春が過ぎ、夏を越えて、秋が訪れ、そして終わりの季節がすべての想いを包み込み、やがて融かしていった。でも幾つかの謎は未だ残されたままなのだが……
「いつまでも一緒にいたいと想える人はいますか―」
四季の移ろいは少女達の成長と恋の行方を見守り、4年の月日はプレイヤーに愛着と感動をもたらしてくれた。
季節ごとに区切ったからこそ、見方や感慨が深まり、思春期における成長がしっかりと見て取れる。
終わってしまったという寂寥感や思い起こさせる季節の出来事に郷愁を呼ぶ、実に濃密な一年だったと云えるだろう。
制作に関わったスタッフの愛が感じられる作品でした。
以降とりとめのない感想 (ネタバレ厳重注意)
何気ない会話から始まり、素晴らしいアミティエ、胸襟を開ける友人を得、様々な価値ある経験を積んだ少女たち。
その全てがかけがえのない時間・財産であり、恵まれた人たちに囲まれて心を成長させた。
彼女たちの名前にちなんだ花言葉をそのままなぞるかのように、アミティエやクラスメイト等との友情をしっかりと育んだ一年。
そして二度目の春。
冬篇での隠れたテーマに「去っていった者の気持ち」が表現されていると考察する。
シオン・バスキア、貴船さゆり、八代譲葉、小御門ネリネ、そして匂坂マユリ。
彼女等の各々の苦悩と葛藤、そして願った想いの数だけドラマを生み、読み手を翻弄させながらも魅せられる自分がいた。
その中でも蘇芳たちの元へ戻ってきたマユリが、とても自然に皆の輪の中で仲良く過ごしている描写がある。
欠けていたピースがようやく嵌った、そんな達成感と充足感を私にもたらしてくれた。
この瞬間の為に、長い間ファンも待ったかいがあるというものだ。
「女の子を好きに為ったらいけないんですか?」
自分を責め、懊悩したマユリ。
人が人を好きに為る気持ちは止められない。それを蘇芳たちが証明した形。
一人じゃないという事は、どれだけの支えと勇気を蘇芳やマユリにもたらしたのだろうか?
最後の当たり前の日常がその結果だとしたら、個人的に愛おしく思う
アングレカムの少女達の穏かな団欒は見ていて微笑ましく、こちらも優しい気持ちになれるのだから。
友情と愛が永遠に続きますように……。
どうか彼女達みんなが幸せになって欲しい。
そんな心に残る儚くも美しい作品だった。
【登場人物 批評】
白羽蘇芳
花蘇芳の花言葉「高貴」「質素」「不信仰」「裏切り」「疑惑」「豊かな生涯」「目覚め」
匂坂マユリへ至る鍵を得て、八代譲葉の痕跡を辿りながら真実を追い求める冬篇の主人公。
夏篇ではマユリとの思い出が残っていることで心に空いた穴が存在感を増し、胸を締め付ける切なさがこちらにも伝わってきた。
しかし内気で臆病、引っ込み思案な蘇芳は、秋篇以降マユリの別れによって成長を果たす。
自分を委ねられる者を得て失い、それを求めるある種の妄執が原動力となっていると考察する。
しかしその道すがら、心を磨り潰した義母の呪いの言葉「誰からも愛されない・必要とされない自分」が蘇る。
身の内に潜む悪心。
負の感情を抱いたときに現れる亡霊。
過去に囚われた己自身の影。
心が言わせるもう一人の自分。
言い方は様々だが、彼女は少なからず心的外傷ストレス障害(PTSD)を患っていると考える。
マユリの事を打ち明けたい気持ちがある一方で、自身の我儘に巻込めない二律背反。
アミティエである六花と向き合えていない憤り、秘密を持っていることに酷く後ろめたい気持ちを抱きながら、
誤魔化すのばかりが上手くなり、自分の理屈に閉じこもって周りを見ない時に顕著に現れるトラウマ。
だがマユリを迎えに行くためには、それらを克服しなければならないと彼女自身理解していた。
白羽の祖父が「心の傷から逃げてはいけない」と彼女に伝えたように、弱い自分を捨て強くあらねばと誓う。
