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peacefulさんのZero Infinity -Devil of Maxwell-の長文感想

ユーザー
peaceful
ゲーム
Zero Infinity -Devil of Maxwell-
ブランド
light
得点
87
参照数
1092

一言コメント

燃えゲーマーにはお勧めの一品です。(前半ネタバレなし)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

(『lightBOX The Great 15th』の同梱作品としてプレイ)

昏式・高濱ラインの二作目。
主人公の人生をメインに据えた群像劇による前作『Vermilion』に対して、
今作は割と本格的なSF・サイバーパンクによるバトルものに仕上がっています。

シナリオ:昏式龍也 (企画原案のメインライター。共通、エリザベータ、マレーネ√担当)
     高濱亮  (ディレクター。ジュン√担当)
     無義歩  (美汐√担当)
     吉藤誉将 (Hシーン担当)
原画:泉まひる、さるか、夕薙
音楽:与猶啓至
 歌:凛

【あらすじ】
舞台は1960年代。人類が夢を、可能性を、科学という信仰に託した時代。
未来へ馳せた数多の科学幻想が世界に蔓延る中で、人知れず人智を超えた科学技術を管理する組織があった。

その名は「時計機構(ホロロギウム)」

日本の一都市に住まう少年「秋月凌駕」は、時計機構の織り成す異常な現実に巻き込まれ瀕死の状況に陥る。
しかし時計機構に反旗を翻す者たちにより、鋼の心臓「刻鋼式心装永久機関」を移植され生を繋いだ。
それを胸に宿した者は、近代兵器を遥かに凌ぐ力を身に纏う超人と化すことになる。

その名を「刻鋼人機(イマジネーター)」

図らずも凌駕は、自らもまた刻鋼人機として時計機構との戦いに身を置くことになる。
彼は戦いの果てに何を見るのか?そして、そこに行き着く結末は―


【感想】
プレイ後に押し寄せたのは、期待以上の満足感でした。
良作と言っても過言ではなく、少なくとも私的にはもっと評価されるべき作品に思えます。
というのも、昏式・高濱の処女作『Vermilion』の問題点をしっかりと改善した節が見受けられ、
燃えゲーとして高い次元へと洗練された印象を強く抱いたからです。

【主な改善点】(詳しく知りたい方は、駄文になりますが私の『Vermilion』の感想をご覧下さい)
・吹き出し表示がなくなったこと。
・登場人物における声優さんへの配役の妙。
・燃えゲーにおける燃焼率の向上化。
・魅力あるキャラの増加と敵方のカッコ良さが同居。
・抑揚のあるテキストに変更とCG数の微増(一枚絵においては改善)。
Etc…

(以降、ここから重度のネタバレが入ります。未プレイの方はくれぐれもお気を付け下さい)










【登場人物批評】

・秋月凌駕(主人公)
あらゆる外的な事象に対し、常に自己の均衡(バランス)を失わない事を信条としている少年。
自身は平凡で中庸な生き方を望むが、その精神の在り方は極限の逆境においてこそ真価を発揮するという、ある種矛盾した特異な人物像を有している。
また、それを自覚した世渡り上手でもあり、シスコンとしての性質も兼ね備えている、ある意味超人!?

プレイ直後から“平穏中庸普遍バランス均衡平均普通プラマイゼロ”と生き方を主張して五月蠅いですが、
端から昏式は読み手に対する主人公の共感性を狙っていないと推測できます。
言わば、人間の高尚な部分だけを取り挙げて形になったような奴であり、
他人とは相容れない(真似しようにも出来ない)独自の価値観を披露して、主人公の個性の確立と物語の中核となる部分を上手く纏めた印象です。
故に、彼に投影する主観的立ち位置よりかは、ある種観客として鑑賞する客観的立ち位置でプレイするのが理に叶っているといえますね。
ですが主人公の信条に対する是非はこの際おいて置くとして、読み手が好感の持てる人物に仕上がっている点は高評価です。


