エンディング分岐が大量にあり、思ったよりもボリュームがあった。大正生まれ変わり系同人乙女ゲーム
総プレイ時間:4時間30分
実プレイ日数:4日
・感想まとめ
乙女ゲーム制作同人サークル「日々雲隠れ」の第1作ということで、初めて感あふれる習作的な小品かと思っていたら、なんと全12個もENDがあって、7つのFD的な「前日談」などエクストラ要素も豊富で、かなりボリュームがあり力が入っていた。
日々雲隠れは後に『鼓草』『フサの大正女中暮らし』といった大正〜昭和期を舞台にした名作乙女ゲームを作ることになるが、第1作となる『りんかね』では、大正時代に生きた人物たちの「生まれ変わり」として現代の人物たちのドラマを描く前世モノである。私の個人的な思想・好みとして、前世・生まれ変わり要素が非常に苦手なので向いていない物語ではあったが、『鼓草』『フサ暮らし』のファンとしては、それらに繋がるようなシリアスな家系と血族の因縁の扱われ方をみて感じ入ることができた。ヘテロ女性を主人公として、男性キャラ達との様々な恋愛関係を楽しむ乙女ゲームというジャンルにおいて、男性の加害性や、父権制のなかで自らも抑圧されながらもそれを再生産してしまう構造を描いてくれるのが本サークルの強みだと思っていて、それは大正時代を前世として扱う本作でも当てはまっていた。
いちばん好きなキャラは静次郎の妻:八里春海さんです。かわいそう。でも瀧子に嫉妬して敵対するのではなく、同じく抑圧されている女性として手助けする方向にいくのが感動的。ビジュアルが欲しかった……。
「生まれ変わり」モノをやったことがあんまり無いので新鮮ではあったのだけど、本作をやっていて、生まれ変わりってどういうことなのだろう?と少し考えてしまった。特に『りんかね』では、大正時代→現代への生まれ変わりということで、せいぜい100年ちょっとしか離れておらず、4, 5世代くらい遡って辿り着いてしまう、歴史的に実在した他人、という印象が強い。祖父の記憶にあるようなそんな人物の生まれ変わりが自分だというのは、どういうことなのか。
本当に問いたいのは「生まれ変わり」というのは、「"本当に" 生まれ変わりなのか否か」という事実確認の問題系ではなくて、私はあの人の「生まれ変わり」なのではないかという想像力を引き受けること、生まれ変わりだということにするレトリックの問題なのではないか、ということである。「本当にAさんはBさんの生まれ変わりである」とか、逆に「実はAさんはBさんの生まれ変わりではない」という〈事実〉は原理的に成立することができない。生まれ変わりという概念はそういう類のものではなくて、もっと物語の想像力のなかで成立するひとつのレトリック、それも行為遂行的な道具立てなのではないか、と思った。
本作のような生まれ変わりモノは、物語をまとめるときにひとつのジレンマを抱える。それは、前世で運命的/悲劇的な関係をもっていた人物たちの生まれ変わりとして現世での私たちがいるとして、私たちが結ばれることが、前世からの生まれ変わりを前提にしたものであるとしたら、今ここに生きている私たちの固有性が失われ、単に前世からの運命によって予め決められていた通りに盤上の駒のように操られた結果になってしまうからだ。それでは現世の私たちはおもしろくない。だから、多くの場合、生まれ変わりというフィクションを途中まで利用しながら、最終的にはそれを切り離して、「前世とか生まれ変わりとか関係ない! 私は前世の因縁の彼だから好きになったのではなく、今生きているあなたを、あなただから好きになったのだ」というロジックを行使することになる。前世の自分とは、他人なのか自分なのか。非常に微妙な問題である。しかしあるいは、これは生まれ変わりモノに限らず、2次元キャラクターの抱える原理的な問題なのではないか、という気もする。漫画のキャラクターにおいて、あるコマと次のコマで同一性がどう確保されるのか、という問題とか。記号の集積としてのキャラクターにある程度の自律性・実存的な強度を与えようとするときに必ず突き当たるジレンマである。
・プレイ中のメモ
web夢小説とかにある、主人公の名前を付けられる形式だ! デフォルト名の「桜木未来」でいきます。
前世パートではテキストが黒色でひじょーに読みづらい。現代パート(白)とのコントラストを付けるためとはいえ、もう少し読み手のことを考えてほしかった。
「生まれ変わり」ってよく考えてみれば面白いかも。特に、本作のように大正時代から現代への生まれ変わりは、せいぜい4, 5代間のギャップであり、実在した他者、という趣が強い。したがって、私が別の私に生まれ変わるというよりも、私が「私ではない他人」と自分を比較しながら、親近感と相違点のどちらをも感じていく営みなのだなぁと思った。
大正時代、女中だと思っていた中年女性が実は産みの母だったと知り愕然とするエリート男児。『ヒラヒラヒヒル』でも似たようなのがあった大正モノ定番の展開。
基本的には乙女ゲームのテンプレートをメタ的に薄くやっているのだけれど、こういう設定のなかに、後の『鼓草』などの傑作に繋がる本サークルの要素が垣間見えて面白い。
浅草十二階
実家が岡山なのは本サークル共通だ
ED.8 君のいる部屋 おわり!
