モラトリアムな理想郷と大人になっても失われない宝物、この二つの世界を垣間見て我々現代人は何を思うのだろうか。
◆ループ現象について
①ループするのはこの世界では常識とされている。原則的に人はみなループする。ループできない事は世界の摂理から外れている事を意味する。
②人はそれぞれ異なるループ周期を持つ。一般的には1~48時間くらいの間に収まる。中央値で言うと5~6時間ほど。
③ループ周期が長いほどループは起こりにくい
④「精神的高揚」を覚える(ドキドキする)ことでループから抜ける。その際にアホ毛になる。
⑤繰り返されるループのうち、最後のループだけが「事実」として確定する。それより前のループで起こった出来事は記憶の中にしか残らない。
⑥ループに入っている人間以外は、ループを認識しないしループ中の記憶もない。
→ループに入っている者はループの始点及び終点、ループからの離脱を認識可能。無自覚なループは無い。
⑦ループ周期が大きい者は「強者」である。ループは入れ子が可能であり、周期が大きいほど小さい者を巻き込むから。
→「こいつといっしょにいると、こいつの都合のいいような現実に巻き込まれるんじゃないか?」
(例)[{ループA}ループB]→[ ループB ]→事実として確定 ※ループAが確定させた事実は大きいループBによって上書き可能。
⑧ループには固有ループと共有ループの二つがある。
⑨固有ループは自然発生なのに対し、共有ループは意識的に入る事ができる。
⑩ループに入った時、常に一周目で精神的高揚を覚えループを抜けたなら、ループしていないのと実質的には同じことになる。
⑪ヒッパルコスの天使に生け贄として選ばれた者はループ能力を奪われる。
・共有ループ発生条件
①メンバー同士の相性が良い、つまり仲が良いこと。部活の仲間程度の繋がりでも可能。
②メンバーのループ周期の比が近似的に素数比を取ること。(例)ループ周期が1時間、3時間、5時間の3人は共有ループ発生可能。
③共有ループを発生させるためには、互いの意識を同期させるための「合言葉」が必要。厳密には音階や動きでも可能だが言葉が一番手っ取り早い。
④「合言葉」には共有ループに参加するメンバー共通で思い入れがなければならない。その方が意識を同期させやすくループに入れる可能性が高い。
・共有ループについて
①共有ループの周期は、参加しているメンバーのうち一人(主導者)と同じになる。主導者は事前に選択可能。
②主導者が精神的高揚を覚えるとループから抜ける。その際にみんなアホ毛になる。
③参加しているメンバーは全員ループを認識し、ループ中に起こったことを覚えている。
④共有ループに入れる人々の周りでは何らかの怪異が起こる。 ※入れる人々の周りであって共有ループに入っている人々の周りではない。
>(共有ループを終えた演劇部を見て)叶「河童が現れたりしてるんだろうか?」
ギャング部(心の中に「ガラクタ」を抱える者)だとみねるばがそれに該当する?梨都子がみねるばと会話しているシーンは無かったはず。途中入部だが「ガラクタ」を持つこおりにはあった。
⑤共有ループに入っている者は固有ループに入らない。
◆現実世界との差異
・喋るフクロウ。幸福の象徴とされている。
御言神社の縁起:源耳月が喋るふくろうと一緒に三日三晩お祈りして台風を追い払った
※源耳月は史実上には存在しない人物←郷土史で習ったらしい
・禊の地元は長野県奥遷宮。奥遷宮は実在しない都市だが長野県は知っての通り実在する。
ところが丘の上の背景(参考画像:http://blog-imgs-59.fc2.com/o/k/u/okubswa/20130805201658ae9.jpg )では水平線、海の存在を確認できる。この世界の長野県は内陸県ではない?さらに画面左に注目するとうっすらと塔らしき存在も確認できる。この詳細も不明。
ヒッパルコスタワー観光時の筴の発言「奥遷宮にはないものね、あんな高い塔は」と矛盾?
