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oku_bswaさんの運命が君の親を選ぶ 君の友人は君が選ぶの長文感想

ユーザー
oku_bswa
ゲーム
運命が君の親を選ぶ 君の友人は君が選ぶ
ブランド
WHITESOFT
得点
65
参照数
1732

一言コメント

物語を語る言葉は美しく、語られる内容も興味深く楽しいものであった。ライターの持ち味である薀蓄も存分に披露されている。…が、作り込みの甘さもありそこに深みがない。そして何より、体験版で期待した広がりを感じられなかったのが残念。僕が本作に期待していた物語は、TrueEndの先にあったのだろう。これは運命(fate)の物語であり、運命(fortune)の物語ではなかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まずは本作、自分が期待していた内容では無かった。正確に言うならば、期待していた内容の手前で物語が終わってしまった。ただこれは自分の勝手な期待であるし、公式が提示していた通りの内容ではあったので一応の納得はしているが…、それでも展開の性急さ、作り込みの甘さが目立つので物足りなさはかなりある。

そもそもマルチエンドと運命(予言)は対立するものである。決まりきった結末が用意されているのならば、マルチエンドである必要はないし一本道で事足りる。
本作は『運命』をテーマに据え、攻略ヒロインも複数用意されていたので、僕はそこの運命解釈というものに非常に期待を抱いていた。決まりきった一つの結末に向かうのではなく、複数ある同格の未来が四芒星の如く理想的な関係で鎮座している…そういう広がりを持った内容であることを期待していた。

結論から言うとその期待は裏切られた。本作の構成は一本道構成で、その途中で各ヒロインとのエピローグを回収していく形。『穢翼のユースティア』や『G線上の魔王』のような構造、と言えば分かるだろうか。TrueEndが存在し、各ルートとの間に明確なヒエラルキーが構築されている。各個別ルートは30分も掛からずに終わってしまうし、この辺りはお粗末な出来と言わざるを得ない。
物語の大筋にある現代的価値観と歴史(自然)的価値観の対立も、基は単なる姉妹喧嘩に過ぎなかったし、そこもなんともあっさり解決してしまった。
テーマの掘り下げ、展開の広がり含め、総じて作り込みの甘さが目立つ作品であった。語られる内容は楽しいけれど、そこに深みが無く、単にライターが持つ知識を披露するものになってしまった。


ただ、作り込みの甘さを抜きにすれば、決して悪くはない作品だったと思う。
運命(fortune)を広げる物語ではなく(自分はこちらを期待していた)、運命(fate)から脱却し運命(fortune)へと向かう物語であったというだけで。

運命(fate)と運命(fortune)の違いについては作中の説明を引用させて頂く。

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可能性の一つが極大化していくと、それ以外の可能性を吸収してしまう。
全ての事象が一つの可能性へ収束していこうとするのだ。
この流れに囚われること、または囚われている状態。これが――。
『運命(fate)』である。
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世界は観るたびにカタチを変える。
ここにいるオレがそれを観る。
そうして運命(fortune)が紡ぎだされてゆく。
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本作は主人公が生まれの宿命(fate)、バニシングツインで亡くなったもう一人の自分からの楔を解き放ち、今自分がいる世界(陽中の陰の世界)を観測し、未来(fortune)を紡ぐところまでの物語である。
つまり、物語の軸になるのは主人公の宿命(fate)であるので、一つの可能性に収束するのだから一本道構成であるのは必然なのだ。

また公式サイトにある開発日誌の第二回で、シナリオを担当した藤木隻氏は次のように述べている。
>この物語の結末は『占いは未来を当てることができない』というものです。
>しかし『占いは未来を照らす道を作ることができる』とも結論づけています。
本作は未来(fortune)の広がりを提示した場面で終わっているのでこの発言の通りの物語であった。

作品が伝えたいメッセージを端的に示した台詞がある。
【枢】
「あなたが『世界』を観測した時から、運命(ホロスコープ)は回り始めるのです」

主人公の運命(fortune)は、今いる世界を観測し始めたTrueEndの最後に至ってようやく回り始めるのである。
そのため本来、個別ルートを設けるとしたらこの先にあるべきであって、途中に盛り込むべきものではなかった。話を広げることが出来ないし必然的に強引になってしまうのだから。そもそも本作、『占いは未来を照らす道を作ることができる』というメッセージが話の帰着点にあるのだから、厳密に言えば個別ルートの存在は必要ないしその手前までで良い。

実際、TrueEndの最後のCGで主人公が対峙した人物は後ろ姿のみで誰かは語られていない。梨鈴、枢、えこ、未来の4人の可能性が考えられる。主人公がその中で誰との運命(fortune)を紡ぐのかは、観測者であるプレイヤーに委ねられた、といったところだろうか。

個別ルートの手前までで作品が伝えたいメッセージが表現可能である物語を、Hシーンの存在が必要不可欠であるエロゲーで出そうとしたのだから、このような強引な展開が目立つ作品に仕上がってしまったのだと思う。TrueEndの先まで描ければ良かったのだが…、作品のメッセージは既に伝えきっているし実際これ以上の広がりは難しいのだろう。過程の作り込みの甘さに関しては擁護のしようが無いが。


フルプライスとは思えないボリュームの少なさや展開の性急さに目が行きがちだけど、運命(fate)から脱却し運命(fortune)へと向かう物語としては一応完成しているし纏まりも取れている。語られる内容は興味深いし、こういった言葉を感じる作品は貴重でもあるので、物足りなさはあるが楽しめたことは間違い無い。

ただ、これは僕の勝手な我儘なのだけれど、主人公が紡ぐ運命(fortune)の広がりや結末まで、観測者であるプレイヤーに提示して欲しかった。
それこそが、僕の本作に対する率直な感想なのでした。