・メインヒロイン陣(ジュン、美汐、エリザベータ、マレーネ)
彼女達の説明を省いてはっきり言いますが、今作には看板ヒロインが不在というのが私の結論です。
Diesだったらマリィ、Fateだったらセイバーのように、その作品を連想し代表するヒロインの存在は必要不可欠なファクターなのですが、
今回に限って言えば、「Zero Infinityを代表するヒロインは誰?」と問われて真っ先に思いつく人物は残念ながら浮かび上がりません。
強いてあげるなら作中の立ち位置やパッケージから鑑みて“ジュン”といったところでしょうか?
確かに彼女自身悪くはないのですが、如何せん中身が平凡で、魅力の面では薄く、総じて荷が重い気がします。
(『lightBOX The Great 15th』の正面パッケージデザインにも選ばれなかったぐらいですから……)
これは他のヒロインも同様で、特筆したヒロインの存在を確立できなかった点は、今後に向けて重く受けとめて欲しい所です。
(前作の『Vermilion』でも同様ですが、漢キャラに力を入れ過ぎて、ヒロインの魅力があまり感じられないのは問題でしょうね)


・緋文字礼
先述した看板ヒロインの存在ですが、ぴったりと当て嵌まる人物を思い出しました!
それがこの緋文字礼だと思います。しかしながら男ですが……。
仲間の絆を妄信し、凌駕と友情以上の何かを感じずにはいられない、その結果が最終ルートの合体です。
果ては男二人同期した形で一年の星間旅行ですかぁ。他のヒロインの立つ瀬がないですね。
こうした腐女子が湧くホモ?的展開は前作からも見受けられましたが、もう一度続くと流石に嫌気がさしてきます。
始めは高濱が怪しかったのですが、彼らの作品群全般で見るに昏式の歪な性癖が反映されているが気がしてなりません……。
それと原画のイケメン感が強すぎるのも拍車を駆けており、個人的にはもう少し砕けて貰った方が良いのですが、
そういう世相なんですよねぇ~。仕方ないかぁと自身を納得する事にします。


・敵キャラ勢(アレクサンドル、イヴァン、アポルオン、オルフィレウス)
今作はいつにも増して、敵キャラ全体が秀逸の出来です。
彼らの生き様とぶれない信念は、思わず心躍るものがありました。
またオルフィレウスの全能感と俯瞰視点、そしてこの逸脱した価値観と傲慢な主張、

『科学に膝折る有象無象の衆愚共。熟れた果実を待ち焦がれよ。涎を垂らし、家畜となって口を開け、与えられた施しを貪りながら踊るがいい』

これぞラスボスの風格と言えるでしょう。相手にとって不足なし!不遜の王者に思いっきり挑めます。
さらには彼らの思想にも共感できる所が多く、敵ながらカッコ良く仕上がっていました。
ただし鵺乱丸は例外。凌駕へのアンチテーゼや美汐への当て馬的役割として作中で必要なキャラですが、
あまり好感の持てる人物とは言い難いです。個人的に必要悪と割り切りましたが……。


・その他(サブキャラ)
高嶺が攻略できたら良かったのに~と常々思います。妄想世界だけじゃ物足りません!
でも主人公があんな性格なので、現実で近親相姦はやっぱり無理でしょうね。
あとのカレンと切は、う~ん、掴み所がなさ過ぎて書く事があまりありませんでした。


【シナリオ批評】
今作は明確な攻略推奨順が為されており、美汐・エリザベータ→ジュン√で一応完結していますが、
最後にマレーネ√を持ってきて、複線回収を含めた総括とFD的役割を担う完璧な布陣を敷いた構成に思えます。
そして何よりも今回は、派手な戦闘エフェクトによる熱いバトル展開以外にも、
物語の本質にあたる“強者と弱者の視点”、“科学振興の未来”における読み手への訴えが非常に深いです。
言わば、昏式によるライターの主張が全面に表出した作品に思いました。

万人が好むように、彼の得意な作風であるダークで殺伐した世界観を幾分抑え、
高濱による少年漫画的な熱血も上手く取り入れられている印象を受けます。
またバトルの臨場感も然ることならば、戦闘中の舌戦も凄まじく、感情と理屈の双方を重視したシナリオ構成はお見事!
登場人物一人一人にドラマがあり、総じて良質な人間賛歌を魅せて貰いました。
(最も今作にはDiesの影がちょくちょくチラついてきました。ですが良くも悪くもDies好きなら好内容だと思います)

