パソコンパラダイス200号記念で企画された3部作、atled。集大成はいまここに
突然だが、名作にも様々な種類が存在すると思う。(以下はあくまで主観です)
最後まで自信のエゴを貫き通して、それでもその信じた道に偽りは無いと英霊になる主人公のお話だったり。
人を惹きつける絶妙なセンスはあるのに、人に交われない主人公のお話だったり。
1人の人間の中に複数の人格を抱え、それでも前へ進みだす主人公のお話だったり。
生きる事の、空しさ・無意味さをただ、寂寞が永遠に続くような、そんな絶対真理を抱えて生きる主人公のお話だったり。
顔も性格もそこまで良くないのに可愛い女の子に囲まれ、ただただハーレムの毎日を過す主人公のお話だったり。
エロゲーという名を被った、やりこみ要素が満載のそこら辺のゲームに劣らない中毒性のある、俺様が王様的な主人公のお話だったり。
・・・
でも、私が一番好きなのは・・・
人と人の絆が紡がれ、描かれる・・・そんな物語だ。
この作品もその「絆」が顕著に描かれている。
以下は、ネタバレ満載の考察・感想なので、ネタバレ厳禁の方は今すぐブラウザを終了して頂きたい。
**********************************************************************
正直個人的な予想では、友情とか恋愛とかの絆の話が繰り広げられると予想していたが、一本取られた。無論友情あり、恋愛ありでもある。
第1章で、もうどう見ても友人救う為にワザワザ怪しげな儀式までして過去へと行ったあおばだったのに、まさかの・・・。
しかもキーマンが、第1章の最後にちょっと出てくるだけの「希」だとは、夢にも思わず・・・。
・・・駄文失礼。取りあえず話の流れとちょびちょび考察まぜつつ以下に記述。エンディングは1週目のEND。2週目以降の選択肢によって分岐する2つの
ENDがあるが、今回は1週目のENDのみについて。
話は、希が「石巻」姓になったところから。
もしかして、私は本当にあの子の・・・。そう予感せざるを得ない希に、確信とも言える事件が起こる。
家族との事や、あおばの事と色々考え事をしていた所為か、希は赤信号の横断歩道をぼんやりと歩いてしまう。
そこにトラックが突っ込んできて、それを庇った信一は跳ねられて帰らぬ人となってしまう。
突然いなくなった信一に、希は自分の中に信一との思い出があまりにも多くあることに気づく。
心に大きな穴が開いて空虚な希に、あおばのことをが圧し掛かる。
もしかして・・・、本当に私の・・・?
そんな確信めいた疑問を抱えていたとき、あおばが信一の死を知り希の元に尋ねてくる。
信一の死に対し泣きじゃくるあおばに対し、なんだか本当に自分の子供のように希は感じた。
だが、ふと希は思う。
もしもこの娘がいうとおりの未来ならば。
両親はおらず施設で1人暮らしというならば・・・。
この子をただ1人のこして、あたしも置いていくのだろうか――――――――と。
(中略)
その頃晃司は、あおばが未来からやってくる為に使った本の解読を試みていた。
そこにはまるであざ笑うかのような事実が書かれていた。
「未来からやってきた人物は、過去を変えることができない」と。
それでは、あおばが麻智の為に未来から来たことは全て無意味になる。
一時は憤りを隠せない晃司であったが、それならばオレが全てを支えてやると決意をする。
そのためには、俺が医者になってまずは希さんに降りかかるであろう不幸を取り除かなければと。
あおばの話では、父親は行方不明、母親はあおばを生んだ後ガンで死亡したということになっている。
ガンという死病の治療に立ち向かう決意を胸に秘め、晃司は歩みだす。
(中略)
信一の死にあおばが希の元に尋ねてきて1晩が過ぎ、2人は百日紅と町の全景が見渡せる丘へとやってきていた。
その丘であおばは、自身が歌う切っ掛けとなったオリジナル曲を希に聞かせると事なる。
そんな時丁度百日紅がまるで雪のように舞い散り、まるで真夏の雪景色の中あおばはそっとメロディを紡ぎ出す。
**********************************************************************
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
空から白い旅人が 降りてくる静かな夜に
少し泣き虫の君に出会って 優しい火が胸に灯った
数え切れない思い出は 君で溢れていた
いつの間にか違う時間を 二人選んでいく
いつかまたこの場所で 会えると信じて今は手を振るよ
夢をかなえるその日まで どうか自分に負けないように
ありがとう君がくれた涙を胸に 限りなく広く続いてく未来へ
