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peacefulさんの果つることなき未来ヨリ X-RATEDの長文感想

ユーザー
peaceful
ゲーム
果つることなき未来ヨリ X-RATED
ブランド
FrontWing
得点
86
参照数
1410

一言コメント

構成等に不満もありますが、私はこの作品を高く評価したい

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

始めに抱いた印象はテンポが非常に良い事。
主人公の一郎が異世界に飛ばされ、ヒロインであるユキカゼと出会ってからというものトントン拍子に話が進む。
文章で詳細に説明する文体と違い、その場×2で次々とイベントを派生し、勢いのあるテキストで読み手を飽きさせない工夫が随所にみられる。
セリフ回しも最小限で物語を効率良く押し進め、シリアスとギャグの混同は前作の「グリザイア」を想起させる出来でした。

そもそも異世界物というジャンルは初めが肝要であり、
我々読み手が直ぐに打ち解けやすい環境を提供し、好奇心を掻き立てる素材が必要になってくる。
それを難無くこなして、絶妙なスタートダッシュを決める事に本作品は成功している。
おそらくアニメ化を睨んだ脚本構成も、テンポの良さに繋がっているのだろう。
また主人公が風見雄二よりもとんでもない奴に仕上がっている点も考慮の一つ。
遠慮という言葉が見事に抜け落ちた、我々現代人の視点から逸脱している戦時下の軍人を中心視点に置いたことにより、
話に非常に幅を利かせたスパイスとなって、予測不可能な展開の数々で読み手の興味を損なう事無く留めておいてくれる。
いきなり異世界に飛ばされて、ここまで早く順応できる奴はそうはいないのが、前文の証左とも云えます。

しかしそれも長くは続かない。
第一章であるアイラの話の中盤で、急に足踏みを起こしたかと思えば、
その後の断片的な長々とした回想突入により、テンポの良さが完全に無くなってしまった。
しかも本編とリンクしながらの合間の回想は、シーンが何度も飛ぶ事で物語に集中できない悪循環を生む事に繋がる。
時間軸も前後しており、読み手にとっては話がどこに進んでいるのかを見極める大変な作業となった。
アニメなら所々演出を入れてカバーできるかも知れないが、これをノベルゲーでやるとなると正直キツイ。
(正直言えば”キュリオ”の存在自体が本当に必要性があったのか疑問の余地があり、圧迫の一番の元凶だ)
(逆に敵の大将にアイラの種族を姦計で滅ぼしたアークジニアンの元領主を持って来る方が、単純明快で団結もできるというもの)
詰め込みすぎのシナリオと構成に難が有るのは明白であり、それも徐々に話が進むにつれて深刻となってくる。
その最たるものが、ユキカゼ以外のヒロインの個別√における存在意義であろう。

本物語は大元にユキカゼ√が存在し、その√を攻略しなければ他のヒロイン√が開放しない構成をとっている。
しかも個別√に入っても大筋の流れはユキカゼ√を土台としているため、
一郎の視点が特定のヒロインに向けられて物語が進行しても、過程が違うだけで戦争の結末は変わらず仕舞い。
要するにユキカゼ√で不自然なまでに抜け落ちた他のヒロインの話を、ピックアップして補完する意味合いが強い。

だがこの構成は、傍から見れば失敗と言わざるを得ない。
結末がどの√に当たっても一つに収束されるため、主人公の介入があまり意味を成していないのだ。
(せいぜいが、結ばれるヒロインが変わるぐらいだろう)
しかも予めユキカゼ√で詳細は暈されているが、おおよそ他のヒロインの活躍は知れているので面白さも半減している。
未来が決まっているために個別におけるエンターテイメント性も薄まり、読み手の読後感も満足に得られないのが実情であった。
(そのため個別√における他と異なる不確定な未来[IF]を期待したユーザーにとっては、さぞガッカリしたに違いない)
その上ユキカゼ√での最後で重要な立ち位置を占めた主人公の活躍!?がぐらついてしまっては元も子もなかった。
(最も一郎はユキカゼ√における最終決戦中の大半が、アルムアケイドに居座る不自然で人為的な演出にうんざりはしたが……)

