ねこねこはこういうのを作らせたら本当に上手い。
ねこねこソフトのこういう作品が好きだという方は、小説でいえばかなり正統派の恋愛小説が好き、という感じなのではないかと個人的に思います。ファンタジーでもSFでもなく、あくまでも日常の中での恋愛で、そこには突拍子のない死や不必要な敵対はなく、時間はゆっくりと進み、その中の小さなエピソードの積み重ねが二人の絆をちょっとずつ深めていくようなお話。私はこういった流れこそまさに恋愛の整合性と言えるのではないかと思っており、ねこねこの作り出す日常の恋愛というものは、多数あるエロゲの中の一定方向のジャンルにおいて全く随一の存在であると思っております。
このそらいろもねこねこが昔から作ってきたものと同様、小さな日常の恋愛を、美しく儚く、そしてやはりというべきか見事に表現した作品でありました。いつも思うのですが、ここは本当に恋愛を小さく、それでいて深く描くのが上手いです。なんでもないメガネや安い髪飾り、この作品で言えばアイスの棒やトレーナーでしょうか、そういった一見恋愛に全く関係ないものを二人の絆のシンボルに仕立て上げてしまう。そしてそれは図らずもプレイヤーに対しその恋愛をより身近に感じさせてくれる。こじんまりとした恋愛はとても可愛らしく、楽しく、儚くて、手に届くように懐かしい。片岡ともさんの見事な技量、ある意味得意技なのでしょうが、この方が絡むと大抵そういう感じになりますし、それがなんとも心地良く、この作品も安心してプレイ出来るものであると思いました。
ラムネの世界観を踏襲しているのですが、この辺は前からのファンに対するアプローチでしょう。またそれが必要かどうかはさておき、一旦休止してまた復活という流れの中で、新たな客層に「ねこねこはこういうゲームを作るメーカーです」とある意味紹介するような、そんな要素であるようにも見受けられました。成長した七海や多恵先輩を見るのは少なからず感慨があるものですし、また他のゲームでは私はあまり好きではないのですが藤野らんさんの作品内での家系は本当に心温まるものでした。広い表現力を有しているとはいえ、やはりぽんこつがこの方の真骨頂であると思いますし、何ら違和感なく新たなぽんこつキャラを受け入れる事が出来たというのは大変良いものでありました。逆に言えば目新しさがあまりないという事なのでしょうが、私はこれがねこねこの王道であると思っており、得意なモノで勝負するというメーカーの姿勢に疑念は全く持ちえません。
それから、どういった流れであるかはよくわかりませんが、徐々に話が大人びてきているような気がします。今回はシリアス展開に意図しない妊娠や対妹の恋愛における困難、子供の病気などがありました。勿論そもそもの設定にリアリティはありませんが、お話の中での二人或いは三人の間の葛藤や逡巡はとても自然なものに思えましたので違和感はなく、それらはまるでプレイヤー自身の年齢的・精神的成長に合わせているようにも感じました。大人であり子供で、夫婦であり一人の人間。乗越えようとする強さと意図せぬ力に飲み込まれそうになる弱さ。エロゲでここまでを描く必要性は微妙なのかもしれませんが、最後は本当にキレイで幸せに溢れた終わり方を見せてくれます。
一般的にエロゲのシナリオは相当出尽くしていると思われ、大事なのはその表現手法である事、また今後はその傾向がさらに強くなっていく事であろうと思います。しかしそういった中でねこねこは緻密な描写や表現を得意としており、そのようなネタ切れ等が今後影を落とす要素になるとは考えられません。今後も安心してねこねこの日常モノは是非プレイし続けたいと思っております。次回作はシリアスものだと思いますのでやるかどうかはわかりませんが、私は来年の夏あたりを楽しみに、またしばらく待っていたいと思います。
これからもがんばれ。