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peacefulさんの海空のフラグメンツの長文感想

ユーザー
peaceful
ゲーム
海空のフラグメンツ
ブランド
root nuko
得点
79
参照数
2052

一言コメント

本作は主人公とシナリオ展開にどれだけ許容できるかで評価は分かれるだろう。問題点も多いが、ある程度妥協点を模索して本作の本質を突き詰めると、なかなか興味深い良さを見つける事ができる作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

主人公である中上神の視点で綴られる青春劇。
過去を引きずる形で思い出の地の学園に転入したのだが、その途端に語られる学園廃校の知らせ。
限りある学園生活を悔いの無いようにするため、皆の憧れと尊敬を集める生徒会への入会を希望する。
そこは女性だけの集団であったが、その中にかつて約束を誓った彼女に似た人が生徒会長として存在していた。
自分を慕う後輩と共に何とか希望の生徒会へと入会を果たすことになる。
しかし程なく、廃校への反対運動が学生の一部で勃発。
そして主人公は個性溢れる生徒会女子メンバーから共に歩む人を選択する。




*ここから先、重度のネタバレを含むので未プレイの方は閲覧注意*







この物語は生徒会長である紅月遥と結ばれるためのストーリーである。
後のヒロインは其処に至るまでの寄り道といっても過言ではない。
しかしその寄り道における過程は無駄ではない。
むしろ四人のヒロインとの交流は、称賛できるほどの良シナリオだった。

四人のヒロインの話はここでは置いておく。
それよりも、この作品のシナリオ構成について述べておく。
それは、この話が単なる学園ラブコメストーリーではなく、ループ物だという事実。
遥以外の四人のヒロインを攻略すると、遥ルートのロックが外れる仕様だった。
それまで好感度が上がる選択を遥に続けても、振られる結末しか訪れないので、明確な攻略推奨順が存在する。
そして見事遥ルートに到達すると、全てが過去のやり直しであると判明する。
時間軸としては四人のヒロインルートと交わらず、生徒会にも入らない無為な日々を過ごした数年後の世界。
そこで神様?のような存在の百先生が、中上に過去のやり直しを提案する。
過去に後悔している中上はこれを受け入れ、現在の記憶が徐々に薄れる形で、もう一度学生時代を体験する。
そして特定のヒロインと結ばれる度、現実に戻ってもう一度過去をやり直していた。
都合最低四度のやり直しを中上は体験したことになる。

こうしたループ要素を本作は備えている。
また、これまでのヒロインルートとは異なり、いきなり神やら妖精やら死神といったファンタジー展開が遥√に絡んでくるため、
プレイヤーは大いに混乱し、これまでの世界観の破綻が伺えるシナリオ構成だった。
これについてこれないと匙を投げる方の気持ちも当然理解できるし、
今迄のヒロインとの恋愛を無かったもの、もしくは遊び感覚で付き合ったのかと、主人公に不快感を示す方もいるだろう。
特に遥以外の特定のヒロインが好きな方は受け入れにくいシナリオ構成に違いない。
今まで過した彼女との思い出を全部蹴って、遥へと付き合うルートに終始してしまうのだから。
他にも主人公のノリが嫌いだという要素も含めたのが、本作の低評価の原因だと思われる。
だが本作にはそうしたマイナス要素以外にも、特質すべき評価される点が存在する。
つまりある程度妥協して本作の本質を掴むと、思ってもない良さを見つける事ができた。

