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oldreavesさんの暗がりビオトープの長文感想

ユーザー
oldreaves
ゲーム
暗がりビオトープ
ブランド
深山宵
得点
68
参照数
60

一言コメント

90年代のゲームセンターを舞台にした雰囲気のいい短編ノベルゲーム

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

1時間弱で読み終わる一本道の同人ノベルゲーム。
これぞ同人短編ノベルゲーって感じの、短くもよくまとまった良作だった。

ストーリーは決して派手なものではなく、抑制の効いた内容。
主人公の性別ギミック(というほど本作ではそこに焦点が当たっていないところが明らかに美点だが)というと、某長編同人ノベルゲーの感想にも書いた通り、個人的にあまり好みではないのだけれど、「女子の自覚が薄い小学生高学年」という設定は、さらに個人的な次元でわりと刺さるというか、リアリティを見出してしまった。

プロットを雑にまとめてしまえば、DV被害者の片親小学生が、ゲーセンという家庭とは別の場所に居場所をつくり、そして別の家族を描こうとするが、その試みはふたたび挫折をする──という経験のなかで成長していく話……かな?

いくら哀しい過去があるからって放置児童の親を雇って強引に小学生を援助するおじさん(ヒジリサワ)は普通にこわいよ・・・
それから、大のオトナが自分たちを慕ってくる小学生に対して「重いよ」はないと思う・・・そんな、大人同士の痴情のもつれでしか出てこないような台詞を……w 無論、自分と恋人との関係に部外者の子供が口出しするのはナンセンスだろうが、だからといってその語彙チョイスはないでしょう。
いちばんウルっとしたのは、ベタに、対人戦初勝利でゲーセンのみんなが褒めてくれたシーン。ベタな感性の人間なので。

「Tips」として、テキストの注釈から説明文へのリンクがあるシステムが面白かった。ゲーセン用語の基礎知識と作者の私的な思い出と本ゲームの設定などが混ざって書かれていた。
本文中から派生する長めの注釈が特徴的な小説というと、ベイカー『中二階』やディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』などなど、ポストモダン文学の流れを汲む現代海外文学ではわりとありふれているが、ノベルゲームで出会ったのはおそらく初めてだし、それが同人作品なのも、意外性と納得感がともにある。

(オリジナルではなくフリー音源か何かだと思うが)BGMがとても良かった。
もう少しゲーセンっぽく騒々しかったりもできたろうに、ややエレクトロニカ寄りだったのは「ビオトープ」という未来感?のあるタイトル名にも合っていた。