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oku_bswaさんの花咲ワークスプリング!の長文感想

ユーザー
oku_bswa
ゲーム
花咲ワークスプリング!
ブランド
SAGA PLANETS
得点
65
参照数
5007

一言コメント

ストーリーの組み方が下手な作品だったなと。冒頭からシリアスな雰囲気やそう思わせる謎や伏線らしきものを匂わせておきながら個別ルートによってはそれが全く関係してこないし、散々引き伸ばして最後は安直としか思えない展開で解決させるのならば、変に色気を出さずに初めから萌えを重視した物語に徹して欲しかった。プロローグ以降に幽霊部全体で日常を積み重ねる描写が殆どなく、すぐさま主人公と特定ヒロイン二人だけの話が中心になるのも問題だろう。かといってイチャラブ描写が特別濃いわけでもなければ、思わぬ場面転換によって興を削がれてしまった箇所もある。何と言うか色々やろうとしてその全てが中途半端で雑に終わっている印象。未練を断ち切り前に進むことが本作の肝であるが、他ならぬSAGA PLANETS自身が未だ四季シリーズの作風に拘泥して新しい方向性を打ち出すことができておらず、立ち止まったままなのではないだろうか。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

体験版部分(PROLOGUE)での掴みは決して悪くなかったしむしろ面白かった。個性的なヒロインとのテンポの良い掛け合いを中心としながらも、主人公の抱える未練や幽霊部の部則の謎、不知火飛鳥の存在、彩乃や祈の抱える未練など今後ストーリーの鍵になってきそうな伏線を提示させていく。四季シリーズや前作『カルマルカ*サークル』がファンタジー要素を含んだ学園物ということもあって、今回も実は何かあるのではとか、主人公の異常なまでの睡眠欲も何かの伏線なのではとも考えてしまった。(実際のところは珍しくそういったファンタジー要素が皆無で、本当に幽霊が出てくることもなければ主人公がゴーストでバニッシュするなんてこともないのだが。)
そして紆余曲折ありつつも幽霊部が本格始動し、さあこれからというところで思わぬ障害が発生して…と、先が気になる場面で終わる。ここまでの展開は特別不満に思う箇所はなかったが問題はその後だ。

まず残念だったのがプロローグ以降では幽霊部というコミュニティ全体で何かするようなイベントや日常を積み重ねる描写が殆どないこと。すぐさまいつものヒロイン選択のマップ画面が現れ、そこで複数回個別のイベントを見てルートに突入する。個別ルートでは主人公とヒロイン二人の恋愛が話の中心になるので皆で集まってワイワイやる話にはならない。本作のストーリー紹介に「くだらなくも、かけがえのない青春物語」とあり、それは未練を抱えた者同士で集まった幽霊部の面々で馬鹿やったり遊んだりすることだと思うが、そういった取り留めのない日常を垣間見る場面が本作の中に一体どれだけあっただろうか。ヒロイン一人二人との会話は沢山あるが、全員が一堂に会して騒いだりした場面って若葉の家にお泊りしたことくらいのように思う。そのため幽霊部というコミュニティに対してそこまで自分は入り込めなかった。共通ルートの段階でもう一つ二つくらいは皆で遊びに行ったり、或いは何か山場を設けて幽霊部で協力してそれを乗り越えるといったイベントがあればまた印象は変わってきたかもしれない。 

体験版終わりの部室が取り壊される展開もこれから先一体どうなっていくのか楽しみにしていたが随分あっさりしたものだったし、今となってはこの展開って個別ルートに分岐する選択肢を入れたいがためだけに起こしたものとしか思えないし事実それしか機能していない。個人的に本作で致命的だったのがこの点で、物語の中で発生する展開に対して安直や陳腐、場面を繋げるためだけに都合良く生み出されたものといった軽薄な印象を抱いてしまい、ストーリー全体を見た時に重みを感じられなかったことだ。


例えば若葉・ヒカリ(アフターも含めるなら柑南・ののか)は飛鳥と直接関わりがなかった人間なのでプロローグで匂わせておいた謎や伏線が個別ルートでは一切話題にならないし回収されることもない。四季シリーズのように冒頭から含みを持たせながらシナリオを運ぼうとしているのは分かるが、半分以上のルートで話題に挙がらないのではあればそれは構成として問題があるだろう。見方を変えればシリアスな要素とは無縁の日常シナリオを楽しめるとも言えるが、主人公の抱える未練や謎が明らかにならないままハッピーエンドを迎えるのでどうしてもすっきりしない気持ちが残ってしまった。