本作を終えて振り返ると、主人公中上神の軽薄な態度と積極的な行動力に理解が及んだ。
私は既に学生を卒業した身であるが、学生時代に後悔が無かったと言われれば、そんなことは無く、
「あの時ああすればよかった」と思えることが何個も思い浮かぶ。
もし過去をやり直せるとしたら、私も受け入れてしまうと確信がもてる。
そうなった場合、彼の立場を自分に当てはめて考えると、学生時代にやならなかった行動を起こそうとするだろう。
つまり私は主人公の行動や態度に深く共感してしまった。
言論や態度一つとっても、変わろうと足掻きながら四苦八苦してる姿が見て取れる。
悪く言えば開き直り、良く言えば挑戦的に物事に深く関わることで、渇ききった青春を潤そうとしている。
なので気になった子に積極的にアプローチするのは不自然な行為でなく、当然の行為と肯定してしまう。
だが彼は結局四人との交際を捨てても、遥の面影を一途に追うことになる。
なぜ何度も過去をやり直すのかは、遥との思いを捨てきれずにいたからであろう。
彼女との愛を築くために、諦めなく妥協しない主人公であり、
道化の仮面を被ってでも仲を取り持ち深く関わろうとする努力家の側面が見えた。

しなしながらあまりに荒唐無稽なシナリオは、客観的に見て作品全体の評価を著しく下げている。
それは本命以外に四人も手を出した主人公も例外ではないだろう。
だがメタ視点で考察すると、この主人公の行動はエロゲーマーに共通するものがある事が分かる。
要は何でもいいが、あるエロゲーで複数のヒロインが存在し、攻略対象に含まれた作品をあなたはプレイするとする。
さて私達は本命と決めた特定のヒロインだけを攻略し、あとのヒロインは攻略せずに放置して終わるのだろうか?
いやそういう人も本当に稀にいるかも知れないが、大多数は全ヒロイン攻略のコンプリートを狙うと思う。
達成感や満足感もそうだが、そもそもCG・Hシーン回収も含めて全て見ないと作品の良さを評価できない事が大きい。
この思考回路は理屈じゃない部分も含まれており、ある種の強迫観念にも似た(性的)欲求にも起因している。
(ちなみにジャンルも関係しているが、ここでは恋愛ゲームを元に書いている)
まぁぶっちゃけると、やり残しは気持ち悪いというか、他の娘ともエッチしたいのはエロゲーマーの性(サガ)だということ。
これを本作の主人公に当てはめると、彼の行動に少なからず理解というか共感を覚えてしまう。
何度かのリプレイが約束された人生を、果たして全て本命な女の子に注ぎ込むかは個々人によると思うが、
少なくとも現在エロゲープレイしている私は、そのような一途な想いを抱き続ける自信がない。


さて少々脱線したが、今作では各ルートに見られる、どうしようもない現実がシナリオに組まれている。
共通ルートでは、学園の廃校は覆らず。
悠里ルートでは、親が交際を認めず。
樹雨ルートでは、観光開発に屈し、家を失くし。
椎ルートでは、パペットおじいさんが病気になって。
遥ルートでは、思い出の彼女が双子の姉で、既に他界している。
ミソラルートでは、自殺未遂……これは違うか(汗)。

こんな風に、物語上どうしても解決できない壁が存在する。
ある意味、フィクションな世界であっても、過酷な現実を読み手に伝える意図があると考察する。
そうした状況にあっても妥協点を探して、奔走することの大切さがうかがえる。
ある意味綺麗なENDは存在しない。
理想的な結末を追い求めても、それでも叶わないなら理想に近づける結末を追い続ける。
世の中の縮図に倣って、現実問題と向き合うための例題を用意した作品と見て取れる。
(少々大げさかもしれないが)

総評すると、先述した問題点以外にも、主人公によるミソラへの謝罪の描写が無いや、
遥ルートの最後がいかにもご都合主義的な展開だったとかも評価は下げるだろう。
そうして鑑みるに、決して名作にはなりえない作品である。
ですが、学園祭を盛り上げた経験がある私にとって、どこか郷愁を呼ぶ思いを巡らせ、
限られた学園生活を懸命に過ごす主人公等に、応援したくなる気持ちが生まれました。
また実用性が非常に高く、最近プレイしたシナリオゲーの中では最も満足しています。
そうした上でこれからのroot nukoに期待を持てる作品でした。