『メディテラネア・インフェルノ』 イタリアのインディー・ビジュアルノベル 国産の「鬱」や「狂気」を売りにしたエロゲが裸足で逃げ出すような、圧倒的なサイケデリック・バッドトリップの幻惑感に酔いしれた。とにかく鮮烈な映像演出・ゲーム体験を求めているならぜひ。「こちら、愛の小路になります。」
2024/1/21〜24
総プレイ時間:6時間(2日)
【総評】
イタリア発のクィアで前衛的なサイケデリック・トリップADV。
海外(ノベル)ゲーム初心者なので相場が分からないんだけど、とにかくそのトリップ(ミラージュ)演出が凄かった。国産の「鬱」や「狂気」を自称するゲームが裸足で逃げ出すような、圧倒的な幻惑感と、ゲーム体験としての洗練され具合。といっても、「こちら、愛の小路になります。」という定型句から始まるミラージュの導入部は、明らかに日本アニメの(変身)バンクから影響を受けていることがうかがえる。具体的には幾原邦彦作品──『少女革命ウテナ』の絶対運命黙示録や、『輪るピングドラム』の生存戦略──の影響が色濃い。(最近のオタクには『少女☆歌劇レヴュースタァライト』を挙げたほうが伝わりやすいかもしれない。) また別の潮流としては湯浅政明『マインド・ゲーム』っぽい雰囲気も感じた。これらが好きならやって損はないと思う。バンクは繰り返されればされるほど、どんどん馴染んでテンションが上がっていくものだから。
(簡易的な)3DCGを駆使した、映画的な映像演出も優れており、それと、マウス移動によって操作可能なノベルゲーム部分との滑らかな接続も見事だった。とにかく、日本の一般的な「ノベルゲーム」とは表面的なゲームデザインがまったく異なるので幻惑/圧倒されていた。
ストーリーは、イタリア・ミラノで育ったイケイケのゲイ3人組が、コロナ禍明けに久しぶりに連絡を取り合って、南イタリアの別荘へ訪れて3日間のバカンス滞在をする、というもの。ゲイ・コミュニティなどの知識に疎いので十分に咀嚼できたとはいえないが、とはいえ一時疎遠だった幼馴染のひと夏の三角関係モノとしてベタに読むことは可能であり、特に後半の怒涛の展開はむしろ国産「エロゲ」ではわりかし見慣れたものとして鑑賞した。これだけビジュアル面で優れていて、結局こういう展開なのか……と、その(必然的にバッドエンド通過を要求する)ループ構造にはやや落胆と退屈を覚えたが、しかし最終的には、そうしたローカルな三角関係が、ふたたび「イタリア」という国の歴史・世代間スケールまで拡張され、政治的なトーンを帯びるのが良かった。それでいて最後のオチも非常に後味が良く、制作者のスタンスがはっきり表明されていた。
文句といえば、既読スキップ機能が無いため周回時にも既読シーンを演出含めて眺めないといけない時間が長かったこと。「F」キーを押せば5倍速になる、という本質情報もいちどタイトル画面に戻らないと教えてもらえなかったのでかなり徒労だった。これからプレイする方にはぜひとも伝えておきたい。(1周目は1倍速プレイのみかもしれない)
あと、(steamゲーでは一般的かもしれないが)セーブなどの設定画面に飛ぶのが「Esc」キーだということもなかなか気付かず苦労した。こちらも伝えておきたい。
同じ作者の前作『ミルキーウェイ・プリンス』はより露骨にウテナらしいので、そちらもこれからプレイします。
どうでもいいけど、「メディテラネア・インフェルノ」の「メディテラネア」の部分がどうしても覚えられない。むずい!「地中海」って意味なんだ……
【プレイメモ】
・DAY1
イタリア、ミラノ
コロナ禍明けの2022年8月13日、地元じゃ最強と言われていた幼馴染3人「サン・ガイズ(太陽の子どもたち)」で2年ぶりに集まって南イタリアへバカンスに出掛ける
3DCGアニメーションもふんだんに織り込んだADV マウスカーソルの位置で角度が微妙に変わる
設定画面とかテキスト履歴とかテキスト非表示とかの機能が無さそう? 何もかもが国内ノベルゲームとは違う
なにこれ トリップ空間 ヤバすぎる サイケデリック
マップ移動は古典的
祖父、父から託されたジェンガの塔 しかしもう崩れかけで抜き取れるところはない。ゲームを続ける余地はない。『君たちはどう生きるか』……
両親への憎しみ 上の世代への怒り この時代に生まれさせられたことへの嘆き
楽園的な過去へと逃避したい、というクラウディオの欲望が見せた幻覚?
