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oku_bswaさんの寝取られ続けた人生の長文感想

ユーザー
oku_bswa
ゲーム
寝取られ続けた人生
ブランド
Devil-seal
得点
60
参照数
7239

一言コメント

寝取られゲーとしては凡作もいいところだが、一人の男が不幸になる物語としては一見の価値有り。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

突然だが、「寝取られゲー史上最も不幸な主人公は誰か?」と聞かれたら一体誰を思い浮かべるだろうか。
寝取られゲーの主人公はみな一様に愛する者を奪われているので不幸な目に遭ったと言える。幼馴染の恋人を奪われた者もいれば長年連れ添った妻を奪われた者もいる。こうした不幸の優劣を第三者が順位付けするのは不可能かもしれないが、今回は寝取られた回数と主人公の悲惨さという観点から『寝取られナース』の主人公・日比野俊彦を最も不幸な主人公として紹介したい。

『寝取られナース』はシリーズ物なのだが、そこで寝取られる主人公が全て同一人物という荒業をやってのけた作品だ。
シリーズの概要をざっと説明すると、

主人公・日比野俊彦は自身の跡取り病院で医師を勤める。妻・さやかも看護婦として働いており、忙しいながらも順風満帆の夫婦生活。しかし多忙を極め次第にすれ違いが生じ、その隙にさやかは先輩イケメン医師の魔の手に掛かる。(一作目)

妻を寝取られた哀れな男として、病院内で嘲笑の目を向けられる主人公。EDにもなってしまった。そんな主人公の元に幼馴染で昔から主人公に好意を抱いていた夢が新人ナースとしてやってくる。彼女の快活な性格と積極的なアプローチのおかげで次第に元気を取り戻していく主人公。ところが夢に入院しているキモオタ患者の魔の手が迫る。(二作目)

二度に渡る寝取られで、主人公の精神は廃人寸前まで追い込まれてしまった。体重は激減、人間不信、おまけに骨折までしてしまい病室のベッドで一人震える日々。そんな惨状を聞きつけ主人公の元へ駆けつけた姉・瑛利奈。彼女の献身的な世話のおかげで人間としての活力を取り戻していく主人公。姉の秘めたる想いも知り、ようやく前向きになれた矢先に…。(三作目)

……惨憺たる人生とはまさしくこのような事を指すのだろう。シリーズをプレイし終えた時に、「もうこれ以上主人公が苦しむ姿を見なくて済むな…」と安堵したのを覚えている。日比野先生お疲れ様でした。貴方の事は忘れません。


少し長くなってしまったがここからが本作の話。本作のタイトルを初めて目にした時、自分は日比野俊彦の再来を期待した。『寝取られ続けた人生』とまで言うのだからこの主人公はどれだけ悲惨な人生を歩んだのか。
個人的にsealの低価格作品はストーリーに関してはお察しというか、ちょっと絵が良いシーン集の詰め合わせのようなものと割り切っているので、寝取られ物としての面白さとかは殆ど期待していなかった。展開が突っ込みどころ満載でもシーン見た時に抜ければ良いかなくらいの気持ち。あとは主人公の不幸っぷりを見れればそれで良かった。

結果として、当初の予想通り寝取られゲーとしては凡作レベルだったが、一人の憐れな男の物語としては結構楽しめた。それでは彼の「寝取られ続けた人生」を順に振り返っていきたい。

・第一幕
主人公・鷺島秀一は会社の後輩である雪乃から告白され、社内恋愛禁止と知りつつも付き合い始める。仕事では大きなプロジェクトを任されるなど公私共に順風満帆。ところが雪乃が同僚の英太に秀一との関係を盾に脅迫され、肉体関係を強要される。嫌がりつつも次第に快楽の虜になる雪乃。社内では全員のセフレのような扱いに。知らぬは秀一ばかりなり。

一度は雪乃を取り戻すも、雪乃が秀一の短小に満足出来ずセフレに逆戻り。雪乃に見放され同僚達からは蔑みの目を向けられ、次第に引き篭もるようになり無断欠勤が増えていく。そして会社は首になり部屋はゴミで溢れかえる。
こうした状況の中、秀一は一人こう呟く。
「まさにゴミのような人間の俺にふさわしい部屋だな……はは……。」


・第二幕
あれから三年。秀一の隣には冬佳がいた。派遣社員で苦しい生活が続いていたが念願の正社員に。これを機に秀一は冬佳にプロポーズ。無事に受け入れてもらい今度こそ幸せな生活のはずが…、その帰り道に冬佳はレイプされてしまう。
始まった新婚生活。だが幸せの裏で冬佳は強姦魔との関係を持ち続けていた。一時は警察に相談しようと思うも世間に知れたら夫の恥になると思い結局言い出せず。そのまま男の言いなりに。「心までは堕ちない!」と気丈に宣言するもそれがどうなったかはお察し。