そんな自分を見失わないように勇気を奮う姿に、彼女の精神的成長の跡が見てとれた。
(六花の「自分の心に従いなさい」というエゴを押し通す強さを身に付けたのも、その後押しに繋がった)
しかしながら、結局えりかに急かされる形でマユリを追っている事を皆に話したのは少々残念に思う。
そこは受動的ではなく自発的に語って欲しかった点だ。
もっと言えば、早くから皆に頼っていればここまで長引かずに済んだかもしれない。
だがそれは結果論でしかなく、マユリのいない季節の合間に数えきれない大切な想い出が存在し、
その全てが彼女達の友情と信頼を積み重ね、強固な絆を獲得することに繋がったと云えるだろう。
また過ぎ去った季節を思い起こす事で、愛しく胸がはりさけんばかりの情愛をその身に宿ることが出来た。
マユリを取り戻すことが出来たのは皆のおかげであり、困ったり悩んだら誰かが手を差し伸べてくれる。
その関係を蘇芳が得るまでに、春・夏・秋・冬の季節を辿る必要があったと私は思う。
独りぼっちで、友達ができるか悩み、空回りしていた蘇芳が本当にこの学院へ来てよかったと心から思う二度目の春。
マユリの失踪が自分を変え、皆の協力があって解を得ることで、心に巣くう不安や焦燥を消し去る事に成功した。
白羽蘇芳を模した灰かぶり姫とは即ち、義母との決別により幸せになる物語を表現している。
義母の代わりに友人であり、恋人であり、家族でもある大切なアミティエが住むことで、
蘇芳のこれからの未来はきっと明るいものとなるだろう。
ただ一点苦言を…義母の言葉が主張しすぎて個人的にとっても煩わしかった。
匂坂まゆり
百合の花言葉「威厳」「純潔」「無垢」「華麗」「愉快」「軽率」
マユリに関しては先に少し書いたが、結局のところ彼女が蘇芳を信じることが出来なかったのが事の発端と云える。
双方アミティエが想い焦がれ、触れたい、会いたい、多幸感で充たされたいと願いながらも、
蘇芳に自信を刻んだことへの後悔と忘却を願いながらの未練が、彼女を束縛してしまう。
真実の女神に優しかった頃の母を重ね逃避したのも、蘇芳に裏切られるかもしれない怯えでしかない。
奇しくも花蘇芳の花言葉「裏切り」、百合の花言葉「軽率」のイメージをキャラに投影して膨らませてしまった。
しかしながら蘇芳がマユリを信じ続けることで、最終的に臆病な自分を救い出してくれた。
この物語の根幹部分に囚われの姫(マユリ)を救い出す王子(蘇芳)の童話を見出すことができ、
その下地は数々のグリム童話の引用によって成されている為、読者にも受け入れやすい体裁が既に整っていたと云えるだろう。
そうした意味でも、読み手と供にアミティエへ感謝と親愛の情を生む完成度の高い物語だと思う。
花菱六花
ハナビシソウの花言葉「私の希望を叶えて下さい」「私を拒絶しないで」
過去の過ちを悔いながらも、前に進んで献身的にアミティエを支える少女。
「ありのままの自分自身でいい。背伸びすることはなく、少しずつ大人になっていい」
蘇芳の好意と優しさ、そして笑顔に救われた自分。
それ故に蘇芳(アミティエ)にとって自分が必要か悩む、力になりたい彼女の理解者。
純真ゆえの嫉妬深さと贖罪という心持ちが六花の内に見え隠れするが、根底にあるのは健気で慈しみの心。
蘇芳の親友であり母のような立ち位置で、マユリのいない空白の期間を埋めてくれた。
最後に三人で一緒にいる事をニワトコの木で誓い合い、より自然な繋がりを強固にした。
欠けたらいけない。シオンとさゆりが身をもって教えてくれたことを忠実に守るように。
今の三人の関係だからこそ、これから彼女達は上手く良くっていうのを実感できる気がする。
沙沙貴姉妹
林檎の花言葉「名声」「選択」「評判」「選ばれた恋」
苺の花言葉「尊敬と愛」
