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peacefulさんの戦国†恋姫X ~乙女絢爛☆戦国絵巻~の長文感想

ユーザー
peaceful
ゲーム
戦国†恋姫X ~乙女絢爛☆戦国絵巻~
ブランド
BaseSon
得点
94
参照数
2731

一言コメント

私は多くの人から批判されている主人公(新田剣丞)とシナリオを一人擁護しようと思います

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

(無印はスルーしたので今作が初『戦国✝恋姫』)

約90時間を費やしてコンプ。量に関しては文句のつけようがありません。
質に関しても少し気になる部分(詳細は【総評】にて)を除いて非常に読み応えがあり、久々に満足のいく作品に出会えました。

ですが残念ながらそうでない方が結構多いようで……
皆さまのコメントを拝見したところ、とりわけ主人公やシナリオに対して不満やストレスを感じているみたいですね。
特にシナリオは「現実感がない」「戦場での描写や立ち居振る舞いがおかしい」「ご都合主義すぎる」とか色々……。
そして主人公である新田剣丞は「魅力がない」「成長していない」「口先だけ」「中途半端」といった意見が多数を占めていました。

成程。そのように感じたのも一応理解はできます。
ですが私は今回それらの意見に対して、敢えて真っ向から反論の立場を示そうと思います。
その理由は『誰か一人ぐらい本気でこの主人公やシナリオを擁護しても良いのでは?』と考えた次第で、
また「恋姫」というシリーズ作品を愛しているためと受け取って貰えれば幸いです。
(本来はレスという形で望むべきですが、効率を鑑みて長文感想の形式で記述する事にしました)




さて、それではまず始めに中核となるシナリオについて。
それを論ずるに辺り、最初に本作の在り方を示すことが重要に思えます。
狭窄した視野を捨て広く俯瞰した視点で見るに、
この作品は熱い戦いからドタバタな日常を経て、総勢54名の嫁と共に(エッチしながら)乱世を駆け抜ける物語になります。
そしてそもそものジャンルが“妄想爆裂煩悩灼熱歴史”ADVであるという覆し様のない事実。
つまり現実感がない/ご都合主義すぎる等という感想は、この場では完全にお門違いと呼ばざるを得ません。
そもそも恋姫という物語自体が外史(フィクション)であるので、私たちが生きる正史と同一視すること自体が間違っているのですから。
これは戦国武将が全員女の子と鬼というファンタジー要素があるという時点で気付いて欲しい事柄だと思います。

そのため一見様には、それらの事を予め購入段階の時点で認識して貰いたかったのですが、
それでも本格派の戦国武将物語を期待していた方には、これをプレイして不満が募るのも致し方ないのは理解しています。
ですがそれをエロゲーというジャンルに求めるのは、正直酷だという事実は知って欲しい所かと。
それとあくまでも本作の一番の主題(目的)は、どのように言い繕うとも可愛い女武将たちとイチャイチャするハーレムゲーなのです。
ユーザーは可愛い女の子達に囲まれてチヤホヤされる事を一番に楽しめる思考が必要かと思います。
また、たとえ史実を忠実になぞって物語を完成させても、それが本当にエロゲーとして面白いかは疑問の余地があるでしょう。
ちなみに既に「恋姫✝無双」をプレイしていて、この様な不満を抱く方に対して私が告げる言葉は一切ありませんので、悪しからず……。




そしていよいよ本作最大の批判の焦点となった主人公(新田剣丞)について。
先ほど挙げた「魅力がない」「成長していない」「口先だけ」「中途半端」以外にも
「叔父への批判」「歴史を弄ぶ奴」「何故モテのるか?」など不満点は枚挙がありません。
そして挙句にはヒロイン達の主人公に対する尻軽さにも言及して、誑される思考パターンが同一なのが気持ち悪いとの意見も拝見しました。

う~ん、こうしたコメントが出るのは少なからず私にとってショックでしたね。
其れと言うのも先述した本作の楽しみ方を実践する一番の方法が、私にとって主人公と自己投影する事だったからです。
恥ずかしながら告白しますが、自分=新田剣丞という役に入り込むことで、
彼のセリフを音読しながら思考回路を推測し、剣丞の立場に少しでも成りきろうと努めてプレイしていきました。
いわゆる疑似体験というもので、声優さんが良く心掛ける手法を私も今作に取り入れながらプレイした次第です。
その所為か彼とのシンクロ率が90%を超えるぐらい高くなり、ヒロイン達との日常がより楽しいものに変化しました。
(元々私は声優志望だった時期もあり、こういうのが得意なのですが、それでも少しでも共感する要素がなければ難しいと思います)
そうした経緯もあってか、彼を擁護する気持ちが人一倍高くなったのかもしれません。