また幽霊部の部則「部員は未練がある者でなくてはならない」「部員は未練を失ったら去らねばならない」も初めはさも重要なものとして扱われているが、祈・ヒカリルートでは何か有耶無耶になっているしアフターでののかが入部する際には最早無かったことになっている。これはいくらなんでも適当だし呆気なさ過ぎるだろう。
細かい所で言えば主人公が女装した花咲遊子とごんた君こと権田橋のやり取りも今後一悶着ありそうな感じを匂わせておきながらあれっきりだったし、あれも一体何だったんだろうか。
何かあるぞと思わせておいた要素がルートによって全く関わってくることもなければ随分といい加減に扱われており、これなら変に色気を出さずにそういう要素を全部取っ払って、共通ルートでは主人公が幽霊部というよく分からない部活に巻き込まれそこでの騒がしい日常を描き、個別ルートになって初めてヒロインが抱える未練なり問題を明らかにしてそれを協力して乗り越えるという、よくあるキャラ萌えゲー的なストーリー構成に徹してくれた方が良かったし多分その方が素直に楽しめた。

若葉・ヒカリは本筋とは関わりがないので個別ルートでどんな問題を発生させて山場を作るかはある程度自由が効く。そのためそこでの展開の面白さが重要になってくるが、どちらの展開も疑問を投げかけたくなるものだった。
若葉ルートは友情から恋愛へと移行する王道展開だがその順序がおかしい。一度エッチしておきながら今更友達のままでいるか恋人になるか悩むのはちょっとどうかと思う。その後で発生する若葉の変化と抱える悩みもどうしてここまで重い問題として扱われるのか正直よく分からなかったし、これなら変に山場を設けずにずっとイチャイチャしていた方が良かった。

ヒカリルートは彼女が抱える「耳が聞こえにくい」という問題が明らかになり、それに対する不安や怯えを乗り越えることがシナリオの山場となる。その展開自体は別に問題ないし言われてみると確かに耳が聞こえにくいことを思わせる描写もあったが、他ルートに入った途端その素振りが全く見られなくなるのは少し不自然ではないだろうか。実際に他ルートにも逐一その描写が入っていたらそれはそれでしつこく感じたかもしれないが、そもそもの話としてこういったシナリオ全体のバランスを取るのが難しくなるような設定を単なる一ヒロインのルート(しかも本筋に関わらないので重要度は低い)でポンと出してしまう時点でどうかと思うし、他にいくらでもやりようはあっただろう。

彩乃・祈ルートは本筋と関係あるので流れとしては一応しっかりしているが、ヒロインが抱える未練を乗り越える展開に対して今一つ入り込むことができなかった。彩乃ルートは幽霊騒動という謎が物語の中心になるので先が気になる内容にはなっているが、実際は全てを知っている彩乃の掌の上で転がされているに過ぎないので自分はそれをただ受け取るだけだった。
祈ルートは祈の相反した感情が丁寧に描写されているし、主人公との恋愛が問題に直結していることもあって一番楽しめた。ただ最後の殴り合いの中で互いに思いの丈をぶつけ合う展開は直球過ぎて見ていて気恥ずかしくなってしまった。いかにも青春的な流れではあるんだけど…、その熱を自分が共有できていなかった。

そして展開の運び方に対して一番不満が残ったのがTrueルート。飛鳥と同じ状況を再現することで主人公の未練を断ち切らせる構図は分かる。だがそこに繋がった展開が不透明なまま(山の中にあり人目に付きにくい建物がいきなり火事に遭い、その火事の原因も誰がやったのかも分からずじまい)で終わるのはいくらなんでもずるくないか。個別ルートに繋がる選択肢を設けるためだけに部室を取り壊したように、シナリオライターという神が都合良く事態を動かしたとしか思えなかった。ここまで主人公が抱える未練を散々引き伸ばしてきてそれを解決する一番重要な場面に対して、いい加減で安直な感想しか抱けなかったのは非常に残念だった。


ここまではシナリオ進行に直接関わってくる展開に対する不満を書いてきたが、それとは関わらない恋人同士での触れ合いの場面でも手抜きとしか思えない展開の省略があって、個人的にそれがどうしても納得できなかったので場面ごと引用させてもらうと、

(彩乃ルート:6月15日 自室で彩乃から勉強を教わる場面)
>>
【彩乃】
「んふふ、歴史のお勉強とエッチなお勉強、遊ちゃんはどっちがい
いのかな~?」
【遊真】
「そんなのエッチな方に決まってるでしょっ」
【彩乃】
「じゃあ……先にお姉さんとエッチなお勉強、する?」
うん、もう無理だ。我慢できない。
【遊真】
「ああもうっ、彩乃さんのバカっ!」
ぎゅっと彩乃さんを抱きしめ、いきり立ったペニスを彩乃さんに押
しつける。
【彩乃】
「きゃんっ……ふふっ、遊ちゃんのかた~い」
【遊真】
「彩乃さん、覚悟してくださいよ」
ムリヤリ俺を焚き付けたんだ。
ちょっとやそっとじゃ、許してあげないからな。
【彩乃】
「うんっ、一緒にエッチなお勉強、いっぱいしようねっ」
<暗転>
【遊真】
「は、はああぁ……」
彩乃さんとのエッチなお勉強は、日が暮れてののかが帰ってくるま
で続いた。
精も根も尽き果て、もはや箸を動かすのも億劫だ。
<<