「tears for tomorrow」atled 挿入歌より抜粋――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「空から白い旅人が」
空から百日紅という名を借りた東名 信一の魂が優しく見守っている中
「少し泣き虫の君に出会って 優しい火が胸に灯った」
希はまだ見ぬ我が子の暖かさをこの胸に抱いて
「数え切れない思い出は 君で溢れていた」
これから訪れるであろう、我が子との邂逅に胸を馳せて
「いつの間にか違う時間を 二人選んでいく」
希は“現在(いま)”を、あおばは“未来”を歩みだす
「いつかまたこの場所で 会えると信じて今は手を振るよ」
時代を超えた出会いが待つと信じて歩みだす二人
「夢をかなえるその日まで どうか自分に負けないように」
希は“また我が子とこの場所で会えるように”、あおばは“歌うことを続けるように”
「ありがとう君がくれた涙を胸に 限りなく広く続いてく未来へ」
あおばのその純真な心を胸に、希は険しい未来へ。温もりという暖かさを胸に、可能性を秘めあおばは未来へ。
涙は明日の糧になるから。
人と人は差さえあって生きていけばいいのだから。
そう、私達は歩みだす。この繋がっている蒼い空の下で。
**********************************************************************
(中略)
そして、いよいよあおばが未来へと帰る刻は迫る。
別れ際の一幕。
最高なロックな時間だったぜ、と最後までロックの精神を貫く晃司。
別れる寸前の親子の邂逅。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
希「あたしは・・・あんたが思ってる様な人間じゃない。そうじゃないから・・・・・・。」
あおば「希さん・・・・・・。」
希「だから・・・また会いに来なさい。いいわね?」
あおば「・・・・・・本当に、また会える?」
希「あたしは、ちゃんとここで・・・この街で、生きてるから大丈夫よ」
あおば「約束してくれる・・・・・・?」
希「・・・」
希「・・・ええ、約束するわ。おばさんでもよければ、ね。だからほら、泣かないの」
あおば「あはっ、ウチ、泣き虫だもん・・・・・・」
(中略)
あおば「希さん、ウチは・・・・・・」
あおば「ウチは、石巻あおば。ちゃんと自己紹介してなかったから。」
あおば「覚えておいてね。」
希「・・・」
希「あたしは・・・・・・鹿妻希よ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして、あおばが去った後の晃司と希の会話。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
晃司「あおばは最後、希さんに確かめようとしてた。それは分かりますよね?」
希「・・・」
晃司「あの本に書いてある通りなら・・・・・・そして、希さんがあおばの母親なら・・・・・・」
晃司「あおばが未来に戻っても、希さんは生きてないでしょう」
晃司「でも・・・・・・あおばにとっては過去でも、俺らにとってはこれから先、ずっと未来なんです」
晃司「本のルールじゃ、あおばの過去を変えられません。だけどもう、ここにはあおばもいないし本もないです」
晃司「あるのは・・・・・・」
希「変えられる未来・・・・・・だけよね」
晃司「そうです」
希「あたしには・・・夢も希望も無かった」
希「でも・・・あたしは・・・・・・」
希「もう一度、あおばの歌が聞きたい・・・・・・・」
あの強気だった希さんの肩は震えていて。
さっきまで強かった風が今はほのかに吹き抜けていくだけになって。
耳を澄まして聞こえるのは。
・・・・・・・・・・・・。
希「生きたい・・・・・・」
希「死にたくないのよおっ・・・・・・っ!」
希「なによ・・・・・・こんな時に涙が出てくるなんて・・・・・・」
希「信一が死んだ時ですら、涙がでなかったのに・・・・・・」
希「もう、ふざけないでよぉっ!」
希「あんな笑顔みせられてさ、あんなに甘えられてさ、おまけにあんな歌聴かされてさ・・・・・・」
希「何なのよあの娘は!」
希「信一もあおばもずるいわよ・・・・・・。希望を持たせておいて目の前から消えちゃうとか・・・・・・」
希「生きていたいって、そう思っちゃうじゃないっ!!」
希「死にたくないわよぉっっ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・・・・・・・。
元いる世界へと戻った、あおば。
その世界は少し、あおばの知っているものとは違っていた。