また極端にヒロイン同士の介入を制限したため(特にアイラとリア)、メインよりもサブヒロインに目が向けられがちの構成と云える。
そのためカーマインを含めた384飛竜隊のメンバーの存在感は、メインヒロインの座を追い出す勢いの魅力を兼ね備えてしまった。
これじゃあどっちがヒロインか分からないし、彼女らを攻略対象に据えなかった不満も噴出するというもの。

これも偏に広大な世界観と綿密に組まれたプロットを満足に表現する事が出来なかったライター陣の責任が大きい。
特にアイラを担当した七央結日(安堂こたつ)の責任は重大である!
(個人的な理由で恐縮だが、私の嫌いなライターの一人だ)。
コイツの特徴である無駄に長いテキストと添削や推敲を知らない詰め込み過ぎのシナリオが本作に合って無い事は、先述した通り自明の理。
テンポの良さを阻害した張本人であり、ラブコメとシリアスを満足にこなす事ができないライターを何故起用したのか甚だ疑問である。
グリザイアスタッフと銘打っておきながら一人異物が混じっているのが不安だったのだが、どうやらその予感は見事に当たってしまったようだ。
それはアイラの他の√における異常なまでの存在感の皆無さ(否定)によるところも大きく、
制作側において七央が孤立して、チーム内のまとまりが欠けた証左だという、要らぬ勘繰りを抱くのに十分すぎる内容だったことからも見て取れる。

これならば複数ライターで挑むよりは、藤崎竜太一人で望むべきであったと私は思う。
おそらく世界観を含めた詳細な設定、全体の流れと結末までのプロットを藤崎が構築し、
残りの細かなシナリオやユキカゼ以外の各ヒロイン√を他のライター陣が担当したのだろう。
グリザイアで味を占めた形が、今回は裏目に出た結果といえる。
その理由は前述した様に、話の大まかな流れがどれも変わらず、読み手のモチベーションを維持するのが困難だという事。
上記したヒロイン同士(特にアイラ)に垣根を作り、相互の掛け合いを満足に果たせなかったのも致命的でもあった。
また俯瞰的な視野で全体を見る者=監督役が上手に各ライター陣を掌握できなかったのも問題に挙げられるだろう。

故にシナリオの一本化こそ、この物語にピタリと嵌る気がする。
私が考えたプロットだと、後半以降も細かく章で区切り、章の間に幕間として各ヒロインの話を綴れば良い。
最後に関していえば、アイラ・メルティナ・リアが一郎と活躍できるシーンを上手にずらしながらシナリオを構築し、
ゼロ戦改良機(なぜクライマックスで修理が終わらなかったのか?)で見せ場を作りながら、一郎が戦場を闊歩するのが望ましい。
締めはユキカゼ√におけるセツナVSユキカゼとサイラスVS一郎による一騎打ちで終わる構成がベスト。
(メルティナとリアに関してはユキカゼ√に無理なく繋げられると思う。ただしアイラに関しては微調整が必要だが……)
他にもバラウールとヴィスラにそれぞれ間諜(スパイ)役が存在し、それぞれの実情を客観的に把握する措置が必要だ。
(リア√で情報を受け渡したヴィスラの将校のヴォスとかいう奴いたけど、もっと初期からちゃんとシナリオにかかわるようなキャラを所望)
ヴィスラ側の情報が圧倒的に不足している点もあるのだが、ヴィスラ側からバラウールへのスパイは勿論スタイルの良い女性がイイだろう。
そして何だかんだで新ヒロイン枠として一郎に惚れて、二重スパイとして活躍するパターンが定番ながらも面白いと考える。
少々脱線したが、最終的な選択肢で誰と共に居るのか(サブを含める)、もしくは元いた世界に戻るのかを選べれば問題無く感じた。
(あくまで素人意見なので、ツッコみ所も有ると思うが………汗)

あとこれは推測なのだが、
全てを表現しなかった(残された謎や詳しい事柄)のは、プレイ時間が長すぎるのと製作費用と発売時期を考慮した以外にも、
本作の人気次第で、600年前の世界観で大賢者マジ―やまったく別のを主人公に据えたスピンオフを画策していた為ではないだろうか?
確かにこれが製作されれば本編における完成度も上がるが、現状においては机上の空論となっているのは致し方無いところか。
(恐らく若きリンシンや奴隷だったファル、名護の師匠なんかが登場しただろう)