・天気予報ではなく天気“預”報。ヒッパルコスの天使による天候の安定。詳しくは後の項目で。
◆一部・禊ルート→二部・禊VSこおり→禊ルート→禊GENESIS
・叶はループ能力を保持している。→二周目以降繰り返し目撃するこおりとキスした叶
・禊の圧倒的強者としての孤独、苦しみを理解するためにギャング部のメンバーは禊主導の共有ループ(ループ周期5760時間30分)に入る。
→叶たちは2年生を、シャールカは3年生を繰り返す。(シャールカは留年していない。)
・8ヶ月という長い共有ループに入っている事が露見しないよう、定期的に「ループしているふり」をしていた。
ループ起点:7/11(雨乞いリグレッツが成功裏に終わったあの雨の日)
ループ終点:3/8(終業式の直前)
ループ周期の比:8641:5:2:37:107:13:947←素数比を取る
ループの合言葉:それぞれが持つキーホルダーのモチーフ。心の中に「ガラクタ」を抱える仲間としての象徴。
・大まかな時系列
「はじめから」→こおりとキス(叶固有ループ脱出)→7/11:禊主導の共有ループに入る→禊エンド→3/8(ループ終点)→7/11に戻る(二部へ)
「二部から」→禊VSこおり(二回目の夏)→禊ルート→禊GENESIS
・創世された世界
禊は叶との子を産む。(名前は周)
子供を産む=大人、社会的責任を負わなければならない立場
→「悪」「救世主」といった彼らが心の中に抱える「ガラクタ」は失われていない。
>叶「いっしょに救世主になるって約束を、みんなで果たし続けて欲しい」
救世主とは現状の世界(預言者)に反逆する者?詳しくは後の項目で。
◆一部・こおり/禊/ゆとり/希ルート→二部・禊VSこおり→こおりルート~こおりGENESIS
・叶はループ能力を保持していない。→初回のみ目撃できる禊とキスした叶
・叶はヒッパルコスの天使の生け贄に選ばれループ能力を失った。ギャング部の面々はそれを知って、ループしない世界で生きる事を決断した。
→常に一周目でループを抜ける為に、ヒロインは叶に精神的高揚を引き起こしてもらう。
>こおり「ループせずに生きるということは、みんなと仲良くする世界を生きるってことだもんね」
>希「ループがない世界ってハーレムになるんだね」
→叶はヒロイン達全員と肉体関係を持っている=ハーレムを形成している
・「変わっている」ことを周りに悟られないように叶は「ループできるふり」をしている。
→「端から見て、俺はループできているか?」
→叶の独白「ドキドキして、ループから抜けたんだと思う」はブラフ。こおり主導の共有ループもふりとして記憶の再構成を行なっていた。
・大まかな時系列
「はじめから」→禊とキス(叶固有ループ脱出のふり)→あの初夏:ギャング部は叶に寄り添いループしない事を決意する→禊/こおり/ゆとり/希同時攻略(ハーレムの形成)→春:叶→3年生に進級(禊、こおりと同じクラス)、シャールカ→留年
「二部から」→禊VSこおり(三年生の夏)→こおりルート→こおりGENESIS
・創世された世界
悠久のモラトリアム。子供の王国の建国。
→「誰も溺れない(犠牲にならない)」世界を創生する。
→少数の人間の犠牲の上に成り立つ世界、現在の世界の摂理に対する反逆?
◆預言者(神)と救世主
○ヒッパルコスの天使について
・この世界の摂理に介入しうる超越的存在の一つ。簡単に言ってしまえば神。
→「一つ」という表現から作中で語られていないだけで他の神がいる可能性有り。
・無作為に選ばれた生け贄からループを奪う(「悪」になる)ことで天候を安定させる。
・天使との意思疎通自体、容易ではない。→不可能ではない
○ヒッパルコスタワーについて
・天蓋を支え気象を安定させるための塔。 天蓋…古代の宇宙観や天文学において「天」を指す語=天界
・日本には4つ、地球全体で100ほどある。
・ヒッパルコスの天使を祀るための施設でもある。
○ヒッパルコスとは
古代ギリシアの天文学者。三角法を用いて天体の精密な距離を測量した。「三角法の父」とも呼ばれている。
三角法…三角関数(三角比)の基となった考え 三角関数…比を用いた演算の始まり
>希「『世界は比でできていること』を理解することだな」
→世界を構成する「比」という概念の礎を築いたヒッパルコスに敬意を払い、世界に安定をもたらす神にその名を付けた?
○預言者に関する作中での言及(全ては確認してないので抜けがある可能性大)
>こおり「雨だ……」
>ぽつぽつと、雨粒が落ちはじめていた。
>叶「本降りにならないといいけど……」
>こおり「そうね……」
>しかし、俺の願いはかなわなかった。
>叶「土砂降りじゃねーかこれ!」
>こおり「天気預報じゃ言ってなかったよ!」
>叶「預言者のことは今はいいよ。とりあえず急ごうぜ」
>こおり「う、うんっ……!」
-二部 共通「8月 登校日」より引用-
ここからは二つの仮設が立てられる
仮説①:天気預報とは我々にとっての天気予報と同じように確率で提示されるものであり、普通に外れる可能性もある。→疑問:神が安定を保証しているのに外れる事があるのか?
