あの日辿る筈だった道をハミダした先にあった高飛車だけれど純真なお姫様との恋物語。相変わらず取っ付きやすく受け止めやすいテキストは健在、楽しく読み進められました。恋愛描写も丁寧でしたし、本編ではマイナスイメージが付き纏っていた莉々子という少女をここまで魅力的に描ききった点には思わず脱帽。素晴らしいFDでした。
相変わらず主人公は褒められる人間ではありません。
根底にあるクズさも含めて物語の主人公にしてはあまりにも不適な男でした。
けれど莉々子にとっては彼は間違いなく王子様で、彼女が思い描いたロマンチックな物語の主人公は彼以外有り得ないのだろうね、そんなことを思ったり。
本作は無印本編、人によっては莉々子という少女のイメージがどん底まで落ちたであろうあのシンポジウムの後から始まります。凸みたいな後日談ではなく、本編からの分岐。
彼女の最悪すぎるムーブや発言は記憶に残っていたので正直本作に対する期待はあまり高くありませんでしたね、これは本音。故に本作情報公開時はあまり魅力を感じていませんでした。
しかし流石のハミクリ、話の拡げ方が上手い。
彼女に付き纏うマイナスイメージや人物像を1度忘れさせてしまうような、意外で好ましい一面を序盤からしっかり提示して、主人公とのコミュニケーションを通じて彼女の人となりの掘り下げをしてくれました。
そこから見えてきたのは高飛車だけれど根は純真で乙女チックなどこにでもいる普通の少女像。
この時点で私がこの莉々子という少女に抱いたイメージは反転していました。悔しいけれど、本当に上手い。
そんな彼女と言葉を重ねていくうちに互いに意識し合って…という展開は王道ながら、この部分を凄く丁寧に描いていたなと感じました。
段々と距離が近づいて意識し始める瞬間、付き合う前のもどかしい空気感、付き合ってからの甘い雰囲気、その全てを過不足なく供給してくれました。言葉と想いを投げかけて心を通わせる…そんな恋模様、好き。
久しぶりに内なる自分が「はやく付き合っちまえよ〜!ひゅー!」と野次を飛ばすくらいには甘酸っぱくて初々しさ溢れる青春がありました。
そして恋をすることで彼女のマイナスイメージの原因であった難ありな内面に変化が見られるのも良い点だったなと感じました。
かつてはインターネット上でレスバを繰り返したり、同調圧力の権化、まるで悪役令嬢とまで揶揄された彼女がいつからか、最愛の王子様は勿論ながら、彼を囲うかつて自らがコキ下ろした他の少女たちや三浦大根足の意見や指摘をしっかり受け止められる。そんな成長を物語を通して見られたことが本当に嬉しかったです。(ぐぎぎりりぎ…ってなってたけどね。根は本当に良い子。けれどまだまだ素直にはなれない所も愛い。)
故にラストシーンの莉々子を囲うようにみんなで写真を撮る一幕では思わず涙腺が弛んでしまったのですよね、不意打ちでした。
その居場所は間違いなく彼女自身で掴んだモノに違いないのですからと。
本作は本編のサブキャラにフォーカスした単独ヒロインによるFDという都合上、どうしても本編ヒロインたちの活躍はあまり見られませんでした(しおぽよはめっちゃ出てくる)が、満足度はとても高い作品に仕上がっていました。
二人の恋模様以外の部分でも日常のなんでもない会話に時には感心させられたり、クスッと笑わせてもらったり。所々でライターさんの手腕の高さが伺えました。
その中でも特に序盤で語られる創作物に対する受け取り手の態度や考えには共感できるものもありましたしね。とても印象に残っています。
突飛で劇的な出来事もなくて、他のヒロインたちと比べてクリエイティブ要素は薄く、文化祭の出し物もこじんまりとしたもの。
それでも本作Re:Re:Callはハミダシクリエイティブの系譜の作品に違いないと間違いなく言える素晴らしい作品でした。