選択肢のあるノベルゲームと、選択肢のない女性の人生 (人生初の乙女ゲームでした)
昭和18年……太平洋戦争末期に、もうすぐ赤紙で軍医として出征する男のもとに嫁ぐことになった1人の女性が、社会と時代に翻弄されながら生きていく物語
総プレイ時間は、全ルート、選択肢での未読部分、2周目要素、付録の日記などを全て読んで9時間弱かかった。一般的には5, 6時間もあれば読み切れると思う。
素晴らしかった。
無料の同人ノベルゲームであり、女性が主人公で、男性との関わりに焦点が当たる、いわゆる「乙女ゲーム」のたぐいだろう。人生初の乙女ゲームがこの作品で良かった!と心から思える傑作だった。
エンドロールの参考文献一覧に『この世界の片隅に』が挙げられていたように、戦中の女性の話としてはかなりありふれた筋書きだと思うんだけど、それを小説や漫画とかじゃなくて、ノベルゲームでやる、という点に意義と面白さがあると思う。
男性向けエロゲが一般的であるノベルゲーム。選択肢を主人公の選択としてプレイヤーに課すのが一般的であるノベルゲーム。そういうメディアの文脈のもとで本作を眺めると、綿子の人間性と人生が、その選択できない生き様が、この物語から離れたところでひとり歩きをしていくように思える。(というか、男性エロゲーマーなので嫌でもそのように眺めて思ってしまう)
エロゲ/ギャルゲの男性主人公は、ヒロインを「選ぶ」側だけれど、乙女ゲーで女性が主人公となってもなお、誰と結ばれるか選ぶことはできない。
社会が、周りが言うことに従うしかない。そういう時代を本作では描いている。
その上で、終盤のルート分岐で、綿子が「選ばなければならない」という展開が設定されていることに、一層の恐ろしさというか、徹底的に残酷で生々しい物語を紡ごうとしているのだな、と身が引き締まった。
といってもプレイヤー視点では、いずれにせよ全てのルートを読み尽くして、そうして綿子のあり得た人生のシナリオとして設定されているもの全てを把握した上で、それら可能世界が重なった総体としての「綿子の人生」そして「鼓草」という物語を受け取ることになる。このとき、プレイ中にいくら綿子に感情移入していても、われわれプレイヤーは彼女と同一化することはできない。これは選択肢があるノベルゲームの原理的な性質であるが、「選べない女性の人生」を物語化したノベルゲームである本作においては、その性質がより一段と深みと重みをましてこちらに迫ってきたように思われる。紛うことなき名作である。
『鼓草』というタイトルまわりのモチーフの取り扱いも素晴らしかった。
ふだん男性向けエロゲを主にプレイしている男として、乙女ゲームは非常に新鮮かつ面白いものだと思った。いかに男性向けエロゲ/ギャルゲが偏った価値観や決まりごとの上に成り立っているのかを相対化/異化する作用があり、乙女ゲームをやることで、ギャルゲをやるときにまた違った楽しみ方ができるようになると感じた。有名な乙女ゲームを幾つかやってみたい。あとBLを扱ったノベルゲーにも興味がある。
・以下、プレイ中のメモ
ネタバレ全開なので注意。
">" は選んだ選択肢
上の総評の一部は、以下のメモからコピペして編集しました。
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人生初:乙女ゲー
縦横比固定でのフルスクリーン機能があってありがたいが、スクショがうまく撮れないので残念ながらウィンドウサイズで。
岡山県勝山
昭和18年(1943年) 7月
文章ログがこれまでのどんな商業ノベルゲーよりも読みやすい
ええええ!?!?
開始してすぐに、まさか結婚相手で分岐するの!?
ドラクエ5の男女逆ver. か
>カーキ色の服の青年
めっちゃキュンキュンする……
>尚太郎さんはなぜ医学部に?
こいつら初々しくていいな……
瀬庭 岡山の西の町
>なぜ、その名前に?
