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oldreavesさんのLOOPERSの長文感想

ユーザー
oldreaves
ゲーム
LOOPERS
ブランド
Key
得点
78
参照数
223

一言コメント

「ループ」の捉え方・向き合い方がなかなか斬新かつ現代的で、彼らの日常を追いかけるのが素直に楽しかった。宝探しバカの主人公、タイラがとても好き

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

総プレイ時間:6時間30分





あまり期待せずにプレイし始めたが、思っていたよりずっと楽しい作品だった。
ギャルゲや他2次元コンテンツにおけるループ物といえば、誰かを救うために必死に繰り返したり、ある目的を達成するために試行錯誤をしたり、裏切られたり、敵と戦ったり、ループの背後の陰謀に挑んでいったり、死に戻って絶望したり・・・・・と、とにかくループに巻き込まれた者たちは「必死」にその運命に「立ち向かう」話が多い。と思う。(こういうことをTwitterで断言すると、運が良ければ反例の情報が勝手に集まってくることがあるとエロい人から聞きました!)

しかし本作はループに必死に立ち向かったり、ループを利用して何か崇高な目的の達成を目指したりはしない。なぜループが起きて巻き込まれたのか、どうすればループから抜け出せるのか、といったことを必死で突き止めようとも(あんまり)しない。ループを日常として「受け入れる」のである。
受け入れてしまった彼らにとって、目下の使命は「ループ下でも心身ともに健やかに生きる」ことだ。これを拍子抜けだと感じるかもしれないが、確かに永遠に繰り返す1日のさなかに気が狂わないでいることはなかなか難しく、ある意味では非常にアクチュアルな課題であるだろう。
「毎日を楽しく生きること」自体が、ループという非日常下での最重要事項として、そしてこの物語の最大の軸として設定されていることで、ダイナミックで波乱万丈なドラマにはなっていないかもしれない。でも、災禍に巻き込まれた我々一般人に出来るもっとも大切で差し迫った行動も、その状況下で心を病まずになるべく毎日を楽しく過ごすことだろう。その点で、本作のストーリーは、単にSNSや位置情報ゲームやYouTuberといった流行物を取り入れただけに留まらず、現代的なメンタリティの本質を見事に体現しているといえる。
もうループに抗う時代は終わった※ 。不幸にもその災禍に巻き込まれてしまった人々に出来ることは、「いつかは終わる」と信じて、目の前の1日1日を健やかに、なるべく楽しんで生きることなのだ。

※いや、今まで通りループというギミックを存分に駆使する話もまだまだ作られるべきだとは思うけど……


ちなみに、本作が提示するような「大変な状況下でも、その状況になんとか自分を順応させて、慎ましく健康に生きましょう」という姿勢は、現実の社会にそのまま当てはめれば、糸井重里らが度々炎上するような、ポジティブっぽい表現で政権への批判を封殺する保守的なプロパガンダの自己責任論にも陥りかねない。
本作がエンタメに振り切っていることを鑑みれば、このような結びつけこそ短絡的だと怒られるかもしれないし、実際にわたしも、本作をこの点で批判しようとは特に思わない。むしろ、ループSFという非現実要素を導入することで、逆説的に、我々の直面する現実のムードを高精度で反映している点を実直に評価することも出来るし、また十分に皮肉とも取れる余白は残されていると思う。
とにかく「作者はそんなこと考えてない」のかもしれないが、そんなことは関係なく、エンタメだからこそ現実へ照射できる価値と「面白さ」が本作には見いだせると感じている。

というか、現代的だからどうこう…という話以前に、単純に、私には触れたことがないタイプのループ物だったから、(あんまりループ物を得意でないと思っている身としては)とても新鮮で面白かった。敢えて連想した作品を挙げるならば、アニメ映画『時をかける少女』のコメディパートだが、あれのように1人でループするのではなく、「複数人で」というのが大きく異なる。



また、「宝探し」という子供っぽい題材も、とても洗練された扱われ方をしていた。
探す楽しさと隠す楽しさ。創作物ではなく体験を提供するエンターテインメントとしての在り方。
散歩や聖地巡礼、街歩きといった他の趣味との類似関係。
「大切なのは、宝物があると信じること」
そして「宝探し」と「ループ」という両モチーフが絡み合って、さまざまな形で円環を成す構成。
正直、宝探しってそれだけで1本のノベルゲームが作れるほどに面白い題材だとは思っていなかったので参った。

