シナリオ派ならプレイして損なし。
シナリオごとの出来の差が激しい作品である。私自身も感じていることだが、そんなことはどうでもよい。これはとんでもなく恐ろしい名作だ。
あらすじでは不本意ながらも親の事情で故郷を離れてしまった主人公が未練を断ち切るということを念頭にシナリオが展開していく。今作はキャラ萌え要素をまったく破棄しており、純粋なシナリオを追及している。冒頭共通シナリオ部分では、自分が知っている過去の街並みと今回訪れた現代の街並みの対比の描写が鋭く、序盤なのにすでにシナリオとして勢いがある。
美緒ルートでは思いを寄せていた彼女と一緒になる際の混同する景色のダイナミックな場面展開の出来が良く、葉耶香ルートでは多少のご都合主義はありつつも繊細な心理描写が巧みであり、主人公の強い感情にユーザー引き寄せられることは間違いない。
ここまでなら十分フルプライス相当の価値を有する作品である。だが最も出来がいいルートは上記の二人ではなくもっとも最後に通る緑ルートである。
一見緑ルートは「過去との決別」という作品コンセプトに逆行するもののように見えるが、決別するということは同時に新しい未来を踏み出していくという考え方とも合致する。その点に着目すれば緑ルートは真っ白へ踏み出していく主人公を描いたものであり、自らの過去を認めつつ、よりすばらしく幸せな人生を掴もうとする主人公の強い決意や多くの仲間が応援・協力してくれる姿が強く胸を打つ。これほどまでに前向きなエンディングを迎える作品はエロゲを問わず、日本人作家ではあまり例の見られない傾向であり、指定ヒロインに一方的に依存しがちな泣きゲーと呼ばれるジャンルやキャラ萌え主体の現代の作品とは明らかに一線を画す名シナリオだ。私はレビューサイトでなぜこの作品が非難されるのか、なぜ売れなかったのか、なぜ有名にならなかったのか全く理解できない。