(祈ルート:6月10日 帰宅して祈と二人きりの場面)
>>
【祈】
「したいのは、そんなことじゃないでしょう?」
【遊真】
「いやでも、着いていきなりっていうのは、ほら、ねえ……」
【祈】
「遊真は、好きな時に、好きなことをしていいんです」
【祈】
「遊真だったら、許します」
……ああもう、どうしてそんなこと言うかなぁ!
<中略>
【遊真】
「こっち来いっ!」
祈の手を引いて、お望み通り強引に連れて行く。
祈の腕を掴んで引き寄せ、いきなり唇を奪う。
【祈】
「んうっ……あ、んんっ……ちゅ、んちゅっ、遊真ぁっ……」
【祈】
「はげしっ……んふっ、あんっ、んうぅっ……」
<暗転>
そのままの勢いで。
俺と祈は、激しくセックスした。
【祈】
「はあ……もう夜ですね」
知らぬ間に日は暮れ、夜のとばりが降りていた。
幸せな時間は、飛ぶように過ぎ去っていく。
<<

Hシーンがくるぞと期待させておきながら肝心のその場面を暗転させてすっ飛ばすのは一体どのような意図によるものなのだろうか。自分が(恐らく大多数のプレイヤーも)見たかったのは一行二行で済まされたそのエッチなお勉強や激しいセックスの内容であり、それを描写せずに上げて落とされるのであればもうこのやり取り全部カットしてくれた方が良かった。こんな誰も喜ばないような展開を平然と入れて興を削ぐような形になっているのも正直分かってないなと思う。

総括すると本作はストーリー展開の内容や運び方が下手で、製作者の都合の良さが透けて見えるような程度の低いものとなっており、これも相まって全てが中途半端に終わっている印象。部活を通した青春物としては幽霊部全体で何かやるようなイベントが少ないし、シナリオを重視した作品としては展開の運び方がおざなり過ぎるし、王道的なキャラ萌えゲーとしては思わせぶりな謎や伏線がその楽しみを阻害する形になっている。勿論全ての要素が高水準で楽しめるのではあれば言うことはないが、それができないのであればせめてどれか一つに注力して軸が定まった作品になっていて欲しかった。


◆終わりに
本作のOPムービーを見た時にまず目に止まったのが「SAGA PLANETAS 19th Products」の文字だ。自分は四季シリーズ以降しかまともに触れていないので「こんなに作品出していたのか…」と驚いてしまったし、コラボキャンペーンを合同したゆずソフトが八作目であったのと比べれば倍以上も多い。
元々サガプラそのものはかなり前からある老舗ブランドであり、今の明るく爽やかなイメージからは想像も付かないが昔は凌辱や触手のような過激な要素を含んだ作品も出してきた。それがどうして今の姿になったかというと『Coming×Humming!!』でこれまでとは全く異なる方向に舵を切り、そこからの流れが成功したからだ。そうした変化を遂げてきたブランドでもある。今の客層と求められている作品像を考えるに大胆な路線変更は現実的ではないが、そろそろ今一度ブランドとして生み出す作品の新しい方向性を考える時期が来ていると思う。ここ二作は四季シリーズのような幻想的で深みのある学園シナリオをやろうとして作品の底の浅さを露呈している印象が強く、そうなるとどうしたって本家と比較したくなるしそれは分が悪い。

幽霊部の五つ目の部則「桜の木の下で立ち止まってはならない」とは変化を受け入れて、前に進まなければならないということだ。桜の美しさは多くの人を魅了し足を止めさせるものであるが短い期間で散ってしまうし、経過する時間の中でいつまでもその美しさに浸り続けることはできない。同じようにどんなに大切に思っている物であってもいつか必ず終わりは訪れるし、それを受け入れて進まなければならない。本作の最後では不知火飛鳥という散った桜の木に立ち止まっていた主人公が前を向いて歩き出している姿が描かれていた。

そしてこの部則はサガプラ自身にも言えることではないだろうか。これまでシナリオの中核を担ってきた新島氏の退社という変化を受け入れ、前に進んだ内容を作品で提示できているだろうか。著名なライターを外注で起用してはいるものの、その内容は新島シナリオに囚われたものにはなっていないだろうか。奇しくも氏が最後にシナリオを担当し、四季シリーズの集大成となった冬の物語の名は『はつゆきさくら』(桜)である。
次回は一つの大きな区切りとなるブランド二十作目。SAGA PLANETASが今後更なる歩みを進めていくためにも、いつまでも桜の面影を追い続けるのではなく新しい魅力を感じさせる作品になっていることを切に願う。