仮説②:天気預報は神によって与えられる物であるので、外れる事は有り得ない。ところがこの場面では超越的存在の意志(例えばヒッパルコスの天使とは別の神)が働いた事で突如雨が降った。→疑問:その存在とは一体何なのか?どうしてこの場面なのか?
>こおり「こういうとき、ループしてやり直せる人っていいよねって思っちゃう」
>希「無い物ねだりだ。人のループ周期はそこまで大きくない」
>希「私たちが物理法則を変えられないのと同じだ。私たちの手は、天界には届かない」
>希「預言者になりたいなどと思う奇特な奴も、そうそういないだろうしな」
>こおり「そう、どうにもならないのよね」
-二部 こおりVS希「8月 合宿が終わった日」より引用-
この会話から予想出来る事
・天界と呼ばれる場所がある。ループ周期がそこまで大きくない「人の」手には届かない場所。
天界とは神が住まう場所?神とは超長期のループ周期を持つ存在?ならば神が与える世界の安定(預言)とは超長期ループによって既に経験した未来の事象を現在に伝える事?それは最早時間の概念を超越した存在、まさしく神である。ヒッパルコスの天使が生け贄のループ現象を奪うのは自身のループを維持・拡張する為?←全て推測の域を出ない
・預言者はなろうと思えばなれるものである。ただし奇特な者扱いされる。預言者は何らかの形で天界とコンタクト可能?(ヒッパルコスタワーで通信?)超越的存在であり、人のループ現象を奪う存在と進んで関わりを持とうとするのならそれは確かに奇特だろう。
○救世主について
・叶の「悪」の道=禊の「救世主」の道
叶に言わせれば悪とは「人がそうしたいと思うのとは違うやり方で、人がそうなりたいと思うことを実現すること」
禊に言わせれば「人は自分がなすべきことを知らない。それを肩代わりするのが、悪」
・救世主…幸福を望む衆生を庇護するよう努める
救世主とは孤独、孤高、超然→「強者」としての人生
衆生と同格の存在にはなり得ない。「卓越」が衆生の視線を引き上げ、勘違いさせてしまうから。「強者」であることは隠さなければならない。覚悟を共有した仲間なら別。
・悪=救世主=神(=預言者)?
神もまた孤独な存在であり、ループ周期が長い強者であるから。
ヒッパルコスの天使(神)は「悪」となることで天候を安定させ人を助ける。
→救世主とは幸福を望む衆生を導くという目的は一致している
→目的は同じだが手段、結果、仲間の存在が違いとなる?
○世界構造の予想
天界が存在し、超長期ループによって時間の概念を超越した神(ヒッパルコスの天使)による啓示→意思疎通が可能な預言者がそれを受諾→預言・預報として世間に流布
この世界は神によって安寧がもたらされる、管理社会としての一面があるのではないか。多少の犠牲はあるが、大勢にとっては他ならぬ神によって安定が保証された、まさに望むべき世界である。だが叶は「悪が世界を変える」と信じ、禊は救世主であろうとする。今の世界に対して何らかの変革を望んでいるのだ。
叶は預言に対して快く思っていない。引用した台詞での預言者に対する口振りもそうだし、洗濯をする立場なのに天気預報にも頼らない。
思うに、叶は預言によってドキドキが失われる事が嫌だったのではないか。ドキドキが失われる事は人がループから抜け出せなくなる事も意味する。
絶対的な神の預言は安定をもたらすと同時に、その分だけ人が精神的高揚を感じる場面を奪う。ヒッパルコスの天使による天候の安定は、人から天候の変化に対する精神的高揚を奪った事と同義である。
例えば幼い頃、朝起きて窓を見たら雪が積もっていてドキドキした事はないだろうか?
だけど「次の日は雪が積もる」という事実を事前に知っていたらどうだろう。我々は知らない時と同じくらいドキドキできるだろうか?