里子として育ったから「家庭教師」アルバイトを忌避していた、という地味に重い描写をさらっと入れてくるの良い。
最低8つもエンディングあるのか…… もっとボリュームの少ない習作だと思ってたけど、めっちゃ分岐あった……
エクストラのエンディングリストを見たら全部で12個もあってびっくり 多ッ!
寝起きキス後の3択はどれを選んでもED.8へ行った。
>付き合いきれないので帰る
ED.7 ノータッチ・ヘッドバッド
線路に立ち惚けて危機一髪だった直後、裸足で帰る3択もやっぱりED.7/8になりそう。
ファミレスで「うん、また会いたい」を選ぶとそうなるのか。
>ごめん、できない……
京一郎√に入ったか。「前世」では瀧子の兄:静次郎だが、現在は1個歳下の親戚。
静次郎は奏任官?……国家公務員か 静次郎の家に住んで女学校へ通う。全部が今と反対になっている。
>起こす
静次郎には妻:春海がいるのか!
そういや主人公の家には普通に母親や家族が暮らしている
え、静次郎お兄様は瀧子の実兄ではなく、チブスで天涯孤独となった身を養子として八里家に迎い入れた関係
瀧子の実兄の権一郎は乱暴者
なるほど、静次郎も本当は瀧子が好きだけれど、養子の立場上逆らえずに春海と結婚したのか。
京ちゃん高校時代に彼女いたの……
>京ちゃんかっこいいもんね、すごいな
瀧子が自由恋愛をしたいと言い出して怒る静次郎。いいねぇ。ただ優しいだけの兄ではなく、抑圧的な暴力性(俺の選んだ男と結婚しろ)を持った存在として描かれる。これぞ日々雲隠れ!!
PSPやPS2の時代、なつい。
春海さん!? 瀧子が廉治と会う手助けをしてくれる。瀧子のこと嫌ってるんじゃないのか。シスターフッド……
一方、現代では京一郎と未来の距離が縮まる。「京ちゃん」から「京一郎」呼びへ。もしかして私のこと好き……?
互いの親がふたりを結婚させようとして、同居させた。
>別に京一郎とでいいけど
京一郎も前世を夢に見ていたのか
>……思い出さなくちゃ
ED.4 焼きつける桜
こっわ。昔、静次郎は瀧子の首を絞めて殺していた? 京一郎は幼い頃からその前世の出来事を見て、未来との付き合い方に悩んでいたが、遂に遥人への嫉妬からか、同じ過ちを犯してしまう……
「鬼」
>何も言えない……
ED5. 心にしまって、鍵をかけて
恋人にはなるが前世の京一郎とのトラウマを明かしはしないエンド
>なんで逃げたの?
