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piteさんの13人の麗しきケダモノの長文感想

ユーザー
pite
ゲーム
13人の麗しきケダモノ
ブランド
Mink
得点
80
参照数
1748

一言コメント

閉鎖空間と理不尽な殺人ルールの元で巻き起こる、疑心や愛憎、友情を描いた作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

コマンド選択式、悪魔探しアドベンチャー。

公式サイトの情報からはこんな謎解き的なジャンルをイメージさせるが、
この作品のメインとなる部分は、自分の死に直結する“悪魔探し”というルールのもと、
疑心暗鬼の中で描かれていく、登場人物たちの愛憎や友情、信念といったものである。

よって、作品の合間で数回差し込まれるコマンド選択式“悪魔裁判”についても、
本当の悪魔役の人物を推理して早々に脱出する、といったゲーム性としての要素はなく、
どうやって悪魔役ではない人が誤って選ばれていくか、どうやって殺されるか、
そして生き残った人間の罪悪感や激情、疑心を増幅させるか、へと繋げていく演出になっている。


ということで、この作品には誰も死なずに脱出するという、大団円的なハッピーエンドは存在しない。
親しい人が凄惨に殺される場面を目にしていく必要があり、最近の作品としてはハードルのある内容だと思う。

ただ、この作品の面白いところは、そういった死を目の当たりにし、恐怖や罪悪感に追い詰められていく中で、
新たに生み出されたり、深まっていく人間関係にあると思う。

お互いに背中を預けて見えない敵に構える友情、死の間際にお互いの想いをぶつけて後を託すやるせない想い。
目の前で愛する人が殺されていく理不尽さと、それに憤る激情や悔恨の気持ち。
それらを乗り越え、生き残っていく人たちがそれぞれに抱いていく確固たる信念。

登場人物たちが世界観を逸脱する事なく、設定や立ち位置に応じて動いていく内容は、
作品のボリュームとしてはそう多くはないが、しっかりと詰まった印象を感じさせてくれた。

そして何よりも良かったのは、マルチエンドであっても設定を崩さなかったこと。
つまり、悪魔役が誰であるか、誰の思惑でこの事件が起こったのかを一切変えることなく、
主人公と各ヒロインの信念に基づくエンドを用意した事が、作品の世界観を強く印象に残す結果に繋がったと思う。


でも、だからこそ1つ不満がある。

それは、これだけ人間臭い様々な感情を描く事に終始し、演出した内容であるにも関わらず、
この事件の発端となる動機については、まるで人間臭さが無かったこと。
不条理世界の一端にこの事件があったという結末には、とても残念な気持ちにさせれられた。