作中で言及されなかっただけで他の神による預言によって保証される安定もあるかもしれない。
もしこのまま神による幸福、世界の安定の管理が進み、外的世界で精神的高揚を得られなくなったら人は「ドキドキした世界」を何処に求めるのか?それは…。
禊GENESISで叶と禊はドキドキしながら救世主の道を行くことを決意する。救世主は孤独の道であるが、同じ覚悟を持つ仲間がいるからもう孤独を感じることはない。
「人がそうしたいと思うのとは違うやり方」には驚きやドキドキ、精神的高揚がある。
そこから「人がそうなりたいと思うこと」=衆生の幸福を実現することが叶と禊が志す悪の道であり、救世主の道なのではないか。目的は同じであるが安定が先に立って人を見ていない神(預言者)とは全く違うものである。
今の世界は時間の概念を超越した神による預言で安寧がもたらされているが、それは少数の犠牲によって成り立つ物だし、精神的高揚を得られる場面も狭められている。どこか不全感を抱えた世界だ。
禊/こおりGENESISでは現状の世界を変革する創世の一歩が描かれていた。
それは世界を変える「悪」の物語に相応しい。
>「世界の唯一の敵である悪だからこそ、世界の意に反して世界を変えることができる」
◆その他で考えた事
・後日談での観光時に、筴は禊にアホ毛になっている事を指摘された。
→固有ループからの脱却?(それがブラフでない限りは。)
筴が何に対して精神的高揚を覚えたのかは不明であるが、筴のループ周期は相当長い物であると推測される。娘である禊のループ周期が5760時間30分だから。ループ周期は遺伝子の影響を受ける?作中ではループ遺伝子という存在(詳細は不明)を確認。
ここでは筴のループ周期が叶や禊よりも遥かに長いと仮定し、次のような仮説を立てた。
こおりとキスして禊主導の共有ループに入った叶と禊とキスしてハーレムを築いた叶。この二人の叶は重なり合っている状態なのではないか。禊VSこおりルートでの選択結果はその時点では叶がどちらであるかを証明する材料にはなり得ない。
それが後日談で第三者であり遥かに長いループ周期を持つ筴がループを抜けた事でどちらかの叶に確定(観測)された。その観測結果によって禊/こおりGENESISに分岐し、世界は創世される。GENESISでは重なり合っていたもう一つの世界の名残を見ることが出来る。
(シャールカの留年疑惑、叶がドキドキを漠然と抑えようとしていた事など)
※ループ周期が長い筴にとって都合の良い現実に巻き込まれるのでは?とも一瞬思ったが、そもそも後日談が発生する(筴が登場してループから抜ける)のは禊VSこおりでどちらかを選択する事が前提になるので筴はあくまで観測者に過ぎず、叶たちの事象には干渉できないと考えられる。
[{一部:叶A/叶B、二部:禊選択/こおり選択}←後日談で筴が観測]→叶の存在、選択の結果が事実として確定→禊/こおりGENESISへ
→世界を観測し、人知れず衆生が望む方向に確定させるのが救世主(ループ周期が長い強者)としての役目?それは確かに孤独の道である。
→神による預言と本質的には同じ
・二部開放に関わらないルート(こおりとキスしてこおり/ゆとり/希エンド到達)について
叶はループ能力を保持しているが禊主導の共有ループには入っておらず、3/8を超えてもループしないでそのまま先に進む。共有ループに入っているのであれば禊に寄り添う事を決めたのに他のヒロインと肉体関係を結ぶのは余りに不誠実。
・GENESIS(後日談)に至らない二部ルートについて
禊VSこおり以外はどの選択をしてもGENESISに至らない。禊及びこおりを選択した時は現れても良いと思うが。少し腑に落ちないが叶がキスする可能性は禊とこおりにしか無いからって事にしておこう。ハーレムを形成しているこおりGENESISに至る可能性は閉じられてはない。
・本作で「問題」になるのは最初から最後まで叶の選択であった。その結果によって異なる二つの世界が創世される。
・アマネ、周、天音の関連性については推測する材料が少なすぎて何とも言えない。単純に叶が過去に影響を受けた程度と考えるしかない。
※ここからは『未来にキスを -Kiss the Future-』の内容にも触れているので注意して下さい
◆雑感
『未来にキスを -Kiss the Future-』に比べると大分前向きになった印象。丸くなったとも言えるしそれを物足りなく思う気持ちはあるのだが、話の方向性が「外」に向かった事は個人的には嬉しく思う。
思うに、元長柾木というライターは現代における美少女ゲーム(二次元キャラクター)の意義を作品で示そうとしてきた。具体的には「圧倒的な楽園」を描くことであり、そこには現代人だからこそ痛烈に感じ入るメッセージも含まれていた。