なにより、主人公タイラがめちゃくちゃ魅力的。熱血キャラだけど冷静かつ気配りが出来るのでそんなに暑苦しくはなく、有能すぎるのに不思議とまったく嫌味な感じがしない。
私は、主人公TUEEEでひたすらageる展開の作品は好きじゃないが、本作の主人公はなぜかすんなりと受け入れられた。キャラを魅力的に描く技術がとても高い。(竜騎士07氏の作品に触れるのが初めてだったので、流石有名な実績のある人はすごいな〜〜と素朴に思った。)
他のキャラももちろん良い。メインヒロインのミアは第1印象よりずっと感情豊かで可愛いし、ヒルダとレオナのギャル×パンクJK幼馴染百合は最高


それから、写実的ではない、最近流行りの感じのパステル調のイラストワークも非常に良かった。
背景美術が大事な「宝探し」だからこそ気合が入っているのを感じられた。



システム/UI面も高水準だったが、1つ要望を挙げるなら、クリック時のボイス継続機能が(たしか)無かったのだけ少し不便だった。











【以下、プレイ中のメモ(最後に終わったあとの感想あり)】


主人公にもCVが付いてる!
画風が独特。背景美術もなんかスタイリッシュな今風のタッチだ…アニメ「かくしごと」EDとか、「つり球」とか、「サイダーのように言葉が湧き上がる」みたいなタッチ

というか三人称じゃん。
>なるほど、こんなにミニマムな宝探しもあるものなのか。
>これなら体力に自信がない少女でも、気軽に挑戦できそうだ。
語り手はどういう立場??

OPのMVも今風……というかボカロMVみたいな歌詞表示式

バックログで最新テキストが一番下ではなく中央に表示されて、下半分が空白。めずらしい

友達と2人で深夜のコンビニバイトして、終わったらコンビニ前で朝までダベるのが習慣ってエモいな ザ・ホルトラク
ヒルダめっちゃキャラ立ってる。全体的にキャラ立たせるのが上手い

位置情報スマホゲームが題材になるのも現代だなぁ
宝探しって背景イラストが重要になるモチーフじゃん
マグル。ハリポタからの用語? 実際にこういう使われ方してるのかな

パルクール! とことん現代的

三人称に対応して、主人公の立ち絵がよく表示される(一人称視点ではなく演劇/舞台に近い)

探すことと隠すこと。追うものと追われるもの

深夜から夜明け前にかけての、空が次第に白みだしていく時間変化をそこそこ丹念に背景CG差分でも表現しており良い
都市伝説ホラー要素も寝不足で徘徊する夜明け前の街の雰囲気のなかで(そして今風のデザインによって)よく表現されている

繰り返す夏の1日が8月31日でも8月15日でもなく、8月1日であるところに……意味を見出したくなったりならなかったり

てか非日常パートに入るのが早い。日常パートがほぼなくて、幼少期エピ→小学校の同級生と再会→サスペンス&ループ突入 というスピード感
ロープライス物だからか


5章〜

アウトドア企画系YouTuber……てんこ盛りやなぁ

記憶が引き継げるってことは本とか読み放題じゃん。映画もゲームも。いいな〜〜(セーブが必要な複雑なゲームとかは厳しいか。RPGとか)
物的な所有ができない代わりに、知的な情報・体験は増やし放題

ええやん。ミアもすごく可愛い良いキャラだ
全体的にキャラを魅力的に描くのがうまい。
タイラもすごく良いキャラ。空回りしてない熱血キャラをちゃんと描ける時点で勝ちなとこある
「宝探し」というコンセプトも芯が通ってて、意外と応用も効くしすごく面白い

シリアスパートじゃなくて、「楽しいパート」を本当に楽しそうに、プレイヤーにも楽しいと感じられるように描くのって結構難しいと思うんだけど、これは今のところ成功してると思う

あーそうか、写真を撮っても残せないわけか
創作行為全般がかなり制限されることになるよな。詩とか絵とか作っても記憶以外には残せない
スキルだけなら半永久的に向上させられるけど。
記憶だけで出来る創作って何かあるかな……

明日になると筋肉がリセットされるなら筋トレに意味はないのか
筋肉をつけるためじゃなくて、筋トレ自体が楽しい人は失望しないと思う。身体を痛めつけること自体に快感を覚えているひととか。
いちばん良いリフレッシュ

