京子さんは料理を始めるようになった。でも台所禁止の謎はまだ残ってて、ここが最後の山場だった。
1番の山場。京子さんの誕生日パーティー。
京子さんと灯花がかつて台所で2人一緒に料理をしていた時に、ケーキの道具スパテルで灯花に焼きごてのようにジュっとやっちゃった隠してた過去を指摘されて、発狂した京子さんが灯花が作ったシチューを払い飛ばしてぶち撒けた。殺伐とした怖い雰囲気に。それでも灯花は笑顔でシチューを注いで渡そうとする。ここで笑顔を保てる心の強さにまず一回感動。
そして焼きごてのトラウマも目の前の発狂した京子さんも全て受け止めて、それでも笑顔で、どっちの親も選ぶという、現実を否定し灯花らしい優しさに満ちた第三の選択肢を選んで、「私は一生、子どもでいい!」って名セリフも遂に出た。
遂に訪れた灯花の手料理による食卓のイベントCGからの京子がそれを払い飛ばすイベントCGのコンボ良かった。
バッドエンドで心が壊れて堕落した灯花の姿が悲惨。初めてみるえっちな姿がこれは悲しい。

夏咲ルート
過去のなっちゃんは明るく元気で優しくて、クラスの中心人物な天使系幼女だった。白ワンピース良いね。
どうして現状みたいな猫背で弱気で元気がない夏咲になってしまったのかが興味を惹かれる謎ポイント。
まず最初に、樋口三郎事件で街が軍隊からの襲撃にあってケンと離れてしまったこと。
両親が強制収容所へ連行されてしまい独りになってしまったこと。
地元のクズ男子を誘惑したとかいう冤罪で拘束されて、警察から閉じ込められて自白を強要させられ続ける生活が続いたこと。このシーン辛かった。怖い大人に脅迫されつつも、無実を主張し続ける夏咲の意志の強さに感動した。幼い女の子にとってどれだけ怖かったか。でも母の形見のリボンをグチャグチャにされるのだけは我慢できなくて泣かされて、本当に悲しくて辛そうで、それでも3ヶ月耐え切ったけど遂に心が折れて冤罪の自白を強要させられてしまった。この経験が人間恐怖症に繋がってた。
久々に地元に帰ってこれて、大好きな両親との思い出が詰まった家に帰れる!と思いきや親戚に裏切られて家をグチャグチャにした挙句売り飛ばされてた。ひどい。
義務を負わされ、友人は1人もおらず、そんな中で唯一優しくしてくれた寮の管理人のおじさんは、次第に夏咲にセクハラをするようになっていった。怖い。
夏咲が3人のヒロインの中で1番過去がつらい。
そして森田を試験合格させる為に、とっつぁんが夏咲の両親が死んだことを伝えて夏咲の心を折り、夏咲は自殺しようとする。主人公が身体を張ってそれを防いで、ようやく少し2人が打ち解け始める。でも夏咲の義務解消と主人公の試験合格の為には、夏咲の主人公への恋心は絶対にバレてはいけないものだった。せっかく数年ぶりに夏咲が心を許せる人ができたのに。
とっつぁんから呼び出しを受けて、夏咲の恋心を予見しながらも「主人公のことが大嫌いです!」と何時間も、大声で叫ばせ続ける。ブラック企業のやつだ。ボロボロになる夏咲。それで凌げたと思わせてからの、盗聴器。主人公が夏咲に正当な理由なく接触して義務違反を犯していたことが密かに仕掛けられていた盗聴器でバレており、主人公が詰みかける。そこですかさず夏咲が「大好きなんです!!!!」と叫ぶ。さっきの「大嫌い!」連呼で身体はボロボロなのに。大好きて。主人公を庇う為に咄嗟のナイス判断で。ここ本当よかった。過去の天使モードの時と同じ明るさで、主人公への愛を叫んでいく夏咲。しかも覚醒夏咲の新規立ち絵で。本当よかった。でも主人公の代わりに夏咲は牢獄に拘束されてしまった。

お姉ちゃん編、グランドルート
まさかの、ずっと側にお姉ちゃんがいた! なるほどねーーー。これはいっぱい食わされた。こういう仕掛け大好き。
街にとっつぁんの私兵が屯するようになり、さち、灯花の2人を探して保護することに。さちを見つけられなかった時のバッドエンドが少しエグかった。全身血まみれにされて連行て。
自分が追われる立場にも関わらず、関所で街の人たちのために物資の開通を訴えてた灯花の正義感と優しさはグッときた。助けに来た京子さんも。
みんな揃って夏咲の救出作戦開始。ここに来て初めてビジュアルノベル風の画面構成になり、初出しの勇敢な雰囲気のBGMが流れ出してアツい展開。やっぱ学生たちが、仲間と、大人や権力に立ち向かう展開大好き。
さちが描いた巨大な向日葵にまず驚かされ、お姉ちゃんの御涙頂戴演説、命を張って身代わりをこなした灯花、それぞれが大きな役割を果たした。
でも最後まさかとっつぁんとのタイマン負けると思わなかった。実は杖はブラフだったという長期間の仕込み。強すぎます…。面白すぎます。
そしてセピア以外全員監禁。主人公が「一ヶ月で脱獄してやる!」って啖呵を切った割には、薬物中毒が抜けず、最初は明るかったみんなも徐々に空腹や暴力に疲弊させられて、絶望に支配されかける。お姉ちゃんはストレートに暴力を振るわれ続けて痛々しかったし、さち灯花、特に夏咲の意志の強さは輝いてた。
いよいよ一ヶ月というところで、ついにみんなの心が絶望したと思わせて、そこで主人公の仕込みが発動してとっつぁんを撃退。実は薬物を使っていなかった。薬物中毒は演技だった。そうよね!やたら薬物中毒のアピールが増えてたし、一ヶ月というワードもあったしで、このアツい展開は読み手に予測させてくれてた感じがある。
街の兵隊振り切って、山から洞窟へ潜って、最後に出口が見えたけど届かなくて絶望して、そこでセピアが梯子を持って登場。そうよね。居てくれてると信じてた。
ハシゴの先でとっつぁんが待ち構えていて、セピアさち灯花が沈黙させられた中で、梯子無しでの、お姉ちゃんを背負った状態、全身満身創痍で50メートルの崖を登り切って、こっからどうなんのーー!?って思ってたら負けを認めていたとっつぁんが去っていって終わった。
神ゲーだった。