家庭環境エグすぎる……
戦前は普通にあったのだろうか……
谷崎出てきた!!ちょうど今やってるぬきたしでも出てきたな……
細雪をいきなり読ませていいの?読んだことないけど。あれそこそこ長いじゃん
ニ冊の「雑誌」なんだ。しかも完結してない。
43年から48年にかけて連載してたんだ。へ〜〜
ここで選択肢か〜。迷う・・・
>練乳を断る
糖分不足でBADエンドになりそうなものを先に選んでおく
Q. 「漱石と谷崎が出てくるノベルゲーは?」
A. 「ぬきたしと鼓草」
タイトル回収
そういや芳次郎くんのCGでもタンポポがやけに綺麗に書き込まれていた
>どうして絹本家はあんなに複雑なのですか
へー細雪も検閲に引っかかって掲載差し止めになってたんだ
夫が戦死した妻は周りの女性たちから少しでも目立ったことをすれば淫売と陰口されるってまじかよ
あーはいはい。そういう展開か
エロゲ/ギャルゲの男性主人公は、ヒロインを「選ぶ」側だけれど、乙女ゲーで女性が主人公となってもなお、誰と結ばれるか選ぶことはできない。
社会が、周りが言うことに従うしかない。そういう時代
誰かと結ばれるということが、恋愛などという次元では一切なく、当人と周りの人達がなんとか生きていくための手段として選択されていた時代が確かにあった。それは、現代の自由恋愛市場よりもずっと長いあいだ人類にとって当たり前であった。今でもなお、そうした風潮が無くなってなどおらず、根強く残っている。
婚約だけでなく、子供を産むという目的がそこには厳然と存在している。もちろん、昨今ようやく萌芽が出てきたかもしれない、生まれる子供のため、という視点はほとんどない。家系を絶やさないため、共同体から排除されないため、淫売に見られないため、生きていくため。既に存在してしまっている人たちのために、子供はつくられる。いくら世の中が戦争であろうと地獄であろうと。いや、むしろ世の中が地獄であればあるほどに、子供を産んでのこすという行為が切望されていく。社会はそういう仕組みで動いてきた。
「昔は今では考えられないほどに酷い時代だった」なんて、現代の視点から過去を断罪して悦に浸るようなことをするつもりはない。今もなお社会はそういう仕組みで動いている。わたしがこうした作品に触れて思うのは、やはり人類社会は原理的におぞましく残酷であるということ。特に本作は、戦中モノとしてはかなり王道のシナリオながら、その淡々とした描写がとても生々しいために、悲劇性を露骨に強調するような下品さがほとんどなく、だからこそ先のようなことを思わせられる。
とても可哀想な人生、酷い共同体をセンセーショナルに描いたものに接しても、この現実社会がどうとか思わせられることはない。ああ作り物だなぁと思うだけだ。
うーわまじか……実質、芳次郎との結婚を強制しているようなものなのに、それでも綿子は「お義父様お義母様は選ばせてくれている」ととらえるのか……
そりゃあそんな家庭環境で育ったらそうもなるだろうけれど、筋金入りだなぁ
「選択」ができない主人公、というのは、選択肢ありのノベルゲームにおいてどう考えることができるか
やっぱり、戦中の女性の話としてはかなりありふれた筋書きだと思うんだけど、それを小説や漫画とかじゃなくて、ノベルゲームでやる、という点に意義と面白さがあると思う。
男性向けエロゲが一般的であるノベルゲーム。選択肢を主人公の選択としてプレイヤーに課すのが一般的であるノベルゲーム。
そういうメディアの文脈のもとで本作を眺めると、綿子の人間性と人生が、その選択できない生き様が、この物語から離れたところでひとり歩きをしていくように思える。(というか、男性エロゲーマーなので嫌でもそのように眺めて思ってしまうのだけれど。)
ドラクエ6の逆バージョンとか言ってすみませんでした。
冗談にでもそのように形容してしまうことは、本作にとってあまりにも酷い。この作品の本質をなにも分かっていない言い回しだった。
登場人物たちにとっては、芳次郎も来年には戦地へ赴き帰ってこないことを半ば前提として思わなければならないけれど、既に終戦の年月日を知っているプレイヤー視点では、当人たちとはまた違った目線でこの展開を捉えることしかできない。
「……子供ができれば、あんたが追い出されることはなくなるから。我慢して。」
そうだよな〜〜 いや、それはそうなんだよなぁ…… ここでわたしが「ほら〜〜子供自身の権利や尊厳はまったく勘案されていない!生まれてくる子供はすでに生きている人たちが生きやすくなるための道具でしかない!!ひどすぎる!!!」と怒り嘆いたところで、この作品に対する感想としては何の効力もないというか、馬鹿げている。ただ、人間とは、社会とは、""そういうもの"" なんだという圧倒的な事実だけがこちらに迫ってきて、それにあ然とすることしかできない。
??
ここで綿子は何に傷ついたんだろう…… 子供のことを思ってではないことだけはわかるが
芳次郎がこのように言わざるをえないことから、彼の心境を慮って傷ついた?
ああ、鼓草=タンポポ=綿子ってそういうことか……いまさら気付いた。
ただ風に吹かれて翻弄されながら綿毛を飛ばして生き永らえることしかできないってことね。もっと色々かかってるのかもしれないけれど。
綿毛=種なので、すごく生々しいな・・・
"……たぶん、一回したくらいでは、子供はできない。"
へ〜 呉の軍港はさすがに知ってるけど、倉敷広島には軍需工場があるのね。
たしかに今夏いった倉敷はめっちゃ栄えてたな〜〜 岡山のほうが田舎なのか
岡山という舞台設定も、こうしてちゃんと物語に生かされていて良い
ええここで選択肢!?!? 迷ってる場合じゃねえ! というか持ち出してる場合じゃねえ!!
