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oBtさんのあなたに恋する恋愛ルセットの長文感想

ユーザー
oBt
ゲーム
あなたに恋する恋愛ルセット
ブランド
UNiSONSHIFT
得点
95
参照数
425

一言コメント

二人にしか出来ない物語<ルセット>で、甘くて美味しいルセットを貴方と―――

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

お砂糖200%増し。甘くて甘い恋愛物語が楽しめました。プレイ中は人には見せられない、気持ち悪いニヤニヤした笑みを浮かべていましたね。砂糖を吐き続けても尚、あらゆるポイントから砂糖菓子の人形を叩き込むが如くあーんCGに手繋ぎCG、告白CGをブチこまれます。それら全てが強烈に、クリティカルヒットしました。身体は萌えで出来ている――血潮は砂糖で心も砂糖(ry
ゴホン。と、まあエロだけでなく日常パートもCG豊富でとても大満足。シナリオに破綻もなく文句の付け所が殆どない。HPに掲載されているこだわりポイントの一つ、シリアスを削ぎ落としたイチャラブ特化は伊達じゃない。
「主人公やヒロインの努力を台無しにする事件や人間」
「交際を認めない金持ちヒロインの親」
「廃部の危機」
等々、ギャルゲエロゲによくあるこれらのシリアスは一っっっっっっっっっ切ございません!!!!ただただヒロインとイチャラブし、わたあめのようにふわふわとした優しい世界を、私たちは彼らを通して楽しむことが出来ます。

そしてまたOPも良いんだ!煌びやかなお菓子とヒロイン達の表情がとてもgood。見ていてまず気づくのが、ヒロインの紹介がメインにしっかり据えられていること。動画の殆どがヒロイン紹介や個別CGを魅せる事に充てられていて、次点はサブキャラ・作品概要。製作陣の紹介は最後にちょろっとという徹底ぶり。
ヒロイン紹介も一人一人をじっくりと、それでいて詰め込みすぎた紹介になっていない。まずはOPを見てくれ。グッときたら是非ともプレイしてほしい。イチャラブが好きだ、キャラゲーが好きだというならきっと損はさせないハズさ。


ここらで少し、シナリオについて詳しく。本作はライターが4人いて、恐らく各ライターが1つずつ√を担当していると思われます。複数ライターとなると個別で展開がガラリと変わる(ラスボスが変わるとか)作品が多いのですが、本作は基本的な大筋は変わりません。
個別の冒頭で、共通√の文化祭で作ったお菓子の家が評価されてののかがコンクールに出場。ののか√では主人公はののかのサポートをするが、別√では各ヒロインとペアで課題に取り組む、というものです。美絵瑠や楓花もお菓子作り上級者なので、√入れば大会出たりするんじゃないかなぁ…とか思ったりしたのですがそんな事はなく。それって、美絵瑠と楓花のポリシー・性格というものが関わってくるんですね。個別√で彼女達と話すことで各々の悩みや考えが当然分かってきますよね。じゃあ√入ったからそれが急に変わるのか?というとやっぱり違うじゃないですか。しかもその選択は個別の冒頭。その時はまだ互いに恋人関係でもないので彼女達にとっては自分の考えが優先されるわけで。その選択はもしかしたら間違ってるかもしれないけど、きっとそんなのは後になってからしか分からなくて。しかもそれは主人公と関わっていった上でようやく分かった、自分だけでは理解出来なかったもので。だからやっぱり話の大筋が変わってしまうのはおかしいことなんです。その辺り、ライター・ディレクター等多くの人が綿密に打ち合わせをして、“彼らの幸せ”というルセットを作っていったのだと私は思います。
それ以外にも個別に入ってから告白という構成はシンプルに主人公の想いとヒロインの2人の想いを映してくれる。「なんだかあの人が気になって、気付いたら目で追ってしまう。そうして貴方の新たな一面に気付いて――」そうやって互いの距離が縮まっていく。というのはよく考えたら当たり前の事なんですよね。共通内個別ではなく個別に入ってから2人にフォーカスを当てる事で「相手の事が気になって仕方ない」という感情や「好きで好きで堪らない!」という様々な感情の変化を描き出す事に成功しています。それはまるで少女漫画のようで、ふんわりとしたイラストの醸す世界観にぴったりと寄り添ってくれます