誰とでも仲良くなれるのは沙沙貴姉妹の美徳であり、その笑顔と気遣いに主人公と供に何度も救わる。
曰く天使の双子。または愛嬌のある子猫。
秋篇での失恋を乗り越えた者として、精神的な強さは作中でもトップクラスと云えるだろう。
蘇芳への掛け値なしの信頼を胸に、自分を認め親身になってくれる友人として描かれる姿に私の心が洗われるようだ。
八重垣えりか
エリカの花言葉「孤独」「謙遜」「休息」「心地好い言葉」「博愛」
仲間想いで誰よりも周りを見る上に、蘇芳(親友)への気遣いにも長けた少女。
身体的ハンデを物ともしない精神力の持ち主だが、他者への依存を余儀なくされる反発心からか、
“もっと自分を頼ってもらいたい”という欲求を人一倍抱いていると推察。
それ故、積極的に蘇芳の力と支えとなって行動している節が見て取れる。
これには白羽に少なからず好意を持っているのがえりかの反応からも伺える。
また「気安いぞ」と蘇芳に“えりか”と名前で呼ぶのを禁じるのは、
恥じらいという理由以外にも、彼女と友情以上の関係にのめり込むのを防ぐためだろう。
自分でも惹かれているのを自覚している分、千鳥との恋人関係を壊したくない為の線引きが彼女の中で必要だったと考察。
しかしながらダリア先生といい、えりかの気の多さに少々呆れてしまうのだが……。
考崎千鳥
紅千鳥の花言葉「何て愛らしい」「気品」「高潔」「忠義」
佳く似たマユリの影を想起させる温かい春の陽だまりの様な少女。
えりかや友人達との月日が彼女に柔らかな笑みを浮かべさせる要因になった点からも、作中で最も成長が分かり易い。
そして生真面目で努力家、優しさを胸に諦めない心が備わっている魅力的な存在になった。
ただ一途な恋慕ゆえか、えりかに振り回される姿が微笑ましくも気苦労が堪えない印象を抱く。
ダリア先生と本と蘇芳に嫉妬する千鳥を大変に思いながらも、その姿は観ていて飽きが来ない。
動物に例えると、えりかが移り気で気分屋の猫なら、千鳥は従順で忠義に篤い犬を連想させる。
どちらにしろ、仲の良いアミティエだと思う。
ただ一点心残りは、マユリと千鳥の掛け合いが圧倒的に不足している事だろう。
今後何処かで補えれば良いのだが、果たして……。
八代譲葉
ユズリハの花言葉「若返り」「世代交代」「譲渡」
前回秋篇での感想で書いたので、今回は省略。
ただ冬篇で譲葉役の“かわしまりの”さんの声に微妙に違和感を覚えた。
個人的に何だか喉が涸れたように聴こえてしまったのは少々残念だ。
小御門ネリネ
ネリネの花言葉「華やか」「また会う日を楽しみに」「幸せな思い出」「輝き」「忍耐」「箱入り娘」
こちらも秋篇での感想で書き尽くしたので特に書くことがない。
ただ個人的意見だが、前の髪型のほうが好み。
ダリア・バスキア
ダリアの花言葉「移り気」「華麗」「優雅」「威厳」「不安定」
ダリア先生に関しては、申し訳ないが現時点で上手く文章がまとめられなかった。
画集発売後に追記するかもしれないが、現在のところは未定。
【総評】
シナリオと登場人物に関しては先の通りだが、本編をクリアした後、春篇のパンフレットのSSを見て思わず感心してしまった。
冬篇のラストが4年前の春篇にて既に決まられたプロットをなぞった形だということを。
また初回特典のドラマCDにおいて描かれたその後の日常の一幕や、おまけのキャストコメントも秀逸の出来。
そしてOPの霜月はるか&鈴湯の二重奏、ED春篇メインテーマにおけるアミティエ三重奏も拙い表現だが完璧だった。
はっ!と息をのむ美しき杉菜水姫氏の美麗なCGと描写を際立たせるBGMも健在で言うこと無いように思える。
しかしながら本編で語られていない幾つかの事柄が解明されていない点は、少なくとも評価を下げる要因である。
・譲葉の「もう義理は果たした」という言葉の意味?
