『すば日々』で初めてエロゲに触れて衝撃を受けた自分にとって本作は期待はずれだった。
【注意】
サクラノ詩だけでなく、素晴らしき日々〜不連続存在〜についてのネタバレも少し含みます!!!
はじめに総評、その後に個別ルートの短評を載せます。
クリア日:2020年8月23日
総プレイ時間:約45時間
総評
基本的には全然面白くなかった。『すば日々』が☆5だとすればこっちは☆1をつける。
おそらく、すば日々に比べれば『サクラノ詩』はずっと正統派なエロゲー・ギャルゲー寄りなのだと思う。それが、私がサクラノ詩を低評価する原因だ。もっと言えば、いちばん最初に触れたエロゲがすば日々だったのが原因だ。あれが私にとってのエロゲのスタンダード、求める作品像になってしまったのだから。
まず視点人物となる主人公が固定されていて男性。すば日々は最初の視点人物は由岐姉だったし、章ごとに視点人物が切り替わっていった。
サクラノ詩を好きになれなかった理由の大きな割合を、この主人公の草薙直哉という男を好きになれなかったことが占めていると思う。
ギャルゲ的というか、なろう系とかラノベ主人公みたいだと思った。
無気力でスカしていて、なのになぜか周りの女子からモテまくって、絵画の天才的な才能があって、血筋もすごくて(父権主義というか、イエの血筋や伝統を重視する保守的な価値観も、私が本作を苦手とする理由のひとつだ)、もう絵を描くのをやめたとかオレには才能がないとか言いながら、実は基礎鍛錬だけは毎日欠かさずに続けてました〜〜〜wwだからちょっと頑張ったら傑作描けま〜〜すwwwとか、「は?」って感じ。これで直哉を応援したり感情移入できるひとはスゴいと思う。エロゲを楽しむ才能あるよ君!
あと、ヒロインごとのルートが設定され、世界線が分岐し、それぞれのルートでヒロインとの衝撃の因縁が明かされ、すぐに結ばれイチャイチャに突入する……ってのを3,4回見せられて苦痛だった。おかげで主人公の過去が盛りだくさん過ぎてひどいことになっている。「君のことがずっと好きだった。一生をかけて愛するよ」を数名の女性に言っていて阿呆らしいとしか感じない。萎える。冷める。
今思えば、すば日々にはこうしたヒロインごとのルート分岐が(ほぼ)なかった。メインストーリーが一本あって、それを様々なキャラクターの視点から見ていく形式で章分けされているが、基本的には一つのルートしかない。そのメインルートへ行かない場合のifルートとしてのみ分岐があった。こうした形式はとても自分にあっていたのだと、サクラノ詩をプレイすることで遡及的に自覚できた。
いや、モテる男主人公も、ヒロインごとのルート分岐も、エロゲ・ギャルゲとしては「当たり前」であって、そこに文句をつけるのならエロゲなんてはじめからやるな!とお叱りを受けるだろうが(誰に?)、そんなもの知らん。私は私の価値観で、つまらなかったものにはつまらないと言う。そして、5ヶ月かけてサクラノ詩をプレイしたわけだけど、たとえどれだけ本作をボロクソに言おうが、私は本作をプレイしたことをまったく後悔していない。これは本心だ。エロゲとしてとても評価されている作品(のひとつ)がどんなものなのか知ることができただけで損したとは思わないし、私は正統派のエロゲが合わないということを知ることができたのも大きな収穫だ。