そんな訳でそろそろ前口上はこの辺りにして、本題となる批判に対する反論を順次消化しようと思います。


まずは主人公の「魅力がない」「何故モテるのか?」から。
その意見を語る前に、このように主人公を思った/感じた方に一つ問うてみたい事があります。
それは『あなた方は一つでも新田剣丞に勝る部分を持っていますか?』ということ。
新田剣丞は御存じのように、あの恐ろしく強く賢い御姉様達からどこの大金持ちかというくらい英才教育を施されています。
剣術、棒術、槍術、体術、戦略、軍略、料理、裁縫、服飾デザイン、家事、サバイバル技術、操船術、薬学、工学を一通り可能にし、 
また「魏武註孫子」「六韜三略」を読了しているので兵法の基礎も習得済みです。
それは本編でも如何なく発揮され、城攻めのエキスパートとして「新田入れば落ちにけるかな」と言われるほどでした。
またビジュアルもイケメンな上に人柄の良さもさることながら、客観的に見て正義感が強く真っ直ぐな性格な好青年に思えます。
特に異世界へ飛ばされた直後なのに、自身の状況を理解し受け入れる神経の図太さには目を見張るものが有るでしょう。
(例え叔父からそのような話を聞かされていたとしてもです)
そして紆余曲折有りながらも、彼が本編で天下泰平(一部地域限定)を成し遂げた功労者であるのは間違えの無い事実ですから。
よってこれらの実績と能力、そして彼が育んだ人徳が新田剣丞の魅力なのだと私は思います。
あとこれは逆説的になりますが、ヒロインが彼に何の魅力も感じられなければ、ここまで惚れられることはご都合主義を踏まえたとしても不自然ですからね。


次に「成長していない」「中途半端」という意見に対して。
『新田剣丞は武力/知力共に中途半端で、作中でほとんど成長していない』
私はそうは思いません。武力・知力共に徐々に成長していますし、何より彼の順応力と統率力は素直に評価されるべきでしょう。
また瞬時の決断力と柔軟な思考は元より、人を惹きつける魅力と協調性は誰よりも高く印象付けられています。
別に武力・知力だけが成長のパラメーターではありません。
俺ツエ―系の主人公を求める方には物足りず中途半端に映るかもしれませんが、
万能系の主人公として鬼の世を渡り歩いた対応力は驚愕に値するものと私は思います。
それにあんまり凄すぎると、ヒロインの存在意義(個性)が薄れてしまいますから(笑)。


そして「歴史を弄ぶ」「叔父への批判」について。
育てて貰った恩人である叔父(北郷一刀)に対して、不平不満を作中で語っている剣丞に批判が集中していますが、
こうした批判が噴出するのは、おそらくは前作シリーズのファンが多数を占めていると私は推測します。(間違っていたらすみません)
別に北郷一刀をリスペクトするのは勝手ですが、これを只の反抗期と見るか、
認めているが故の対抗意識としての照れ隠しと見るかで意見が変わるのでは?と考えています。
ちなみに私は後者の考えで、剣丞の内面を考察するに、
彼は一刀に対して深いエディプスコンプレックスを抱えているのではないでしょうか?
剣丞の幼少時代、彼がお世話になったのは多くの綺麗なお姉さま方(約50人+筋肉達磨)が中心です。
幼心に彼女らに母親を連想させ、無意識下で恋心を抱いていたとしても何ら不思議ではありません。
何故なら彼女達にはそれだけの魅力がありますから。ですが幾らお姉さんらが剣丞に気をかけていても、
結局の所、既に彼女達の心と体は叔父である北郷一刀、ただ一人に捧げられています(例外は認めます)。
叶わぬ恋に頭を悩ませ、決して解消されない感情は敵愾心にも似た抑圧された精神を生んだと推測します。
しかしそれが負の方向に傾かなかったのは、一重に彼が過した周囲の環境(人達)に恵まれていたからでしょう。
ゆえに本郷一刀をあくまでも超えるべき対象と捉え、批判しながらも叔父のハーレムを肯定していた節が作中より伺えます。