ただ今回も少々苦言がございます。
やはり複数ライターの弊害の影響で、美汐√は総じて残念な出来。
また最終決戦の際忌避性対人誘導音波(マンドレイクジャマー)で街の皆さん全員眠ったけど、
被害状況的に巻き添え喰って負傷もしくは亡くなった人が必ずいると思います。
それを放置して話を進めて、綺麗に締めるのは流石にどうかと?
あとは全般的に口上が長く、話のテンポが少々悪いのは今後に向けての問題点かと愚考します。

あと最後に一点気になったシーンが……。
マレーネ√の最後のシーンで、マレーネと切が想い人を待ち望んで、空を見上げるのですが、
いつもの昏式節なら必ずと言っていいほど、これで幕を閉じると確信します。
何故なら彼は「墓参られ萌え」という独自の特殊趣向を自分の作品に投影する困ったライターであり、
本作に限れば、主人公はお星さまになってヒロインは哀愁を帯びた表情で想いを巡らす、
そんな切ない終わり方が私には想像できるからです。
しかし今回は主人公生存という形で地球に帰還するシーンでFINとなっています。
これはあくまで私の想像なのですが、おそらく最後のシーンにテコ入れ、もといプロデューサーの圧力が働いたのではないでしょうか?
流石に二作続けて主人公が生死不明というのは、縁起や後味が悪すぎるというものですからね(方向性やオチも決まってしまいます)。
穿った見解になりましたが、個人的に主人公が生きていて本当に良かったです。
もし主人公がまた生死不明もしくは死亡なら、私の評価も下がって皆様にお勧めしていないと思うので……。


【メカニックデザイン・能力批評】
もはやlightの燃えゲーの慣習(お家芸)となりつつある詠唱を本作も踏襲。
ただその詠唱は、自分の無意識下のシャドウ(G.G.ユング提唱:許容できない暗黒面)に訴えかけるものがあり、
恐らくはATRUSのペルソナシリーズを少なからずオマージュしたのではないでしょうか?
また輝装、影装、心装と何処かで目にしたメカニックデザインを模倣しながら四苦八苦した痕跡が見受けられます。
これも多分ですが、SUNRISEのスクライドや聖闘士星矢の聖衣(クロス)を参考にしたと推測します。(間違いでしたらスミマセン)

模倣を積み重ねてオリジナリティを模索し創造することは、今の時代当たり前となっていますが、
もう少しライターや原画家達の個性(独創性)を前面に出した詠唱やデザインを見てみたかったです。
最後の凌駕の心装形態(パーソナル・アタラクシア)なんて、重量級ガンダムを連想させるようなゴチャゴチャしすぎて微妙な上、
オルフィレウスの最終形態(エターナル・クロックワーク)が、謀RPGでLv.30くらいのモンスターにしか見えなく、
ラスボスの最後の姿がスライムみたいなのには流石に呆れました。

そんな中で、
イヴァンの輝装・叫喚滅爪(デッドエンド・スクリーマー)、 影装・鋼蜘戦車(アレクニド・チャリオット)
オルフィレウスの頂弩械剣(アルティメット・イグジステンス)

は精巧な装飾と意外性が兼ね備わり、デザイナーの真価が発揮された面白いデザインだと思います。

あとは能力に関してなのですが、大体チートですよね(笑)。

・心装真理・夢も現も、幻想に舞う連鎖なり(ロンド・オブ・ファントム)
可能性世界の果てまで観測域を拡大し、手に入れた情報から正確に平行世界の存在と出来事を再現できる。

・心装真理・均衡の彼方に、森羅掌握されるべし(デビル・オブ・マクスウェル)
森羅万象を計測し、理解することにより、熱を基準点として完全現象操作を行使できる熱力学の悪魔。