・春篇で譲葉を殴ったのはバスキア一族の誰だったのか?
・血塗れメアリーの絵について、過去に辞めた三年生は本当に怪異を見たのか?
・図書室の隠し部屋にいた人物は貴船さゆりだったのか?
劇中で明言されていない謎の真相は全て、今後発売予定の『FLOWERS』の画集に詰め込むつもりだと、杉菜水姫氏は語っている。
だが私を含めたプレイヤー全てが、冬篇で全ての謎が解決されると期待していただけに、この仕打ちは許容できない。
これもライターである志水氏と原画の杉菜氏との擦り合わせが、マスターアップまで出来なかったのが一番の要因だ。
そのため冬篇を低評価する方の気持ちも少なからず理解できる。
「FLOWERS」という作品を締めくくる冬篇が有終の美を飾ることが出来なかった点は、私自身も遺憾であるとしか言いようが無い。
もしシリーズ全ての伏線を冬篇で回収したのならば、客観的に見て90点以上は固い作品だと思う。
【冬篇で綴られた小説・詩篇・映画の名言備忘録集】
神、空にしろしめす。すべて世は事も無し。―ロバート・ブラウニング―“春の朝”
誰かを信頼できるかを試すのに一番良い方法は、彼らを信頼してみることだ。―アーネスト・ヘミングウェイ―
今はないものについて考えるときではない。今あるもので、何かできるかを考えるときである。―アーネスト・ヘミングウェイ―
人は笑い方でわかる。知らない人に初めて会って、その笑顔が気持ちよかったら、それはいい人間と思ってさしつかえない。―フョードル・ドストエフスキー―
人は毎日死んでいく。床掃除や皿洗いをした挙げ句、チャンスが巡ってこなかったと悔やんで死ぬんだ。『ミリオンダラーベイビー』
友は近くに置け、敵はもっと近くに置け。『ゴッドファーザー』
失敗を恐れて夢をあきらめる人はいる。それより情けないのは成功するのを恐れ夢をあきらめる奴だ。『小説家を見つけたら』
負け犬がどういうものか知ってるのか?本当の負け犬は勝てないことを恐れ、努力もしないようなやつのことを言うんだ。『リトル・ミス・サンシャイン』
理解できないかもしれないが、人は皆誰かの人生に影響を与えている。誰かが欠ければ世界には穴が空く。そうだろ?『素晴らしき哉、人生!』
狂気は、知ってのとおり重力と同じだ。ちょっと押してやると、すぐ落ちる。『ダークナイト』
世界に星の数ほど店はあるのに、彼女はおれの店にやってきた。『カサブランカ』
体が重いと足跡も深くなる。恋心も強いと傷が深い。『ニュー・シネマ・パラダイス』
鉢植えは最高の友さ。いつもご機嫌で悩みもない。俺に似てるだろ?根っこがない。『レオン』
一人でいる事は死にも等しい。『アダムス・ファミリー』
恋とはサメのようなものだ。常に前進していないと死んでしまう。『アニー・ホール』
今、やるべきことは、息をし続ける事だ。そうすれば明日また太陽は昇る。そして波が何かを運んでくるかもしれないから。『キャスト・アウェイ』
人間の価値は容易には量れない。ある人は人生の価値は家族や友で、ある人は信仰心で、ある人は愛でという。人生は、意味がないという人もいる。
私は、自分を認めてくれる人がいるかで決まると思う。『最高の人生の見つけ方』
古代のエジプト人は死に対し壮麗な信仰を持っていた。魂が天の門を通ると、神が二つ質問をするんだ。その答えによって天国にいけるかどうかが決まるんだ。
一つは人生で喜びを得たか?二つ目は自分の人生は他人に喜びを与えたか、だ。『最高の人生の見つけ方』