コンセプトの一つに服装によって髪型が変わるというのがあるのですが、これがまた結構良いんですわ。髪をほどいてたり、逆に結んでいたり、リボンが変わっていたり。彼女たちそれぞれに合った装いでリアルの女の子らしさ……とでもいいましょうか。とにかく実際に存在していそうな感覚がありました。こういう細かいこだわりボク大好き♡
パティシエ服でみんな帽子被ってないのは衛生的に考えてどうなんだろ、とか思ったけど変化の威力が弱まってしまうからなぁ。実際あまり気にはしてなかったケドネ


以下個別√雑感&キャラ紹介のようなもの

二宮春馬
本作の主人公で重度のスイーツオタク。食べるだけでなく知識も豊富。学園の専門科目で初めてお菓子作りに触れる。性格はとても普通で特徴らしい特徴も特になし。ナヨナヨしてるわけでもないけどガツガツしてるわけでもない、ヘイトは集めない感じ。

強いてあげるなら主人公の家庭環境がほとんど語られないこと。作中では両親は仕事が忙しく、休みは平日になることが多い。と語られるのみで声も立ち絵もなければセリフの一つもありません。まぁ簡単に言えば登場しないんですね。で、それが何なのかというと、ユーザーに無駄な情報を与えないため、世界観に没入してもらうため、という事なのでしょう。家族構成を記す事が必ずしも無駄というわけではないですが、このゲームにおいてはヒロインとイチャイチャする事が一番なので、そう考えると思い切った采配ですが効果的かなと。


橘ののか
主人公がスイーツオタクになったキッカケのお菓子(ガトーショコラ)を売ってたお店の子供で、いわゆる幼馴染の女の子。天真爛漫だけどお菓子作りにとても真剣で相手の事を思いやれる素敵な女の子

この√は非常に素晴らしかった!もちろん他の√もかなり満足度が高かったのですが……いやぁキレイでしたね。全√に告白手繋ぎCGはあるんですが、恋人になってからの距離とそうじゃなかった時の距離との微妙な差。告白の時には背景を意図的にぼかす事でヒロインの姿をグッと引き立たせている。それは主人公にとってもそう見えているハズ。“神は細部に宿る”とどこぞの誰かが言っておりましたが、本当にこのこだわりは最高でした。
エンディングは結婚式なのですが、これまでの友人関係やお世話になった人達と未来でもしっかり繋がっている姿が見られてとても嬉しかったです。すごく綺麗に纏まっていました。
また、エッチシーンでのののかの言葉選びのセンス。「“なかよし”(≒セックス)したい」と照れながら言う姿にぼくはもう…!


大園柚姫
とある企業の御令嬢で学生会に所属する、透き通った綺麗な声の女の子。お菓子作りは主人公より初心者で最初はとても食べられる出来ではなかった

何でも出来る完璧超人、高嶺の花――――に見えて不器用。そう見えるのは努力に努力を重ねて成長していけるタフネスを備えた実直な性格が故。頼られる事は嫌いじゃないけど彼女には不器用な自分を晒すことの出来る近い距離の人間が居なかった。また、お金持ちのお嬢様としてではなく「大園柚姫」という少女として接してくれる同年代の人間が居なかった。そんな彼女にとって、お菓子の知識は豊富だけどお菓子作りの実力は自分に近いレベルという春馬に重なるところがあったのかもしれない。
個別√時に各キャラの独白があるのですが、この独白時は頬の筋肉がだらしなくなってしまっていた。古典的展開ではあるが、しっかりとイチャイチャさせて……と非常に上手いシナリオ構成でした。