冬佳が他の男と寝ているのを知らない秀一は、妊娠したのを知って無邪気に大喜び。そしてある日、秀一の元に一枚のDVDが送られてくる。そこには嬉々として男との行為に耽る冬佳の姿が。それを見てから夫婦仲は急激によそよそしくなっていく。食事も共にせず寝床も別と、もはや仮初めの夫婦でしかなくなっていた。そして遂に、冬佳は生まれたばかりの赤ん坊を置いて秀一の元を去ってしまう。
残された秀一と赤ん坊の元に今日もまた送られてくるDVD。そこには元夫の秀一に対して「粗チン」と蔑みの台詞を吐き、おっさん共との行為に耽る冬佳の姿が映っていた――。


・第三幕
二度に渡る寝取られを経験した秀一だが、今は幸せに包まれていた。男手一つで大事に育てた最愛の娘・美優の元気な姿があったからだ。「将来はお父さんのお嫁さんになる」と宣言するほどのファザコンっぷりで目に入れても痛くないとはまさにこの事。
そんな美優だが学校帰りに父親の誕生日プレゼントを買いに行く途中、何者かに拉致されてしまう。美優の携帯から電話を受けて秀一が向かった先には…、なんと元妻の冬佳の姿が。そこで美優にレイプ魔との子供であり秀一とは血が繋がっていない事を暴露する。

冬佳の傍にはもう一人、勇樹という男がいた。彼は秀一と雪乃の子供で、秀一の実の息子だと言う。そして秀一の目の前で美優を犯し始める。最愛の娘を実の息子と思しき男に犯される状況、何も出来ない無力感に苛まれる秀一。だが絶望はここで終わらない。
「誕生日プレゼント」と称して強制的に美優とセックスさせられ、中出ししてしまう。ここに至って今まで築き上げてきた家族の形が完璧に崩れ去った。だがそれを壊したのも元妻と実の息子の家族というのは皮肉でしか無い。
一体何故冬佳はこんな事をするのか?勇樹は本当に俺の息子なのか?……秀一には何も分からない。

最後に秀一は、心が壊れてしまった最愛の娘・美優、嬌声を上げる元妻・冬佳、自分を「おとうさん」と呼ぶ見知らぬ息子・勇樹を見てこう思う。
「俺の人生は何だったのか、一体何をどこで間違えたのか……。」


こうして振り返ってみると中々に酷いストーリー展開である。不幸な物語を期待していたので最後の方は思わずニヤリとしてしまったが、主人公に殆ど落ち度が無いのに関わらずここまで悲惨な目に遭うのを見ると流石に同情せずにはいられない。短小なのはしょうがないじゃないか…、身体的特徴だし。

寝取られゲーとしての出来を考えると、ヒロイン頭悪すぎ(社内恋愛禁止でも本当に主人公の事が好きなら会社辞めれば良いだけ、とっとと警察行け)、堕ちるの早すぎ、そもそも第三幕は寝取られじゃなくてただの凌辱と、問題点しか出てこない。
そして何より、ヒロイン(特に冬佳)がクズ女過ぎて寝取られても全く悔しいと思わなかった。寝取られゲーでヒロインを寝取られて喪失感や悔しさを味わえないのは致命的だと思う。

ただ面白いことに、寝取られゲーとして致命的な欠点が「クズ女に振り回される一人の男の不幸な物語」を確立させ、個人的に楽しめた要因となっている。いずれにせよ日比野俊彦とはまた違った形の、一人の男の惨憺たる人生を垣間見る事が出来て満足である。


【雑記1】
これは本作に限った話ではないが、寝取られゲーで娘を寝取られるヒロイン扱いにするのはどうも理解出来ない。
夫が妻と娘それぞれに「愛している」と伝えたとして、言葉は同じでも愛情の中身は勿論違うだろう。妻を抱きたいと思っても娘を抱きたいと思う夫はいない。夫が異性として認識しているのは妻だけだ。
心と体で繋がった異性を奪われる喪失感を描いたのが「寝取られ」というジャンルであるならば、描かれる愛情は当然前者でなければならないし、そこはしっかりと区別して欲しいと思う。

他だと主人公が片思いしている女性が人知れず輪姦なり凌辱されて他の男の手に堕ちた状況を「寝取られ」としている作品をたまに見るけど、それにしたってまだ付き合いもしていないのに寝取られたと言うのはちょっと首を傾げてしまう。
ただしこれは「寝取られ」であるか否かの議論であるだけで抜けるかどうかは全く別の話。


【雑記2】
自分は本作をDLsiteで購入したが、そこでの作品ページに次のような煽り文句が記載されている。

■寝取られるのはもちろん清楚な女性
そのギャップ、お楽しみください。

■寝取り相手の男に立ち絵とボイス有り!
本気の寝取られが、ここにあります。

■寝取られは人生、寝取られは文学
全世界の寝取られ好きに捧ぐ……。

三番目なんかは購入前に見て思わず苦笑してしまったが、プレイし終えて改めて見ると「よくもまあこんな大層な事言えたものだな」と逆に感心している。ライターは寝取られゲーを片っ端からやって勉強し直して欲しい。最近だと同人で本作より低価格で質の高い寝取られゲーも沢山出てるし。