とまぁ、これまで良い所と悪い所の割合が2:8ぐらいで批評してきたが、
これからその残念な面をカバーする、私が高評価の理由を述べたい(弁護したい)と思う。




確かにシナリオ構成等に不満は残るが、その中身を私は評価したい。
とりわけ藤崎の軍事ネタは、本作の屋台骨ともなる重要な支えとして、表現に拍車が掛った素晴らしい出来と云える。
特に軍人の心構えと生き様を書く事に関しては、もはや彼をおいて右に出る者がいないだろう。
この業界でミリオタライターとしての確固たる地位を築き上げたと言っても過言ではない。
軍関連の知識量が半端なく、言うなれば本作は「軍人HOW TO本」ともいえる作品であり、
其処にファンタジー要素を上手に組み合わせたのは流石の一言である。

また戦闘シーンはもとより精神論に重きを置いたシナリオは、我々に戦争と平和の意味を明確にさせる。
グリザイアと共有する濃密な死生観を随所に漂わせる事で、戦争へのアンチテーゼをテーマとして物語を構築しているためだ。
綺麗事だけじゃ済まされない。
泥臭くも読み手に訴える何かが有る作品として仕上がっている。
その“何か”は個々人によって異なり、私にとっては人生における教訓や訓示の意味合いが強い。
多くの事柄を我々に突き付け考えさせながら、心の奥底に届くメッセージ性が確かに伝わってくる内容であった。
(最もそれを上から目先で説教臭いと感じる方は、本作は大きなお世話的で底辺評価を食らうだろうが……)

そもそも本作は単純にドンパチだけが戦争ではない事を読み手に教えてくれる。
主人公である一郎は、食事面の充実から、兵の用法、新兵器、周辺国に対する義理の通し方といった政治方面に多大な影響を与える。
それこそ竜に騎乗して戦う物語で、ここまで詳しく描写されている作品は、未だかつてお目に掛かれないだろう。
経済面にもメスを斬り込み、各々が戦う理由、国家の思惑、戦争の終わらせ方、戦争の爪痕・遺恨を如何なく表現する事に長けた作品でもある。

そして本作で最も衝撃的とされるのが、マジーの太陽という原爆投下だ。
誰もが禁忌と避けて通った事柄を、戦争の真実としてシナリオに組み込むのは非常に勇気ある姿勢。
実際の虐殺、被爆者の体験談を参考にしたのであろう。
元々非18禁なので規制の問題が大きく圧し掛かり、残酷な描写はカットされているが、それでも戦争の悲惨な側面を余さず文章で表現できている。
この一例からも我々人類は、現実における広島と長崎で起きた戦争の傷跡を決して風化させてはならないと云える。
それ故にプレイヤーは、本作を通じて平和の価値を今一度掴み取って貰いたい。
反戦への強いメッセージが、私には伝わってきました。



【総評】
悪い所が良い部分を相殺している感じになってしまったのは残念な所。
ただそれでも凡百の作品とは違う光る面が見られ、私としては本作品を押していきたいと考えている。
何よりこうした『零戦パイロットの主人公が、敵艦へ特攻したはずがファンタジー世界へ迷い込んでしまった』
という異世界冒険譚というジャンルが、私にとって好物なのも高評価の理由の一つ。
そして一郎の人生経験から来る重い一言や名言に、思わず心奮える自分がいることに気付いた。
少なからずこの作品をプレイした者は、何らかの己が芯に触れる部分を感じ取ったことと思いたい。
しかしながら少々硬派な印象を受けるので、玄人向けな作風になっているのは否めない。
またMAPや用語集の不備等、全体的に説明不足も痛い。
新しい物事を頭に入れるためには復習が必要なため、理解が及ばない点をそのままにして話を進めてしまうのは座りも悪くなる。
せめて予約特典の「無政府領土防衛民兵団戦記」という長ったらしい名前のファンブックの中身をシステム面に入れて欲しかったところ。
あとは藤崎一人で長大な物語を完結させる力を身に付けてくれると、後の次回作に期待も持ててくるが、


果たして未来はどうなるか?    


それは誰にもわからない………。