アニメ視聴済で正直舐めていたが……短編ビジュアルノベルとしてほぼ完璧な出来だった。
※以下はプレイ中に書いている感想メモです。
お〜〜 ウィンドウの上半分が絵、下半分が文章の領域にクッキリと分かれているガチの「ビジュアルノベル」形式だ。ほぼ初めてプレイするかも
……と思ったら違った! 上半分は背景CGで、キャラの立ち絵イラストは今の配信者・VTuberみたいに画面右の前面に置かれるのか。おもしろい
男主人公もフルボイスだ。さすがKey
考えてみれば、こちらのクリックごとに台詞の続きを喋るノベルゲームのキャラクターってそもそもみんな「こわれたロボット」っぽいな。つまり、ほしのゆめみはノベルゲームのキャラクターの本質を体現しているキャラクターである。
加えて言えば、このPC上で動くプログラムされたアプリケーションとしてこのゲーム作品があるのだから、ここでの主人公とゆめみのぎこちない会話のやり取りは、そのままプレイヤーであるわたしとこのゲーム・プログラム自身の相互作用…コミュニケーションのアナロジーにほかならない。
やばい、開始数分で、もうこのゲームをメタ・ノベルゲームとして楽しむ方向に舵を切ってしまっている……(アニメ視聴済みなので大まかに内容を把握しているから、というのもあるが。)
メタ解釈でいえば、真っ白い光に目をやられたところからだんだんと画面が「晴れて」始まる冒頭の演出は、まさにノベルゲームの視点の誕生(主人公≒プレイヤー)をあらわすものとして解釈するのが容易だ。
上の「クリックするごとに喋るキャラはそもそもロボっぽい」論でいけば、本作に限ってはむしろ男主人公にCVを付けないほうが(ゆめみとの差別化のために)よかったのではないか。
というか、プラネタリウム自体が、実在しない虚構の星空というスペクタクルをスクリーンに投影することで鑑賞者を一定時間楽しませる娯楽という点でノベルゲームに近いのか。(最近は他の娯楽のせいで流行遅れになっているところも……)
すなわち、ロボット≒ノベルゲーム と、プラネタリウム≒ノベルゲーム という2つの線でメタ解釈できる作品ってことか。やったぜ(まぁ自分のノベルゲー判定がガバすぎるがゆえ、って気もするけど、これが楽しいんだからしゃーない)
ええと、ゆめみ=ノベルゲームそのもの、という見立てでいくと、この物語はノベルゲームがすでに滅びた未来の世界において、壊れかけたノベルゲームに主人公が初めて出会うおはなしってことか。
"邪気のかけらもないそれらは、この世界ではとうに滅んでしまった貴重品だ。たとえそれが、プログラムで仕組まれたまがいものだったとしても。"
ゆめみちゃん可愛い 頭の長いリボンの色がコロコロ変わるのも素敵
ふたりのやり取り漫才みたいで普通におもろいw ロボットというか、こういう人の話を聞かないマイペースなキャラ好きなんだよな〜〜
BGMもいい。これぞビジュアルノベルってかんじで。
文章も今のところかなり良い。ちゃんとしている。軍用語とかこの世界観の固有名詞などの語彙を散りばめて、かつこの男主人公の人物造形をしっかりと描き出すような文章表現。
荒廃した世界で文字通り泥水にまみれてすすりながら必死に生き抜いてきた屑屋の男が、廃デパートのプラネタリウム館と唯一奇跡的に動くロボットに出会い、そこでプラネタリウムを修理する……という場面設定もかなり良くて、ところどころ、神話的というか文学作品の風格さえ感じる。ミニマルな人物配置と空間設計など、緊密に組み立てられた短編小説のような。(もちろん、文字だけでなくビジュアルノベルとしての意義もちゃんとある)
ゆめみがプラネタリウムのことを「イエナさん」と人称で呼ぶのも考えてみれば面白い。擬人化の存在である人型ロボットが、別のものをさらに擬人化しているのだから。
プラネタリウム修理完了後の初上映、めっちゃ良かった。ちょっと泣きそうになった。
主人公が、プラネタリウムも初めてだし、そもそも星空というものをしっかり見たことがない、というのが感動に一役買っているのだと思う。