綿子さん、人生そのものは選べないけど、なんかすごく些細というか変なところで行動力/選択力を発揮する人だなぁ
>箪笥の中の…
ここで "種" や "花" というモチーフを重ねるのか!!
うわぁ……嫌らしいというか残酷だ……
え、マジ!? さっき言ったこと大外れ?
そういや芳次郎くんのCGはあるのに尚太郎さんのCG無くない? 綿子さんと2人のはあったと思うけど、それは芳次郎くんだって同じだし…
1945年6月29日の岡山の空襲
https://ja.wikipedia.org/wiki/岡山大空襲
やっぱり史実に基づいてるのね
たしかに絶妙なタイミングだ。ここから逆算して舞台を岡山にしたんかな
そういえば方言感が全然ないので、作者は岡山出身というわけではない?
『雪子の国』が山口県とか山陰の方言をめちゃくちゃ忠実に細かく描けていて、山口出身(在住?)だった
ここで選択肢か〜〜〜 (と、毎回言っている)
>夫です
グラマンって戦闘機……の会社名なんだ。へー
グランマかと思った
ええ……なんでこんなとこ選ばせるの……?
>……虚しい
>芳次郎さんを制止する
>硬直する
これいつ終わるんだ?
子供ができれば1つの節目にはなるが
>いい人ですよ
おお!単行本!
そりゃあ大好きな小説の続き……下巻が読めるなんて嬉しいことこの上ないだろうなぁ
>「春琴抄」を読んでみたいです
>やめておこう
>髪を撫でる
ええ……まじかよ。そっちに行くのか
>抱きつく
>……はい。
うわぁ……
ここにきて、究極の選択をさせるってことか……何も大事なことを選べなかった綿子に……
「選ぶことができる」ことは何も女性の参政権公布のように良いことばかりではなく、「選ばなくてはならない」という責任が重くのしかかることでもある。
>……選べるわけが……。
とてもじゃないけど、ハーレム(と女性版でも言うのか?)ルートでいいじゃんとは言えない
これどちらかを選んでいたらどうなっていたんだろう。選べる時に選べなかったから、どうあがいても選べないという元通りになったのか、それとも……
おいいいい
ここでCVなしノベルゲーム特有の「声の主がわからない」性質を使ってきたあああ
>尚太郎さん……?
>……はい。
エンディング!!! これtrueっぽくないなぁ
エンディング曲が男性歌唱だ!! こういうところもギャルゲーじゃなくて乙女ゲーなんだなぁと新鮮に思う
終盤で名古屋に向かう同人ノベルゲームを2つ連続でプレイしていることになる
修くん11歳なのにめちゃくちゃ聡い
なるほど。良いエンディングでした。
・尚太郎√
>尚太郎さんの妻です
12:18 おわり
絵本、やまざきふみよし『たいようのかんむり』かぁ
なんかあまりにも象徴的すぎる作中作を持ち出されて終わってしまった
まぁしかし、CG4枚中3枚が芳次郎のものであることからも、2つの√の結末を見てもわかるように、この物語のメインヒロイン……じゃなくて、中心の攻略キャラは芳次郎であるというのは伝わってくる
・芳次郎√
>芳次郎さんの妻です
>突き放す
文芳くんと和歌子ちゃんかぁ〜……
おわり!!!
エンドとしては、 選べなかった>芳次郎>尚太郎 の順で好みかな
・2周目要素
芳次郎√後→昭和18年9月
天馬屋で磁石を買うかどうかの選択肢か!!!
>使うことはないのでは?
え、どういうこと? 秋江さんのお父さんが芳次郎さんに渡した羊羹
「離別の物語」?
そりゃあ尚太郎さんが結局ジャングルで戦死して離別し、芳次郎さんと生きていくってことだろうけれど……
秋江父と尚太郎/芳次郎になんかあったっけ? 見落としてる
秋江さんがもともと尚太郎さんと婚約する予定だったのに、尚太郎さんが戦死してしまったから、秋江父も思うところがあってせめてもの供養にと羊羹を渡してくれたってこと?
尚太郎√後→昭和20年6月
実家に帰るのも芳次郎と再婚するのも
>どちらも嫌だ
幸せなイフでした
再婚前の芳次郎の日記で、秋江父とのエピソードが書かれていた! ここかよ!!!そういうことね
逆縁婚っていうんだ初めて知った
日記も、選んでなかった未読部分も、たぶん大体読み切っておわり!