しょーもないツッコミだけど、全員がある時刻でループする、というSF設定は、絶対時間を前提としてる。
相対論的にいえば普遍的な「時刻」は存在せず慣性系に依存するものだから、めっちゃ高速で移動すれば他の人とはループするタイミングが微妙にズレたりするんかな
思考実験的には、光速なら時間が経たないのでループを一生回避できる。まぁ次の日に進めないのは同じだけど。
「わずかな時間のズレ」みたいなものが言及されるから、思わずこういうことを考えちゃう


あーなるほど。筋トレ・YouTuber・イラストと、それぞれ異なる「クリエイター」ということか
筋トレする人をクリエイターだと捉える視点は思いもしなかった。「記憶だけ持ち越して1日をループ」という設定だからこそ見えてくる共通点。おもろい!

そう考えると、宝探しをする人(トレジャーハンター)はクリエイターではないのか。
隠す側はクリエイターと言っても良いだろうけど、「モノ」を残すタイプの創作ではなく、体験・サービスを提供するタイプの創作者か。
2種類の創作行為。サービス提供者とクリエイター。後者のなかから前者の側面を見つければ、ループのなかでもマシになるのかな

宝探しから聖地巡礼、そして街歩きへ。


今のところ主人公ageの展開がずっと続いているのだけれど、ぜんぜん嫌味がなくて素直に楽しいんだよな〜〜
この明るく熱血で、でもバカではなく、正しい意味での「エンターテイナー」である主人公の造形がほんとに良い
褒められても自慢せず、「宝探し本来の面白さだ」と譲るところも、下手な謙遜やごまかしではなく、本当に宝探しへの愛を貫いているからこそと伝わってきて好き


なるほど。
1日ループ設定は、大量の新規コンテンツやニュースに埋もれる大量消費社会や、累積的なフォロワー数やチャンネル登録数といった数的資本主義を相対化/風刺できるのか。
ループという古臭いギミックと、SNSや位置情報アプリやYouTuberなどの新しいネタを組み合わせることでこんなにおもしろい化学反応が起こるとは・・・

そもそも、ループから抜け出そうとか、ループを利用して誰かを救おうとか、何か大きな問題に立ち向かうのではなく、「ループから抜けるまで心を病まないように毎日を楽しく健康に過ごす」のがLOOPERの最大の目的ってのが冷静に考えるとかなりすごい。
「いつか時の渦から抜けるけど、それがいつかはわからず、こちらから関与もできなさそう」という基本設定は、これまでの、ループを脅威や武器として扱う物語とは一線を画している。
まぁこれから終盤にかけて、流石に何らかの問題発生があるだろうが。

近いとすれば、思いつくのは細田守『時をかける少女』で真琴がループを利用して好き放題楽しく青春するパートかなぁ…
あれは基本真琴ひとりのループだったのにたいして、こっちは複数人一緒でのループだからぜんぜん雰囲気が違うし、真琴ほど積極的にループを利用してはいない。
ループを忌避するのでもなく、積極的に利用するのでもなく、いつかは抜けたいけど、自分で抜けられるものでもないから、続くかぎりは健やかに過ごす、というメンタリティはやっぱり非常に革新的ではないだろうか。
安易に、現代日本の若者のメンタリティに結びつけたくなっちゃうなぁ・・・・・・下品だけど・・・・・・
タイラの宝探し観、「時代も状況も問わず、楽しさはいつだって、自らの手で見付け出すもの」は、世間や政治への文句を封殺する自己責任論、新自由主義的な保守観っぽさもあるけど。
ループという「災禍」にも、いたずらに反抗せずに、なんとか対応しようと自分を作り変えて、そのなかで楽しみを見出す……
どっちかというと、ループものよりも、無人島生活モノとかに近いなこれ。いつ救出者が来るかわからないけど、それまでとりあえず心身健康に生き延びようとする物語。資本主義から切り離されてるのも無人島っぽい。(1日だけ無限に金が使えるからこそ資本主義から切り離されるという逆説)

飽食の時代だからこその退屈。えーと、ハイデガーの退屈の第二形式だっけ?(『暇と退屈の倫理学』)


86〜116ループ目
ケタ数がすぐに指数関数的に跳ね上がらずに、百ちょっとで留まるのが現実的でいいね。ループ回数という物量でヒルダのレオナへの想いの深さを表現しようとしてないところが良い