ただ、最後の6章(後日譚)の最後の最後、酒を吐いて藍に泣き言を言うシーンはかなり良かった。直哉のしゃべる台詞に藍がひたすらbotのように優しく機械的に返す感じがすごく良かったし、「ひとはあまりに多くの幸福には耐えられない」という思想は、上で書いた私の不満をうまく昇華する形で解釈するのにたいへん都合が良い。つまり、直哉はあまりに多くのエロゲ的な幸せ──多くのヒロインとの恋愛、ストーリーを派手に進める才能──を手にしてしまったがゆえに、その過剰な幸福に耐えることができなくなって、彼の幸福を蓄えるダムが決壊し、何が幸福でなにが不幸なのか、生きているとはどういうことなのかわからなくなる苦悩に陥ってしまったのだ。更にメタに言えば、ここでの直哉は、エロゲで実に簡単に欲求・快楽を満たすわれわれプレイヤーのメタファーとしてもとれる。「こんなに都合よく女の子とイチャイチャできていいのか?こんなに都合よく世界的な芸術家を父に持ち自身も抜群の芸術センスを誇りかつ過去に陰があるような厨ニ的にカッコいい設定を与えられていいのか?」という焦燥感と背徳感がないまぜになった思い。一般的なエロゲプレイヤーは、そんな「都合の良さ」にいちいち後ろめたさを感じずに、快楽を手軽に満たすために作られたゲームなのだからと割り切って、堂々と直哉に自己投影して本作を楽しむのかもしれない。しかし私はそうではない、そのようにはどうしてもできないので、この最終章でわけもわからず酒に溺れ、泣き言をいう直哉にこそ自分を投影してしまうのだ。本作を通して、ここの直哉にしか、私は感情移入できなかった。
そして、よく考えてみれば、この "trueルート” の直哉は、どのヒロインとも結ばれず、寂しく一人身の直哉だ。つまり、それまでさんざんプレイしてきた各ヒロインルートは、”ifルート”、誤解を恐れずに言えば “間違った” ルートなのである。trueルートで最後に残った主人公の思い出といえば、2章「Abend」での、弓張学園美術部のみんなで徹夜で『横たわる櫻』を教会の壁に描いたことだけだ。「みんなで」やったこのエピソードは青春の煌めきに溢れており、そして誰とも恋愛関係にならない。
だからこそ、この最終章で、それをリフレインするかのように、いや、文字通り”塗り重ねる”かたちで、横たわる櫻を「みんなで」再び描いた。
本当の直哉には、恋人との個別的な閉じた関係性はひとつも無く、友人たちとの開いた関係性を象徴する経験しかないのだ。
こう解釈するのが私にとってはいちばん「都合が良い」。
これはエロゲ・ギャルゲのハーレム構造に原理的にともなう問題の発露ともみなせる。
数人のヒロインを用意して、彼女たち全員に同時に愛されるハーレム展開ならば少なくともこの問題は生じない。
また、各ヒロインとの純愛ルートを完全に並列させて、trueルートをひとつに絞らないのであれば(全部をtrueルートだと吹聴するのであれば)問題ない。
しかし、そのどちらにもせずに、「一途な」恋愛ルートを用意した上で、「ただ一つの」trueルート、メインストーリーを用意する道を選択するのであれば、かならず困難にぶつかる。
(この段落の話はこれで終わりではなくまだ続くハズなのですが、メモはここで途切れており、今の私には当時の自分が何を言おうとしていたのか思い出せないので中途半端なまま載せています)
私はサクラノ詩を非常にエロゲ的な作品だと思うが、しかし世間では逆に、反エロゲ的な作品と捉える意見が多いようだ。
おそらく本作を「エロゲっぽくない」と思う人は、いわゆる「抜きゲー」をエロゲっぽさの根幹に据えており、本作は「シナリオゲー」だから、エロ(ヒロインとのイチャイチャ)よりもストーリーの完成度を重視している点をもって反エロゲ的だと言っているのだと思う。最終章での直哉が結局誰とも結ばれないENDであることが象徴的だ。
私がエロゲ的だというのは、前述の通りすば日々との比較において、であるので、こうした人の考えとは矛盾せず両立可能であると思う。
そもそも私は抜きゲーをやったことがないし、今のところ興味もなく、やりたいエロゲ=シナリオゲーなので、trueエンドで誰とも結ばれないくらいで反エロゲ的だとは思えないだけだ。