コロナ禍でクラウディオの祖父が死んで、祖父の避暑地だったところに来たわけか
ミダ美人で好き トランス女性? 売れっ子モデル。 アンドレア達はゲイかな
3人の軽快なやり取り、軽口の叩き合いが心地よい 10代のダチのノリ
なるほど。それぞれにトラウマや悩みを抱えているってわけか
ミダは過去の惨めだった自分を、アンドレアは人々との交流では埋まらない孤独感を、クラウディオは袋小路な未来への絶望を。過去・現在・未来。ミダとクラウディオの苦悩は対照的にも思える。
クラウディオは「疎外感」を抱えている反動で、自分のルーツとなる祖父や家系の歴史を追い求めている
3日間の昼と夜で、3人それぞれの「サマーコイン」を集めていく? 期限は3日目のフェッラゴスト(聖母被昇天祭) イタリアのお盆みたいなもんらしい。
>イタリアのコロナ規制、めっちゃカトリック的だよな……。
18時以降の外出禁止 「性行為中断法」と揶揄
クラウディオ達にミラージュを見せてくれるマダマ
フェッラゴストまでにミラージュが十分にあれば天国へ行ける?
なるほど。3人のうち誰がコインを消費してミラージュを見るのかで分岐する感じか これまじで途中セーブできないの?
あっ、「Esc」キーでテキスト履歴や設定画面に行けた!!! セーブ出来た〜〜
「サンティーニ」 タロットカードみたいなやつ これも収集要素があるのか。
あれ、選べない。アンドレアのミラージュが始まった。
整然と並ぶ映写機?ミシン? ウテナの黒薔薇編っぽい
ダンス・エレクトロニックなサントラがめっちゃ良い
次はミダに行った
すげ〜〜 修多羅千手丸の卍解みたいな織物サイケ空間
ちょっと演出が湯浅政明っぽい 『マインド・ゲーム』
あぁ、1つのミラージュ(トリップできるヤバい果実)を3人で分け合ったから順番に少しずつ見ているってわけか。
アイキャッチ的に挟まれる、3人のインスタ・ストーリー画面
黄色い実は8枚のサンティーニ・カードと交換してもらえる ミラージュごとにカードを探していくのね
4つのミラージュを「食べた」者が天界へ行ける
DAY1終幕!
・DAY2
ミダ、トランス女性とかじゃなくてゲイね
>プール
ミダのミラージュ① プールの奥底でひとり内的な安静に浸る インフルエンサーだからこそ心の安息、PEACEを求めている
夜、ディスコで昔のように踊り騒ぎたいアンドレアと、フリーマーケットに行きたいクラウディオ&ミダ
>フリーマーケット
お〜〜 実写の田園風景の動画インスタだ! いいね〜〜
クラウディオの敬愛する祖父は有名な仕立て屋だった。ニーノ・ヴィスコンティ
人一倍コロナ禍ロックダウンの2年間にフラストレーションが溜まっているパリピのアンドレア
>クラウディオ「暗い田舎道で迷うのって、天国的な死に方に近いよね。」
あ〜なるほど。2人とは逆に、ミダはコロナ禍の最中にファッション・インフルエンサーとして一躍有名になって今があるのか。
>クラウディオ「キミはぼくの友だちなのに、ぼくから盗むのか? ぼくの「運命」を。
ミラージュ・マダマ、彼らの弱みにつけ込んでミラージュを売り込んでくる悪魔みたいにもとれるな。
かつての弱かった自分を捨て、成功して強者の理論を内面化しているミダ。そして自らの身体、ヌードを資本として社会に売り渡そうとしている……
2020年、コロナ禍ロックダウン直前のフラッシュバック
>アンドレア「これは酒が入ってるから言うんだが……マジにお前らを愛してる。」
>……
>アンドレア「こいつは「愛」だぜ! 友情が愛だってことを理解できねえのは、一部の哀れな連中と、90%のノンケカップルだけだ。」
ミダは3人のなかでいつも「からかわれ役」なことに劣等感を抱いていた。対等になるためにクラウディオに告白するがフラれ、レンタカーを燃やして川に落とすという暴挙に。
あ〜 昨晩、ミダが寝てる最中に、アンドレアが持ちかけてクラウディオとヤッてたのはそういう……
・DAY3
>ビーチ
ミダとクラウディオが些細なことで喧嘩に。決闘のミラージュ
欲求不満なアンドレアは竹林で映画監督のミラージュを
最後の夜、約束通り、キアラ、イラリア、アンジェリカの女性3人組と宮殿で久しぶりに会食をする。こいつらもめっちゃクィアだな、ヒゲはえてたり。
アンドレアに至極真っ当なアドバイス・説教をかます女性組
男たちひとりひとりが適切な言葉を投げかけられて救われていくのか? あまりにそれは、安易ではないか?
