XUSEって最近の新作は軒並みコケて、過去の名作のリメイクで食い繋いでいる印象が強い為か、ここでの本作の高評価に半信半疑な自分がいました。しかもあらすじは、なんだか“GAN○Z”のエロゲーバージョンみたいなデスゲームとくりゃ、不安を抱かずにはいられません。ですが蓋を開けてみたら、本当に驚き!!はっきり言うとシナリオは、同じジャンルの「euphoria」を越えたと思います。なろう小説のライターと癖のある絵で倦厭しそうですが、ルールの裏を読み取って抜け道を探したり、人間同士の巧みな騙し合いにおける心理描写や予測不可能な展開は、思わず時間を忘れほど読み応えがありました。ただ他の方のコメントに見られるように、本作は未完として終わっているので、結末を重視する人にはあまりお勧めできませんが……(長文ネタバレは軽微)
【抽象的あらすじ】
神という超常的な存在に囚われた男女に課せられた、残酷なハーレムを強いるデスゲーム。
ゲーム参加者の根は皆善人で、誰もが思いやりに溢れた優しい人間たち(一人例外を除く)。
だが白い色は染まりやすい。たった一滴の色(悪意)によって色合いが変わるように。
神(屑)の悪意に踊らされることで、人と人とが向き合う大切さ・言葉を尽くして分かり合う努力を遠ざけてしまう。
あたかもイヴが蛇に唆され、善悪を内包した禁断の果実を食して、それをアダムに勧めたように……。
悪意とは他者の悪意で育まれるものなのだから。
そして悪意は伝染する。
愛憎 嫉妬 猜疑 快楽 葛藤 虚言 背徳 諦観 妄信 暴力 血潮 悪徳etc…
それらが混ざり合い転化することで、変わりゆく内面や価値観の変容。
花の開花が精神的成長と見て取るか、根っこの部分から腐り始めたとみるべきか。
善意と悪意と中庸が入り混じるから予測のつかない混沌が生まれる。
愛する者を守る為 信念を守る為 死への恐怖の為 矜持を守る為 他者を救わんが為
各々の目的は極限状態において、殺人と云う罪悪の意識を紙くずへと変えてしまう。
自分の命、またはそれよりも重い大切な人の命を自覚した時、命は平等ではなくなるのだから。
人の悪意・醜さを暇つぶしで鑑賞する神(屑) のおもちゃとして翻弄される人間の真価がイマ問われていく……。
【総評】
本作をプレイしたユーザーは、神(屑)の視点よりも多くのアドバンテージ(参加者の思考と地の文を読み取る)
を得ている者として、ゲームを鑑賞する観測者の役割を課せられているとメタ的に推測。
(原作が小説だけに選択肢無により物語への介入を遮断し、主人公視点を廃した立ち絵により自己投影も困難化)
ある意味「神様のゲーム」を第三視点で体験するだけに、予測不能な緊迫感を煽る展開は双方のプレイヤーの精神を削っていきます。
理屈や感情だけでは推し量れない心の機微からの高度な心理戦から、綺麗事や理想論を完膚なきまでへし折る鬱演出まで。
従来のハーレムゲーへのアンチテーゼとして機能している点も注視したいです。
それとモラルの崩壊したゲームを正すには、疑心暗鬼の状態からお互いが信頼関係を築くことが正道なのですが、
人と云うのは二者択一の場面に出くわした時、一つの達成困難な道より、もう一つの簡単で醜悪な道を選ぶ傾向があります。
その深層心理を突いた選択によりもたらされる、倫理観の麻痺や死への鈍化という理性の箍が外されていく仕組み、
曰く静と動の切り替わりが絶妙なシナリオ構成には思わず舌を巻きました。
また、この閉鎖空間と理不尽なルールに晒される登場人物たちの精神と肉体に及ぼす作用は計り知れないものがあります。
一つの事例として、1997年ロシアの宇宙ステーション「ミール」で米露両国の宇宙飛行士が船内の掃除方法を巡り口論となって、
業務に支障をきたすトラブルが起きました。
調査結果により、両者とも特殊な空間内での過労でノイローゼ状態である事が発覚し、うつ病の傾向もみられたとの報告があります。
過酷な訓練に耐えた超人的な宇超飛行士であっても、閉鎖空間内での心的ストレスからは免れない点からも、
フィクションであろうと彼女達が(しかも飲食を制限された状態で)何日も持ち堪えたのは驚愕としか言いようがありません。
しかし幾ら人には「疑い・騙し・憎しみ・恨み」といった悪性を秘めていても、ここまで人を狂気へ駆り立てるのかというと疑問が残ります。
この邪神が作り上げた空間内が、故意的に人の悪意を抽出しやすいように出来ている可能性も否定できないのでは?と考え、
もしくは今回のデスゲームが初回ではない可能性も私の中では浮上しています。
神と云ってもコイツは万能ではない為、過去に失敗を重ねた上での調査努力による配役の妙だとしたら、この人選にも納得できるというもの。
最も根拠のない考察ですので、想像の域を超えませんが……。
最後にこの物語は(純)愛をテーマに捉えている節があります。
その愛は男女の恋愛以外にも家族愛や友愛も含み、一縷の希望へと縋る原動力となっています。
同病相憐れむといった生死が懸かった特殊な状況化で生じる、もしくは深まる為、好意を抱く理由付けも吊り橋効果や
精神医学のストックホルム症候群(誘拐事件や監禁事件などの犯罪被害者が、犯人と長時間過ごすことで、犯人に対しての過度の同情や好意等を抱く)
の亜種といったことも考えられますが、その愛は偏にあらゆるものをかなぐり捨てても守り通す強い意志が感じられました。
しかし見方によっては何処か歪である為、他者の共感という面で足踏みしてしまうと愚考しますが……。
総じて、純粋な読み物として傑作でありながら未完。
またエロゲーとしての体裁も満足に果たしている充実ぶり。
そのため続編が出るのを楽しみに待ちながらも、
超常的な存在が場を騒がす事で、途端に陳腐な物語に貶められないかと、個人的に戦々恐々しています。