いつか自分も叔父と並び、超えていきたいと奥底で考えた折に異世界に召還された新田剣介。
当初は女にあまり興味が無い風を装っていたが、世界に順応するにつれて女好きに変貌していく。
このアンビバレンスな心理は、これまで女性に囲まれた生活を送りながらも、
恋愛感情を抱く事が許されなかったある種の反動が原因だと私は考えています。
(好意に疎い鈍感さも自身の経験則から成り立ち、惚れられることに慣れず無意識下で恋に臆病なためと考察)
ずっと心の奥底で抱えた魅力的な女性に対する憧れと恋慕。
其れがここに来て解放され、年相応に青春を謳歌したいと想うようになるのは無理からぬことではないでしょうか。
また叔父という反面教師(褒め言葉)が居たおかげで、夫の共有化における全国大名の団結による策略にあまり抵抗が無いのもそのためです。
この影響は彼の博愛精神に基づく平等愛に限度が無い事と、天然ジゴロの資質の開花に繋がっていきます。
(ある意味これは北郷の血筋の証明とも云えますね)


そして結果を残すにつれて、自分が北郷一刀に並べる事に自信と誇りがついたのでしょう。
歴史に影響を及ぼすことを危惧しながらも、歴史の表舞台に立つ矛盾を貫いたのは、叔父の体験談や姉の影響を受けたのがやはり大きいと思います。
「歴史を弄ぶ」というのは彼が意図的にした行為というよりは、為るべくして成った結果と見た方が正しいですね。
これには敵(吉野)の思惑による様々な要因が重なったり、先述した外史という理由も含まれるのですが、
仮に悩んでばかりで動かない主人公に成った場合、果たして客観的に見て楽しいのか?
という製作側の都合が一番に行き着くことになるかと思います。


最後に「口先だけ」とヒロインに対する批判についての意見を簡単に纏めます。
『誑かすパターンが殆ど同じでクドく、直ぐに惚れてしまうヒロインはチョロイ』
この意見に関しては個人的にかなり疑問視しています。
それぞれ主人公に惹かれる過程は全員違うので、別にパターンが殆ど同じだとは思いません(似る分は認めます)。
むしろ恋姫の世界で堕ちる過程を丹念にやれば、あまりにも膨大な時間が掛かる上にテンポが格段に損なわれます。
そのせいで物語が圧迫され過ぎて、私たちが気楽に楽しめなくなるのは本末転倒もいいところ。
それに本作はぶっちゃけ男一人女多数の世界観であり、自分に慕ってくれるのを楽しむのが至高な物語な訳です。
誑し・誑しと連呼したり「身分は気にしない」とかを“ウザい”と思ってしまう方は、十中八九恋姫の世界観に馴染めていない証左でしょう。
そうした方には全てを肯定せずとも良いので、可能な限り妥協点(納得)を見つけることが本作を楽しむ上で必要な作業になると思います。
それでも駄目な人は、残念ながら根本的に恋姫が肌に合わないと受け取って貰えれば差し支えありません。

あとは主人公が「口先だけ」に関して。
この件は反論しようにも、そのように感じられた方が居たこと自体が私にとって不思議で、書くのが非常に困る事柄でした。
何故なら普通に剣丞は有言実行の男だったと、私は疑いの余地無く本作を通じて認識していましたから。
(主人公の独り言が非常に多いことには同意しますけど……)
そのため理由を読み返してもよく解らず(汗)、私にとって見解の不一致が顕著に出た意見でした。
ですが強いて理由を挙げるならば、10人いる複数ライターの弊害とだけ書いておきます。
まぁ恋姫の世界ではご都合主義がまかり通り、主人公が女にだらしないのは御愛嬌ということでどうか大目に見て下さい。


さて、これまで長々と主人公を擁護していきましたが、
それでも新田剣丞を批判する考えが変わらない人は、一つ見方を変えてみようと思います。
例えば、学校のクラスの中に一人イケメンモテ男が居たとします。ちなみに私たちはそのクラスのモブ男という設定です。
そのイケメンはクラスの女子以外にも他の学年・学校の女子生徒にまでモテまくる凄い奴でした。
勿論彼女たちの告白にも全て答え、ヤルことヤッチャって何股も築き上げるようなハーレム男です。
さて、傍から見てモブである私たちはモテ男である彼をどう思いますか?
そのフラグの立て過ぎ/モテすぎ具合は、見ていて決して面白くないという感情が生まれてきませんか?
例えその男が欠点の無い万能人間で、男子たちにも人当たりの良い爽やか好青年だとしてもです。
そう。つまり反発を招きかねない事をあえて承知で書きますが、
主人公への批判は、男(一部ユーザー)の嫉妬・僻みが原因の一つだと私は愚考します。
相手が有能なために醜い感情が発露し、少しでも粗を探そうと必死になるルサンチマン。
なまじ前作の北郷一刀が一般人であったがために、その負のベクトルは顕著になっている気がします。
しかしその事で自覚して貰いたいのは、(極端な考えだと理解していますが)剣丞を否定する事は
その彼を愛している“嫁たち”も批判していることと同義である事を認識して欲しいのです。
当然ながら自分が好いた男を馬鹿にされることは、自身の男の見る目がなさを嘲笑されているのと同じ意味ですから。
皆様も本作の中で誰か一人ぐらいはお気に入りの嫁が居ると思うのですが、
それを間接的にでも貶す行為を自分がしたいとは思いたくないでしょう。
何だかメタ要素も絡めましたが、私の主張としてはそんな彼を否定するからこそ物語は面白くなくなると思うのです。
先の例だと、クラス内という近い席で尚且つ自分とは圧倒的に懸け離れているモテ男を見るほど、詰まらなくイラつくものはありませんから。
ならばこそ彼を肯定すれば(少しでも受け入れれば)、これまでと違う面白味が生まれてくると考えれると思うのです。
まずは観客という立場を脱して、読み手が主役に成る立ち位置を模索して本作をもう一度プレイしてみてはどうでしょうか?