ミダの最後のミラージュ
自分にキスする 舌だけになって……すごい演出だ
ミラージュが足りないアンドレアが、皮を剥かずに無理やり食べてしまった ロックダウン中の悪夢
同じくクラウディオの悪夢。憎んでいる父親たちとずっと一緒にいなければならないロックダウン中
あぁそういうことか。ロックダウン中でも金を無心するために父は南イタリアの祖父へ会いに行き、結果的にコロナをうつして死なせた……んじゃない!? 祖父は治り、別荘で幸せに暮らし始めていたが、クラウディオはそんな祖父の姿に嫉妬して、プレッシャーを感じ、別荘を訪ねて……殺した? だから「罪」がどうとか最初に言ってたのか。
ええ……マジ? 天国に行けなかったふたりが対峙して、アンドレアはクラウディオを殴り殺す…… これが3パターンあるってこと?
こわ〜〜〜 今度はミダを殺そうとアンドレアが追ってくる
鏡に映った自分の「ハサミ」をしごく……
めっちゃホラーなんだけど。なにこれ
うーわ…… 「3人」で楽しくポーズをとっているインスタを上げるアンドレア……怖すぎる
やっぱり祖父もクラウディオが殺してたんじゃん…… 3人中2人が殺人者というヤバい狂気の三角関係
>まったく、ここはなんてろくでもない国なんでしょうね。
>事物が変化するには、いつだって誰か死ぬ必要があるのですから。
!? そういうことか! 時間がループして、黄色い果実を食べられるようになった。……いやまだ6枚だからあと2枚足りねぇ!
マジかよ。あーつまり、3人のバッドエンドを繰り返して8枚カードを集めて、最後に黄色い実からトゥルーエンドに行くってわけか。
The End ?
1周に3時間ちょいかかった。
・2周目
2日目。これ既読スキップ無さそうだからめんどくさいな
>ビーチ
ミダが車を炎上させた件でスキャンダルになってる?
アンドレアのミラージュ、流石にエロティック過ぎて笑っちゃうわ
>ディスコ
ダンスホールのミラージュ
こんだけ踊り狂っても深夜に別荘に戻ったら寂しがってクラウディオに掘ってくれと頼むのかアンドレア……
3日目
>ビーチ
実質、ミラージュを選べる機会は3回しかないから、ミダやアンドレアが4個達成するためにはずっと選び続けないとだよな。
宮殿での女性たちとの会食。アンドレアが4個達成しているので会話が変わった。
ミダの悪夢 クラウディオにフラれたことを引きずりながらバスタブに籠もっている。だから今の自分ではない存在になろうとした。
アンドレアは他2人に無視されたことを根に持っていて、ミダはクラウディオにフラれたことを引きずっていて、クラウディオは自分ひとりで親への憎しみや祖父への嫉妬に苦しんでいる。見事な三者関係ですね。
うわ〜アンドレアの場合はふたつの舌べらとキスするのか……社会性を求めて……
自分に愛を求め続けるミダをクラウディオは刺し殺す。「今度はあなたを無感情にさせなかったみたいね。」
今度は外じゃなくてエレベーターで追いかけっこか。クラウディオは3人も殺すことになる……
3周目というか、最短でクラウディオ√に行きたいので3日目朝から
>記念墓地
祖父の墓銘を自分の名前に書き換えて入る Where it all started じゃあないんだよ
ありがたいお説教パート
「どうして自分を見つけるために過去を探す必要があるのか」
>……気をつけて。過去への執着ってどこか……ファシストっぽく見えるかもしれない。
イタリアだもんなぁ
悪夢パートを既読スキップできないのがマジできつい
お〜やっぱこの時点で2人が3個獲得していたら、ここでミラージュを食べないこともできるのね。で、悪夢を見させられると……
クラウディオの最後のミラージュ
>イタリア……なんて古びた国でしょうね……。
>今の若者にとって、メディアやカルチャーで満たされるような表現ができる可能性は皆無。
>だからあなたは過去の優れたモデルを探し求め、そのイメージや美学を、墓荒らしのように奪い続けているのです。
>……おまけに、他の文化からもかなり盗用しています。
うわ〜クラウディオは無数の舌と……
えっ!? 「F」キーで高速スキップできるのかよ!!! 先に言ってくれよ!!! 1周目のあと一度タイトル画面に戻らないと教えてもらえないの不親切では??? 自分のように一気にクリアしようと周回始めるプレイヤーも多いだろうに…… 無駄な時間を費やしてしまった……
ミダとアンドレア。このペアがいちばんそれほど関係が深くない。シンプルに嫌いなのでミダがアンドレアをハサミで殺す
そしてヤンデレ化。ミダの運転する車に追い立てられてクラウディオは井戸に突っ込んで死んだ? ついでにミダも運転席で事切れる。全滅ENDじゃねえか
ようやく黄色い実を食べれる!
