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peacefulさんのFLOWERS -Le volume sur printemps-(春篇)の長文感想

ユーザー
peaceful
ゲーム
FLOWERS -Le volume sur printemps-(春篇)
ブランド
Innocent Grey
得点
77
参照数
631

一言コメント

冒頭文「起動後は現実から離れ、少女たちとの甘美な百合の世界をお楽しみくださいませ」→攻略後「う~ん、これは甘美とは違うんじゃないかなぁ?」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

花たちは美しく芽吹き始め、学院を鮮やかに色付かせる
花は愛情を込めて育てないと枯れてしまう。だから水を注ぎ栄養を与える
アミティエや友人から貰ったかけがえのない沢山の宝物を糧に、心を育て歩み続ける少女たちの物語




Innocent Greyとして挑戦した意欲作。
というより百合をこよなく愛する者(杉菜水姫)の意向によって製作された趣味作品。
昨今の萌えや過激な表現を重視した百合作品が多い中、
本来最重視されるべきプラトニックな恋愛と少女たちの成長をテーマとして、原点回帰を目指した企画が練られている。

主な要素として
・結果より過程を重視したプロット
・可憐で初々しいまでに純粋な少女たちの姿
・文学的で耽美な文章
・そしてそれらを彩る美しい音楽 etc……

これら全ての要素が調和した心地よい旋律を奏でることで、
百合好き以外のプレイヤーでも不思議と興味を引き立てられる良作に仕上がった。

だがそれ故に最後のシーンが悔やまれる。
唐突に訪れた幕切れは先の展開を望む声を後押しするが、春篇という作品自体の評価を引き上げる事には繋がらない。
4部作の構成を取っているがために本作が未完なのは致し方ないが、スッキリしないモヤモヤ感が心の奥底に残る結末だった。

またInnocent Greyといえば推理物の代名詞である。
それは本作にも踏襲されているが、求めていたイメージとは異なる印象を私に与えた。
これは他の方のコメントにも見受けられるが、ユーザーが共に思考し楽しめる一体型ではなく、
主人公である白羽蘇芳のみの視点と思考(発想力)で綴られる推理物だという点。
彼女しか知りえない情報を駆使する辺り、プレイヤーは主人公と共に表舞台に立つこと無く、観客の立場へと甘んじることとなる。
知識と情報の共有をプレイヤーと行い、主人公とフェアな立場で楽しめる推理物を夏篇に期待したいところだ。

あと一言感想で記載したが、この物語において甘美な百合の世界を堪能できたかというと思わず唸ってしまう。
どちらかと言うと女同士の嫉妬や葛藤から来るドロドロした展開の方が印象に残ったのが本音。
(その原因の大半が眼鏡委員長なのだが………)
それと蘇芳の性格からして、どことなく影のある暗い雰囲気が付き纏うので、“甘美”という言葉に最後まで違和感を拭えなかった。
これがもし主人公が男(男の娘)だった場合、私には到底受け入れられない存在になっただろう。
美少女(百合)のみの構成だからこそ許されるストーリーであり、そうした意味で本作は男という不純物を除いて(非18禁にして)正解だったと思える。

最後になるが、次も白羽蘇芳が主人公だった場合、先の理由から次作を敬遠していたかもしれない。
しかし続編(夏篇)は主人公が蘇芳から車椅子の少女にシフトするので、今回とは異なる世界観を堪能できそうであり期待が膨んでくる。
百合に今まで興味は無かったが、こうした儚くも美しい世界観もありといえば有りかも知れません。