「元カレ寝取らせのジレンマ」とでも言うべき課題に対し重層的な解決策を提案した、見事な短編抜きゲー。
総プレイ時間:4時間50分
実プレイ日数:4日
1年ほど前にサイトの格安セールで買った。
副題にあるように「寝取らせ」モノということで、単に主人公の男(ヒロインの夫)が妻を寝取られて悲しむお話ではなく、自ら積極的に寝取らせていく。つまり、主人公の男が相当に(いちばん)狂った性嗜好を持っている、と言ってとりあえず間違いはない。
「元カレ」に再会して調教されてズブズブの不倫淫乱女へと落とされていく妻:雪江さんは、現在は絵に描いたよう(で寒気さえ覚えるほど)な「理想の奥さん」であるが、過去にはその彼氏にかなり過激な調教をされていた。その過去をいまは完全に断ち切って良妻主婦として暮らしているかにみえた雪江だが、携帯電話のなかにたったひとつ、その頃の「ビデオ」を残してしまっていた。つまり、ほんのひとかけらの未練があった。そうして、そのビデオを偶然にも発見してしまった主人公が、調教主であった妻の元カレに連絡を取り、寝取らせ依頼をすることになる……というのが大まかな流れ。
このゲームには「寝取らせ」モノとしての大きな矛盾が1つ存在する。
それは「そのままでは全く汚れていなかった清純なヒロインが悪い男の手にかかって堕ちていくほうが興奮するが、完全に清楚だったら『元カレに寝取らせる』というコンセプトが成立しない」というジレンマである。過去に彼氏に淫乱調教されている時点で「自分(主人公)のせいで妻が堕ちていく」感は薄まり、元々の彼女の性質を呼び覚ましたに過ぎなくなってしまう。すなわち、「寝取らせ」た主人公(夫)の責任が減じて、浮気するヒロイン(妻)の責任がそれに対応して増してゆくのだ。「自分の異常性癖のせいで愛すべき妻がこんなことに……」という罪悪感に快感を覚えたいのに、妻が自分と独立して自律的に淫乱であったなら、「寝取らせ」モノの旨味が無くなってしまう。
このジレンマの落とし所として本作が選んだのは、先に述べた通り、「ヒロインは基本的にはもう過去をすべて精算してはいたが、たった1つのビデオだけは所持していた」というなんともギリギリの絶妙な設定だ。この落とし所こそが本作の肝であり、だからこそ、序盤以外はそのビデオは出てこないのにも関わらずタイトルに冠しているのだろう。
こうして、この寝取らせモノは「夫も悪いし妻も悪い」というどっちもどっちの釣り合いがとれた構図を保って進行していく。両者の責任のパワーバランスが少しでも崩れてしまえば破綻してしまう中を、この夫婦は互いにまったく意思疎通がないままに上手く渡り切る。なんという信頼関係。なんて尊い夫婦の絆。これには純愛厨もニッコリ。
(ちなみに、いちおう補足すると、寝取り役の「元カレ」(金髪グラサン浅黒ヤクザ面)はまったく何も悪くない。本作でいちばんの善人かつ倫理的にちゃんとした大人である。依頼を淡々と確実にこなし、契約を自分からは決して裏切らないその姿勢はまさにプロフェッショナルで尊敬に値する。)
そして「夫と妻の責任のバランス」の維持が厳しく求められるシナリオのなかで、ノベルゲームの基本要素の1つ──「ルート分岐」が設計され、よりメタな次元でも、このバランスが表現される。つまり、中盤で主人公は、元カレへの寝取らせ依頼を「これからも続ける」か「金輪際止める」かの二択にぶち当たるのだ。言うまでもなく、この二択の先のシナリオはそれぞれ「夫が悪い」と「妻が悪い」に対応する結末になっている。つまり、片方のルートだけなら「夫婦の責任のバランス」が崩れているが、両方のルートを俯瞰するプレイヤーの次元では、このゲームのシナリオ構造全体で、やはり、完璧に「バランスがとれて」いるのだ。むしろ、いつまでもどっちもどっちのままに進行させるよりも、あえて局所的に思い切って均衡を破綻させることで、大局的により強固でレベルの高い『平等』を実現しているとさえいえる。こうした構成には舌を巻いた。ルート分岐の使い方がうまい抜きゲーっていいですよね。
まとめると、本作『妻が隠していたビデオ… 〜元カレ寝取らせ観察記〜』は、「元カレ寝取らせのジレンマ」とでも言うべき課題に対し「妻が隠していたビデオ」という基本設定と2ルート分岐の構成によって重層的に解決策を提案した、見事な「元カレ寝取らせ」抜きゲーであった。
他に幾つか細かな感想を書くと、イラストはまぁまぁだった。
肉感的な塗りは好みだが、ヒロインの体型はさすがにフィクショナル過ぎて……(要は胸がデカすぎるということ)。 そのリアルを超越した下品とさえいえる体型設定がプレイ内容のいやらしさをブーストするという目的意識は理解できるんだけど、ね……さすがに……。
それから、股を開くときに地の文で「くぱぁぁぁっ……♡」みたいに書かれるのもエロさより笑いが勝っちゃう。地の文にハートは面白いでしょ。エロ漫画のオノマトペならいいかもしれないけど、それをそのままノベルゲームのテキストに持ってくると場違いになると思いませんか?(本作は全編が夫の一人称であるため、この地の文も夫の語りであるとみなすべきかもしれないが、夫が「くぱぁぁぁっ……♡」と表現しているのもそれはそれでウケる。)
それ以外のテキストはかなり良かった。普通に文章がうまくて、妻を元カレに差し出すことで余計に妻への/との愛を確信していく主人公の狂った思考回路もよく表現されていた。