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peacefulさんのeuphoria HDリマスターの長文感想

ユーザー
peaceful
ゲーム
euphoria HDリマスター
ブランド
CLOCKUP
得点
82
参照数
1745

一言コメント

プレイ中、本作の元ネタと思しき映画が幾つか浮かんできました

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

HDリマスターと大層な響きですが、単に画質が良くなったのと画面サイズが大きくなった以外に特に変更はありません。
(他には対応OSがWin8まで可能になった事くらいでしょうか)
画質といっても素人目にはあまり見分けがつかなかったので、わざわざ割高の新バージョンで買う必要は無かったかも知れません。
(ですが人間心理的につい新しいものを買ってしまい、メーカーの小金稼ぎに協力してしまうんですけどね)

それでは早速本題の感想に移ろうと思いますが、これほどネタバレが致命的な作品もある意味珍しく思えます。
ネタバレ注意のタグは付けましたが、あくまでプレイ済みの方のみこれから先をお読み下さい。













私が本作をプレイ中、最初のインスピレーションとして浮かんだのが映画『キューブ』(1997)になります。
目が覚めると謎の立方体に捕らえられた7人の男女。
誰が何の目的で閉じ込めたのかも分からないまま、死のトラップが張り巡らされた立方体からの脱出劇。
奇しくもオープニングで最初の一人が亡くなり6人で挑む所や、壁面の発光パネルが白の時の背景描写、
それと罠を凌辱エロスに変更すれば、何だか非常に似かよった設定に思いませんか?

どちらも謎を解明する為に、常に会話や状況に隠された意図を汲み取るように神経を張りめかすことで、
主人公等と一体となり緊迫感を持ってゲームに望むことができます。
参考にしたかどうかは分かりませんが、オマージュ作品として近い部分が私には感じられました。
ですが本作の方が困惑や疑念、諦観や拒絶といった感情の動きが理解しやすく、
ゲームという名の下で行われる過激で理不尽で残酷な暴力と、恥辱で汚濁にまみれた暴虐の宴が良く表現されていると思います。


次に地下施設のゲームが始まる先駆けとなった学内のデスゲームについては、そのまま映画『バトル・ロワイヤル』(2000)が当て嵌まります。
余りに有名な作品な為あらすじは割愛しますが、武装した学生同士の区域を決めた殺し合い、
首のチョーカー型機械には流石にパクリと言われても仕方がないのでは?
またこれに関しては、あまり本編でも深く触れずにほぼ回想のみというスタンスで仕上げた点からも、
少なからず製作側にパクリの自覚があったのではと思われます。

それを鑑みてかどうか分かりませんが、地下施設からの脱出後には、
これまでと指向を変えてオリジナリティを出すべく支配体制を前面に押し出したり、
世界観に少しでも変革と厚みを与えるべく宗教ネタに走ったりと、ライターの試行錯誤による形跡が伺えます。
最もこの辺りになると、今まで持続していた緊迫感が薄れ、シナリオが平凡並に下降したように感じられました。
特に宗教ネタは物語上絶対必要かというと、私には必ずしもそうでもないと思われ、
むしろ組み合わせの悪さと迷走感が増して、本作のインモラルハードコアのイメージを著しく歪めた印象が強いです。
また本作のテーマ性でもある主人公の「選択する優越/支配する悦び」が鬼畜√以外、一気に瓦解したのは残念でしたね。
ですが偽善者ながらも人として生きる為には、自らの手を汚さないと前に進めないシナリオには痛烈な皮肉を感じました。