5章での凛と直哉の対話は、唯美主義だとか弱い神だとか言っているが、要するに絶対主義と相対主義、あるいは実在論と非実在論の対立という非常にありふれた話だととらえた。そこで主人公たる直哉は相対主義を標榜し、最終章でもその思想性をさらに強く肯定するのであるが、正直言って、こうしたエンタメ作品で絶対主義と相対主義の二項対立が出てきた時点で、主人公(”正義”あるいは”善")サイドは相対主義の側に立つのは決まっているようなもの、というかそのようにしかできない。だからこの辺りに関しては妥当ではあるがゆえにとても陳腐だと思った。
私はといえば、「自分がやって面白くなかったのだから私のなかでは本作は駄作」というように、相対主義に走りがちであるが、それが価値とか美とかいった普遍的な匂いのするものからの「逃げ」であることも分かっているつもりだし、いっぽうで絶対主義になびかれる気持ちもある。要は二者択一ではなく、それらの両極のあいだで落とし所をみつけようともがき続けることこそが唯一誠実な態度だと思う。
ここまでさんざんすば日々との比較をして貶してきたが、オープニング曲「櫻の詩」は大好き。こればかりはすば日々の「空気力学少女と少年の詩」にまったくひけをとらない名曲だと思う。
以下、個別ルートの感想メモ
・明石ルート(共通ルート)
キャラ☆☆☆
ストーリー☆☆☆☆
プレイ 無し
明石めっちゃ良い奴じゃんか!見直したぞ!
みんなで絵を描き上げるシーンは青春の高揚感があってすごくよかった。
・鳥谷真琴ルート
キャラ☆☆☆☆
ストーリー☆☆
プレイ☆☆
鳥谷自体は好きだけど、物語はそんなに…
いかにもメインで結ばれることはないキャラだから、そんなキャラのIFルートをやろうとすると上辺は幸せでも奥底にはモヤモヤが残る、というアレ。
・オランピア(凛ルート)
キャラ☆☆
ストーリー☆☆☆
プレイ☆☆
こういうド直球良い子キャラあんまり…でもすば日々のざくろちゃん大好きだし、単に頭身の低いキャラデザが苦手なだけかな。
幼馴染なら問答無用で刺さるわけじゃないんだなあ。これからに期待。
話は実は母が人形だったところは衝撃を受けた。鳥肌がゾワっと。でもよく考えたら母の回想もそのちょっと前に一瞬入れただけだし、展開の前振りとしては全然できてない。
すば日々オマージュの屋上からの落下から、俺の腕を掴めという説得の仕方は王道だけど筋が通っていてよかった。
Hシーンは基本和姦しかないのでまったく琴線に触れない。すば日々がいかに自分のような歪んだ性趣向の人間向きだったか思い知らせる。
・ツィプレッセン(里奈ルート)
キャラ☆☆☆☆
ストーリー☆☆☆
プレイ☆☆
氷川&川内野ペアかなり好きかも。
さいしょ妹キャラとして登場した氷川が、川内野相手だと単なる常識人ポジになってしまうのを残念に思っていたけれど、
だからこそ川内野がしおらしくなったり氷川がはっちゃけたりと、2人の関係性の潮目が変わるときがすごく趣き深い。
氷川里奈と川内野優美ペアが個別ルートでどう処理されるのか楽しみにしていたが、里奈が普通に主人公と結ばれて川内野は失恋……という感じ。
下手に3Pとかレズプレイをせず、失恋をちゃんと描いたのは偉い。
ただ、魅力的なキャラクターだった氷川も付き合ってからはありきたりな萌キャラと化してしまった。ということで、肌をまったく最後まで見せずに終わった川内野がいちばん好き。
互いに特別な存在だと認識していた2人が、それぞれに自分のせいで凡庸な存在へと堕ちてしまった罪悪感を抱えているのが良い。
最後の川内野と昔の男友達の会話すき。
※里奈&優美の百合ルートの感想メモはとっていませんでした。