櫻の様に美しく儚い青春
今までプレイしてきたエロゲーの中で群を抜いて人間関係がぐちゃぐちゃな作品。
まさか夏目一家が全員違う血筋だとはプレイ前思いもしなかった。
しかしそのぐちゃぐちゃに張り巡らされた伏線や関係を全て綺麗に回収していく構成力はさすがすかぢ大先生だと思った。
もちろん泣けるルートも多かったが、中には美しく、そして櫻の様にいつか散ってしまいそうな、そんな儚い、余韻を楽しめるルートも多く存在し、「とりあえず感動するシナリオを」と薄い感動を創り出すのではなく、そのキャラそのキャラに適した余韻の残し方が素晴らしかった。特に百合じゃない方の優美endの終わりが一番好きだった。
とにかく長いシナリオだが、その分草薙直哉という人間のありかたが分ってくるような気がする。
決して強いわけではない心で、自分の身を滅ぼしながら周りの人間に幸せを与える。
VI章での「幸福はその裏に不幸が存在する」という直哉の言葉通り、人が幸せになるたびに直哉は大切なものを手放す。
しかしそれは失っているのではなく、託しているのだ。資産も、絵を描くことも、右手の最後の力も。
幸福な王子もそうであったように、自分自身は貧相になっていくが、それは失っているのではなく民へ託しているのだ。
直哉が託した幸福があったからこそ南へ羽ばたくことができた。たとえその後弓張に誰も残らなくても。
VI章の旧美術部員の「昔馴染みではあるけれど今は疎遠な関係」という関係が作り出す独特の空気管がたまらなく寂しく感じた。
それでも直哉は弓張の地で新しい櫻の花を咲かせ続ける。はたから見ると悲しい人生にも見えるし、止まった人生に見えるかもしれないが、それでも花を咲かせ続ける。
プレイ後にこんな通ぶった感想を書きたくなるような、まぶしさで消えてしまいそうな極彩色で彩られた、美しく儚い神ゲーだった。