大怪我をしてしまったはずの麻智は元気でしかも以前の弱気な態度の面影はなく、しかも逢瑠とあおばと麻智は仲良しであるという。
その後、いつもとは違う麻智と逢瑠との夕食を済ませ自室での麻智との会話。
その中には、あおばと逢瑠が親戚であったという事実であったり、逢瑠と麻智の確執の理由だったり、麻智の母親の事であったり。
そしてその中には・・・・かけがえの無い親子との邂逅も。
**********************************************************************
・・・・・・・・・・。
あおば「ランドセル重いよぉ」
希「ランドセルに背負われているみたいね、あおば」
あおば「お母さん、手、手」
希「今日だけよ?明日からは友達と学校に行かなきゃいけないからね」
あおば「うんっ、えへへ・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・。
あおば「お母さんっ、1等取ったよ!」
希「凄いじゃない、あおば。おめでとう。頑張ったわね」
あおば「お母さん、体弱いのに頑張って見に来てくれたから、ウチも頑張ったんだよっ」
希「ありがとう、フフッ」
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・。
希「制服着ると、身が引き締まるでしょ」
あおば「ウチ、今日から中学生だもんね」
希「でもごめんね・・・・・・主役はあおばなのに、あれこれと任せちゃって」
あおば「車椅子引っ張るぐらい、気にしないで」
希「入学式が見れて、あたしは幸せだよ」
あおば「ウチも嬉しいよ、お母さん」
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・。
あおば「お母さん、お母さんっ!」
希「・・・・・・ここまでが精一杯だったみたいだね。・・・・・・ごめんね・・・・・・・あおば」
あおば「あやまらないでっ!やだよ・・・・・・また一緒に買い物行こうよっ!」
希「あおばの歌・・・・・・みんなに聞かせなさいよ。・・・・・・あたしの自慢でもあるんだから」
あおば「お母さんっ!」
希「・・・・・・ありがとう。・・・・ちゃんとお母さんって呼んでくれるんだね」
あおば「ウチ、ちゃんとお母さんって呼んでるよ?だからこれからもっ―――――――」
希「あおば・・・・・・」
あおば「なに・・・・・・?お母さん」
希「・・・・・・改めて・・・・・・・自己紹介しよっか」
あおば「・・・えっ?」
希「あたしは・・・・・・・石巻希よ」
あおば「おかあ・・・さん?」
希「あんたと出逢えて・・・・・・・あんたがあたしの娘で・・・・・・・本当に嬉しかったよ・・・・・・あおば」
あおば「やだっ!やだぁっ!ウチを1人にしないでよぉっ!」
希「・・・・・・・あんたは・・・・・・1人じゃないから大丈夫」
あおば「やだ・・・やだよっ・・・・・・」
希「あおば・・・・・・今まで・・・・・・・ありがとう・・・」
あおば「お母さんっ!!」
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・。
**********************************************************************
あおばが未来へと帰る際、最後まで頑なに鹿妻であり続けた希。
そんなあおばとの別れの後の彼女の慟哭。
信一を失った時にすら、見せなかった涙が彼女の頬を伝う。
ただ、生きたいと。
あの笑顔を、あの温もりを、あの歌をもう一度聴きたいと。
その決意が“未来”へと伝わって――――――――――――――――――――――――――――
初めてランドセルを背負うあおば。
運動会で1等を取って、はしゃいでいるあおば。
初めての制服に身を包んで、何処か大人っぽくなったあおば。
楽しそうに、歌を私に披露してくれるあおば。
そして、何よりも純真に、私を第一に大切にしてくれたあおば・・・。
気が付いたら希の中にはいつの間にかに、あおばで溢れていた。
生命の灯火が尽きようとする頃、最後に母は子へと想いを託す。
私は、貴方の母親で良かったと。
私の楽しかった時間は、あおばと共にあったと。
あの子を見たいという1カケラの夢が、いつしかこんなにも大きくなって。
最後の命の灯火を、霞む目で愛しの我が子に、激励を送る。
自分の身を省みず。「頑張れ、あおば。」と。
本当は、彼女だって生きてあおばを見守り続けたかっただろう。
一緒に買い物だって行ってやりたかっただろう。
あおばの歌が世界中の人を魅了するところをみたかっただろう。