>ここは自由への小路。
ミラージュ・マダマの「講義」。カインとアベル。ロムルスとレムス。ローマ建築神話でのローマ市の建設者か
イタリアは他のヨーロッパの国とは違って革命を経験したことがない! なるほど、そういう固有性があるのか。イタリアの保守的な国民性。ローマ帝国という過去の栄光に縋り続けている。
>わたしたちは父親に対して、彼らが創った過去に対して、残した未来に対して「ノー」と言ったことが一度もありませんでした。
>イタリア人は、父親に自分自身を捧げたいと願っています。
>その見返りとして、他の兄弟を殺害する許可を父親から得ようと。
なるほど…… イタリアという同じ歴史を共有してきた、同世代(幼馴染)という「兄弟」同士で殺し合う。ゲイの三角関係である理由もそういうことか。。 すごく近視眼的な痴情のもつれかと思われた物語が、一気にイタリアという国スケールに普遍化される。
マダマが自身の正体を示唆する。3人よりも少し上の世代の象徴。
>今の世代の人たちにとって、わたしは「混合された祝福」でしかありません。
>……
>70年代、80年代のポストモダニズムであり、好景気のラグジュアリーな肯定感であり、幻想の模倣です。
>……
>資本主義的な家父長制モデルの失敗が、ようやくはっきり見えてきました。もうわたしもおしまいでしょう。
>……
>でも、これは美しさでもあります。人為的なものであれ、創られ、永続化され──そしてあなたたちが永久に排斥できるもの。
一気に直接的に(左翼に)なった。
>あなたたちそれぞれに、アイデンティティ、ソーシャリティ、パワーがあります。
>それはあなたたちを動かす座標軸──あなたを構成するものではありませんが、条件づけるものです。
3人の特徴が端的に整理された。この3つのバランスが重要。だからお互いに学び合える。三角形は安定する
「座標軸」であって、あなたそのものではないのという大事な指摘。
>押しつけがましくて、教訓的で、政治的に間違っているようでしたら、お詫び申し上げます。
>結局のところ、これはわたしのミラージュなのです。
>さあ、今すぐわたしを殺してください。
>わたしの役割は終わりました。
>それがわたしの望みであり、唯一の方法なのです。
いいねえ 上世代は「ミラージュ」を若者に見せて、あとは退場するのみ。
>クラウディオ「あんたはぼくらを利用した! 自分で批判したシステムを全く同じシステムを、自らの目的のために使ったんだ!」
おお、さらにマダマが糾弾されるのか。てか今更ながら、このミラージュ内ではマダマ視点で選択肢も選ぶようになってるんだな。
「あなたたちのため」だと言って行われる上世代の「わたしを殺せ」というお願いも、下世代から却下され、殺されもせずにただただ去って行かれる。物語を前に進める矢印も「これはぼくらが押す」と取り上げられて。この寂寥感、たまらねぇぜ……。
「あなたたちに未来を託す」という上世代の自己陶酔的な行為/好意さえ、傲慢な押し付けとして若者から突っ撥ねられる。彼らは徹底的に上世代の言いなりにはならない。ただ「これからどうしようか?」と黄昏る。いい幕引きだ。
おわり!!!!
最後は思ったよりあっさりだった。その前のバッドエンドパートが、(3人全員のぶんを回収してたおかげで)かなり長かったせいもあって……。