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peacefulさんのWorlds and World’s end ~ワールズ・エンド・ワールズエンド~の長文感想

ユーザー
peaceful
ゲーム
Worlds and World’s end ~ワールズ・エンド・ワールズエンド~
ブランド
root nuko
得点
82
参照数
337

一言コメント

不覚にも涙を流してしまった

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

平穏で平凡な、そんな日常生活。
けれど、ある日の夜の境に、予期せぬ形で・・・。
4月1日午前3時58分。世界が終る。

多くの人が目覚めず、その時間に起きていた人間のみが、明けない夜が続く世界に取り残された。
其処で繰り広げられる出来事を、3人の主人公の多重視点で描く、少年少女たちの群像劇。


【注意】:ここより先はプレイ後を推奨。「未プレイだけど別にいいや」という方は良ければ続きをどうぞ。













完璧にネタバレになりますが、敢えて語ります。明けない夜の原因は不明のままだということを。
作中でも憶測は行き交うのですが、結局は最後まで分からず仕舞いの有様。
それ故に、この超常現象に対して何の解決もできません。
世界の終わりは極めて唐突で理不尽で人間には無力だということ。
ある意味ご都合主義やハッピーエンドなどを払いのけた現実的な落とし所(妥協)に落ち着いた作風と言えるでしょう。
因みに一意見として、もしそこに明確な理由を求めて、例え真実と云うモノに辿り着いたとしても、
夜に閉ざされた世界がどうにもならなければ、慰めにもならないと私は思います。
(むしろ知らない方が良かった可能性も捨てきれない……。これは後に綴ります)

総じて、賛否両論の結末やそこに至るまでの過程も踏まえて、多くの方が低評価する理由は理解できます。
特に世界観が似ている『CROSS✝CHANNEL』が好きな方には拙く見えるかも知れませんね。
他にも色々な点が中途半端な上に、伏線回収も大雑把な印象を与えるので、
私の様な高評価がマイナーであるのは自覚しています。
しかしながら、この作品の本質は別の部分に有ると私は思うのです。

朝が来ず、夜が続くという身近ながらも異なる世界の終わりに直面した時、
登場人物達の立場を自分に置き換えて、何を思い、どのように行動するか。
自身の想定する答えを導き出す、手助けに繋がっていく物語と評価しました。

絶望し、涙し、悲嘆にくれ、自暴自棄になり、あげく人の尊厳を失う。
それは確かに人の一面ではありますが、実際はどんなに苛酷な世界でもそこに順応し生きる可能性を模索するのが人間だと私は思います。
当初、深刻な事態なはずなのに、彼らは何処か興奮冷めやらぬ、悲壮感すら抱けない。
身近な夜の世界に心と体がセーフティをかけたかも知れません。
それ故、明けない夜という超常現象に、実感として伴わない感覚が妙にリアルに伝わりますが、
徐々に戻れない現実に意識が浸透していくにつれ、悲しむよりも此の先の未来へ進む道を主人公達は選びとっていきます。
それは光の場所や、宗教や家族、または想い人と供にいる事など。
年不相応な冷静で達観した生きる価値観は、あるいは哲学に通じる深みを感じ取れました。
言葉の裏に隠された意味を汲み取れるテキストが、自分には合っているのでしょう。
不条理に憤るよりも、此の先の希望に縋る強い人間性を魅せてくれるのが本作の本質なのではないでしょうか。

そして徐々に主人公の一人が真実の一端に触れていくのですが、
それは世界の終わりは、その時間に起きていた人に降りかかった悲劇であり、
眠りから覚めない人達は、別の世界(朝と夜が来る日常)で生きているという事。(並行世界設定)
例えると、世界の更新プログラムのアップデート中に、エラーとして弾かれて、元に戻れなくなったと解釈しています。
そしてアップデート後の世界(日常)では、夜の住人達の痕跡は残されていても、記憶や存在が無かったことされてしまったのです。

ですが、一つの携帯電話のメールの誤送信=バグによって、あるヒロインと主人公が世界を隔てて繋がっていきます。
メールには時間差があり、夜の世界の1日が、元の世界では一月に相当する場合も…。
さながら映画『秒速5センチメートル』の様。
しかしながら、その時間差はお互いの意識の距離が縮まる事で解消され、
当初彼女は世界の断絶により彼を覚えていませんでしたが、
彼の綴る文章に不自然な心の空隙を埋めることによって、
徐々にメール相手の想いに馳せる様になり、ついに世界を隔てた事で忘却された記憶を思い出します。(互換性設定)
その時の感動は、恥ずかしながら自然と涙を流してしまうほど。
其処から紆余曲折あり、一度は狭間で再開しますが、そんな都合の良い奇跡など何度も起きず、
いずれお互いが忘れ去られていく過去として生きるということを余儀なくされます。
果たして其れは彼と彼女の慰めになったのか、知らなければこんなにも辛い気持ちを抱くことはなったかも知れません。

ですが想いだけは忘れずに各々の未来を生きる。
挫けずに前に進んでいくことが出来るのが、彼らの素晴らしい美点だと思います。
綺麗事だけではない現実で、救いを敢えて作らない手法ですが、
お互いが孤独ではない(仲間がいる)という事が、何よりも生きる強みになっていくのでしょう。
最後の結末は賛否両論ですが、プレイして自分は良かった感想を抱きました。

世界を隔てた恋をする群像劇。
ほんの少しの希望を残すのが気に入ってます。