さて最終章の目覚めと楽園への扉になりますが、代表的なのはやはり映画『マトリックス』(1999)ですね。
これも超有名な為詳しくは省きますが、主演のキアヌ・リーブスが現実に目覚める場面は今でも印象に残っています。
それはそうと、人間の認識する世界は全て脳の中で展開されているデータを認識しているだけと云われています。
例えば、私たちが見る景色は光の反射や屈折によって網膜に映った画像を、視神経を通して脳に送信される事で認識します。
しかし実際は、それは正確な画像ではなく欠落した部分を脳内で補正した(作られた)画像だというのが正しく、
音や匂いは空気の振動や成分を、味や触覚は電気信号による神経伝達物質を介して脳内変換されています。
つまり私たちの現実は脳内認識により決められており、この脳内のデータ処理に意図的に干渉できる事が、
この物語の根幹を築き上げている設定といえるでしょう。
こうした洗脳にも似た現実の改変モノは、もはやセンセーショナルとは呼べないモノになっているのが現状です。
しかし伏線回収という意味で、物語に一本の筋を通して、整合性のあるシナリオを築き上げた完成度の高さは評価されるべきだと思います。


【エロに関して】
本来の目的であるエロについての感想もここで簡単に綴っておきます。
6段階評価だと上から2番目の“かなり使える”に私は評価しました。
原画のはましま薫夫氏の肉感的で淫猥な表情は流石の一言。アヘ顔好きの自分にも見事にマッチしました。
また多くのバリエーションと行為の継続時間の長さ(絶倫具合)は特筆すべき点があるでしょう。
ただ個人的におかずに使えるシーンは全体の3分の2くらいで、残りの3分の1は残念ながら趣向が合いませんでした。
特に茶色の固形物が結構あったのにはちょっとご勘弁を。
しかし最も私が苦手な残酷なリョナ要素がほとんど無い点には助かりましたが(笑)。


【総評】
男は施設から脱出するため理不尽な命令を実行することを決意する。
しかし解錠者という特権を与えられた男の中で、ひた隠してきた欲望と衝動が少しずつ蠢き始める。
葛藤し、苦悩し、無様に足掻きながらも、苦しみもがく女たちの苦悶の表情に破壊願望に似た暴力と紙一重の凌辱嗜好を見出していく。
消せない暗黒の衝動と向き合いながら、人として守るべき者を守りきれるか、獣の情欲に堕ちていくか。
恐怖と欲望と打算と猜疑と不安が渦巻くこの白い牢獄で、二つの感情の狭間で均衡を保ちながら答えを求める物語。

とまぁ、本作の見所としてはプレイヤ―の選択次第で、人間と非人間の境界線上を、偽善と露悪の隙間を彷徨う主人公を演じれることでしょうね。
ですが鬼畜END以外、善にも悪にも振り切れない曖昧で最悪な存在だとしても、人間である事を彼は求めてしまいます。
もう少し尊厳の剥奪と理性の分別を失くした主人公のBADENDが有っても良かったかなぁと思います。
それと彼の異常性癖は元から備わっていた物か、脳内に植え付けられた物かが結構プレイ後気になったりしてました。

あとは、前述したのは本作の表のテーマで、裏テーマに「人間における善悪の内包」が存在するのではと私は考えます。
主人公は当然として、合歓と叶は特にそれが顕著に表現されており、ユーザーが内包する可愛い女子の幻想を壊していく。
コインの裏表のように認識の仕方次第で移り変わり、二面性を帯びた人間の姿を清濁併せて垣間見ることができました。
また極限状態で人間の本性が現出する例として、蒔羽梨香を極端に利己的に仕上げた事で本作の必要悪の機能を担っている点も注視したい。
そして罪悪の痛みを抱きながらも主人公はTRUE√において現実を取り戻してゆく。
この作品の最後に救いという希望を与えた事は、タイトル名の「euphoria」に因んで、主人公とプレイヤーに幸福感を与えたと解釈しています。


総じてシナリオとエロ両面でレベルの高い良作だと判断します。
他に注目すべき要素としては、システム周りが快適で、最後まで気持ち良く使えた点ですね。
あとは青葉りんごさんによるOP主題歌『楽園の扉』の中毒性が凄く、頭にこびりついて中々離れませんでした(笑)。
しかし惜しむらくは、シナリオのオリジナルティという点で若干物足りなかったことでしょうか。
ですがエロゲーにおいて、一度は誰かが思いつきながらも足踏みしていたこの設定を取り入れた挑戦的な姿勢は評価されるべきだと思います。