もっともっと、色んなことをあおばと一緒にしたかっただろう。
それを叶わないと知りつつ、願う人なんて幾らでもいる。
それはエゴだなんて、笑う人もいるかも知れない。
でも、彼女(希)は最後まであおばを激励し続けたのだ。
その“強さ”に、ただ少しの寂寞と、短く淡い夢と、願いが垣間見えて、感動せずにはいられない。
そして希の願いは、確かにあおばへと渡ったのだ。
その想いがメロディを奏で、歌と成る。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
心からありがとう 貴方に逢えてよかった
笑顔込めて 今日から送ろう
心へとありがとう 貴方と逢えてよかった
涙込めて 明日へと送ろう
2つの翼で羽ばたく鳥 2人にほら どこか似てる
1人じゃないから いつまでもずっと
たとえ永遠が終わっても
1人じゃないから どこまでもきっと
もし離れて見えなくても
未来で会おう 過去へ繋ごう 今を旅立とう
いつからか思ってた わたしに生まれてよかった
誰もが皆同じだったらいいね
花びらひとひら めぐり合って 共になって さぁ花になる
みんながいるから 私は生きてる
時に笑おう 時に泣こう
みんながいるから 私は生きてく
どうか全てを忘れないで
今日に愛を 明日に夢を 貴方に私を
1人じゃないから いつまでもずっと
たとえ永遠が終わっても
1人じゃないから どこまでもきっと
もし離れて見えなくても
未来で会おう 過去へ繋ごう 今を旅立とう
今をありがとう
「atled」atled 主題歌より抜粋―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そんな“大切な今”を受け取ったあおばは、未来へ向かって歩みだす。(以下作中抜粋)
**********************************************************************
過去にもとらわれない。ううん、もう振り向かない。
だって、過去から繋がった、幸せな今があるから。
みんな、今をありがとう―――――――
**********************************************************************
過去から繋がる、幸せ。
これはこの作品しか表せない一つの“幸せへの軌跡”
“時間を越えた”、友情と、愛情のストーリー。
故に、幾ばくかの感謝と、多くの勇気を持ってあおばは“イマを歩みだす”―――――――――――――――――――――
【後書き】
何よりこの作品のテーマで一番大きいものは、家族愛であると思う。
確かに、晃司の呆れるくらいの一途さや、麻智との友情も重要だろう。
でも、何より家族愛。これに尽きると思う。
なお、先ほどまでは1週目のENDについてのみの考察だったので、少し2週目以降のENDについて。
まず3つのエンドの形があって、
選択肢1であおばに希が石巻姓である事を告げた場合は、どうやっても希は死に至る。
選択肢2で、医者を選んだ場合は1週目のEND。
音楽を選んだ場合は麻智は怪我をすることなく、しかし逢瑠とはそのまま、晃司だけがアーティストデビュー。
選択肢1であおばに希が石巻姓である事を告げなかった場合は、希は死ぬことは無い。
選択肢1で告げなかった場合はそのまま、一方通行ENDへ移行。
希との17年ぶりの邂逅を果たし、晃司と麻智とあおばの3人でバンドメンバーを組み、活躍してEND。これが、1週目に連なるハッピーエンドだろう。
正直晃司だけがアーティストデビューするENDは蛇足。
それと、希との思い出を胸に、麻智とささやかに歌を歌いながら暮らしていくというENDがあってもよいのではないかという気持ちも。
よく、幸せって失って初めて分かるモノだ、と聞く。
だがこの作品は、幸せを知らない少女が、幸せを知って未来へと進んでいく物語。
初めて知った、幸せという名の温もり。
それがあるから人は前へ歩いていける。
僕らが思っているより、世界は輝いてるって。
この作品は教えてくれたんじゃないだろうか。
最後に。
この作品の最大のテーマと、私心を込めて。
あなたと、あなたの大切な人の未来が、どうか輝いていますように――――――――――――――――――――――
【追記】
第1~3部合計プレイ時間:約7時間50分
CG合計:89枚(差分含む)
BGM合計:17曲
曲合計:12曲(アレンジVer.も含む)
雑誌の付録且つ、3部作ではあるが、短編ものであるので泣きゲーが好きな方は是非やるべき。CLANNADとか好きな人とかは特に。
Amazonで中古で探せば、2000円以内で購入できると思うので、プレイしてみてはどうだろうか。