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persueさんのシェル・クレイル ~愛しあう逃避の中で~の長文感想

ユーザー
persue
ゲーム
シェル・クレイル ~愛しあう逃避の中で~
ブランド
ALICESOFT
得点
90
参照数
2381

一言コメント

純愛・愛欲を考えさせられる、隠れた名作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

≪総評≫
『特別な思い、特別な相手なんて存在しない。人は誰とでも幸せになれる』『性行為は、愛ゆえではなく、結局は肉欲を満たすためのもの。満たせれば特定の人とでなくてもしてしまうもの』などいったアンチ純愛的意見も取り込んだ上で、登場人物が純愛を信じつつも葛藤していく様が物語全般を通して描かれています。恋愛を扱った作品は数多くあると思いますが、比べて、ここまで性愛に関して真っ向から描いた作品は少ないのではないかと思います。その意味でも個人的には18禁ゲームとして名作だと思います。

≪シナリオ・テキスト≫
 誰もが否定できるような悪が存在し、その悪を排除することで解決するような展開も嫌いではないですが、この作品のようにそういった特定の悪人を作らないシナリオは素敵だし、リアリティを持たせる意味でも良いと思います。あくまで、主人公を含めた登場人物たちの、人間臭い行き違いや間違い、抑えきれない欲によって生まれる人間ドラマを描いています。どなたかの感想にあった、昼ドラ的な物語、まさにそれですね。また、「蕩果」という薬品の設定を物語の中に上手く組み込んでいたなあと思いました。ただ、婚約者のトマ青年を物語にもっと絡ませてほしかったな、と少し思います。

 テキストは、声なしという点もあるでしょうが、やはりライターさんの文章力が高いのでしょう。とても描写が丁寧にも関わらず、すらすらと読み進められます。ギャグなしで基本的にシリアスですが、退屈せずに、むしろ私は登場人物に感情移入してしまったので、そういう点は気になりませんでした。

≪システム≫
 少し古めのシステムで、既読スキップがないのは少し不便でしたが、基本一本道ですし、回想モードで通常イベントも見れるので、あまり気になりませんでした。枠消去、バックログなど基本的なものはあるので、個人的には問題なし。移動画面でのキャラクターボタンにおいて、物語の進行に合わせてそのコメントが変わっていくのは目新しいものでよかったと思います。

≪グラフィック≫
 MIN-NARAKENさんの絵は繊細というか美麗というか、大好きです(あとエロイですし)。また背景も含めた塗りもすごく綺麗ではないかと思います。そしてこのゲームをして思ったのですが、今のハイカラな明るい色遣いよりも、この頃の淡い配色の方が個人的には好きだなあ。

≪キャラクター≫
 主にヒロインは以下の二人だと。

リズ:彼女との生活(性活)がこの物語の中心であり、彼女に感情移入すればするだけよりこの作品は、いろんな意味で心に残ると思います。本当に純粋でいい娘で、こんなにひたむきに思われる主人公が羨ましかったりすることもしばしば。

オルガ:個人的には彼女の方に感情移入してしまいました。何というか、もう見ていて切ないです。彼女は人一倍満たされない思いを背負っていたのでしょう。リズ以上の強い思いをぶつけてきます。あるルートでの最後の微笑みもありだと思ってしまうほど私は気に入ってしまいました。

他の登場人物も等身大な人物像であって、特殊な性格というものはありませんがそれぞれ味がありました。

主人公:その他の登場人物と同じように大人の落ち着きがある青年です。やはり主人公は少年よりも青年がいいですね。この作品ではこの主人公の心の葛藤が一つの見所です。TRUEENDルートにおけるリズに対する姿勢は、まさに純愛。素敵でした。

≪最後に一言≫
カティアの風呂CGを見たとき心ときめいてしまったのは私だけではないはず。