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oldreavesさんの幼馴染と十年、夏の長文感想

ユーザー
oldreaves
ゲーム
幼馴染と十年、夏
ブランド
夜のひつじ
得点
73
参照数
183

一言コメント

特別なことは何も起こらない、他の何物もふたりの「純愛」を引き立てるために存在していない、自律的な物語という意味で、純愛和姦エロゲのひとつの到達点のように思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

合計プレイ時間:4時間15分




・中学生編の告白シーンまで(全体の4割くらい)やった時点での感想

文字のサイズとフォントがとても読みやすい。
文章は実質的にほとんど一人称だが、たまーに三人称の主語が差し挟まれてびっくりする。なぜ一人称ではいけなかったんだ。ヒロイン側の描写もしたいから? 「僕」の一人称にしてもほとんど変わらないと思うけど。

文章は平易で読みやすく、ほんの少しの詩情と踏み込んだ描写があって丁度いい塩梅。
中学生編の告白シーンから本気出してきたと感じた。それまでは、3年経っても彼女の内面の成長があまり感じられず、いつまで経っても純粋無垢で形骸的な「ヒロイン」ではないかと訝しんでいたが、「あのとき何も知らなかった自分が恐かった」というまさかの転換と、身体に触れて自分自身の状況を確かめるためについた「嘘」によって、ようやく彼女に人間らしさが感じられてきた。(ここで、3年前のあのときに"本当は"誰が悪かったのか、という点は問題ではなく、彼女自身が固有の苦悩をこれまで抱いてきたと実感できる点に意味がある)
……以上のように、どんなに罪悪感を覚えさせても、どこまでいっても、「幼馴染」という保守性の砦に籠もって都合の良いヒロインとの甘美な話をやっているに過ぎないのだが、その枠のなかで非常に丁寧にお互いの心情と機微を描いていて、評価を改めた。
それに、やはりときたま入ってくる三人称によって、目の前の画面内の2人に対して一気に距離が生じて突き放され、ずっと甘ったるい感情移入をしたままではいられない。このための人称選択だとすれば、とても素晴らしいと思う。主人公に没入して幼馴染の少女との交流を愉しむのではなく、客観的にこの幼馴染のふたりの歴史を見つめ続けることが求められている。そう考えると、タイトル『幼馴染と十年、夏』の「幼馴染」とは、けっしてヒロインのことだけを指すのではないと思えてくる。

それから、夏休みの生徒がまばらにいる学校内の雰囲気がとてもいい。静けさと遠くの喧騒と蒸し暑さと冷房の涼やかさ。


・クリア

おわり!!!!! 思わず拍手しちゃった。
いや〜〜なるほど…… これだけ評価されている理由もわかる。
特別なことは何も起こらない、何物も「純愛」を引き立てるために存在していない、自律的な物語構造という意味で、純愛和姦エロゲのひとつの到達点のような気がする。これぞ幼馴染。ただ単に家が近所だっただけの偶然的な関係を、運命的に演出しないままに描ききる。
それに、ふたりの関係、この夏の先まで続いていくのかという不安もすべて、最終的に性行為に収斂して、そのなかで昇華させるのが素晴らしい。Hシーンのままエンドロールに突入するのが象徴的だ。

>真っ白になる。
>自分と枝梨しかいなくなる。
>二人あわさって、一つのまま、一つになることそのもののなかに溺れ──達する。
>(中略)
>手が届く場所に残ったのは圧倒的に卑俗で、当たり前の性の快楽だった。

ラスト近くのこの辺の描写とか、思わずメモを取ってしまうほど良い。
(最後の葉人の「夢」の意味深な言及はわからない。ここに来てメタ要素とか夢落ちじゃあるまいし)

高校生になって短髪になるとは予想外だったが可愛かった。
どんどん気兼ねなく振る舞うようになっていき、彼女の内面も肉付きが良くなっていった。

三人称問題は結局最後までよくわからなかった。……「夢」が関係ある?

【追記】
https://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=17496&uid=えび
他の方のレビューを読んで納得しました。なるほど。全編が追憶=客観視点ってことか。



※ちなみに、基本的に絶賛している割には本サイトに入力した得点がそこまで伸びていない理由は、本作が純愛和姦ゲーだからです。和姦が、に、苦手なんだ…… だから、幼馴染モノとしては好みだし、エロゲとしてHシーンがおざなりにならず話の核になっている点など客観的には非常に評価しているが、自分の個人的な嗜好を無視することもできず、どうしてもこの点数になってしまっている、という状況です。