明かされる前世の記憶。静次郎は瀧子を強姦し、瀧子は子供を産んでから(自ら?)死んだ。その子供の子孫が未来や京一郎である…… 忌まわしい血族/家系の呪い。前世・生まれ変わりであることのロマンスは罪なものへと反転する。
そこからハッピーエンドに至るには、当然、前世を、「生まれ変わり」を否定するしかない。魂≠心。
前世で果たされぬ両想いロマンスだった廉治/遥人との関係も、現代では「廉治ではなく遥人が好き」と宣言して叶うことになった。つまり、いずれにせよ「生まれ変わり」というレトリックは最後には捨象される。それまでの便宜的な想像力として存在する。
ED.6 目覚める傍に
これがひとつのトゥルーエンドっぽい。エンドロールがあったから。
最後に京一郎視点での「夢」。静次郎との対話、約束と別れ。結局これでは「前世」の因縁を捨て去るのではなく引き受けることになるな。それでいいのか。未来と京一郎とですれ違っていてもいいということか。
これでエンディングは5/12解放。4,5,6が京一郎√の最後の3択からの分岐であることを踏まえると、これ遥人√と京一郎√で6つずつあるっぽい? そして遥人√でのTRUEはまだ見れていない。
エクストラでの「攻略ヒント」教えてくれるのがまさかの春海さんで草 そういう立ち位置なんかい。作者的な。
>(私たちが結婚するの)京一郎は嫌なの?
→おなじED4~6にいきそう
攻略ヒントみる
なるほど、ED3は京一郎の好感度を下げればいいのか
>(元カノと)どこまで進んだの?
好きな人に元カノとの過去を嬉々として訊かれてブチ切れる(失恋する)京ちゃん。
ED3. だいすきないとこ
関係維持エンドだ。
>軟弱者、うぬの性根鍛えなおしてやろう
ED2. 電波ふたりランナウェイ
ええ…… ギャグオチ 生き返りを皮肉る。遥人とふたり、意味分からんテンションになる
>ぎゃあああ変質者あああ
ED1. 春の変質者
現行犯逮捕→警察取り調べ→釈放→京ちゃんと何かいい感じエンド
やっぱりED1と2は序盤の選択肢でヘンテコなものを選ぶことで行けるギャグエンドだった。
あとは遥人√ED9~12の4つか……
攻略ヒント へ〜〜 この4つは、京一郎ENDを一つ以上見ることで解放されると。
なるほど、最後の4ENDが、生まれ変わりをちゃんと引き受けるシナリオってことか。
>わたしも『瀧子』のこと、思い出したい
かつてと同じように口紅を塗られて全てを思い出す未来=瀧子。
>なにも考えられない……
遥人はシングルマザー家庭で育ち、母親から虐待を受けて施設に入った。
ED10. 手繰り寄せて
遥人TRUEエンド? 前世との自己同一性を引き受けるようでいて、しかし、最終的に現世に生きるふたりの関係を肯定するには、前世からの運命を否定しなければいけない。
>出会わなければよかった
ED11. 亡霊
一発逆転で京一郎TRUEエンドかと思ったら遥人バッドエンドだった。遥人もまた別の誰かに生まれ変わるのだろうか
>そんなこと言わないで
ED12. リインカーネーション
これが作品全体のTRUEエンドか。ボーカル挿入歌が流れている。
遥人が京一郎に「未来さんを僕に下さい!」と土下座をして殴られて認められる。三角関係のお相手キャラ同士が殴り合って和解する大団円エンディング。雪菜√みたいなもんだな()
浅草十二階の高さに相当する遊園地のゴンドラに乗りながら、前世のふたりへと愛を叫ぶ。結局「他人」と見なしてもいる、微妙な感じ。
>女装に目覚めたの?
ED9. はるか19歳
男の娘アイドルとして人気になるギャグエンド。
これで全12エンド回収完了! 長かった……
・前日談
前日談多ッ!!! ファンディスクかよ
八里春海さん…… とても気の毒な生涯。この人は誰かに生まれ変わってないのだろうか
「ある少年の回想」 これ、瀧子と静次郎の子、龍一郎の話か。静次郎は幼い龍一郎にときどき女の着物を着せて瀧子の幻影を見ていた……
コンプ記念座談会ってキャラが語るのか…… 『ファタモル』でもこういう楽屋裏ネタ、二次創作的なやつあったなぁ。同人作品ならではというか……。
・あとがき
「正ヒーロー」……ギャルゲでの「正ヒロイン」に相当する、乙女ゲーの用語か!!