ErogameScape -エロゲー批評空間-

pieroglyphさんのアオイトリの長文感想

ユーザー
pieroglyph
ゲーム
アオイトリ
ブランド
Purple software
得点
89
参照数
1514

一言コメント

あかり√の考察 ※重大なネタバレ有

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ここではあかり√の考察をしていきたいなと思います。
あくまでも私個人の考察・解釈でありますのでご留意ください。
①アオイトリと海野あかりの人物像
 全ヒロインを攻略したあとに海野あかり√が解放されます。
あかりは「平凡」であるがゆえに「特別」な存在、即ちアオイトリを憎む者です。アオイトリは主人公の律やメアリー、小夜ら特別な人たちのことを暗示しています。一方、電話の悪魔はあかりのことをクロイトリであると表現してます。「特別」が欲しいが、「平凡」な自分如きに手に入れられるならそれは「特別」ではない。憎悪の根底に狂おしいほどのあこがれがあったとしてもそれは決して手に入らない。「平凡」であるが故に自分の生まれてきた価値を見出せず、苦悩するしかない。だから、海野あかりは「アオイトリ」を憎むのだと思います。

②海野あかりの「特別」
 海野あかりの真の目的は、無数の可能性世界を生み出す電話の悪魔を完全に抹殺することでした。最初から、電話の悪魔を殺したいと思っていたということは何度も言われていたことでしたが、過程や、次いでではなく、それこそが最終目的であるという点までは読めませんでした。
「やりなおし」が出来る電話の悪魔にとって死という概念はなく、闇の救世主が誕生するまで何度もやりなおすことが出来、遊びで世界を簡単に滅ぼすことが出来ます。「平凡」であることを苦悩する海野あかりにとって電話の悪魔は絶対に許すことが出来ない特別(アオイトリ)だったのです。
また、電話の悪魔を殺し、主人公律を闇の救世主の力から解放し、メアリーを吸血鬼の運命から救済し、黒崎小夜を滅びから救い、赤錆姉妹を悲劇から救うことで、完全なハッピーエンドを視たかったのです。しかし、そこで自分だけが犠牲になるというところは、死に惹かれる海野あかりらしい危うさだなと思いました。トゥルールートでは、あかりは自分がそんな弱い人間の心を持っていることこそがみんなの気持ちを理解できるというアオイトリなのだということを悟りました。

③闇の救世主は結局誕生するのか
 主人公の白鳥律は電話の悪魔が作った無数の可能性世界の中で、闇の救世主として覚醒すること はありませんでした。
 そして以下の2点から、今後も闇の救世主は誕生しないだろうと思います。
1.海野あかり√で闇の救世主が誕生しないと思う理由     
闇の救世主は、海野あかりを救うため、もう一度だけ繰り返します。これがトゥルー√です。  それは海野あかりに対する紛れもない善性です。これは、小夜√の律が自殺してしまった女の子≒闇の救世主を赦したことによって得られた善性であるかもしれません。また、闇の救世主があかりと律の子どもとして生まれてくる前、「海野あかり」と「白鳥律」にこの世界は好き?と聞かれ、『この世界が好きだ』という意思を示して誕生しているという点を注目したいです。ここの「海野あかり」と「白鳥律」は、彼ら本人というよりも、彼らの善性の化身とでも言うべき存在でしょう。メアリー√でメアリーの力や今まで救ってきた女の子たちが律に味方したように、「海野あかり」と「白鳥律」に代表される人間の善性が闇の救世主を退治した、もしくは変化させたということを暗示しているのだと思います。そうでなければ、闇の救世主そのものが『この世界が好きだ』という善性の意思を示すことはあり得ないからです。最後の場面で律とあかりは闇の救世主の力は子どもに受け継がれた、この子が覚醒すれば世界は滅びるかもしれないと言っていますが、それは彼らの杞憂であるだろうと思います。

2.他√で闇の救世主が誕生しないと思う理由     
これは、簡単です。闇の救世主のあらかたは海野あかり√に落ち着き、その力ももはや闇の救世主ではなくなったからです。時間も空間も超えたその力はもはやその「場所」にはないのです。そのことは黒崎小夜√の白鳥律が「生まれてくることを決めたなら、自分でやればいいものを…いや、すでにここを出たアレに言っても仕方ないか」と言ってることからわかります。

④結局、闇の救世主とは何か?     
私は、「闇の救世主そのもの」もアオイトリだったのだと思います。あかりが律から闇の救世主の力を受胎によって奪う際、律は自分の中にある「黒い鳥」が青空へ飛んでいく夢を見ています。この、黒い鳥というのは、作中でも述べられているように、もともと青い鳥だったのです。律は、黒い鳥も色が変わっただけで青い鳥であると述べているように、「闇の救世主そのもの」は、もともと青い鳥だったのであると推察できます。そして、物語の終盤、海野あかりと白鳥律の善性に触れたことで、再び幸運を象徴する青い鳥に戻ることが出来たのかもしれません。


⑤小夜√の律とあかり√のあかり    
個人的にこの作品で、もっとも印象的な場面だと思います。小夜√の律は、自分が母親に愛されてなかったことを知り、最愛の小夜のために自殺を選択した、最も悲しく厳しい律であり、「正史」の律です。力も他の√の律とは一線を画します。そんな小夜√の律があかりを𠮟咤激励する場面は最もカッコいい「主人公」であったと思います。小夜√の律はこのままバッドエンドで終わりだと思っていたので、思わぬ再登場にとてもびっくりしました。また、彼が元の世界に戻れることが示唆されて本当によかったなと思いました。



あかり√は多角的にアオイトリを考察することが出来るとても深い物語だなと思いました。
また冒頭に申し上げました通り、上記はあくまでも私個人の考察であり、他にも色々な考察や解釈が出来るということを留意してください。
他にも考察すべき点は色々ありますし、色々足りないところもあると思いますが、この物語を考察するのはとても楽しいなと思いました。