【総評】
何だか擁護というか、自分の主張をそのまま押し付けた形になってしまったのは私の不徳の致す所です。
反論された方は恐らくとても気分を害されたと思うので、その点に関しては御詫び致します。
ですがもしこの長文を読んで少しでも感化された方は、再プレイすると見方が変わるかもしれませんよ。

さて【総評】と銘打ったので、ここらで本編の感想を簡単に綴って締めさせて戴きます。

プレイし終わり一番に感じたことは『やっぱり恋姫は最高!』ということです。
(もはや信者と言われても仕方ないかも)
でも一見様には少々キツイかなぁと、正直思うシーンがあったのもまた事実です。
この件は始めに記載した本作の“少し気になる部分”に関係しているのですが、
終盤辺り外史の設定を強調し過ぎて、過去の「恋姫✝無双」(無印)の形式を無理になぞろうと拘わった事に起因しています。
別にそのようなシリーズの悪習を無視して、新たな展開を構築しても良いと思ったのですが、
ラスボスシーンにおけるメタ的要素は相変わらず消えず、ご新規さんは思わずポカーンとしたのでは?
また本編の最終章に入ると途端にボキャブラリーが少なくなり、同じ単語を何度も連発されるのは流石に読む方の気力を失くしかねません。

それと一葉様“三千世界”の詠唱言い過ぎで、ちょっとしつこいかと苦言を呈したい(笑)。
こんな風にライター陣の贔屓の武将が活躍している一方で、殆ど出番の無い嫁の存在が本作は何気に多い気がします。
特に小島貞子氏は見る影もありません。(何のためのヤンデレ枠なのだろう?)
これだけの人数のヒロインを扱うのは非常に難しかったかと思いますが、確かに平等に扱って欲しい所はありますね。
それにパッケージの中央にいる久遠は、果たして本当にメインヒロインなのかも疑わしくなる始末でしたので……。
問題の分岐点としては、やはり金ヶ崎の退き口の場面でしょう。
本作は選択肢皆無の一本道でしたが、ここに選択肢が入れば桐琴さん生存ルートや織田勢との親交を深める形も可能になるのではと愚考します。
他にも美空と光璃の元に始めから“長篠の天上人”として剣丞が召喚されたら面白いかもしれません。
ですがそうなると途轍もないボリュームになるのは誰の目にも明らかです(笑)。
なので、その辺は私の妄想に留めて置きたいところですが、できれば“真”という形でやって貰いたいのが本音ですね。
スタッフさんが北条編で力尽きた印象なので、物語の行く末としてはもっと続けられる余地が十分に残されていますから。
(毛利や伊達、島津とかの新武将も期待しています)

とまぁ、そんな不満点もちらほら有りましたが、終始飽きの来ない展開を迎える事が出来て大変満足しています。
シナリオゲーというよりは、キャラゲーとしての見方が強く、長い時間を掛けてプレイするのでヒロインに愛着が非常に湧いてきます。
その結果プレイ後に『○○は俺の嫁!』と豪語するプレイヤーが何人も派生していることでしょうね。
ちなみに私はものすご~~~く悩みましたが、一番を挙げるならば“歌夜”に決めました。
(理由は長くなるので割愛します。読んでも多分つまらないでしょうしね)

あとこの長文で書きたかった事で、本郷一刀と新田剣丞の比較検証をしたかったのですが、微妙に本題とずれましたので、これはまたの次の機会にでも取っておこうと思います。

それでは
長い文章を最後までお読み下さり、ありがとうございましたm(_ _)m