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oldreavesさんの7Daysの長文感想

ユーザー
oldreaves
ゲーム
7Days
ブランド
シンセティックガール
得点
69
参照数
73

一言コメント

後ろめたさを肯定してくれる、鬱病患者へのセラピー  優しさの限界と可能性にまじめに向き合っている

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・プレイ時間
1時間32分





・プレイ中のメモ

「シンセティックガール」の作品をやるのは『つくも3回サンク』に続いて2つ目。(発表順としてはこちらが第1作目)

全画面テキスト表示形式。
BGMがドラムンベース調だったりジャズ風味のダンスミュージック調だったりノイズだったり主張が激しい

この主人公の社会人男性、適応障害か鬱っぽい。決して会社の労働環境が激ヤバなわけではないところがミソ。週休二日だし、夕方には退勤できてるし、全然良いほうだと思うけれど、それでも今の仕事が何か根本的に合わなくて適応障害を起こして味覚もなくなって生きる意欲が減退している。

誰かに伝えるための歌、ということに希望的な価値を見出しているけれど、逆に、歌は世界に自分ひとりでも歌えるのだとしたら、すごいことじゃないかと思った。言葉は世界に自分ひとりでは存在し得ない。それは言葉が原理的に他者との意思疎通のためのツールだから。しかし、歌は違うかもしれない。世界にひとりきりでも、歌が生まれることはあるのかも。歌い始めることはあるのかも。だとすれば、誰かに伝えるための歌よりも、誰のためでもなくただ歌う歌のほうが自分にとっては崇高で尊いもののように思える。それはこの物語とは明らかに逆行していることだけれど。

このまま、かなが人から見えなくなった原因も、主人公にはかなが見える理由も明かされないままだとしたら、その足場の寄る辺なさ、不条理はまさにひとが生きていくことの寄る辺なさに通じていて良い。

たけし、かっこいいな。こだわりが強くてやや絡みづらいけど、自分の芯を曲げないのと同時に他人にもそれを強要はせず、尊重してくれる。自分に自信があるのだろう。
・・・めっちゃ(人生)哲学的なこと言うじゃんこのオタク。内容はカジュアルで手垢が付いたものだけど、そんなに間違っているとも思わない。生産性至上主義者かと思ったらまったく違う。オタクでもなくなった無の人間にも理解のあるオタク。

"まるで呪いみたいな優しさだった。それとも、誰にも見えない姿なら 自分の優しさにさえすがるしかないんだろうか"

万引きはしないと決めているから食べ物には不自由するけど、電車に無賃乗車するのはいいから、九州から鈍行を乗り継いで東京?まで来れるのか。なかなか示唆的だな。電車という公共空間。旅。
何から逃げるというわけでもない、ふたりの逃避行。おそらく主人公にとっては「世界」から逃げる旅で、かなにとっては100%楽しみのためのお出かけに過ぎない。そのギャップが哀しくて良い。主人公はなんとなくでも人がなるべくいない方へと、都心部ではなく郊外の海のほうへ向かっているけれど、かなは彼と一緒ならどこへ行ってもいいのだろう。
精神障害的な意味で世界から根本的に疎外されている男と、物理的・実際的な意味で世界から疎外されている少女。

電車の床に座り込む。そうすることで誰からも椅子を奪わなくて済む。一般的にはむしろ邪魔で迷惑な行為が、このように過剰な配慮のもとで行われているの面白いな。切ないし。
かなはなぜそこまで、誰かの椅子を奪うことを恐れるのだろう。ニーチェ的な奴隷道徳の持ち主、畜群ってかんじもする。優しさという道徳にすがらないと生きていけない者。自罰感情。

たけしほんとイイやつだな

"諦めてそれでも 後ろめたさを感じるのは おにいさんが強いから"
もうこんなん鬱病患者セラピーじゃん。「後ろめたさ」こそ生きる証だと宣言して慰めてくれる。なぁ、こんなに優しくされてしまって、いいのか……? ←こういう後ろめたさ自体を肯定する構造になっているのがズルいところ。

「どこまでいけるか 確かめます」
「なんでそんなことをしなけりゃならない?」
「人生そのくらいしか ないからです」
「駅まで、送るよ・・・」
パンクだなぁ。最後の「駅まで」ってのがまた良いね。電車で行くんだ、っていう。
北へ行くのかな?

『俺ら、すげえ面白い作品見たとき 感動ってやつがあったよな また 見つかるといいな』
たけし・・・

おわり!!!
短いけど、なかなかちゃんと芯のある話だった。世界から疎外されたふたりが出会って心を通わせる、という『沙耶の唄』のような典型ではあるが、その関係の不健全さと寄る辺なさ、ズルさ、偶然性をきちんと自覚して、ひとが生きていくということの何たるかを大真面目に論じようとしている。
特に理由はなく生きることに虚しくなって精神的に疲弊した主人公が不思議なヒロインと出会ってセラピーを受けて慰められる話ではあり、こういう見方をするとヒロイン(「かな」)の存在のほうが形骸的なものになってしまう欠点がある。実際かなはどれだけ強度がある、たしかに存在すると思えるキャラクターだったかと言われると微妙だ。しかしそれも込みで誰からも見えない設定が作られていて、主人公の妄想の産物である可能性も最後まで一応排除されたわけではない。そんな心許ない不確かなヒロインを、それでも信じられるのか、というところに本作の核はある。あるいは、信じたり信じられなくなったり揺れていくことこそが生きるということなのかもしれない。
サークル「シンセティックガール」さん、やはりなかなか骨のある作品をつくりますね……と感心した。他の作品も楽しみ。



てか、「有り難う」ネタって『つくも3回サンク』でも思い切りやってたのかw 同人ゲームってこういう作者の絶対に曲げられない一貫したこだわりがモロに出てるところが美徳だよなぁ。。