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otosaregamiさんのSummer Pocketsの長文感想

ユーザー
otosaregami
ゲーム
Summer Pockets
ブランド
Key
得点
95
参照数
1082

一言コメント

───きっと、夏が来る度、思い出す。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品の発売日である6月29日。仕事が休みだった自分は、秋葉原へと予約した本作を受け取りに行っていた。
茹だるような暑さだった。目的もなしに外を出歩くのは自殺行為だと思うほど。

そもそもが暑がりである自分は、夏という季節が好きではなかった。大嫌いといっても差し支えはない。
冷房の効いた店内で本作を受け取り、意を決して外へ出る。日差しが照りつけた。

……あぁ、夏なんて、来なければいいのに。


──前置きが長くなりましたが、Summer Pockets、とても素晴らしいゲームでした。


・紬√
なんだかんだ一番泣いたルートでした。
展開としては割とベタで、読んでいる途中でオチが予想できた方も多いと思います。しかし、自分の涙腺のダムは耐えきることができませんでした。

来るはずのない「最高に楽しい未来」を、悲しい現実から目を背けて一生懸命に語り続ける紬と静久、そして主人公。追い打ちをかけるような挿入歌。こんなの泣かないほうがどうかしている。

一番最初にプレイしたのが、この子で良かったと心から思います。


・鴎√
シナリオ的に一番納得がいったというか、胸にストンと落ちるような、とても心地よい√でした。
最も主人公が能動的になった√であったように思いますし、展開としても個人的に程よく裏切られて最後までドキドキしながらプレイできました。

この√は泣くというよりも胸が震えるというか、ひたすらに暖かく、健気に頑張る鴎と主人公を応援したくなるようなシナリオだったと思います。

ひげねこ団の一員として過ごした最高の夏休みを、きっと忘れません。


・蒼√
鳥白島の森の中を浮遊する謎の蝶々、七影蝶の存在が明らかになる√。
この√はもうとにかく蒼のムッツリスケベ具合が素晴らしかったです。

蒼の双子の姉である藍の失った記憶を探すことが目的である本ルートでは、双子それぞれの過去の後悔が強く印象に残るように描写されていました。

ヒロインとして一番好きなのは紬ちゃんですが、エロゲヒロインとして見ると蒼が一番好きです。
まぁ和泉つばすさんだし。CGの完成度は他の追随を許しませんね。

エクスタシー版の発売を強く願った、これもまた素晴らしいルートでした。終わり方も文句のつけようがありません。


・しろは√
ぼっち……ではなく、孤高のヒロイン、しろはちゃん√。
恐らくどのヒロインの√よりも「仲間と過ごす楽しい夏休み」を描写していたと思います。

しろは……というか、鳴瀬家の力がようやくある程度プレイヤーへと提示され、本作品の最終的な目的──ゴールを意識付けるための本ルートは、今後のALKA、そしてPocket√へ至るためのいわば布石のような立ち位置のため、割と尻切れトンボ的に終わります。

しかし、主人公が終盤でいった「思い出した。夏休みの過ごし方」というセリフは、今後の√のことを考えると感じ入るモノが多かったです。

あと、ラストの展開。流石に笑うだろあんなの。


・ALKA、Pocket√
さて、本作品のトリとなる二つの√。メインヒロインであるしろはと、主人公が、幸福へと至るための過程が描かれます。

ぶっちゃけ自分は読解力に自信があるわけではなく、しかも駆け足でのプレイだったので、この作品が伝えたかったことを本当に理解できたという確信は全くありません。しかし、おかーさんの幸せ……「仲間と過ごす楽しい夏休み」を願う羽未ちゃんの力強さと健気さには、強く胸を打たれました。

プレイした方なら分かってくれると思いますが、羽未ちゃんが消えていくシーンのしろはと羽未ちゃんの演技やばすぎでした。プレイしながら「もう勘弁してくれ……」と思ったのは、恋カケ以来でした。いやまぁ恋カケは全く別の意味でしたけども……。

全てのシナリオを読み終えてからのアルカテイルのfullは響きましたね。そしてその後の紙飛行機での一件も、どうしようもなく心が温まりました。

発売日に購入して、そして夏を目前にしたこの時期に、この作品をプレイできたことを、ボクは心から誇りに思います。
keyは生きていました。そのことがボクには、本当に嬉しかったです。



まだまだこれから、夏が来て、暑くなる日が続くでしょう。

例えばそれは、茹だるような。燦々と照りつける太陽の日差しを見れば、目的もなしに外を出歩くのは自殺行為だと思うような。
夏なんて来なければいいと、そう思うような夏が来る。


それでもきっと、ボクは忘れません。

静かな灯台で暮らす少女を。
思い出と海賊船を探す少女を。
不思議な蝶を探す少女を。
海を見つめる少女を。

彼女たちと過ごした、最高に楽しい夏休みを。





───きっと、夏が来る度、思い出す。