そして、無力なロボットであるゆめみが人間の神話を滔々と演じて物語るさまにも心打たれる。物語内物語であり、フィクションがフィクションを語る現象でもある。
その後の、突然に電気が切れて背景CGもBGMも消え、そこから蛍光したゆめみの立ち絵だけが浮かび上がって画面に現れる演出もマジで完璧。
リボンの色差分といい、別にすごいリッチな演出は1つもしていないんだけど、ビジュアルノベルの最小要素を存分に生かしている。そういうものに感動する。
うわ〜〜 ゆめみの「声」だけで特別上映を続けてくれ、と頼む…… こういうのに弱いんだよ…… 想像力とフィクション。
真っ暗な画面のなかに、ゆめみの台詞テキストの白色だけが浮かび上がる。ビジュアルノベルだからできる演出。
特別上映の内容も地味にすごい。空・宇宙を目指した人類史。上へ上へ、空/宇宙と死/天国というテーマ上の推移のさせ方。そして語りの中での人類の空間的な上昇が、そのまま時間の流れ、過去から現在に至るまでの歴史の運動にもなっている。空間的な運動と時間的な運動が想像上のスクリーンで重なり合っている。
また、ゆめみの「現在」は、男にとっては「過去」である。ポストアポカリプスものである時代設定も完璧に使いこなしている。
火星の生命の痕跡から想像した物語の存在にまで……しかも戦いの神:マルスから戦争(後の世界)にまで繋げる!!すげぇな。地球というか、人類文明そのものに対する批評をしている。これをロボットに語らせて、それを聞く人間に想像させている、という状況が百点満点。
やば〜…… プラネタリウムはタイムマシン。そこから、「今から1000年後の星空」としてゆめみが紹介する星空──現在の星空──は、はじめて、上半分だけのCGではなく、画面いっぱいに広がる。だって、それは想像の星空だから。本来が虚構であるプラネタリウムの星空を「想像」する、という二重の虚構があって、しかしその星空は、実際に男が今生きている空の上に確かに広がっている実在する星空でもある。
レインコートのフードをかぶったゆめみも可愛い
冗談の通じないゆめみと主人公の漫才掛け合いが相変わらずずっと可笑しくて面白い。
四足砲台歩兵シオマネキとの戦闘もまた、人類の皮肉な「狩り」の最終形態として意味を帯びているのがすごい。
ゆめみはシオマネキのことを「彼」と表現した。機械のジェンダー表象についてここは掘り下げられるだろう。なにせこれは「美少女ゲーム」なのだから。
ぶっ壊れて上半身のみとなったゆめみの緊急用音声のCVが変わって一気によそよそしくなるの良いな。
エンディング曲懐かし〜〜 宮沢賢治作詞作曲なんかいw
おわり!!!
死に際のゆめみがこれまでのお客さんや同僚たちの思い出映像をホログラムで見せるくだりはさすがに泣かせにきすぎてて冷めてしまった。「無」の顔で画面を眺めながらひたすらクリックしていた。
最後で失速はしてしまったが、しかし全体としては短編ビジュアルノベル、短編ノベルゲームとしてほぼ完璧といっていい内容だったと思う。ここまで面白いとは。
人型ロボット、プラネタリウム、終末世界といった各要素が見事に昇華されきっていて、上述のメモの通り、メタ・ノベルゲームとしても興味深いし、そういう視点でなくとも、単純に終末ロボットものとして、ノベルゲーム等の娯楽を含む人類文明に対する透徹したまなざしを提供しているし、もっと単純に、主人公の男とゆめみのすれ違いながら進んでいく会話の応酬がコメディとして非常に秀逸。アニメのためか、「泣きゲー」というイメージが先行する作品ではあるが、こんなに面白可笑しくクスッと笑える要素がある話だとは思っていなかった。最後に泣かせにくるのに冷めてしまった自分としては、もっとコメディとか、(ゆめみとの別れというお涙頂戴以外の)シリアス要素に振ってくれたらより良かったかな。
とにかく、短い中でも(短いからこそ)ビジュアルノベル・ノベルゲームの底力を感じさせてくれた傑作だった。やって良かった。