『未来にキスを -Kiss the Future-』が発売された2001年。インターネットが本格的に普及し、他者との直のコミュニケーションが希薄になりつつあると囁かれた時代だった。インターネットのような閉じた世界でのコミュニケーションは非常に楽で、人々を惹きつけた。だが、我々はその閉じた世界に浸り続ける事は出来ない。三次元的存在であるし、法が、社会が、家族がそれを許さない。
『未来にキスを -Kiss the Future-』で創生された世界――GENESIS――ではそうしたシステムから逃れ、果ては肉体というハードウェア、「檻」からも脱却したキャラクターの姿があった。
>「言葉というのは、むしろ、誰にも伝わらないように話すものなんだ」
>「人を支配するのに、相手を見る必要なんか全然ないってことだよ」
とまで宣言し、世界を閉じ自己の内的世界に創り上げた他者とだけ交流する…。
この自己完結型恋愛こそが「圧倒的な楽園」であり、それはまさに二次元キャラクターにしか辿り着くことが許されない極地であった。
その世界を眺めることしかできない我々は、システムから脱却できず、他者との直接的なコミュニケーションを避けられない三次元世界の厳しさに打ちのめされる。また彼らの世界は羨ましくもあり、何処か淋しく思えた。
少し長くなってしまったが本作『ギャングスタ・リバプリカ』の話に入る。
本作では禊/こおりGENESISの二つの創生された世界を垣間見る事が出来る。預言者とか小難しい話を抜きにして、我々はそれを見て何を思うのか。
自身がかつて捨ててしまった「ガラクタ」を懐かしく思い出すのか
大人になっても「ガラクタ」を捨てずにいる彼らを羨ましく思うのか
過ぎ去ったモラトリアムを懐かしく思い出すのか(少なくとも未キスを当時プレイした人はモラトリアム期間を脱しているはず)
永遠に子供のままでいられる世界を作る彼らを羨ましく思うのか
或いは作品を超えて、美少女ゲームという一つのモラトリアムの提示形態に思いを巡らすのか
この他にも色々あるだろうが、少なくとも禊/こおりGENESISを見て厳しい現実を突き付けられたり、打ちのめされるという事はないはずだ。
自分はどこか温かな気持ちさえ抱いた。
そして、彼らの物語は「外」に開かれている。
「コミュニティ追求型ADV」
初めて目にした時は、内的世界を志向してきた元長作品のベクトルが外に向いたことに大いに驚いたのだが、プレイしてみるとまさにこのジャンル通りの作品だった。
叶にはギャング部という同じく心の中に「ガラクタ」を抱えた仲間の存在がある。彼らは行動を共にし、モラトリアム期間を謳歌する。
そして時には対立し、互いの理念をぶつけ合う。「ガラクタ」を捨て切れずに成長してきた者同士なのだからどうしても譲れない領域、生き方がある。彼らの意見は決して咬み合わないし、これまでの作品では「断絶」を抱える「他者」と言えるかもしれない。
>こおり「ぶつかりあえば、わかりあえる、って」
>禊「私がこおりとわかりあっているとでも?」
>禊「それはとんだ脳天気。私は意見を変えない。こおりも意見を変えない」
>こおり「うん、もちろん」
>こおり「それでも、わかりあってるって感じる。同じ場所に立ってるって感じるから」
>こおり「あとは……どんな生き方を選んでも、それは一つの選択だって思える」
-二部 禊VSこおり「8月 盆の祭礼の日」より引用-
>対立しているように見えて。
>そうでもないような気がする。
>たしかに意見がかみ合ってないんだけど。
>その前の段階で気持ちを共有している気がする。
>つまり、たがいを尊重した上で意見を述べている気が。
>わかりあっている感じがあった。
-二部 禊VS希「8月 デートの日」より引用-
だが彼らは前提として、心の中に「ガラクタ」を持つ仲間として分かり合っている。その上で意見をぶつけ合うし、選択の結果も尊重している。
互いを仲間として尊重しているのだから、未キス世界のように内的世界に他者を創り上げ、そこで支配・改変する必要もない。(更に言えばフロレアール世界と違い、神がいるので現状に対する不全感を<外部>に求める事も出来る。)
断絶を超えるために内的世界に埋没するのではなく、その隔たりを尊重し、その上で互いに協力して外的世界を生きて行くのである。ジャンル通り一人一人のキャラクター、そこから構築されるコミュニティを大事に扱っている。
そうした仲間がいるからこそ最後に世界を創生する道が開かれた。創世への一歩は踏み出したばかりであり、果たして今後どうなっていくのかは分からない。でも自分はそれで良いと思っている。ライターの主義主張を重視した作品ではなく、キャラクターの魅力を重視した作品なのだから。彼らによってどんな世界に変革されたのか想像するのも一つの楽しみである。
彼らにとっての楽園『ギャングスタ・リバプリカ』――悪党どもの共和国――の物語は、作品が閉じたこの先も変わらずに続いていくのだろう。