最初の方にシリアスは無いと書いたのですが、この√では最後にシリアス要素の一つとしてよくある海外留学をします。しかし、この作品ではそうではないと私は思っています。ヒロインと主人公がすれ違ってケンカすることもなく、「限られた時間を二人で楽しむ」というブーストの役割を担っている。
エンディングでは柚姫が海外留学とお菓子作りをしっかりと楽しんでいながらも「貴方に会うのが楽しみ。お菓子作りも上達したんだから」と笑顔でビデオチャットで話しながら終わります。
海外留学後って普通は結婚ENDだったり空港で再開ENDだったりするんですけど、それだと海外留学した意味がないと思うんですよ。恋人を取るか勉強(留学)を取るかって互いを想って互いにすれ違って、仲直りしてもなお留学を選択したんです。(ギリギリまで言わないで留学を選択したとしても)そこには何らかの意志があった筈。それを証明しつつも愛を見せるには、柚姫√の終わり方は秀逸だったのではないかな、と。


鍵由楓花
おっとりした性格の老舗和菓子屋の娘。ふわふわとしていて危なっかしく見えるけど下心を持って近付いてくるような男にはNOと言える強さも持っている

この√は山と言えるべき場面は少ないです。ののか√のように大会参加の手伝いだったり、柚姫√のように限られた時間を楽しむ、美絵瑠√のような恋心を持て余してしまって焦れったくなるような事もない。春馬と楓花がゆっくりと恋愛しながら学園生活を送るだけ。しかし、その速度でゆっくりと互いに愛を育んでゆくような、互いを理解しあっていく姿はとても穏やかだけど時に秘めた想いが爆発してしまう危うさがあって。どこか背徳感のある√でした
あ、それと資材倉庫での楓花とラッキースケベイベント。楓花があんな風に慌てるとは思わなくてとても新鮮でした。アワアワ言ってる楓花いい……よくない?


白咲美絵瑠
天才的な味覚と高い調理センスを併せ持つがサボリ癖のある、自堕落なロリッ娘天才パティシエ

この√はとても少女漫画してる√。他の√では互いに好きだという確信のもと付き合っているが、面倒くさいこと(考えてもわからないこと)を回避していく生き方をしていた美絵瑠にとって、己の心に芽生えた恋心――正体不明の“焦燥”や“不安”など――をどう扱っていいのか分からない。そんな美絵瑠の葛藤がとてもいじらしくて可愛らしくて。結局、美絵瑠はその後も明確に答えを返してはいないのですが、行動やセリフの節々に隠しきれない好意が滲んでいるのが感じられて、なんかもうすごくすごくいいんです。
美絵瑠は自分の事を面倒くさい女であることを自覚しながらもそれを受け入れてくれる春馬を信頼して甘えてくれるし、主人公もその信頼に胡座をかくことなく接し、お菓子作りにも邁進。結構いいコンビで、エンディングもいい締め方でした。


サブキャラではありますが、かりん先生についても触れさせていただきます。
かりん先生は男の娘で、毛色がちょっと違うゲームだったら攻略キャラになってもおかしくないポテンシャルの持ち主です。しかもお菓子作りの腕は超一流。以前の職場(有名お菓子店)をLGBT的価値観を否定されて退職。旧友に誘われて学園講師をすることに。
この男女平等、性差別がうんぬんという時代にこういう設定を持ってくるのはかなりのチャレンジだったと思います。かなり苦い経験をしていたかもしれません。だからこそ、とてもいい味を出していたと思います。
色々な事を経験している大人としてお菓子も恋も、主人公達を導いてくれるとても強くて優しい人です。



以下プレイ中に感じた部分(想像・勝手な解釈が多分に含まれております)
そういえば、本作ではかなりキャラクターの配置にこだわってた印象があります。例えば、立ち絵が表示される=主人公の前に居て視界に収まっている。複数人の立ち絵が表示される場合はダミーヘッド収録してる?(あくまで想像)のか立ち絵のある方から声が聞こえるようになっていた。
また、メッセージウィンドウ横のキャラの顔を置く部分は主人公の視界に入らない=後ろもしくは横に立っている。こちらは普通のマイクかな?表情が変わるのはプレイヤーに分かりやすく……だけでなく、主人公がそれだけ彼女達の事を知っているということの証左なのかなぁ、と。