ああ・・・だからバイトのあとに一緒に駄弁ってたのか・・・というか一緒にバイトしてたのもそういう・・・
死なないだけマシじゃんとも思えるかもだけど、「子供のうちに」とか「青春」とかをものすごく大切にする気持ち(しかも自分のではなく、友人のそれを)はすごく沁みる・・・ヒルダ・・・
押し殺したような声の演技もめっちゃいい

・・・あれ? 二人ともコンビニバイトじゃないの?? レオナは違うのか

めっちゃ泣いた〜〜良かったねぇ〜〜〜
レオナのタイムカプセルの手紙に注意を向かせておいて……!なのがうまい
ご都合主義どころかめちゃくちゃ理屈通ってて草 そりゃ飛び起きるわww

てか、昏睡してればループを回避できるのに、ループに合流させて喜んでるのも結構特殊な気がする
起こす動機は、ループ終了後も数年間眠って無駄にしちゃうのを回避するためとはいえ、「一緒にループする日々を過ごせることを喜ぶ」のはかなり異色で(かつ筋が通っていて)面白い
やっぱり「皆で一緒にループ」ってとこがポイントだな〜〜 1人だと宝探しも満足に出来ないし(自分の作ったのを誰かに遊んでもらうのは無理だし、ループ開始時点で設置されている既存の宝探しを遊ぶことしか出来ない)

ここは無人島みたいなもんって言及されたし!


おお・・・・・・
ループから抜けたあとの日常にすぐ馴染むために「クールダウン」に努める、という表現が、今作のループものとしての異端性を象徴している
流石にこのままあっさりループ終了ってわけにはいかないだろうが

サイモンすげぇ・・・今度は脳外科とかと一緒に時の渦に巻き込まれたいとか・・・
ループが脅威でもなんでもなくなってるもんな。

パンクJKとギャルJKの幼馴染コンビ、最高なんだよな。ヒルレオは永遠

ループする宝探し。宝探しは探しているときがいちばん楽しい。なるほどなぁ〜ちゃんと"繋がってる"
最初の願いの宝物の言い伝えなんだっけ。自分のところに戻ってくると魔法が溶けちゃうってやつ。これは円環を忌避している。
あと、人間が宝物を探して移動するのではなく、宝物が人間たちのあいだを移動する捉え方でここも反転している。

観覧車も円環のモチーフだと今更気付いた。同じく円形だが、放射状に広がって「終わりのある」花火との対比

最初の背中にドロップキック、そう繋がるのか…


これタイラの一人称じゃなくて三人称視点なの、この展開のためかなぁ
このミアにとってタイラ達は「昨日の亡霊」だから、その亡霊のタイラ視点では根本的に成立しないし。
ミア視点に移る方法もあると思うけど、ストーリーテリングの一貫性を持たせるために初めから三人称にした、とか。
タイラとミアだけじゃなく、それぞれのキャラのシーンがあったけど。


仕方ないとはいえカイとクロに立ち絵ないの可哀想w

このサマーウォーズ展開アツいな〜〜

エンドロール
レオナのCV、井澤詩織さんだ!言われてみれば……!
ホリーの声聞き覚えあると思ったら木野日菜さんか。

おわり!!!!
おまじないとジオハンティングと探し女を一気に収束させて回収するの綺麗だった。
展開的にはまったく文句ないけど、ちょっと最後の2人のやり取り(見つける前後)がくどかったかな
最後だからってそんなにクライマックス感を無理して演出しなくていいというか、無理してる/くどいと思われた時点でやや失敗はしている

でも総合すればかなり面白くて好きだった! 短くてよくまとまっている。長くてまとまっていないより全然良い
いちばん感動したのは最後じゃなくてヒルダレオナのくだりだけど、最後の予定調和感もそれはそれで本作の「ループという非日常を日常的に楽しむ」という姿勢にあっていたというか、あんまり非日常的に盛り上がりすぎないほうがむしろ合っていると思う。

ヘテロ恋愛でヒロインが「わたしはあなたの宝物です」と名乗るのは女性の客体化・所有であると苦言を呈することは(誰でも)出来るんだけど、まぁお互いがお互いを宝物として見付け出すとも言ってるし個人的にはセーフ
ミアがほんとに宝物みたいにちっこくて可愛らしい(明らかにその想定でデザインされている)のと、なによりタイラがめっちゃ好感の持てる気持ちの良い男性主人公だったから、嫌らしさがまったくない。非18禁ノベルゲーム(ギャルゲー)としてかなり正しい出来だと思う。