・心装真理・秩序を求め、混沌を擁する(デビル・オブ・マクスウェル)―之即ち“人”の生きる真である(パーソナル・アタラクシア)
他者在っての己であり、己在っての他者であるという真理の融合。
「人類が存続するに最も適した環境へ、現象を調律する」
暴風はそよ風に、業火は焚火に。
数多の可能性世界を観測することによって割り出した世界が続く上での最適値であり、
彼が存在する限り、何者も星の均衡(バランス)を崩壊させることは出来ない。

↑最後の何てわけわかんないです (笑)。要は何でもアリという事なのかな?
もう少し頭の悪い私にも単純な能力にして欲しかったです。



【Hシーン批評】
まず私の持論としては「18禁燃えゲーには必要最低限のエロシーンがあれば良い」ということ。
“エロゲーでありながらエロを重視しない”というのは矛盾をはらんでいますが、そういうのは抜きゲーに任せるべきであり、
それよりも燃えゲーはシナリオにこそ心魂を傾けるべきだと思っています。
おそらくですが、燃えゲーにエロを一番に期待してプレイする人はまずいないのではないでしょうか?
最優先にすべきは熱くなる展開であり、どちらといえばヒロインはHシーン1~2回あれば私的には十分に感じます。
これは制作側も大体同意見で、購買率や反響次第であわよくばコンシューマー化を狙っており、
そうなるとエロシーンの多さは邪魔でしかなく、差し替えも大変になっていきます。
故に、18禁燃えゲーの大半は暗黙の了解でHシーンが少ない傾向に落ち着いているのが昨今の現状です。

何だかエロゲーマーなら当たり前の事を論じましたが、今回はその例外ともいうべき措置が成されています。
それと言うのも、わざわざ本作はHシーンの担当のライターを採用し、ヒロイン一人辺り3~4回と濃厚なHが用意されました。
(サブヒロインに関しても、一人辺り1~2回用意されています)
おそらく「前作があまりに使えない」というコメントを真摯に受け取った、または他の差別化を狙った結果なのかもしれません。
確かに実用性が高まり、シナリオとエロの充実が成されて良いことずくめに思えますが、やはりこの措置は一長一短に思えます。
何故なら、あまりエロを重要視すると物語のテンポが途端に悪くなりますし、
話に無理やり割り込んだエロがシナリオを圧迫して、方向性に歪な変化を与えるのではないかと危惧してしまうからです。
そして今作に限って言えば、その担当ライターの性癖が登場人物に反映され、物語を歪めている節が見受けられました。
これは主人公にいたっては、常に受け身な上に、汗の匂いフェチという性癖が付属され、
ヒロインは誰もが積極的な痴女で、チャンスが有ればどんどん主人公を誘惑する始末。
(普段の主人公や彼女たちのイメージとは微妙に食い違う印象を与えてきます)

据え膳食わぬは男の恥という諺もありますが、いくら主人公が朴念仁でも直ぐにヒロインが関係に走ろうとする辺り、
思わず『ジャンルが違うのでは?』と作品の根幹を揺るがす事態に陥ったのではないかと心配してしまいました。
あまり軽視するのもエロゲーとしての体裁を壊してしまいアレなのですが、個人的には必要最低限であって欲しいところです。


【総評】
総じて、久々に読み応えのある18禁燃えゲーを堪能できました。
登場人物一人一人辺りバックボーンがしっかりと描かれているのも然ることながら、
BGMは与猶さんなので安定した質の高い楽曲を提供して貰い、相変わらず最高の出来でした!(時計音は慣れれば気になりません)
またプレイ中のテンションを上げる醍醐味な戦闘シーンも熱中できるのが多かったです。
特に、
アレクサンドルVSアポルオン
イヴァンVSネイムレス(最終ルート)
凌駕VSオルフィレウス(ジュンルート)

は演出・燃焼率共に画面に夢中になってのめり込んでいく程でした。
ただ時代背景に関しは素直に疑問視。別に現代でも構わないと思うのは私が浅薄だからでしょうか?

そんな感じで前作『Vermilion』からの進歩が伺え、意外にも(失礼)期待以上のものが用意されて満足です。
これは彼らの今後の作品に大いに期待できる代表作になると思います。
以上。長い駄文にここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。